コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人が語らう明るい未来

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予想外といえば予想外の出会いだったが、ニヤリ…、あれは思いがけない収穫。

伯爵家の息子ダリオとは、ヒロインにとって一番最初に出会う攻略者であり、ゲーム的には〝いい人属性”のキャラである。
この手のタイプは最終的に〝応援系”へと変わることも多い非常に報われないキャラだ。
彼は嫡男でもない只の息子で、早々に去就を決めなければすねかじりのニートになる。かと言ってパンクラツィオのようにすごく強いとか、アマーディオのように全方位そつがないという訳でもない。
貴族子息の就職人気ナンバーワン、騎士団に入りたいならもっと必死になるべきだろう。それをニコラニコラと色ボケて…、こいつ世の中舐めてんのか?と、僕はゲームの時から思っていた。

でもそうか…ゲームを知ってるってのはこういうメリットもあるのか!大発見!
それに気付かせてくれたダリオのことは、これからハムの人と呼んであげよう。

さて、今日の晩御飯はラタトゥイユである。野菜をトマトで煮込んだ見た目のわりに手のかからない僕の得意料理だ。
隠し味にソーセージをみみっちく三本を六等分して入れようと思っていたのだが…

「おお!ソーセージがふんだんですな」
「もうじきお中元が届く予定ことになってね。急遽ソーセージを増量したよ」

「わぁ美味しそう!」
「二人の分もあるからね」
「いいの?イヴァーノ様ありがとう!」

お礼ならハムの人に言ってね!
そのリコとエルモは厨房横の、パントリー兼作業部屋がこれからダイニング代わりだ。兄弟二人の方が気も楽だろうしね。

「屋根裏は片付いた?」
「はい!窓を開けたら風が入ってきました!」
「眺めもすごくいいんですよ。庭がよく見えます!」

「いままでどんな部屋にいたの…?」
「地下室に…」

うぅっ!可哀想に!

じいさんが言うには、僕たちの留守中、ギラギラに指輪をつけたロンバートの後妻が彼らを連れ戻しにやって来たそうだ。
いけしゃあしゃあと「これは家庭内の問題よ!出しゃばるのはやめて子供たちをお返しなさい!」とのたまったそうだ。

相手は平民位とは言えかなりの金持ち。かたや我が家は貴族とは言えこの通り…、この小さくみすぼらしい屋敷と荒れ果てた庭を見て全力で侮ったのだろう。

だが甘いな。
このじいさんはどれほど貧しかろうがどれほど厚かましかろうが、主人への忠誠と貴族の矜持がずば抜けて強い面倒なジジイだ。この三日間だけでも何度「ルイージ様は高貴なる血を引くお方ですぞ!」とか「やんごとなきフラヴィオ様になんということを!」という言葉を聞いた事か。…フラヴィオは婿養子だからな?

とにかく屋根裏から一部始終を聞いていたリコによると、予想通りこのじいさんは「ええい!フラヴィオ様が当主となられたこのビアジョッティ伯爵家に対し何たる無礼な!」とやり返したそうだ。

後妻は「たかが貧乏貴族が偉そうに!いいこと?今すぐ態度を改めなくては今後どれほど困窮しようとお金は貸しませんよ!」と脅したらしい。リコいわく、見栄っ張りの貴族は顧客にとても多いのだとか。

だが僕の見込んだじいさんはそれくらいで退いたりしない。

「当家には不可能を可能にするイヴァーノ様がおられる!あの方に任せておけば心配ない!よって金貸しごときに頭は下げぬ!当家の門をくぐってよいのは品位あるものだけよ!不敬罪で衛兵を呼ばれたく無くば立ち去るがいい!」

そう言ってのけたそうだ。その後二三押し問答すると後妻はすごすご帰っていったのだとか。

いやー、実に痛快、何ひとつ文句はないが…

…なんだよその『不可能を可能にする』とかいうどっかの宇宙パイロットみたいなキャッチコピー。無いから!そんなチート能力!


----------------


帰宅と同時に厨房に立つイヴァーノの横で、リコとエルモの兄弟は先ほどからお湯を沸かしている。あれは浴槽横のカメに溜めるためのお湯だろう。

湯浴みか…

私を案内しながら一日中歩き回った彼はきっと疲れているだろう。ならば昨夜の彼に倣って、その背を優しく流してやれば彼は喜ぶだろうか…
大鍋の前に立つイヴァーノの背を見ながら、そんなことをぼんやりと考えていた。

そこに漂うトマトとハーブ、そしてスパイスの香り。
食す前から確信する。これは美味なる芳香だ。

四人で囲む和やかなディナー。なんと心安らく時間なのだろう。
この雰囲気を作り出しているのはイヴァーノの気安さ、寛容さだ。世間の噂などあてにならぬもの。恐らくは昼間のような気の強さを垣間見た誰かがそう言いだしたのだろう。

その当人は、ロデオから留守中の出来事を聞き満足そうにうなずいている。

「おじいちゃんでかした。褒めてつかわす」
「お任せくだされ。あのように品性下劣な輩なぞ何度来ようと追い払ってみせましょうぞ!」

「これで諦めてくれるとよいのだが…」

「大丈夫じゃない?もともと家に縛り付けてたのは嫌がらせと無料の労働力ってだけですし、前妻の子なんて居ない方がいいでしょ、普通は」

彼は尚も続ける。〝家出した息子を迎えに行ったが当人たちが固く拒んだ”、夫に対しその体裁さえ整うのならば無理に連れ戻す理由が無いと。

彼の言う通りなのだろう。
母の違う二人の息子。まるでファブリチオとカッシオではないか。
リコたちの父親はロンバートを営む富豪である。余分な後継の芽など早めに摘んでおくに越したことは無いのだから。

だがロデオが続けた後妻の言葉はイヴァーノをひどく仰天させたようだ。

後妻は〝イヴァーノ”の名にびくりと反応を示し「あ、あら…そう。ここはあのイヴァーノ様の…、あ、あらまあ…そういうことなら話は別よ。二度と私に関わらないで頂戴!」と慌てて引き返していったそうだ。

「ちょ!何やったんだあいつ!」
「イ、イヴァーノ?」
「あ、いえ、こっちの話です…」

恐らく後妻はビアジョッティ伯爵家の名に眩まされ、その伯爵夫人がコレッティ家の令息とは思ってもみなかったのだろう。
そして名門侯爵家を敵に回すくらいならば血のつながらぬ子供など捨て置けば良い。そう考えたのだろうが至極当然の流れだ。

「ま、まぁ…ちょっと風評被害だけど結果オーライってことで」

一つの懸念が去った事で、イヴァーノは次の問題へと意識を切り替えたようだ。

「ところで確認なんですけどフラヴィオたちの持ち物はコレッティ家で貰った服と実家から着てきたボロボロの貴族服と…」
「行商が市井で揃えてくれた平服一式、下着などだよ」

「それだけ?うーん…色々と足りませんね…」
「構わない。当面社交の機会も無いだろうしね」

「そう言えばうっかりしてましたけど前当主の持ち物は?」
「衣裳部屋が手つかずで残っているのは確認しましたが中はそのままでございます」

「えっ!手付かずってことは…衣装全部残ってるってこと?」
「ですがかなりの年代ものでございます。あのような衣装を着て社交界へ出向いては侮られましょうぞ」
「いいや!チェックしなきゃ!」

食事を終えるが早いか、イヴァーノは衣裳部屋へと駆け出して行った。



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