コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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元婚約者の登場

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「パンクラツィオ殿、後ろに居るのは噂の治癒師、可憐なる二コラかい」
「ああ。二コラはイヴァーノの夫君に面識があるというのでね。同行した。マリオ殿それが何か?」

現れたのはブロンズ色の髪を持つ凛々しい貴公子。長い髪が獅子を思い起こさせる彼こそが…六家ある公爵家の筆頭であるタランティーノ公爵家の嫡子にしてイヴの元婚約者であるパンクラツィオ。堂々たる面構えをした青年だ。
彼と二コラは私など視界にも入らぬ、そのような風を装い一瞥もせず横を通り過ぎる。

「…パンクラツィオ殿、いくら彼が特別な治癒力を持つ奇跡の治癒師とはいえ…平民である彼を何故この場に同行された」

「マリオ殿、二コラは私が連れ歩かなくとも宮殿の主たる王太子アマーディオ本人が常に招き入れているではないか。ならば何が問題であろう?」
「そぉですよぉ、別にいいですよね?アマーディオさまぁ」
「いや、まあ…」

右手に公爵子息、そして王太子殿下との親密さを匂わせ、これ見よがしにこちらを伺い見る二コラ。なるほど。この挨拶とやらは公爵子息の思惑だけではないらしい。私に己が立場を見せつけたいのはむしろ二コラの方か。

「殿下、これは懇親の場でなく国の未来のため意見を交わす真摯な勉強会。少々これは度が過ぎるのでは?」
「そうだな…」
「えぇ~!アマーディオさまはそんなひどいこと…言わないですよねぇ?」
「うん、いや…」

煮え切らぬ殿下。
見かねたアンドラーシュ伯爵家のエミリオ殿が前に出て苦言を呈す。

「パンクラツィオ殿…貴方がその者に執心なのは結構なことだが…さすがに場違いだとは思われませんか。ここは自由交流の許される学院ではないのですよ」

「二コラは直に子爵家の養子となる。さほどの違いは無かろう」
「つまり今はまだ違うということだ!」

「エミリオ殿まで二コラを平民であると蔑むおつもりか。見損なったぞ!」
「そんなことは言っていない!ならば君はどう思う二コラ君」

「えっとぉ、僕はお勉強の邪魔をするつもりはないですよぉ?そのぉ、イヴァーノ様が夢中だっていう旦那様からそのコツを伺いたいだけでぇ。挨拶したら帰ります、ねぇパンクラツィオ?あっ!いっけな~い、ねぇパンクラツィオ様ぁ?」

やれやれ…虎の威を借るとはこのことか。だが腕に二コラをぶら下げた公爵子息はひどくご満悦だ。

「…ともかく二コラ、君は部屋の外で待つがいい。このままでは埒が明かない」
「アマーディオさま…う、うそ!」
「君は変わったなアマーディオ。貴賤に別ない人だと思っていたのだが…」

「私は何も変わっていない。だが少しばかり王太子たる分別を思い出しただけだ。二コラ、この後改めて時間を取ろう。一旦下がってはくれないか」

「はぁい…」

口をとがらせながら、それでもほくそ笑みながら私の横を通り過ぎる二コラ。己の持つ権力パンクラツィオをまざまざと見せつけさぞ溜飲が下がった事だろう。



それでも消えぬ不穏な空気のまま、イヴの元婚約者が私に向き合う。

「時に貴殿がどこぞの片田舎からコレッティ候が呼び寄せたというイヴァーノの夫君か。ずいぶん見目だけは良い男ではないか」

上から下まで品定めをする公爵子息。なんという不躾な視線。これがイヴの元婚約者…、あの気丈なイヴと気が合わぬのも無理はない。

「パンクラツィオ!いくら君が私の従兄弟とはいえ…失礼が過ぎるぞ!」

「アマーディオ…次期王でありながら君はいつも甘いのだよ。このように名ばかりの伯爵を我々と同等に扱うつもりか。分かっているだろう。ビアジョッティ伯爵位など先々代のコレッティ侯が息子の嫁にと手に入れた没落家門の爵位。領も財も、その名が背負う重みも無い。ましてやそこに婿入りしただけの名もなき山猿に払う敬意など私には無い。なんだその無粋な服は!」

「パンクラツィオ言いすぎだ!」

「所詮この男はイヴァーノの子守に雇われた乳母と変らぬ。だがよくもまあ…あのじゃじゃ馬をずいぶん手懐けたものだ。なあ伯爵」

上段から見下ろし私を激高させたいのだろう?でなければ完膚なきまでにへし折りたいか。だが、傲慢さでは我が兄たちの右に出るものなどおるまいよ。私はその後ろ姿を二十年見続けたのだ。

「お声がけいただいたからには返答しても?」
「構わん。許す」

「では僭越ながら…。私の容姿などさしたる問題ではない。あなたに何を言われようが私にとっては些事にすぎませぬ。ですがこの意匠の良さが分からぬのは目利きの力が問われますゆえあまり人前で口にせぬ方が良いかと」

「なんだと?」

「あなた様はこの国を護る剣にして盾となる騎士の長。であればもっと良くご覧になればお分かりいただけるはずだ。この服の持つ真の美学が」

「真の美学だと?」

「古い価値観、慣習、周囲の雑言を切り離しただ禁欲的に己を磨く。それはまさに鍛練を怠らぬ騎士の姿だ。そこには華美な装飾など必要ない。輝きとは内から放たれるもの。そうではございませんか?」
「む…」

「であればその長たるあなたにどれほどの宝石が必要であろうか?答えは否だ。先の想い人、その前で装うのは無理からぬ事だが…いかに飾り立てようとあなた自身には敵いませぬ」

「なるほどうまいことを言う。その手管でイヴァーノを黙らせたか。感心したぞ卿よ」

「であれば差し出がましくももうひとつ。私とイヴのことなどもう放っておいてはいかがか。執着は器量の狭さを感じさせましょう」

「執着などしていない!ここへ来たのは二コラがそう望んだからだ!」
「そうでありましたか…」

やはりな。二コラが望んだばかりとは到底思えぬが…、それでも彼に誘導されのこのこやってきたことに違いはあるまい。

「これで腑に落ちましたとも。王宮騎士を束ねる公爵家の次期当主たるあなたがそれほど狭量などと…おかしなことだと思っていたのですよ」

「む、無論だ」

「であれば、これよりイヴの夫である私が会の一員として迎えられたこと、快くご了承下さるか?」
「それはアマーディオが?」

「ああ。彼はそれに足る人物だ」
「…王太子殿下の思し召しに何の不満があるものか」

「それは良かった」

平常心を装いながらも、どこか不満の色を隠せないのは若さゆえか。これでは公爵家を継ぐにまだまだ足りぬな。

「そんなことよりイヴァーノは」

公爵令息が私に何かを問いかけようとした時のことだ。なにやら騒がしい口論が扉の外より聞こえてきたのは。



「王女たるわたくしの行動を一介の治癒師ごときが制止するか!この無礼者!」
「ち、違うんです!王女様は別に、で、でもその看護師は…」

「えー?僕たちもうお友達でしょ?そんなよそよそしい…エヴァって呼んで!ニ・コ・ラ・さ・ん!」
「エ、エヴァさん!あなた平民だからこ、ここで待ってましょ、僕と一緒に!」

「そんなこと言われたらますます入ってみたくなっちゃうな!何があるのかなー?それとも誰かが居るのかなー?あっ!もしかして…二コラさんのイイ人かなー?」

「誰もいないからぁ!」

「そう。パンクラツィオが一緒なのね」
「 ‼ 叱られます!エヴァさん叱られますってばぁ!」
「この者はわたくしの専属看護師!宮廷の許可のもと同伴しているの。問題ないわ。扉番、開けなさい!」



ギィィィ…

そこにいたのははじめてお目にかかる第一王女殿下と、エヴァを中に入らせまいと後ろから腕を引く二コラ。そして…

私にはわかる。そこに立つエヴァは…すでに勝利を宣言していた。




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