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冷静と緊張のあいだ
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目の上のたんこぶが居なくなった僕は無敵だ。
高位貴族の夜会へも出席出来るようになったし(出ないけど)、今まではイヴァーノだと誰かさんにバッタリ!が気になって気が引けてた貴族街の中心へも気兼ねなく行けるしね。
だからと言って根っから庶民(心が)の僕がいきなり銀座の常連にはちょっとなれないわー。
マッティオ氏のおかげで潤いはじめた家計だが、僕は今夏の避暑及び、馬車を買い御者を雇うためにお金を貯めているところだ。
まだまだ予断を許さないビアジョッティ家の予算編成。左うちわへの道のりは遠い…
さて…カタリーナ様に嫁入りまでの僅かな自由を謳歌してもらうにはどうするか…
未成年の王女はホイホイ街に出られない。となると、取れる手段はかなり限られる。
僕とカタリーナ様が一緒に居てもおかしくない時間。それは王子たちの講義時間か今日みたいなカウンセリングの時間だがお城の中じゃ意味ないじゃん。
ん?イヴァーノはもう自由にお城へ出入りできるんじゃないかって?
答えから言うとその通りだが、今のところイヴァーノのままカタリーナ様と親しくするつもりはない。
評判の悪いイヴァーノがいきなり王女と親しくして、勉強会メンバーとなったフラヴィオの口利き…とか疑われると嫌だからね。
王家と仲いい方が『イヴァーノ・モード』のハクがつくんじゃないかって?
いいや。王室ご用達のお墨付きなら逆にプライベートで親しくない方が有効だと思う。じゃないと「ああ、お友達だからお墨付きを与えたのね」ってことになるからだ。僕のブランドは実力で勝負する!
ってことで思いついたのがこれだ。
「カタリーナ様。次の水曜ぜひ病院にいらしてください」
「まあエヴァ。水曜は休診日では無くて?」
「そうですけど今度の水曜は修道女の方々がみえるので休日出勤なんです」
病院に勤めだしてわかったのだが、この王都には下町の教会以外に修道院という神のしもべが住む施設がある。
修道院は修道士の居る男性用と修道女の居る女性用に分けられ、彼らはそこで共同生活をしながら日々神に祈っている。
禁欲的な修行生活は男女共通として、それ以外に修道士はそこで一般労働としてビールを作ったり、尊い労働として聖書を作り一般家庭に配布したりしている。
次は修道女の皆さんだが…彼女たちは一般労働として蜜蝋の蝋燭を作っている。因みに彼らが作るビールや蝋燭は自家消費分プラス貴重な収入源だ。
そしてここからが本題ね。
修道女の皆さんが行う尊い労働は主に薬草の栽培なのだが、彼女たちはそれを定期的に、王立病院や大貴族お抱えの個人医などへ売りに行くのだ。
量としては微々たるものなのだが、言って見ればこれは小売りというよりお布施集めの返礼品みたいなものだと思う。
修道士や修道女の方々は普段街に出ることが許されていない。唯一の例外がこの聖書の配布でありお布施集めだ。
修道士さんは市井のご家庭を回った後、庶民街の露天で美味しいものを食べて息抜きをし、修道女さんは病院を回ったあと、キラキラした貴族街のカフェでちょっぴり世俗を満喫してお帰りになるのである。
それが次の水曜ってわけ。
王族含む高位貴族は、慈善とか奉仕とか、徳を積む行為が大好物である。ノブレスオブリージュってやつだね。高貴なる者の義務。とても良い精神だと思う。
あのパンクラツィオですら慈善活動には熱心なんだから。
「日々修行に励む修道女の方々を慰労、の名目なら許可出るかと思って。彼女たちだってカタリーナ様からお言葉もらったら今後の励みになりますよ?」
「…そうね、王立病院であればお母様もお許しくださるかしら。いいわ、話してみましょう」
ということで…やって来ました水曜日。
病院の正面に停まった豪華な馬車から降り立つのは美少女カタリーナ様。
院長、看護師長以下、休診日だというのに総出で出迎える職員一同にはアマーディオの時とはまた違う緊張感が漂っている。
なにしろ相手は滅多に城を出ない成年前の姫殿下。ささいなハプニングも許されない。
「ようこそお越しくださいました姫殿下様」
「院長、今日はお休みのところご苦労様。それで…エヴァはどこかしら」
「エヴァ君前へ」
「はーい」
「ふふ、この慰問はエヴァの思い付きによるものですの。彼女はわたくしの言葉が清貧なる修道女の方々にとって宝になると言うのよ」
「もちろんでございますわ姫殿下。きっと一生忘れられぬ記念となるでしょう。エヴァは良い提案をいたしましたわね」
「では導く上役が良いのでしょう」
「まあそんな…」
看護師長が喜ぶこのセリフは僕がカタリーナ様に頼んだ仕込みである。
アマーディオ王太子に留まらず、カタリーナ姫までエヴァのファンという事実は、病院の権威をもっと上げたい院長、看護師長にとってもウェルカムな事実で、おかげで僕の発言権はパートとは思えないほど肥大化している。うっしっし。
「これで彼女たちも辛い修行に耐えられましょう」
「そうであれば何よりだわ。さあ行きましょう」
そうそう、行きましょう!ニヤリ…
部屋に居るのは五人の修道女。彼女たちはカタリーナ様の登場をついさっき聞かされたところだ。おかげで緊張のあまり死にそうになっている。
一人づつ挨拶をし、そして激励とお褒めの言葉を貰い、なんと記念品までいただいて、神のお弟子さんでもある彼女たちはどうやら無事天国に召喚されたようだ。
と、そこに近づくのはカタリーナ様専用侍女、モニカさんだ。あ、同僚のモニカさんとは別人だよ?モニカという名はサルディーニャにはすごく多くて、僕はこれを前世で言うところの〝ハナコさん”じゃないかと思っている。
「姫様そろそろお戻りにならなくては…」
「あら残念。ここまでのようね」
「あ、ありがとうございます姫殿下!」
「姫殿下!ど、どうかお元気で!」
「ふふ、ありがとう。では皆さまごきげんよう」
退室した途端、背後から聞こえるのは「きゃぁぁぁ!」という絶叫。修道女といっても、所詮十代から二十代の女性である。
これから修道女さんたちは病棟をまわって祈りを捧げていく予定なのだが、カタリーナ様は警備上の問題もありさすがにそこまでしない。
だからと言って、これで速攻帰るか、といったらそうでもない。アマーディオが使う王族専用VIPルーム、カタリーナ様はそこへ移動して休憩していく予定だ。
「ねえモニカ。この後の予定は何だったかしら」
「宮殿に戻り午睡を取る予定でございます。昨日は就寝が遅うございましたので」
「わたくし疲れてしまったの。午睡であればここでも構わないわね」
「まあ姫様…。初めての単身慰問に気を張っておられたのですね」
話ながら到着したのはいつものVIPルーム。ここはいわゆるスイートルームで、ワンリビングワンベッドルーム、ワン前室(付き人の待機部屋)の間取りである。
「院長、しばらく部屋を借りますわね。それから師長、ここからはご遠慮くださるかしら。慣れぬ場所で慣れぬ人に囲まれたままでは疲れが取れなくてよ」
「畏まりました姫殿下」
「そう仰るのであれば」
「モニカ、あなたもいいわ。下がって休憩なさい。お茶はエヴァに淹れてもらいます」
「わかりました。エヴァさん、粗相のないようお願いしますね」
はーい!かしこまり☆
高位貴族の夜会へも出席出来るようになったし(出ないけど)、今まではイヴァーノだと誰かさんにバッタリ!が気になって気が引けてた貴族街の中心へも気兼ねなく行けるしね。
だからと言って根っから庶民(心が)の僕がいきなり銀座の常連にはちょっとなれないわー。
マッティオ氏のおかげで潤いはじめた家計だが、僕は今夏の避暑及び、馬車を買い御者を雇うためにお金を貯めているところだ。
まだまだ予断を許さないビアジョッティ家の予算編成。左うちわへの道のりは遠い…
さて…カタリーナ様に嫁入りまでの僅かな自由を謳歌してもらうにはどうするか…
未成年の王女はホイホイ街に出られない。となると、取れる手段はかなり限られる。
僕とカタリーナ様が一緒に居てもおかしくない時間。それは王子たちの講義時間か今日みたいなカウンセリングの時間だがお城の中じゃ意味ないじゃん。
ん?イヴァーノはもう自由にお城へ出入りできるんじゃないかって?
答えから言うとその通りだが、今のところイヴァーノのままカタリーナ様と親しくするつもりはない。
評判の悪いイヴァーノがいきなり王女と親しくして、勉強会メンバーとなったフラヴィオの口利き…とか疑われると嫌だからね。
王家と仲いい方が『イヴァーノ・モード』のハクがつくんじゃないかって?
いいや。王室ご用達のお墨付きなら逆にプライベートで親しくない方が有効だと思う。じゃないと「ああ、お友達だからお墨付きを与えたのね」ってことになるからだ。僕のブランドは実力で勝負する!
ってことで思いついたのがこれだ。
「カタリーナ様。次の水曜ぜひ病院にいらしてください」
「まあエヴァ。水曜は休診日では無くて?」
「そうですけど今度の水曜は修道女の方々がみえるので休日出勤なんです」
病院に勤めだしてわかったのだが、この王都には下町の教会以外に修道院という神のしもべが住む施設がある。
修道院は修道士の居る男性用と修道女の居る女性用に分けられ、彼らはそこで共同生活をしながら日々神に祈っている。
禁欲的な修行生活は男女共通として、それ以外に修道士はそこで一般労働としてビールを作ったり、尊い労働として聖書を作り一般家庭に配布したりしている。
次は修道女の皆さんだが…彼女たちは一般労働として蜜蝋の蝋燭を作っている。因みに彼らが作るビールや蝋燭は自家消費分プラス貴重な収入源だ。
そしてここからが本題ね。
修道女の皆さんが行う尊い労働は主に薬草の栽培なのだが、彼女たちはそれを定期的に、王立病院や大貴族お抱えの個人医などへ売りに行くのだ。
量としては微々たるものなのだが、言って見ればこれは小売りというよりお布施集めの返礼品みたいなものだと思う。
修道士や修道女の方々は普段街に出ることが許されていない。唯一の例外がこの聖書の配布でありお布施集めだ。
修道士さんは市井のご家庭を回った後、庶民街の露天で美味しいものを食べて息抜きをし、修道女さんは病院を回ったあと、キラキラした貴族街のカフェでちょっぴり世俗を満喫してお帰りになるのである。
それが次の水曜ってわけ。
王族含む高位貴族は、慈善とか奉仕とか、徳を積む行為が大好物である。ノブレスオブリージュってやつだね。高貴なる者の義務。とても良い精神だと思う。
あのパンクラツィオですら慈善活動には熱心なんだから。
「日々修行に励む修道女の方々を慰労、の名目なら許可出るかと思って。彼女たちだってカタリーナ様からお言葉もらったら今後の励みになりますよ?」
「…そうね、王立病院であればお母様もお許しくださるかしら。いいわ、話してみましょう」
ということで…やって来ました水曜日。
病院の正面に停まった豪華な馬車から降り立つのは美少女カタリーナ様。
院長、看護師長以下、休診日だというのに総出で出迎える職員一同にはアマーディオの時とはまた違う緊張感が漂っている。
なにしろ相手は滅多に城を出ない成年前の姫殿下。ささいなハプニングも許されない。
「ようこそお越しくださいました姫殿下様」
「院長、今日はお休みのところご苦労様。それで…エヴァはどこかしら」
「エヴァ君前へ」
「はーい」
「ふふ、この慰問はエヴァの思い付きによるものですの。彼女はわたくしの言葉が清貧なる修道女の方々にとって宝になると言うのよ」
「もちろんでございますわ姫殿下。きっと一生忘れられぬ記念となるでしょう。エヴァは良い提案をいたしましたわね」
「では導く上役が良いのでしょう」
「まあそんな…」
看護師長が喜ぶこのセリフは僕がカタリーナ様に頼んだ仕込みである。
アマーディオ王太子に留まらず、カタリーナ姫までエヴァのファンという事実は、病院の権威をもっと上げたい院長、看護師長にとってもウェルカムな事実で、おかげで僕の発言権はパートとは思えないほど肥大化している。うっしっし。
「これで彼女たちも辛い修行に耐えられましょう」
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部屋に居るのは五人の修道女。彼女たちはカタリーナ様の登場をついさっき聞かされたところだ。おかげで緊張のあまり死にそうになっている。
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と、そこに近づくのはカタリーナ様専用侍女、モニカさんだ。あ、同僚のモニカさんとは別人だよ?モニカという名はサルディーニャにはすごく多くて、僕はこれを前世で言うところの〝ハナコさん”じゃないかと思っている。
「姫様そろそろお戻りにならなくては…」
「あら残念。ここまでのようね」
「あ、ありがとうございます姫殿下!」
「姫殿下!ど、どうかお元気で!」
「ふふ、ありがとう。では皆さまごきげんよう」
退室した途端、背後から聞こえるのは「きゃぁぁぁ!」という絶叫。修道女といっても、所詮十代から二十代の女性である。
これから修道女さんたちは病棟をまわって祈りを捧げていく予定なのだが、カタリーナ様は警備上の問題もありさすがにそこまでしない。
だからと言って、これで速攻帰るか、といったらそうでもない。アマーディオが使う王族専用VIPルーム、カタリーナ様はそこへ移動して休憩していく予定だ。
「ねえモニカ。この後の予定は何だったかしら」
「宮殿に戻り午睡を取る予定でございます。昨日は就寝が遅うございましたので」
「わたくし疲れてしまったの。午睡であればここでも構わないわね」
「まあ姫様…。初めての単身慰問に気を張っておられたのですね」
話ながら到着したのはいつものVIPルーム。ここはいわゆるスイートルームで、ワンリビングワンベッドルーム、ワン前室(付き人の待機部屋)の間取りである。
「院長、しばらく部屋を借りますわね。それから師長、ここからはご遠慮くださるかしら。慣れぬ場所で慣れぬ人に囲まれたままでは疲れが取れなくてよ」
「畏まりました姫殿下」
「そう仰るのであれば」
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はーい!かしこまり☆
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