コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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緊張とヒャッハーのあいだ

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「さあエヴァ、ここまで全てあなたの言うようにしたわ」
「そうですね」
「それで?ここで何をするつもりかしら?」
「何だと思います?」ニコニコ

「エヴァったら…」



ここで少しだけ病院内の配置を説明しておこう。





ざっくりした図だがだいたいこんな感じだ。

三つの建物は職員が行き来出来るよう片側が庭に面した廊下でつながっている。

庭と言っても一般病棟にあるのが誰もが立ち入れる中庭で、特別病棟にあるのが選ばれし者のみ立ち入れる専用庭である。

また警備の厳重な特別病棟と外来は守衛付きの扉で遮られており勝手に行き来は出来ない仕様だ。

病棟は共に二階建てで、一般病棟は一階が下位貴族用個室で、二階は平民用の病室だが、個室、二人部屋、四人部屋、と大部屋になるほど庶民度は上がっていく。
そして特別病棟の場合は二階が普通の豪華な病室で、一階がアマーディオ御用達のプレジデントスイート、いわゆるVIPルームである。

え?普通高級な部屋ほど階上なんじゃないかって?

…ここはいくらVIPルームがリゾートホテルと見まごうスイート仕様でも病院である。
来るのは基本的に病人、それも高位貴族でわざわざ王立病院に入院するのは重病の時だ。
そんな重病人に階段の上り下りなどさせることは出来ないし、偉い貴族ともなればお付きも多い。
それも位が高ければ高いほどお付きの人数は増える。となると一階の方が配置が楽、といった都合によるものだ。

そもそも病院の敷地内は基本的に安全が確保されている。

図でお分かりだろうが、特別病棟とその他大勢は完全に分離されている。
玄関も別々だし建物同士の行き来も病院関係者以外は不可である。VIPの部屋だけにとても息苦しい。

そこで専用庭ってわけ。
解放感を味わいたければ庭に出て四季折々の花を楽しめばいい。

で、ここからなのだが専用庭と中庭は高さ三メートルほどある垣根で完全分断されている。だが、実は垣根の中には役員職員しか存在を知らないカモフラージュ扉が一か所ある。

一見するとまったくわからないが、それは高さ1メーター、幅50センチくらいのものでロックを外せばクルリと一回転する仕組みだ。
まあ、非常扉的なものだと思ってほしい。

それを何故僕が知っているかというと、実は『ドキナイ』の学院には緊急時のシェルターがある。そこへの入り口がまさに垣根のカモフラージュ扉で、「なんか似てんな~…」と興味本位で調べていたらうっかり発見してしまったのだ。
きっと設計士が同じなんだろう。どちらも王立の建物だし。

因みにそのシェルターは、二コラと攻略者が密室に閉じ込められる、というラブラブイベントに出てくるのだが、密室で何があったかは想像にお任せされている。悪しからず。



「えーと、時間が惜しいんでさくっとこれに着替えましょうか」
「これは?」

ニヤ「修道服です♪」

久々のコスらしいコスを作るのにテンション上がったのはここだけの話だ。

「まさかあなた…」
「ダメですか?」
「いいのかしら…」
「バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ」
「まあ!」
「止めます?いいアイデアだと思ったのに…」

「い、いいえ!行くわ!」

それでこそ女の中の女だ!

さて、この国の修道服は裾の長いグレーのシスター服。そして共布のウィンプルを頭にかぶるとほぼ覆面状態。そう。修道服とは天然の変装服なのである。

時間の都合上メイクまで出来ないのが心残りだが、万が一を考え丸メガネも装着すれば、アーラ不思議。カタリーナ様ってばどこ行っちゃったんだろう?

僕は言った。関門は二カ所だと。

まず一つは部屋を出た前室に居るモニカさんとさらに入口に居る護衛の二人。彼らの目を盗みササッと専用庭の垣根に身を隠さなければならない。

「モニカさんと護衛の注意は僕がひきます。全員がエヴァに注目している間に身を隠してください」
「わかったわ」

次の関門は中庭側。人目を盗んでさりげなく中庭のモブになる必要がある。こっちは僕が直接合図を送る予定だ。

本日修道女が院内を祈って歩くのは患者、職員全員にアナウンスしてある。つまり一般病棟側は修道女が歩いていても何らおかしくはない。そして一般病棟側からならば堂々と出ていくことが出来るって寸法だ。

「動く垣根はロックを外してハンカチが結んであります。そこまで来たらこうグッと押して」
「分かったわ」

いざ尋常に勝負だ!



パタン

「あらエヴァさん」
「モニカさん、カタリーナ様はお休みに入られました。四時までは誰も入室するなと仰せです」
「いつもの時間ね」

「じゃあ僕も一旦行きますね。後で戻りますので」
「あらそう。わかりました」

「あの」
「何かしら」
「イヴァーノ様の新作ディドレスなんですけど…」
「イヴァーノ様の」ピク

イヴァーノのドレスが今社交界で注目され始めていることは女性なら誰もが知る話だ。ましてやそのきっかけがカタリーナ様で、いつも着替えを手伝うモニカさんなら興味をもっていないわけがない。

「実はイヴァーノ様が試作で作ったドレス、モニカさんにと思って持ってきたんだけど…要ります?」
「まあ…それ本当?そんな…いいのかしら」

僕はそれをいわゆるアウトレット品なのだと説明した。実は裏地の誰にも見えない場所に小さな穴が開いてるのだと。完璧主義のイヴァーノはそれを捨てようとしていたので貰って来たのだと。

「まあ!なんてもったいないことを!イヴァーノ様らしいわね…」
「隣の備品室に置いてあります。鏡も用意したので今のうちに試着どうぞ」

これは昨日のうちに済ませておいた仕込みね。

備品室とはいちいち色々取りに行かなくてもいいようシーツや枕、ちょっとした医療用品などが置いてある納戸だ。僕はそこに姿見とドレスを一着置いておいた。
これもこのVIPルームを使うのがここ最近はアマーディオだけで、エヴァがこの部屋にいることまで当たり前の光景になっていればこその荒業である。

いそいそと備品室に入るモニカさん。それを見届けお次は廊下の曲がり角近くまできたところで…

「きゃっ!いたぁ~い」ドテ

「大丈夫ですかエヴァさん!」
「さあこの手に掴まって!」

「無理ぃ~、立てなぁ~い」

うーん、こんなところでニコラが役に立つとは…

言わずもがなだが、彼らも例に漏れずエヴァちゃんが大好きである。
そのエヴァちゃんが目の前で転んだのにスルーするはずがない。彼らは今扉側に背を向け、二人がかりでここぞとばかりにナイト精神を発揮している。

僕はモニカさんと部屋を出る時少しだけ扉を開けたままにしておいた。
カタリーナ様には小さな手鏡を渡してある。それによって彼女はこの状況を確認しているはずだ。

背中越しにちらりと見えるグレーの布地。
さあ、ローマの休日、開幕である。






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