コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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大人の嗜み…それは臨機応変

「いらっしゃいヴィットーレ先生」

「……ご招待ありがとうイヴァーノ君。まさかコレッティ家のご子息がこれほどつつましやかな屋敷で暮らしているとは…噂には聞いていたがこの目で見るまで信じられなかったよ。平気なのか君は」

「ヴィットーレ先生、国語教師のクセに住めば都って言葉知らないんですか?」
「あらゆる鳥にとって自分の巣が最も美しい…二年時の授業で私が教えたことだ。覚えていたのだね、実に意外だよ」

意外だよ、だけ余分だから。

どうやらこいつは、僕の前ではもう善良な教師の顔は被らないと決めたらしい。けど、どうせゲームで知ってるから問題無い。

「とにかく家なんて、どこに住むかじゃなくて誰と住むかの方が問題だから」
「イヴの言う通りだ。この小さくも温かな屋敷はどれほど豪奢な宮殿よりも心休まる空間なのだよ、ヴィットーレ殿。やあ久しぶりだ」

「朗読会以来だねビアジョッティ伯、これは手土産だ」

渡されたのはちょっとお高めなワイン。手土産を忘れないあたり大人の気配りを感じさせる。
イヴァーノの夫がアマーディオの勉強会メンバーなのは、とっくの昔に社交界へ知れ渡っている。その辺りでヴィットーレ(表の顔)はフラヴィオに敬意を払ったのだろう。

善人の仮面を持つヴィットーレとの間にはこれといったトラブルは無い。ってことで今日はそれなりにキチンとおもてなしをするつもり。

さて、僕が用意したメニュー、それはまるで万国博覧会のようだ。

フランコのお父さんに作ってもらった自作の鉄皿(木のトレー付き)にもったソーセージたっぷりのナポリタンスパゲッティ(溶き卵付き)と、ひよこ豆で作った自家製豆腐を混ぜ込んだ和風ハンバーグ、オニオンたっぷりのジャーマンポテトに、最後はフレンチドレッシングのサラダ…ときたもんだ。

あとデザートは大人な二人がつまみにしてダラダラ飲めるよう、チーズとハムとジャムを添えたイングリッシュマフィン、というラインナップね。
うーん、我ながら上出来!


「イヴ、あのくず肉がこれほど美味しい肉になったのかい?」
「おろしポン酢のおかげですよ」
「驚いた…、全て君が作ったのか?」
「ええまあ。うちには子供の下働きしか居ないですから」
「…そうだったな。ほう?見たことのないパスタだ…」
「そうですか?おかしいな…キングオブパスタだと思ったのに」


食事を終えお酒も進み少しずつ打ち解けるフラヴィオとヴィットーレ。こういう時フラヴィオのコミュ力ってばホント頼りになるんだから。
え?僕?僕はあれだよ…エヴァなら良いんだけどね。素だとちょっとね。

「それにしても…イヴァーノのご夫君がよりによってパンクラツィオが居る勉強会のメンバーになるとはね。驚いたよ」
「殿下、そして公爵令息殿の寛大さには痛み入る。あなたにも大変感謝しているのだよ。差し入れて頂いた書物の数々、どれほど役立ったことか」

「いやなに。大事な教え子の窮地。これくらいはお安いものだ」

「…」

フラヴィオに僕とヴィットーレの裏取引はナイショの話だ。別に話す必要もないし。

助教授戦におけるヴィットーレの加点は着々と積み上がっている。
それもこれも、僕がさり気に聞きだしたアンドレア教授の加点ポイント、その傾向と対策を逐一ヴィットーレに流しているからだ。
最近ヴィットーレからの返信文体が軟化しているような気がする…つまりそれは経過良好という証拠だろう。

何通かの手紙をやりとりして分かったのは、彼はあの学院での最年少助教授の座を狙っているということ。

サルディーニャ王立学院の講師は大学卒が条件になる。
法学医学でなければ最短四年で卒業、つまり学院の講師は上手くいけば22が最若年となる。そして講師を四年勤めあげると助教授戦への資格を得る事が出来る。

ゲーム内のヴィットーレは二十五設定。そして確かゲーム内に出てきた情報によると、ヴィットーレは最年少で講師になっているはずだ。これは生徒二コラとあまり歳の差が開かないよう説明された設定だから間違いない。
つまりこの秋、彼は年齢の壁をクリアーし助教授に推薦される資格を得るはずなのだ。

アンドレア教授からチラリと聞いたのだが、助教授になるのは普通三十前後、特に多いのが三十台前半なんだとか。
つまり最短の二十六か七あたりで助教授になればそれはものすごい快挙ということだ。

最年少で助教授になり、最年少で准教授になり、そして最終的には最年少で教授になる。それが父親を見返したいヴィットーレの目標である。


「ヴィットーレ殿、これは実に芳醇なワインだね。もう無くなってしまったよ」
「気に入ったのかい?私の好きな銘柄でね」

「フラヴィオ、せっかくだからちょっと良いの一本持ってきたらどうですか?」
「いいのかい?では見繕ってこよう」

こういう時のために前家主の残していった年代物のワインは取ってあるんだよね。普段飲むのは下町で仕入れてくる例の二級品ピケットね。

さて、これでフラヴィオは当分ワイン選びで戻らない。今のうちに…

「ところでヴィットーレ先生、助教授戦に向けてもう一声実績が欲しくはないですか?」
「実績作りならばすでに考えている」
「へー?どんなです?」
「この夏に行われる議論学の大会に出るつもりだ」

議論学の大会…要はディベート大会のことだ。口のうまいヴィットーレにはピッタリと言えばピッタリ。

「優勝する自信でもあるんですか?」
「いや。だがあれに参加したというだけで十分価値はあるのだよ」

何でも議論学の大会へ出るにはかなりのレポート的準備がいるらしく、仕事の傍らそれをこなしたという事実が、勤勉さや実直さ、学問への熱意や探求心、その他諸々の評価につながるのだとか。

「もっと割のいい権威付けしたくないですか?」
「何の話だ」

「あるところである人の勉強を見て上げて欲しいんです。主に哲学とかそれこそ論理学とか?議論大会ディベートの練習にもなるしちょうど良くないですか?」
「イヴァーノ君、私がそれほど暇だとでも思っているのか。どこのお坊ちゃまか知らないが…王立学院で教鞭をとる私を一介の家庭教師と同じに考えるのは止してもらおう」

「イヤなら無理にとは言いませんけど…イイ話だと思ったのにな」
「イヴァーノ君、言っておくが私は」

「おや?何の話だい?」

ナイスタイミングで戻ってきたのはセレクトしたワインを手に満面の笑みをたたえた僕の夫だ。

「ほらあれ。カタリーナ様の件」
「ああ、姫殿下の講義のことだね。ヴィットーレ殿は引き受けてくれたのかい?」

ガタ

チラリ「えっと、それが残n」
「ま、待つんだイヴァーノ君!」

ふっ、勘の良い大人は大好きだよ。

「姫殿下の教師…喜んで務めさせてもらおう」
「無理しなくていいですよ。お忙しそうだし」
「いいや。時間など無ければ作るものだ。いいから詳しく聞かせてくれないか」

手首のスナップよく効いてるわー。手の平クルックル。
けどこれで一丁上がりっと。



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