コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人のささやかな日常

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「あなたがイヴァーノの恩師であるヴィットーレね。話は聞いていると思うのだけれど…イヴァーノが無理を言ったのではなくて?」

「いえ。私で教えられることがあればなんなりとお申し付けください」
「こちらはわたくしの専属看護師エヴァよ。講義の際は同席します。よろしいわね」

「かしこまりました」


過剰にへりくだりも舞い上がりもしないヴィットーレ。
さすが長いあいだ「地位にも名誉にも興味ありませーん、自分不器用なんで」みたいな仮面を被ってきただけのことはある。
実直そうなその態度はカタリーナ様を安心させたようだ。(これがヴィットーレの手なんだよ)

僕(イヴ)はヴィットーレにこう説明していた。

このサルディーニャ、加えてお隣ブルボン王国では女性の政治的な口出し、社会進出に対し非常に否定的だ。そのため賢すぎる女性を受け入れない傾向がある。
けれどカタリーナ様には切実な知識欲がある。
そこで、せめて輿入れまでの僅かな時間だけでもその欲を満たしてあげたいのだと。

これをイヴァーノが言ってもヴィットーレは素直に信じなかったろう。自分に二面性のある奴は他者の言葉にも裏があると思うものだ。

だが少し話せば誰にでもわかるくらいにフラヴィオは独特の気高さをもつ男である。
イヴァーノの夫でありながらアマーディオが勉強会メンバーに選んだ、しかもパンクラツィオまで受け入れている、という事実も後押しをして、フラヴィオの言葉はストンと耳にも脳にも入ったようだ。

…それはそれでなんかムカつくな…別にいいけど…

「名目はブルボンの文学、古典のお勉強ね。で、実際は哲学倫理学法学などなどカタリーナ様のご要望に応じてお願いします」
「ふむ…法学は専門ではないのだが…」

「一般人よりは詳しいでしょ?これは善行ですよ。カタリーナ様はとっても感謝するんじゃないですかね?」

そう。ヴィットーレになんらかの名誉的な称号を与えるほど。

「確かに…、私にとって利はあれど特に不利益はない。いいだろう。だが姫の侍女はどうする?承知のうえなのか」
「そこは対処済みです」
「抜かりないことだ」

講義の日は僕がカタリーナ様のカウンセリングに訪れる水曜の午後に設定してあり、モニカさんはエヴァのカウンセリングに合わせて現在水曜午後が公休となっている(それ以外は付きっきりってことね)。
つまりカウンセリングの名称が文学のお勉強に名称を変えるだけだ。

そしてカタリーナ様が一言いえば学院にも命が飛ぶようすでにスタンバイ済みだ。




というようなやり取りを経て現在僕はエヴァとしてヴィットーレの前に居る。

目ざといカタリーナ様と違って、男など所詮奥さんがパーマをかけようが髪を染めようが気がつかない生き物である。もともと自分のことでいっぱいいっぱいのヴィットーレなら尚更だろう。

「それにしても姫殿下がイヴァーノとこれほど懇意であられたとは…」
「彼とは衣装の打ち合わせで知り合いましたの。その時に少しばかりお話したのだけれど…つたない話を覚えていてくださったのね。衣装をお友達に紹介したお礼だと言っていたわ」

「そういう事ですか…」

僕は万が一を考え、常にイヴァーノとして王家に近づき過ぎることは敬遠している。それを理解しているカタリーナ様とは万事口裏合わせ済みだ。

「さ、時間が惜しいの。始めましょう」

などと始まったカタリーナ様の勉強会。熱のこもる二人のやり取りなど僕にとってはBGMで、これはちょっとした小物作り、趣味に没頭できる時間でもある。

生気に溢れるカタリーナ様に満足しながら、こうして僕はしばし平和な毎日を過ごしていた。





-------------------




その日私は殿下の勉強会を終え、程よい時刻であるのを確認するとセルジオ殿のタウンハウスへと足を運んでいた。

「この時間であればイヴと合流できるだろう…」

そうして裏口で待つこと数分、出てきたのはエヴァからイヴへと戻った私の愛妻。

「あれフラヴィオ、どうしたんです?」
「今日は解散が早くてね。君を迎えに来たのだよ」
「ええー!じゃあこれってプチデートですか?」
「そう…その通りだ」
「じゃあ遠回りになるけど表通りを行きましょうよ」
「ああそうしよう」

彼らのタウンハウスからビアジョッティ邸は、本来運河沿いの裏通りを使へば僅か十五分の距離だ。
だがイヴは少し遠回りだが、店が軒を並べる表通り、タウンハウスの東面を散策して歩きたいようだ。


貴族街のオアシスでもあるこの運河通りは、貴族街の東側であれば、大部分が緑の木々と遊歩道で整えられた、人々にとって憩いの場ともいえるものだ。
川沿いに住む住人は毎朝窓を開け、爽やかな緑の風と水のせせらぐ音をまるで芸術のように愛でている。

が、この西側に来るとその趣は一転する。

運河を挟んだ西側には庶民街があり、低木が無造作に植えられた運河通りからはあちら側からこちら、こちら側からあちらが視界に入る。
それだけではない。夜になれば庶民街からの喧騒が届くこともある。幸いイヴは「バーベキューするのに気兼ねが無くてちょうどいい」と言って気にしていないようだが、隣家の子爵などは「酔っぱらいの声が不愉快だ!」と裏庭と運河通りの間に背の高い塀を設けている。

そのような理由から人々はこの西の運河通りを常用路としては避ける傾向にある。一言で言い表すのならば、この通りは「洗練されていない」ということなのだろう。
よってこの通りには馬車が通れる道幅はないし、散歩を楽しむ人の姿もない。だからこそイヴはこの通りを使いフランコ達のタウンハウスへ出入りしているのだ。

腕を組んで歩く表通り。私とイヴに向けられる視線は羨望なのか嫉妬なのか。

「ねえフラヴィオ、この間いい店見つけたんです」
「シスターが大冒険した時だね」

「そう。ねね、ちょっぴり買い食いしちゃおっか?」
「何が欲しいのだい?」
「少し気温も上がって来たし…そこのジェラートとか?」

「いいとも。すまない店主」
「あ、待ってフラヴィオ。夕食前だから丸丸は食べられない。二人で一つね」

ひとつのジェラートを歩きながら二人で舐め合う…なんという甘い行為だ。ロデオに見つかれば何を言われるか分かったものではない。だが…

こんなひと時が過ごせるのも只人ビアジョッティ伯爵であればこそ。今の私に出来ぬことは何もないと思えてくる。隣には頬を染め照れくさそうに私を見上げるたイヴの姿…

こんな時私はふと悩んでしまうのだ。
第三王子フラヴィオとしてアスタリアで生きることが果たして私にとって正解なのか、と…

変装をしてまで街に出た姫殿下の気持ちが痛いほどわかる。
もちろんルイージを王座につけるためアスタリアの地へ戻ることに迷いはない。だが。

だが私は…

「どうしたのフラヴィオ?」
「いや」
「あ、こめかみキーンときました?実は僕もです」

チュ「これでどう?」
「なおりました!」ポ

こうしていつまでもイヴとたわいもない日常を過ごしていたい…


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