コスプレ令息 王子を養う

kozzy

文字の大きさ
92 / 225

彼の成果

しおりを挟む
「イヴ、屋敷の前に馬車が停まっているのだが…マッティオ殿…それともヴィットーレ殿だろうか?」

「マッティオさんの馬車はもっと実用的だしヴィットーレの馬車は正面に侯爵家の紋が入ってます。あれは違うから…えーと…あっ!」

フラヴィオとの憩いのひと時を終え屋敷に戻れば、普段ほとんど来客の無い玄関前に珍しく一台の馬車が停まっていた。
その馬車から降り立ったのはなんと…ダリオだ。

「な、何しに来たのダリオ…」
「いやなに、経過を少し報告に。だが…ここがお前の屋敷か。ふーん…没落した男爵家といったところだな」

なんでわかった!まさにその通りだよ!

「どいつもこいつも…挨拶代わりに僕を落とさないと気がすまないワケ?」

「仕方が無いだろう。それぐらいあの〝イヴァーノ様” がうらびれた生活に満足してるっていうのが信じられないんだからな」

そうだろうとも。実際僕だってあのイヴァーノが日本の庶民代表家でどんな暮らしをしてるか見てみたいもんな。


この辺りは貴族街でも下位エリアで、そのうえここは端の端、屋敷と言っても日本の小金持ちが住む程度のお屋敷である。
幸い裏にはそれなりに広い庭もあるし厩舎もあるけど、表玄関などは馬車道から門超えてすぐの、非常に機動性の高い作りだ。

貴族街の住宅地とは、僕の知る知識の中で最も高級な住宅地、ビバリーヒルズみたいな東地区からはじまり、真ん中付近で田園調布みたいな地区になり、西に入るとしばらく高級タウンハウス群があり、それを抜けると普通の富裕層住宅地エリアになる。その最西端がここね。コレッティ家があるのはビバリーヒルズ。このあたりがどれくらいつつましいか比較できたかな?

「しょうがないなぁ…お茶くらいはごちそうするから中入って。馬車はそこのドン突ききに停めて。駐禁来ないから」

「チュー…?まあいいだろう」


とてもパーティーは開催できない小さなホールだが、不幸中の幸いというか、フラヴィオのおかげでホールとサロンは来客に恥じない程度に整えられている。ルイルイが毎日飾ってくれるお花(エヴァへの贈り物)も実にいい感じだ。

貴族とは午後のお散歩を終えると夕食前に友人とお茶しながらダベるのがわりと普通である。
ダリオが友人かどうかはこの際置いといて…最近の我が家は少しずつ〝貴族” を取り戻しつつあるようだ。

庶民街での口げんかを覚えているフラヴィオだが、あの時遣り込められていたのがダリオの方だったこと、その後ダリオが公約通り大量のハムを贈ってきたことであまり気にしてはいないようだ。

この間のヴィットーレといいダリオといい、イヴを訪ねる来客が『ドキナイ』の攻略者たちばかり、っていうのがなんで?っていう感じだが、彼らはイヴァーノアンチ勢だっただけで、基本はキラキラ系BLゲーのキャラ達である。立場さえ替わればなんだかんだ言ってコミュ力の高い人物たち。
ロデオがお茶とお菓子を運んでくると、あっという間に奴とフラヴィオは打ち解け始めた。

「その節はイヴが無理を言って申し訳ない」
「いいや。賭けは賭けだ。まさか本当に落ちるとは思わなかったが…」

いや、むしろ学生時代あれだけ二コラを追いかけまわしてて、なんで受かってると思った!?

「すごく美味しいハムだったね」
「あれはかなり上等なものではないのかい?」

「どういった経緯であろうと贈るからには二級品など贈れるものか」

ってお家の人が言ったワケだね。
ダリオのお家は伯爵家だが、まあまあ豊かな領を持つ優良な伯爵家だ。ダリオがアマーディオたちと幼馴染なのも、ダリオんちの領が、王家の保養地に近かったからだっていう話(ゲーム内情報)だよ。

「それで経過って?あれからどうなった?」
「それなんだが、お前が言うよう私はあの週末海岸を探し歩いた」
「何か見つけた?」

「私にはどれが不穏なものかの判別は付きかねたが…とりあえずいくつかの品を正騎士団長のところへ持って行った。血がにじんで見える…ような布片だったり難破した船の欠片…に見える木片など」
「ふんふん…」
「その結果三つほどのガラクタが破棄されずに受け取っていただけた」

「三つ…、ダリオ、取得物いくつ持ってったの?団長のとこに」
「木箱一つ分だ」

クラリ…「ま、まあいいよ。自己判断するなって言ったの僕だし」

ガラクタばかりひと箱分…団長もたいがい人が良いとみた…

「その中にはお前が言った紙切れの入った瓶もあった」
「ふんふん!で?中身は?」

「子供が書いたと思われる手紙だ…」

ハイキタコレーーーー!!!よくやったダリオ!褒めて遣わす!

「それは両親を偲ぶ短い手紙で…うっ…」ウルッ

この涙もろさもダリオのダリオたる部分だ。

「はいハンカチ。で?団長はなんて?」

チーン「難しい顔で気になることがある、と。そしてこう言われたのだ。場合によっては報奨が贈られるかもしれないとな。そこでお前に言われたよう、「自分は正騎士団への入団志願者で浪人生だ」と伝えた」

「上出来」
「分からないがなかなか良い手ごたえを感じる。まさか本当にこんなことで…だがこれは一応の礼だ。とっておいてくれ」

手渡されたのは鮭の燻製、こ、これは…まさか…スモークサーモンではありませんかーーー!!!

「うちのシェフのオリジナルだが…お前はどうも燻製肉が好きなようだからな。これも気に入るだろうと思」
「大好物です!」ズズイッ!

ハムの人はたった今からハムの御方に格上げされましたー!

「団長殿は現在その手紙の内容をブルボンに密偵を出して精査しておられるところだとアマーディオが言っていた」
「へー?」

すっご。ゲーム通りじゃん。

「先日宰相様とすれ違った時にも「目端の利く若者だ」とお褒めいただいた」
「おおっ!」

嬉しそうなダリオ。微笑ましい…

「もしこれで入団が決まればそれはお前のおかげだ。イヴァーノ、学生時代お前とは何度も言い争ったが…互いにもう成年だ。過去の件はお互い水に流してはどうだろうか」

水に流す過去など所詮僕には無い。って事はその申し出に不満はない。だが…

「いいですけど…ハムは別件ですからね」

これだけはハッキリしておかないと。






しおりを挟む
感想 609

あなたにおすすめの小説

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【更新再開】ショコラ伯爵の悩ましい日常〜イケメン騎士様とのBL営業が甘すぎる!〜

あさひてまり
BL
コンフォール伯爵家の三男シエラはある日、口にした「薬」によって前世である日本人としての記憶を思い出す。 「これ、チョコじゃん!!」 甘いチョコレートが無い今世を憂いたシエラは、人々に広めようとショコラトリーをオープン。 「ショコラ伯爵」の通り名で知られるようになるが、ショコラを口にするのは貴族ばかり。 どうにか庶民にも広めたい! それにはインパクトあるプロモーションを考えないと…。 え、BL営業⁉︎……それだ!! 女子に大人気のイケメン騎士の協力を得るも、相手役はまさかのシエラ自身。 お互いの利害が一致したニセモノの「恋人」だったけど…あれ?何だろうこの気持ち。 え、ちょっと待って!距離近くない⁉︎ 溺愛系イケメン騎士(21)×チョコマニアの無自覚美人(19) たまに魔法の描写がありますが、恋愛には関係ありません。 ☆23話「碧」あたりから少しずつ恋愛要素が入ってきます。 初投稿です!お楽しみいただけますように(^^)

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

処理中です...