コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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渾沌の夜…

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「イヴ様。ご実家から「帰り次第屋敷へ来るように」と迎えが参っております」
「え…」ドサドサッ…

思わず手荷物を床に落とすぐらい、今一番聞きたくなかった実家コレッティからの呼び出し…

ここ最近の僕は、どこか吹っ切れたカタリーナ様に代わって逆に情緒不安定だ。
それは思わずファンクラブの面々が、「エヴァちゃん大丈夫?」「働きずぎじゃない?」「私たちのことは気にせずお休み取っていいんだよ」と心配の声をかけてくるほどで、一瞬前世のバイト先に居たパートのおばちゃんを思い出したのはここだけの話だ。

それはさておき、コレッティ家からの呼び出し…。それが「今晩食事でも一緒にどう?」っていう誘いじゃないのは分かりきっている。理由は一つしかない。

「イヴ。この際だ。しっかりご説明申し上げてこよう」
「そ、そそ、そうだね。誤解は解かなくちゃ」

カタリーナ様の頑張りによって今のところ公式なお達しはまだ食い止められている。王妃様の強権が発動される前に何とかしないと…




そんな気持ちを抱えたままやって来たイヴァーノの実家。どうも自分ちって気がしないんだよね。
そこには先日会ったばかりの次兄長兄の嫁まで顔を揃えてこちらの様子をうかがっている。うーん…どうしたものか…

「それでフラヴィオ君、イヴァーノ、カタリーナ姫殿下とはどうなっているのだね?」

ド直球。

「どうもこうも…ただの噂ですよ。やだなあお父様」

不機嫌そうな声色。おや?意外にもお父さんはこの件が気に入らないようだ。王家にお近づき的な噂なら大歓迎かとと思ったのに…

「フラヴィオ君、見損なったぞ!姫殿下を正妻に据えこのコレッティ家の息子であるイヴァーノを第二夫人に下げるつもりか!」

お父さんの話では、どうやらイヴァーノはタランティーノ公爵家と婚約する際、婚前契約書…的な?何かに〝第一夫人、第二夫人の序列は性別でなく家格に準じる” と一文入れさせていたようだ。
なんか納得。
あの天より高いプライドをもつイヴァーノが、どんな理由があれど第二夫人の座に納得するはずがない。〝家格に準じる” この一文があればイヴァーノを超えられる令嬢はほぼいない。さすがイヴァーノ。抜かりないな…

「フラヴィオ様、言ったはずですわ。イヴァーノは問題の多い子ですがそれでもわたくしどもの可愛い息子。コレッティ家の息子ですのよ。その息子を軽んじるおつもり?」

…なるほど。
こうして聞くと、やっぱり僕に貴族社会のなんたるかはちょっとばかり難しいようだ。
イイトコのお嬢さんを迎えて喜ぶ、よりも家門が軽視される事の方がNGってことか…。
そうするとイヴァーノのあのプライドの高さも理解できるってもんだ。ちょっとばかり仕上がり過ぎてああなったけど…

「侯、夫人、どうか信じていただきたい。私はイヴ以外を娶る気など毛頭ない。無責任な噂などどうかお聞き捨てくださらないか」
「そうですよ。カタリーナ様だってそんな噂たてられてお困りですよきっと」

「そのカタリーナ様が仰ったのよ。プロポーズされたと」

いきなり爆弾を投下したのは長兄の嫁フランチェスカさんだ。彼女はコレッティ家嫡男の嫁、つまり次期当主夫人としてすでに王宮での婦人会に参加している、かなりお城の内部に詳しい情報通である。

「え?ちょ、ま、カタリーナ様がそう言ったの?フラヴィオにプロポーズされたって?」
「名こそ出されなかったけれど…とても近しいあの方、と」

「これでもシラを切る気かねフラヴィオ君」
「そ、それは何かの間違いです。オルトゥス神に誓って私は姫殿下にプロポーズなどしていないと断言する!」
「そうまで言われるか…。ではなぜ姫殿下はあのような…」

プロポーズか…プロポーズね…はっ!もしや…いやけど…だからって…うーん…

「あのフランチェスカ様、それ…どういう状況でカタリーナ様が言ったか聞いても…?」

「ええよろしくてよ。あれは王妃殿下主催で行われた定例のお茶会でしたわ。王妃様は少しでも気晴らしになれば、とその日もカタリーナ様をご同席させておられました…」

その茶会が気晴らしになるかどうかの是非はこの際置いといて…彼女の話す先日のお茶会、とやらを再現フィルムでお見せしよう。

どうやら王妃様以下、出席者の面々は、最近社交界を席巻する例の噂について当人の口から聞きたくてウズウズしていたようだ。
けど相手は最近婚約解消したばかりの傷心カタリーナ様。そこは腫れ物。触れて良いものかどうかみんな躊躇っていた。
そこで口火を切ったのは母である王妃様。あえての戦法で重くならないよう、まるでお天気の話でもするよう軽く、明るく、さりげなく切り出したという。

~回想~

「時にカタリーナ…、ホホ、あの方から求婚されたと聞いたのだけれど…」
「あの方…?誰の事かしら?」
「あなたにとても近しいあのお美しい…例のあの方ですよ」
「お美しい…」
「ここのところ王城でも顔を見かける…ホホ」

「あああの。ふふ、何故ご存知なのかしら?誰がそれを?いやだわ。エヴァが話したのね」
「ホホホ、誰から聞いたかなど良いではないの。では本当なのね?」
「ふふ、ええ」

「それで…ホホ、なんと返事を返したの?」
「うふふ、喜んでお受けします、と。彼はああ見えて女性のあしらいがとてもお上手ですのよ。うふふ」

「まっ、ホホホホホ」

~ここまで~

なるほど…そういうことか。

「侯、夫人…。カタリーナ姫殿下が誰を指してそう言ったかはわかりかねるが…私でないことは確かだ」

やれやれと首を振るフラヴィオ。そうでしょうとも。だってそれって多分…タラリ…

「イヴァーノ、汗を拭いてどうしたのかしら?」

一筋の汗を見逃さないお母様…。やはり女性は目ざとい。

「…あなたまさか…」
「イヴァーノ…」

「ち、違います…あれはそう言うんじゃなくて…」

「イヴ!まさか!」
「イヤ、だから違うって!」

「何か言ったのだね?なんと言ったんだい?」
「ホントに違います!僕はただカタリーナ様を慰めようとしただけで…」

「いいから言いなさいイヴァーノ!」
「や!だから僕はきっぱり振られてますから!」

「イヴ!」

「だいたいプロポーズしたのはルイルイでカタリーナ様が喜んでお受けしたのもルイルイだからーーー!!!」

言ったった!





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