コスプレ令息 王子を養う

kozzy

文字の大きさ
174 / 225

新たなる日々

しおりを挟む
「おじいちゃま、ネコちゃん」
「フェル、優しく撫でてやりなさい。尾は掴まぬようにな」
「あい」

という、癒しの空間が日常になってきたここ最近のビアジョッティ邸。なのに僕だけが日夜修羅場を味わっている。
何故なら…

陸路で王都に戻る、という体のエヴァはあとひと月ほど姿を現さない。そこでこの一か月の間に出来る限りファッションショーに出す衣装の準備を進めてしまいたいからだ。

そこまでするならエヴァをやめろって?
いーや。あれは何かと有用なキャラ。今後も封印する気はない。

パンキーはフラヴィオに正々堂々戦う事を宣言したらしい。要するに手をまわして票操作をしたり材料を買い占めて困らせたりはしない、ってことだね。

確かに…どれほど僕がパンキーを嫌いでもそこを疑うつもりはない。

奴は腐ってもBLゲーの攻略者。それも主役級。王族公爵家の名に懸け外道な真似はしないだろう。そしてそれは取り巻きたちにも徹底させているはずだ。どっちかというと外道寄り(寄りね。あくまで未満だよ)はイヴァーノのほう。だからパンキーはイヴァーノを毛嫌いしてたんだから。

正攻法で相手をぐうの音もでないほど叩き潰す。それこそが〝俺様”パンクラツィオ!


ってことで…

「イヴ様ー。ギャビーさんが使用人小屋完成したって言ってます」
「あ、今行くー」

ギャビーとはガブリエーレさんのことで、彼はフランコの三つ下になる弟である。
彼は家を出て衛兵になった兄の代わりにお父さんの跡を継ぐ家族思いの青年。歳はフラヴィオの一個下で僕の二個上。

「いやー、今回もご苦労様。ありがとね。今日はごちそう用意するから食べてって」
「じゃあお言葉に甘えて」

「あとでセルジオも来るって」
「えっ!兄さんでなく?」
「フランコは今日夜勤だって」

仕上がった家は小さいが二階建てで、一階は共同のリビング、二階は横長のスペースを縦に三つ仕切った個室モドキ(一部屋三畳ほど)になっている。
そこにベッドとミニテーブルミニハンガー、収納はベッド下の、イメージ的には刑務、…カプセルホテルが近い。

新たな宿舎と馬車小屋の間にはジュゼッペじいさんのために作ってあった簡易の水洗トイレもある。あ、文化にそぐわぬ下水の追求は無しの方向で。ここキラキラBLワールドだから。

そして新たに設置したのが…僕特製シャワーブースだ!
じゃないとお風呂場に連日待機列が出来る。

このシャワーブースはキャンプ動画を参考にした僕のアイデア(パクリ)であり、小さな穴を幾つもあけた大きめのバケツをスタンドに吊り下げ、中にお湯を入れて使う簡易なものだ。自分で言うのも何だが、これはなかなかいいアイデア(パクリ)だと思っている。

いい機会なので邸内の浴室にも同じものを設置したのだが、フランコのお父さんはこれも改良の上製品化して良いかと許可を求めてきた。なので快く「じゃ助っ人の報酬ってことで」とすでに話はついている。

「完璧だよギャビー。お父さんにもお礼言っといてね」
「イヴァーノ様の設計図が良かったんですよ」

〝あつもり”で建てた家を参考にしたのだが…イケてたようだ。


「ただいまイヴ。おや?ギャビー君…そうか。宿舎が完成したのだね」
「邪魔するよ。ガブリエーレ!久しぶりだ!」

そこに帰宅したのがセルジオを伴ったフラヴィオ。きっと勉強会の帰りに馬車で拾ってきたんだろう。

「セルジオさん!たまにはうちの実家にも来てくださいよ!母も楽しみに待ってるんですよ!」
「はは、では近々必ず」
「約束ですからね!」

セルジオとフランコ、気の良い同僚コンビは昔から家族ぐるみの付き合いをしているらしい。
僕は当初「ここはBLの国だしこの二人もしや…」と怪しんだのだが、フランコは女好き(モテるとは言ってない)だし彼らは清く正しい親友同士だ。だ・が!

「セルジオさん、次の非番はいつですか。たまには兄抜きで出かけましょうよ」
「セルジオさん、海に行きたいです俺。連れてってください」
「セルジオさん、あのね」
「セルジオさん、それでね」

…なるほどね。ギャビー…見たところセルジオは何にも気付いていなさそうだが…健闘を祈る!



「イヴ、殿下が仰っていたのだがあと二週ほどで孤児たちが到着するようだよ。君も出迎えに立ち会うのだろう?」
「もち!とりあえずここの使用人選ばなくちゃいけませんしね」

これはカタリーナ様が送ってくれた早馬ならぬ早鳩である。
この世界の伝書鳩が何万キロもものともしない異様な健脚ならぬ健羽根なのはシナリオライターのご愛敬ってことで。

ショー用の衣装を作る合間を縫って作成したボーイ服…これは某執事アニメの従僕キャラからパクった、身長百六十位を想定した制服である。ワクワク…

「彼らに付き添うのはマヌエルとミケーレ。彼らは自ら志願したそうだ」
「へー」
「そのままここサルディーニャへ定住を希望しているらしい…」
「何でっ⁉ 」
「彼らは嫡男では無いし、その…私に騎士の誓いをたてているのでね…」

つまりビアジョッテイ家の護衛騎士になると。そりゃ一応ここは伯爵家だけど…マジか…
この小さな屋敷に必要かな警備…見たら驚いちゃうよ?

因みにフランコ、セルジオにフラヴィオの素性は告白済みだ。
けどとっくに友人の彼らは「でもまあ…結局イヴァーノのご夫君なんだろ?」「そこが変わらなきゃどっちでも同じだな、ハハハ」と一笑に付した。どっちがどっちの台詞かは…推して知るべし。フランコお前…

「まあいいですけど…当分は薄給ですからね。それからここには空き部屋が一部屋しか無いので住めません。通いですよ?」
「ちょうどいいイヴァーノ。俺たちの住むタウンハウスに最近空きができた。そこはどうだ?よければ家主に話をつけておこう」

借り上げ社宅か…
くっ!儲けても儲けても右から左…セレブへの道は遠く険しい!

「じゃあセルジオお願い」

まあ…どうせこの二人もうちの使いっぱみたいなもんだし?そのタウンハウスはうちの契約寮ってことで。

「そうだフラヴィオ。タウンハウスと言えば明日からエヴァ復帰しますのでよろしくお願いします」
「もうかい?ショーの準備もあるのだろう?大変ではないのかい?」

「カタリーナ様が居なくなって水曜の出張業務が無くなったからヨユー」

月火木金、十時から十五時、一日五時間。これくらいならお裁縫の合間のいい気分転換だって。
ぶっちゃけアイデアが前世のパクリなお陰でネタ出し不要だし、そのデザインは船内でおおよそ描き起こしてあるし、エヴァ不在の一か月にかなり裁断は進めたし…お針子はサロンの腕利きを借りるから…問題なし!

こうして…
僕たちが大体の受け入れ準備を終え日常を取り戻した早春のある日、その船はサルディーニャへと到着したのだ。






しおりを挟む
感想 609

あなたにおすすめの小説

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...