金獅子とドSメイド物語

彩田和花

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13話 緑の貴公子との共同任務

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戦場へと旅立つレオンを見送った新年の朝─。
モニカは彼が旅立つ直前に、共に訪れ無事を祈った礼拝堂へと再び足を運び、ファルガーへ報告を行った。

─ファルガー様へ

新年明けましておめでとうございます。
昨年中はお世話になりました。
今年もどうぞよろしくお願い致します。

新年早々ではございますが、今の私の心境・・・後述する理由でとても沈んでおりますので、うっかりと良くないことを口走ってしまうかもしれないことをご了承下さい。
その理由についてですが、実は大晦日に開かれた社交パーティの後、アデルバート北のロジウム区域にある魔界ゲートが突然大きく開き、沢山の魔獣達が溢れ出してきたそうなのです。
レオン様はその対策の為に急遽現地へ向かうことになり、ゲートが元通りに落ち着くまでの数ヶ月はこのミスティルへ帰ってこられないそうで、只今戦場へと旅立つレオン様を見送って来たところでした・・・。
溢れ出てきた魔獣の群れの中にブルードラゴンがいるそうですが、アンジェリカ様の進言により、レオン様に英雄ラスター・ナイト様の遺されし剣”白の剣”を貸していただけることになりましたので、無事に帰ってこられるとは思うのですが、どうも嫌な予感がしてなりません・・・。
それからもう一つ、大切なお知らせがあります。
ロジウム区域での異変の知らせを受ける前、レオン様とのやり取りにおいて、もう私の持つ秘密を隠し通すことに限界を感じましたため、私が非処女であること・・・それから、貴方様の手によりアデルバートに送られたスパイであることを打ち明けました。
レオン様は私がスパイであることよりも、非処女だったことのほうに酷くショックを受けて宮廷を飛び出していかれましたが、私が追いかけ、何とか仲直りをしたところでロジウム区域の知らせを受けました。
そして、このことは貴方様に言うべきかとても悩みましたが・・・やはり貴方様にはちゃんと伝える必要があるかと思いますので、伝えます・・・。
レオン様が戦場から戻られた暁には、夜のお供をさせていただくと約束致しました・・・。
もしかしら私とレオン様の交わりは、レオン様が男の証を立てるその時のみで終わるかもしれません・・・。
例えレオン様が私を妃にと望まれましても、レオン様と私とでは身分が大きく違いますし、レオン様がラスター・ナイト様の子孫であるなら尚更、周りがそれを許さないでしょうから・・・。
それでもいいから・・・たった一時だけでもいいから、レオン様が欲しいと・・・私は思いました・・・・・。
戦場には、レオン様の他に第1公子グリント様も向かわれましたが、当主様とジェイド様はミスティルに残られていますので、今後も宮廷内の調査を続けてまいります。
まずは神避けのある場所の調査、そしてライサさんとエカテリーナ様が同一人物であるかを探るためのハーレムへの潜入ですけど、こちらはジェイド様のご都合がつき次第行うつもりですので、暫くお待ち下さい。
それではファルガー様、どうか良いお年をお過ごしください。

相澤桃花─

その後モニカは部屋に戻り、主人の脱いだ衣類やベットのシーツの洗濯を行い、部屋の掃除を行った。
少しでも手を休めると、彼のいない寂しさがどっと押し寄せて来て泣いてしまいそうだったので、モニカは何も考えなくて済むようにひたすら手を動かし続けた。
そのため、いつもよりも早く午前中の仕事が終わってしまった。
(どうしましょう・・・。
今はとにかく忙しくしていたいのに・・・)
そう思ったところで”コンコン”と部屋をノックする音がしたので、モニカは応対に出た。
客人はジェイドであり、手には何か葉書のようなものを持っていた。
「やぁモニカちゃん。
レオくんが行っちゃって淋しくて泣いてないかな?と思って様子を見に来たんだけど、あらら・・・今にも泣き出しそうって顔してるね?
淋しくて堪らないなら、レオくんがいない間だけでも僕の専属メイドになるかい?」
といつもの調子のジェイド。
「御冗談は止してくださいな、ジェイド様。
何か私にご要件があって来られたのでしょう?」
とモニカ。
「いや、専属メイドに誘ったのは割と本気なんだけど・・・要件はこれだよ。
ジャポネの君の家族からポストカードが届いてる。
これを見れば君も元気が出るんじゃないかと思ってね。
はい、どうぞ。」
そうして渡された葉書は、ジャポネで生まれ育ったモニカにとっては懐かしく馴染みのある、新年のご挨拶の定番である”年賀状”だった。
それは父桜雅おうがからと弟梅次うめつぐからの2通で、父からのものにはジェイドに見られても差し支えのない内容の近況連絡とモニカを思い遣る言葉が綴られており、梅次からのものには、初日出をバックに空を飛ぶ今年の干支である龍と、それに乗る金髪の騎士とメイドの姿が描かれており、余白には姉を案じるメッセージが添えられていた。
(うふふっ!
梅次、とても上手に描けていますわ!
龍に乗っているのはきっとレオン様と私ですわね!
今レオン様が本物のドラゴンを退治しに向かわれたと知れば、きっと梅次は大興奮で、その冒険譚を聞きたがるでしょうね。)
モニカの表情が和らいだのを見て、ジェイドは微笑み、予想外なことを口にした。
「ねぇ、モニカちゃん。
君、子守りは出来る?」
「子守りですか?
ええ・・・。
6つ歳の離れた弟がおりますので、忙しい父に変わり良くミルクをあげたりおむつを変えたりしていましたし、他にも職場の同僚の赤ちゃんのお世話をしたりはしていましたけど・・・それが何か?」
とモニカ。
ジェイドはおおっ!と嬉しそうに表情を輝かせ、こう言った。
「経験者か・・・それはいい!
僕の妹のベリルが、出産と育児のために里帰りしてて、この宮廷にいるのは知ってるよね?」
「えぇ。」
と頷くモニカ。
「本来であればベリルと赤ん坊のスフェーンは、年が明ければ夫の元へと帰る予定だったんだけど、ベリルの夫もロジウム区域の魔獣討伐に向かったから、2人は彼が帰還するまでの間、この宮廷に留まる事になったんだ。
それでベリルは毎日育児で疲れているようだから、たまには息抜きをさせてあげたいんたけど、母様はスフェーンを可愛がりはするけど、自分が子育てをしたときには殆どメイド任せだったみたいでスフェーンの世話を任せられないらしいし、僕の専属メイド2人もベリルと折り合いが良くないから頼めないんだ。
メイド長のオリガに言って子守りが出来そうなフリーメイドを貸して貰おうにも、オリガは君の媚薬騒動以来僕を冷たい目で睨んでくるから頼みにくくてさ。
だから時々でいいんだ。
君がスフェーンの子守りをしてやってくれないかな?」
「お話はわかりました。
まずはベリル様とスフェーン様にお目通りを願えますか?
ベリル様が私にお任せくださるのであれば、喜んでお引き受けさせていただきますわ。」
「ありがとう!助かるよ。
2人には近いうちに会わせるからよろしくね。
それから年末に君に頼まれてた2つの件だけど・・・」
「えぇ。」
(神避け探しの件とハーレムの件ですわね・・・)
とモニカは頷いた。
「もう少し僕の周りが落ち着いたら必ず協力するから、少し待っててくれるかい?
今は通常の新年の予定に加え、ロジウム区域での件もあってバタバタしていてね・・・」
「それは急ぎではないのでご無理のないときで構わないのですが、ジェイド様は大丈夫なのですか?
その・・・結界を作動させるのに魔力を沢山使われたでしょうし、今後も結界を維持されるのに魔力を使われるのでしょう?
魔力が切れると、非常にお疲れになると聞いたことがあります・・・」
と、モニカはファルガーが前に話していた魔力切れの時の話を思い出しながら尋ねた。
「あぁ・・・うん。
まぁ確かに最初の結界の作動には魔力をごっそりと持っていかれるからね。
応接間召集後に仮眠を取ったから少しは回復したけど、まだまだ全快とはいかないよ。
でも結界の維持には作動の時程魔力を持っていかれないから大丈夫だよ。
・・・っていうか、心配してくれるの?
ならやっぱりレオくんのいない間だけでも僕の専属メイドになればいいのに。」
と口角を上げてニヤリとほくそ笑むジェイド。
「それはお断りすると先程も申し上げたではないですか。
レオン様がいない間にジェイド様の専属メイドをしていたとなれば、レオン様が帰られた時に、私とジェイド様の間に何もなかったとしても、凄く悲しまれますわ・・・。」
モニカはそう言って悲しげに眉を寄せた。
「まぁレオくん、そういうところにはやけに潔癖だからねぇ・・・。
折角昨夜、モニカちゃんの秘密を知ったショックを乗り越えて、男の証を立てられそうな所までいってたんでしょ?
それなのにそのままお預けで戦場に向かうことになっちゃって、やっと戦いを終えて帰ってみれば、モニカちゃんが腹違いの兄と出来てた・・・なんて、流石にレオくんが可哀想だし、僕もレオくんに殺されかねないからね・・・。
わかった。
専属メイドには君に余っ程のことがない限りは誘わないから安心して?
でも魔力を使った後って無性に甘いものが欲しくなるんだけど、前の新人メイドのお茶会の時、君が焼いてくれた茸とか木の葉型の可愛いクッキーがあったじゃない。
あれ、凄く食べてみたかったんだけど、他の子達がどんどん別のお菓子を勧めてくるから食べそこねちゃっててさ。
僕を労ってくれる気持ちがあるなら、クッキーをまた焼いてくれると嬉しいかなぁ~なんて!」
そう言ってジェイドは冗談めかして笑ってみせたが、その美しい目の下には良く見ればくまが出来ていた。
モニカはそれを見て少し彼が気の毒になったので、
「畏まりました。
そういうことでしたら、丁度アンジェリカ様のティータイムのお供にクッキーを焼こうと思っておりましたので、ジェイド様にもお裾分けを致しますわ。」
と微笑んだ。
「アンジェリカのついで、みたいな言い方なのは少し引っかかるけど・・・まぁいいか。
今日のティータイム、楽しみにしてるよ!」
そう言うと、ジェイドは手を振り去って行った。
モニカは父と梅次からの年賀状をもう一度眺めると、
(そうですわ!
今年の干支は龍ですし、レオン様のドラゴン退治と掛けてクッキーはドラゴンの形にしましょう。
前に調理雑貨屋さんで買った様々な抜き型の中に、ドラゴンのものもあった筈です。
アデルバートは金属加工技術が本当に素晴らしくて、ジャポネには無いいろんな型が売っているので、つい買ってしまうのですよね。
他にはお正月らしく、梅や桜の形のものも作りましょうか。
そして、クッキー作りが終わったら、2人に年賀状・・・はもう今から書いて出してもジャポネに届く頃にはお正月が終わってしまいますから、代わりに寒中見舞いを書きましょう。)
と思い立ち、明るい気持ちを取り戻した。
モニカは大切そうに年賀葉書を自分の部屋の机の引き出しにしまうと、腕まくりをしてクッキーを作り始めるのだった。

その数日後、モニカはベリルとスフェーンに紹介された。
ベリルはモニカよりも2つ歳上の、兄ジェイドに似た緑色の髪と瞳をした大変美しい娘だが、育児疲れと睡眠不足のためか顔色が青白く、目の下にはくまが出来ていた。
ベリルはどうやらブラコンのきらいがあるようで、兄と肉体関係がある女性には皆キツく当たっていたようだが、モニカはレオンの専属メイドであり、ジェイドとはそういった関係に無いのだと知ると、快くスフェーンを抱かせてくれた。
スフェーンは生後4ヶ月のベリルやジェイドよりも淡いグリーンの髪と瞳を持つ大変愛らしい顔立ちの男の子で、この月齢にしては少し小さかったが、首はしっかりと座っていたので縦抱きにしてみた。
すると彼はモニカにニコッと微笑みかけて、制服の襟元に結んだリボンに手を伸ばし、それを引っ張ってキャッキャッと笑っていた。
「本当に愛らしいお子様ですわ・・・!
日中ベリル様がお出かけなさりたいときや、ゆっくりと眠られたいときには遠慮なく声をおかけ下さいね。
5時間くらいなら見て差し上げられますので。」
そうしてモニカは時々スフェーンの子守りを引き受ける約束をしたのだった。

元旦に行った報告に対するファルガーからの返信は、その翌日の朝に礼拝堂で確認を行った際には既に届いていた。

─桃花へ

明けましておめでとう。
こちらこそよろしくね。

そうか・・・。
ついに君の秘密を彼に打ち明けたんだね。
スパイであることが彼に伝わったことに関しては、君から聞く彼の性格上、安易にそれを人に話したりはしないと思うし、いつか彼には話す必要があると思っていたから、僕としては問題ないよ。
ただ、もう一つの秘密に関しては、君から処女を奪った男として彼には申し訳ない気持ちがあるのと同時に、彼が戦いを終えて帰ってきた時には、君の心だけでなく身体までもすべて彼に上書きされてしまうのだと思うと、正直腹立たしくもあるね・・・。
でも君が本心からそれを望むのだから、僕は何も言わない。
だが僕は君がレオンハルトくんに抱かれたとしても、決して汚らわしいだなんて思わないし、彼と上手くいかなくなって君が僕の元へと戻ってくると言うなら、それを黙って受け入れると約束する。
君には帰る場所がある・・・どんな時もそれだけは忘れないで。
そしてロジウム区域のゲートについてだが、僕がこの間見た時には何も異変は感じられなかったのに、急にそこまで開くのは明らかにおかしい。
取り急ぎヘリオス様に報告をして、天界ゲートの使用許可が出れば、僕も現地に向かうことにする。
だが、魔獣の討伐に関しては基本的にレオンハルトくん達騎士に任せることになると思う。
他の4国においてもそうだが、監視者がそういった異変に手を出すのは、本当に民やその国の神使でも手に負えない時のみと、ヘリオス様から厳しく言われているからね。
そうしないと民は僕に頼って、自ら行動を起こさなくなるからだそうだ。
だが、ラスターの血を引くレオンハルトくんがラスターの剣を持っているならば、ブルードラゴン相手に負けることはないだろう。
その点は安心していいよ。
それじゃ、君も良いお年を過ごしてね。

ファルガー・ニゲル─

モニカはファルガーがロジウムゲートの異変について創造神ヘリオスに報告をし、現地に見に行ってくれるかもしれないこと、そして白の剣を手にしたレオンがブルードラゴンに負けることはないと言ってくれたことに励まされ、とても心強く思うのだった。

それからのモニカは、普段の仕事に加えて子守りという臨時の仕事も時々舞い込んでくるようになったので、レオンがいない寂しさに落ち込む暇もなく日々が過ぎていった。

そして1月中旬を迎えた頃─。
ジェイドが再びレオンの部屋を訪れた。
「やぁ、モニカちゃん。
この間は花びら餅の差し入れをありがとう。
新年に焼いてくれたドラゴンのクッキーも美味しかったけど、ジャポネのお菓子もあっさりしてて、僕とても気に入ったよ。
また何か差し入れてくれると嬉しいな。」
「そうですか。
気に入っていただけて良かったです。
アンジェリカ様のものを作ったついででよろしければ、また何かお持ち致しますわ。
ところで本日のご要件は?」
「あぁ、僕の身辺もそろそろ落ち着いたから、今から一緒に神避けの在り処を調べてみないかと思ってね。
君がまだ入れていない部屋の中で最も怪しいのは、やはり父様の部屋と武器庫だと思うんだよ。
武器庫に関しては僕なら入る権限があるから、君を連れて入ることが出来る。
だがもしそこでないとすると、残っている疑わしき部屋は父様の部屋になるけど、父様は基本的に日中部屋にいるし、僕はともかく君まで連れて部屋に入るのは難しい。
なのでその場合、君からその神避けセンサーになっている笛を預かった僕が用事を装って父様の部屋に入る、もしくは父様が留守にするタイミングを狙って忍び込むかのどちらかになると思うけど・・・」
モニカはその二択に対し、申し訳無さそうに眉を寄せるとこう答えた。
「すみませんジェイド様。
貴方とは同盟を結んでいるとはいえ、やはり大切なファルガー様の笛をお任せするわけには参りません。
それにやはり自分の目で在り処を確認しておきたいので、後者でお願い致しますわ。
夜なら当主様はアンジェリカ様のお部屋に行かれるでしょうし、その隙にお部屋に入らせていただきますので、ジェイド様には鍵の調達をお願い出来ますか?」
「鍵の調達くらい宰相の僕なら容易いけれど・・・わかってる?
父様は居なくても隣の部屋には専属メイドがいるんだし、もしバレたら君も僕もただでは済まされないよ?
まぁいいか・・・。
夜中に父様の部屋を調べるだなんて、結構ワクワクするしね!
それじゃあ早速武器庫から調べようか。
案内するから付いてきて?」
そうして2人は武器庫へと向かった。

武器庫は1階の応接間の隣にあった。
騎士の国を取りまとめる家の武器庫というだけのことはあり、武器庫だけでレオンの部屋くらいの広さがあった。
そこには様々な剣を中心とした武器や鎧や装飾品が並べられており、中はとても貴重なものなのか、分厚いガラスのケースに入れられて、魔法により幾重にも施錠がされたものもあった。
そのケースの中には空白となったスペースが2つあり、おそらくそこにファイヤブランドと白の剣があったのだろうとモニカは推測した。
「あちこちに防犯のための魔法の仕掛けがしてあるから、極力何も触らないようにしてね。
それで・・・センサーに何か反応はあったかい?」 
「いいえ、ピクリとも動きませんわね・・・。」
と服越しに笛に触れ、頭を振るモニカ。
「そうか・・・。
ならやはり父様の部屋に忍び込むしかないね。
どう?
今夜決行出来そうかな?」
とジェイド。
(アンジェリカ様の生理予定日はいつも月末なので、中旬の今なら今夜も当主様のお通いがあるはず・・・)
モニカはそう思ってから頷き答えた。
「当主様はきっと今夜もアンジェリカ様のお部屋で過ごされるのではないかと思いますが、夕食時にアンジェリカ様にそれとなく探りを入れてみて、もし今夜は当主様が来られないようでしたら、ジェイド様のお部屋に中止だと知らせに参りますわ。」
「あ・・・それなんだけど、決行のときにも部屋に来てもらってもいいかな?」
「それは構いませんけど、何故ですか?」
と不思議そうに首を傾げるモニカ。
「実はグリント兄さんが戦場に行ってから、毎晩のようにカタリナちゃんが僕の部屋に来るんだよね・・・。
僕に来客があれば帰ってくれるんだけど、そうでなければ色々と理由をつけては居座り続けるから、自由に部屋を抜け出す事すらままならないんだ・・・。
だから決行の時にも君が来てくれたら、カタリナちゃんも部屋に帰ってくれると思うし、気兼ねなく父様の部屋を調べられるからさ。」
「・・・自業自得ですわ。
お兄様のお妃様に手など出されるから、そんな面倒なことになるのです。」 
と冷ややかな眼差しをジェイドに向けるモニカ。
それに対してジェイドは不服そうに眉を釣り上げて抗議した。
「勘違いしないで欲しいんだけど、僕はまだカタリナちゃんとはシてないからね?
グリント兄さんに女として相手にされていないのが不憫で女としての自信を持たせてあげたくて、美容面のアドバイスをしたり、優しくしてあげたりはしたけど、正直彼女、僕の好みじゃないし、カタリナちゃんの家はディアナ・・・僕の第1妃の家と二分する大勢力だから、彼女に手を出したりしたらディアナの家のほうも黙っていないし、何かとハイリスクだしね。
でも今のカタリナちゃん、グリント兄さんが戦死しないか不安だと酷く神経質になってるから、あまり邪険にもできなくてさ・・・。
カタリナちゃんには子供がいないし、宮廷内に味方もいないから、余計に僕を頼っちゃうんだろうけど・・・正直ウンザリしてる・・・。」
と言って、はぁ・・・とため息をつくジェイド。
モニカは不倫の疑いをかけてしまった事を流石に申し訳なく思い、ジェイドに頭を下げた。
「それは大変失礼致しました・・・。」
「いや、わかってもらえたならそれでいいよ。
そう思われても仕方がない事を普段からしているのは事実だしね。」
と苦笑するジェイド。
「ですが意外でした。
何だかんだ言って、カタリナ様はグリント様を心配なされているのですね?
緊急招集の際、夫が戦死されたところで心も傷めないくらいに夫婦仲が冷めきっているように見えましたが・・・」
とモニカ。
「あぁ、それはグリント兄さんの身を案じているというより、グリント兄さんが戦死したら彼女は実家に返されることになり、僕と会えなくなるからその心配だろうね。
仮にそうなった時には僕の妃にして欲しいって言ってくるんだけど、そうなると正確な数は把握してないけど、一番末尾の妃になるからハーレムに入ることになるけどそれでもいいの?って言ってやったら、ハーレム入りなんて名家のプライドが許さないんじゃない?
ディアナをハーレムに追いやって、自分を第1妃にしろとか無茶苦茶言って、ヒステリーを起こすんだよね。
ホント、誰かなんとかして欲しいよ、あの勘違いブス・・・・・。」
と額に手を当て、はぁ~・・・ともう一度深く大きなため息をつくジェイド。
モニカはそんな彼にニコッと微笑むと、こう返した。
「では何時になっても構いませんから、カタリナ様が帰られてから私を呼びに来て下さい。
私の方からジェイド様を呼びに行ったりしたら、カタリナ様に私達の仲を疑われて、面倒なことになりそうですもの。」
「はぁ!?
僕に協力を願う立場でありながら、僕の方から来いっていうのかい!?」
と声を荒げるジェイド。
「えぇ、申し訳ないのですが、私も余計なリスクを冒したくはありませんから。
その代わり、私の立場に影響が無いことであれば、カタリナ様の件の解決に協力致しますわ。
要は、カタリナ様が夜に訪ねて来なくなる・・・出来ればジェイド様への気持ちを別の相手に向けてくれれば尚良いのでしょう?」
と顎に人差し指を当て、思考するモニカ。
「・・・うん。
何か策はある?」
とそんなモニカを縋るように見つめるジェイド。
「そうですわね・・・。
いっそのこと、若くてそこそこのルックスの、お金とチャンスが欲しい美容専門家の卵でもお雇いになって、カタリナ様のお側に付けて差し上げれば、そちらに気持ちが移って煩わしさから開放されるのではないですか?」
「それ良いね・・・!
確かハーレムに出入りしてるエステシャンの見習いにそんなのがいたな・・・。
今度彼に声をかけてみることにするよ。
あ、その時なんだけど、僕の専属メイドとして君も一緒にハーレムに行くのはどう?
エカテリーナもその彼の師に当たるエステシャンを利用している筈だから、両方に会えそうなタイミングを見計らってハーレムに行けば、一度の訪問でどちらの目的も達成できるし一石二鳥でしょ?」
「確かにそれは名案ですわ!
てすが、そのタイミングをどうやって調べるのです?」
とモニカ。
「それなら心配いらない。
エカテリーナと同じハーレムに情報通の妃がいるから、近いうちにエカテリーナがエステシャンを呼ぶ日について聞いておくよ。」
と答えるジェイド。
「畏まりました。
ではそのお妃様から情報がいただけましたら、ハーレムへお供しますわ。」
「ふふっ、その時君は僕の専属メイドなんだし、そのおっぱいを揉んでも許されるってことだよね?」
そう言ってジェイドはモニカの胸にいやらしい視線を注いだ。
それに対してモニカは氷の女王の如く冷たい眼差しで彼をチクチクと刺しながらこう返した。
「・・・ご自慢のイチモツが再起不能になるまで鞭でしばかれても宜しいのでしたら、お好きにどうぞ。」
ジェイドはヒクッと頬を引きつらせて冷や汗を垂らした。
「・・・いや、だってね?
君のおっぱい、ぷるぷるのふわふわで本当に極上の触り心地だったんだもの!
もう一度くらい触りたいって思うのは仕方ないじゃない!」
「諦めてください。
このおっぱいを好きにしていいのはレオン様だけですわ。
それより・・・まずは今夜の神避け探しへのご協力、宜しくお願いしますね?」
「わかった。
今夜カタリナちゃんが帰ったら、レオくんの部屋に行くよ。」

そうしてその日の23時前、ジェイドはレオンの部屋を訪ねてきた。
「遅くなってごめん…!
カタリナちゃんを追い返そうと思って「結界の維持で疲れてて早く寝たいからもう帰ってくれないかな?」って言ったら、一緒に寝るとか言い出してベットに入られるし、本当に参ったよ・・・。
それでしばらく放置してたら勝手に寝ちゃったから、そのままベットに置いて出てきた。
既成事実が結ばれた!とか朝に騒がれても面倒だから、神避け探しが終わったら部屋に帰らずディアナの部屋にでも泊めてもらうよ。
はぁー・・・早いとこエステシャン見習いの彼に来てもらわないと、僕がストレスでどうにかなっちゃいそうだ・・・。
それじゃ、気持ちを切り替えて神避け探しに行くとしよう。
父様の部屋の鍵なら、オリガが退勤時に返却した鍵束を持ってきたからこれで中に入れるよ?」
そう言ってジェイドはジャラ…と鍵束を見せた。

ダズルはやはりアンジェリカの部屋に来ているようで、確認の為にとアンジェリカの部屋の前に立ち寄ると、ギシッ、ギシッというベッドが軋むような音とアンジェリカのものと思われる喘ぎ声が廊下まで漏れていた。
2人は顔を見合わせ頷き合うと、今度はダズルの部屋へと向かい、廊下に他の者の気配が無いことを確認しながら部屋の鍵を開けて、そっと中に入った。
そして、音がしないよう慎重に扉を締めて、中から鍵をかけた。
部屋の中は暗くて良く見えなかったが、少し目が慣れてくると、そこはジェイドの部屋以上に広く、足元には濃い色のふかふかの絨毯が敷かれ、向かって右側の壁沿いに大きな天蓋付きベッドが置かれていることがわかった。
そしてその奥には、おそらく専属メイドの部屋に繋がっているであろう扉が見えた。
『暗くて見えにくいね・・・。
でも部屋の照明をつけると、隣の部屋にいる専属メイドに気付かれるかもしれないから、これで我慢してくれる?』
ジェイドは小声でそう言うと、目を閉じ魔法を唱えた。

─ライト─

ぽわ・・・と穏やかな光の玉が彼の眼の前に出現し、モニカの視界が少し広がった。
『本当はもっと明るく大きな玉を出せるけど、あまり明るくしすぎると部屋の照明をつけたのと大差がなくなってしまうからね。』
『ありがとうございます。
これくらいの灯りで充分です。
土魔法だけでなく、光の魔法も使えるなんて素晴らしいですわ!
ジェイド様。』
と素直に彼を褒めるモニカ。
『あははっ、ありがとう。
まぁ光魔法はこのマジックピアスを装備している時じゃないと使えないんだけどね。
こんなこともあろうかと、装備して来て良かったよ。』
と言ってジェイドは左耳に着けたピアスを指差した。
『うふふっ、流石ジェイド様、手抜かりはありませんわね!』
2人はヒソヒソ声でそんな会話をしながら、足音を立てないようにして部屋の中央まで進んだ。
すると、微かにだがファルガーの笛が振動した。
『あっ・・・笛に反応が・・・』
モニカはそう言いながら、振動が大きくなる方向を探りながら足を運んでみた。
そうして部屋の左脇にある、大きな陶器の花瓶が置かれたマホガニーの棚の前・・・そこが笛が一番大きく反応する地点だとわかった。
『どうやらこの棚の辺りのようですが・・・』
『ふむ・・・引き出しの中かな・・・?
この棚の引き出しには鍵はついていないし、僕が開けてみるよ。』
ジェイドがそう言って棚の引き出しを一つずつそっと開けてみる。
だが、それらしき装飾品は見当たらない。
『ジェイド様。
もしかしたら棚の上にある花瓶の中かもしれません。
棚の下の方より、上の方に強く笛が反応するのです。』
『花瓶の中か・・・。
だがどうやってそれを確認しよう?
この場で花を取り出せば流石に痕跡が残ってしまうよね?』
『そうですわね・・・。
小さな花瓶であれば、花瓶ごと持ち運んで別の部屋に移動してから中を調べる事もできるのでしょうけど、これだけ大きな花瓶なら、花が生けられ水が入った状態では余程の怪力でもない限り持ち上げることも出来ませんし・・・。』
とモニカは困ったように眉を寄せて呟いた。
するとジェイドが何か案があると言ったふうに顔を上げてこう言った。
『いや・・・この花瓶は陶器製で僕の得意とする土魔法と馴染みがいいから、浮かせることくらいなら出来ると思うよ。
でも結構な集中力を必要とするから、そんなに長い時間は無理だけど・・・』
モニカはジェイドの言葉を訊いて顎に手を当てて考えた。
『いえ・・・それだけでも捜査の幅が広がりますわ!
試しに少し浮かせてみて貰えます?』
『わかった。』
ジェイドは頷くと目を閉じて集中し、花瓶に向けて魔力を放った。
そして少しずつ花瓶が浮いていくに伴い、笛のほうも次第に強く反応していくことに気がつくモニカ。
(この笛の反応・・・。
もしかして、神避けは花瓶の中ではなく・・・)
モニカは花瓶が棚の天板から20cmくらい浮いたところで、下に敷かれてあったレース編みのドイリーをめくってみた。
すると、丁度ドイリーの下の棚の天板に、直径2cm、深さ1cm程の穴が彫られてあり、そこに黒い石のついた指輪が埋め込まれているのを発見した!
モニカは笛のついたペンダントを外すと、その指輪にそれを近づけてみた。
すると笛がまるでその指輪から逃れるように”スイッ”と何度も動いた。
『間違いありませんわ!
これが神避けです・・・!』
モニカの声に反応したジェイドは花瓶をふわふわと浮かせたままで、モニカが見ているのと同じ指輪へと視線を落とした。
『へぇ・・・それが神避けか・・・!
まるで男の証を立てた後のバイコーンの指輪みたいだね・・・。
それで、ファルガー氏はこれをどうしろって?』
『別にどうしろとも言われていませんわ。
ただ在り処さえ確認出来れば良いのです。
今ここでこの神避けを回収すれば、ここにこれを仕掛けた人物に知られて別の手を打たれてしまうでしょう?
それならば神避けはこのままここにそうっとしておいて、神避けの在り処だけをファルガー様に事前にお知らせしておけば、ファルガー様がこの宮廷に入り込む必要があるときに、スムーズに対処出来ますから。』
『成る程、そういうことか・・・。』
モニカはドイリーを元通りに敷き直し、ジェイドがその上に花瓶をそっと下ろした。
2人はそっとダズルの部屋を出ると、扉に鍵をかけた。
そしてレオンの部屋に戻り扉を閉めると、何だか急に笑いがこみ上げてきた。
「うふふふふっ!
スリル満点でしたわね!」
「あははははっ!本当!
まさか大人になってから探検ごっこをしようとはね!
でも楽しかったよ!」
一通り笑い終えると、モニカはジェイドに柔らかく微笑みかけ、頭を下げた。
「ジェイド様、ご協力、ありがとうございました。
ジェイド様の魔法がなければ、神避けの明確な在り処まではとてもわかりませんでしたわ。」
「いやいや・・・この騎士の国ではいくら魔法が得意でも、誰からも評価なんてされないんだけどね。
でも君の役に立てたなら良かったよ。
まぁ今回の魔法の対価として、また何かお菓子を持ってきてくれると嬉しいかな?」
「うふふっ、畏まりました!
アンジェリカ様のお茶菓子を作ったついででよろしければ、またお持ちします!」
「うん、楽しみにしてる。
それで、残ってる任務のハーレム潜入の日時だけど、近いうちに昼にちらっと話した情報通の妃に、エカテリーナがエステシャンを呼びそうな日について訊いてみるから、少しだけ待っててくれるかな?」
「わかりました。
それではそのお妃様からお話が聞けましたらお知らせ下さい。
おやすみなさいませ。」
モニカはもう一度ジェイドに頭を下げて彼を廊下まで送り出すと、ふわぁぁ・・・と欠伸をしながらレオンのベッドに入った。
そう・・・モニカはレオンが旅立ってからずっと、彼のベットで就寝していた。
こうして彼が戦場に旅立つ前に共に眠った布団に包まれていると、彼にぎゅっと抱き締められているような気がして、安心して眠りにつく事が出来たからだ。
(神避けが無事見つかって良かったですわ・・・。
それにしても、まさか花瓶の下の棚の天板に埋め込まれているなんて!
あのお部屋でお花の担当をされているライサさんと、無関係とは思えませんわね・・・。
まぁハーレムでエカテリーナ様にお会いすれば、この推測が信憑性を帯びてくるでしょう・・・。)
そうして任務の事を振り返り終えると、やはり彼のことを考えてしまう。
(・・・レオン様・・・
私が今こうして暖かいお布団に入れているのは、今も貴方が戦ってくれているからなのですね・・・。
今頃どうされていますか・・・?
ちゃんとご飯は食べれていますか?
睡眠も取れているでしょうか・・・。
あぁ・・・貴方に会いたい・・・。)
そしてすっかり彼のポメロの匂いが消えてしまった布団に深く潜り込むと、ぎゅっと目を閉じて眠りにつくのだった。

翌朝モニカは早速礼拝堂に行き、神避けの在り処についてファルガーに報告した。
だが当主ダズルの部屋が何処にあるのか、そしてその部屋の内装はどうなっており、どの位置に神避けが隠されていたのか・・・それは言葉だけではとても伝えきれないと感じたので、宮廷の4階、そしてダズルの部屋の見取り図があったほうが良いのではないかと伝えてみた。
すると、その翌朝に届いていたファルガーからの返信に、こうあった。

─桃花へ

早速神避けの在り処を見つけ出してくれてありがとう。
ジェイド殿にもご協力に感謝すると伝えておいてくれ。
しかし、神避けが当主の部屋の花瓶の下に穴を開けて埋め込まれているなんて、想像もしてなかったよ。
だが確かに君の言う通り、言葉で場所を聞いてもイメージがしづらいし、僕が実際にその場所に辿り着くには時間がかかってしまうと思う。
だから僕が次にミスティルに行くまでに、見取り図を描いておいてくれるかな?
多分今年の春か初夏・・・レオンハルトくんが戦場から帰って来た少し後になるだろうけど、その頃には行けると思うから、何処かで落ち合って見取り図を受け取るよ。
君とまた会える日を楽しみにしてるね。
それからロジウムゲートの調査の件だけど、ヘリオス様から天界ゲートの使用許可が降りたよ。
ただし僕は人々を守るためにジェイド殿が張られた結界の中へは入れないけどね。
僕は神属で魔力も人より高いから、僕があの結界を通過しようとすれば、折角の結界を壊してしまうしね。
天界ゲートというのは、世界各地の御神像のある教会であれば何処にでも通じている、神使、もしくは神から特別な許可を得た者だけが使える転送装置なんだけど、僕はさっき言った理由で結界を通過することが出来ないから、結界の外、ロジウム村のゲートに出ようと思う。
ロジウム村は魔獣被害に遭って半壊状態みたいだけど、今のところまだ天界ゲートは開けるようだから、きっと御神像は無事なんだと思う。
結界の内側のゲートに出れば、暇を見て君に会うことも出来ただろうけど、今回はそうはいかなくて残念だよ。
ただロジウムゲート辺りを見知らぬ異国人がうろうろしていては騎士たちに怪しまれるだろうから、目立つ目と髪の色を天界のアイテムで変えた上で、亡くなった騎士の装備を拝借し、何処かの隊に紛れさせてもらおうかなと思ってる。
神使として魔獣討伐戦を助ける行為はヘリオス様から禁止されているけど、騎士として目立ち過ぎない範囲で戦闘に参加するのであれば、何も言われないだろうしね。
そういうわけだから、僕はこれから暫くの間戦場にいることになると思うけど、ロジウム村の教会から君のメッセージは確認できるから、今まで通りに連絡をくれると嬉しいな。
それでは君の未来に幸多くあらんことを。

ファルガー・ニゲル─

モニカはその知らせを受けて大変心強く思うと同時に、こんな事を思うのだった。
(ファルガー様、まさかレオン様と同じ隊に入り込んだりはしませんわよね・・・?
仮にそうなった場合、レオン様のほうはファルガー様の正体を知らない状況とはいえ、お互いに良く思われてはいない筈ですので、ギスギスしてしまうかも知れませんわね・・・。
喧嘩になどならないと良いのですが・・・)

それから数日後─。
ジェイドがレオンの部屋を訪れた。
「モニカちゃん、この間は苺大福の差し入れをありがとう!
沢山くれたから僕の専属メイド2人とベリルにもお裾分けしたんだけど、みんな見た目も綺麗だし味も美味しいって大絶賛だったよ!」
「まぁ!
皆さんに気に入っていただけて私も嬉しいですわ!
それでジェイド様、本日のご要件は?」
「あぁ、情報通の妃から色々と情報を得たから、君とハーレムに行く日を相談しようと思って来たんだよ。
エカテリーナは月末の土曜日の昼に必ず例のエステシャンを呼んで、たっぷりと時間をかけて施術をして貰うようだ。」
「月末の土曜日限定ですか?」
とモニカは首を傾げた。
「うん、そうらしい。
何でも彼女、平日の昼間は毎日何処かへ出掛けていていないらしくてさ。
夜はエステシャンのサービス時間外だから呼べないし、父様は決まって月末日曜日にエカテリーナの部屋に来るから、土曜のうちにうんと綺麗にしてお迎えしたいってとこじゃないかって僕の妃は言ってたよ。」
「エカテリーナ様は平日の昼間はお出掛けされていると・・・。
成る程。
平日の昼間はライサさんの勤務時間ですし、エカテリーナ様がライサさんになって、ハーレムから宮廷に出勤している可能性はやはり濃厚ですわね。
当主様が決まって月末にお通いになるのは、アンジェリカ様の夜伽がお休みだからでしょうね。
何故日曜だけなのかはわかりませんけど・・・。」
とモニカ。
「あぁ・・・成る程!
月末限定なのは、アンジェリカが生理だからか!
僕なら毎日抱きたいくらいのお気に入りの女がいたら、生理でも構わずやっちゃうけどなぁ?」
「本当、最低のスケコマシ野郎ですわね、ジェイド様は・・・。」
とモニカが尖った氷柱つららのような眼差しをジェイドに向けた。
「やめてっ!
そんなに冷たい目で見られたら僕、氷の彫像になっちゃいそうだよ!
・・・まぁ冗談はさておき・・・日曜なのは、父様が宮廷内でアンジェリカの次に気に入っている専属メイドが休みだからだと思う。
本当はハーレムまでわざわざ出かけるのは面倒なんだろうけど、月末の日曜だけは夜の相手がいないから、仕方無しにエカテリーナのところまで足を運んでるんじゃないかな?
月に一度しか通いが無いなんて、エカテリーナも可哀想だって僕の妃は同情してたけど、もしエカテリーナがライサでもあるなら、平日の昼間にも父様とヤってるだろうから、可哀想でも何でもないけどね。
まぁもし本当に2人が同一人物だとして、父様がそれに気がついているかは微妙だけど。
父様、僕と違ってアンジェリカ以外の女の細かい所なんていちいち気にするタイプじゃなさそうだからさ。」
とジェイドは言った。
それに対してモニカは頭に浮かんだ疑問を口にした。
「あの・・・私には男性の事情は良くわかりませんが、お昼にライサさんと致しておいて、夜にアンジェリカ様を何度も抱けるのものなのですか?」
(前に当主様の検体を手に入れるために、アンジェリカ様のお部屋のゴミを漁ったことがありましたけど、あの量は一度の射精ではありませんでしたし・・・。)
「父様は絶倫みたいだし、全然いけるんじゃない?
僕だって父様程じゃないけど、昼間にして夜にもすることあるしさ。
最も最近は夜にもカタリナちゃんが来るから、あんまり満足のいく回数は出来てないけどね・・・。
きっとレオくんもあの父様の血を半分引いてるんだし、昼も夜もガンガンいけちゃう口だと思うよ?
まぁレオくんはデリケートだから、その性欲を発揮出来る相手はモニカちゃんだけなんだろうけどね。」
モニカはレオンが自分のナカの心地良さに堪らず射精して、また自分の身体に触れてはすぐに股間のつるぎを熱く滾らせて、再びナカの心地良さに歓喜しては射精して・・・と何度も何度も繰り返す姿を想像し、顔を真っ赤に染めて頬に手を当てた。
「っていうかモニカちゃん、ファルガー氏と経験してるんだし、男の事情くらいわかるんじゃないの?
まさかファルガー氏、モニカちゃんみたいないい女と一晩を共にしておいて、たった一回きりでおしまいってことはないでしょ。」
とモニカを舐め回すように見ながらジェイドが言った。
「・・・ファルガー様の場合は、人間離れしたお方ですのであの回数なのかと・・・。」
モニカは真っ赤な顔のままで恥ずかしそうに目を逸らし、そう呟いた。
「あははっ!
やっぱり何発もしてるんだ!
ねぇねぇ、その話もっと詳しく聞かせてよ!
ファルガー氏と一晩で何回やったの!?
神使様がどんなセックスするのか凄く興味ある!」
とぐいぐい食いついてくるジェイド。
「それを興味本位で同盟を結んでいる相手に対して訊くのは、マナー違反だと私は思いますわよ?
・・・ジェイド様は私と猥談をされに来たのではなく、ハーレムに行く日程の相談をしに来られたのでしょう?」
「あははっ!そうだったね!
まぁそういうことだから、1月27日土曜日の施術が終わりそうな頃合いを見計らって行くのが1番いいと思う。
 エステシャン見習いに用があって施術が終わるのを待ってたってことなら、エカテリーナも変に思わないだろうし、君も直接彼女の顔を見る事ができるでしょ?」
「そうですわね!
畏まりました。
それではその日は宜しくお願い致しますわ!」
そうしてハーレムに行く日が決定したのだった。

1月27日土曜日の午後─。
モニカはジェイドのお供として馬車に乗り、ハーレムへ向かっていた。
ジェイドの説明によると、ハーレムは宮廷の敷地外、金髪ドリル令嬢イレーナの屋敷のあった貴族街に3箇所程あるらしく、エカテリーナはその中でも最も位の高い妃と子供が集められたハーレムにいるそうだ。
もし本当にライサがエカテリーナであるならば、ライサとすれ違い顔を確認した際にモニカの顔も相手に覚えられた可能性があるので、ハーレムを訪れるにあたり変装をすべきか悩んだが、下手に変装をしたとバレるよりは、本来であればレオンの専属メイドであるモニカだが、主人が魔獣討伐戦に出ている間は手が空いているので、人手が足りなくて忙しいジェイドの専属メイドに代わって今回の同行を引き受けたということにしたほうが自然だと思ったので、敢えていつもの姿で同行することにしたのだった。
そうして辿り着いたハーレムは、宮廷に比べると小さかったが、周りにある一般貴族の屋敷に比べると3倍程は大きく、目立つ建物だった。
ジェイドがその扉をノックすると、その建物を管理していると思われる中年の女性が出てきて、
「あらジェイド様、こんなお時間にお通いになるとは珍しいですわね?
今日もポリーナ様にお会いに?」
と尋ねた。
ジェイドは、
「いや、今日はエステシャンのステファンの弟子の一人に仕事の話があって来たんだよ。
今日、ここに来ているだろう?」
と言った。
「ステファンさんでしたら今エステルームでエカテリーナ様の施術の最中ですわ。
ですがもうじき終わる筈ですので、待合室にご案内致しします。
ステファンさんとお弟子さん達には、施術が終わり次第待合室に向かってもらいますので。」
と管理人の女性。
「うん、お願いね。
あ、ついでだからエカテリーナさんにも少し挨拶がしたいな。
年が明けてからまだ一度も会えてなかったからさ。」
「まぁ!
公妃様ともあろうお方が、宰相でもあらせるジェイド様に新年のご挨拶もまだだなんて!
これだから娼婦上がりの方は・・・。
わかりました。
エカテリーナ様にもお顔をお出しになるよう伝えますわ。」
管理人はそんな事をぶつくさ言いながら待合室へと案内した。

待合室でジェイドと雑談を交わしながら待つこと20分─。
ようやく施術が終わったのか、エステシャンのステファンという30代半ばと思われる妙な色気を持つ男と、10代後半だと思われる弟子が2人入室してきた。
「ジェイド様、お待たせしてしまい申し訳御座いません!
エカテリーナ様の施術が予定よりも長引いてしまいまして・・・」
と言いながら最初にステファンが頭を下げ、2人の弟子が続けて頭を下げた。
「いいや、話上手なメイドと一緒だったし、待つのは苦じゃなかったから気にしなくていいよ。
ところでエカテリーナさんは?
挨拶がしたいって管理人さんに伝えたんだけど。」
「あぁ、エカテリーナ様はルーカス様もお連れになると言って一旦お部屋にお戻りに・・・
あ、今来られたみたいですよ。」
ステファンの言葉通り、待合室に向かって2人分の足音が近付いてきた。
1人はカツカツカツ…というハイヒールの音で、もう一人はステファン達よりも少し軽快な少年らしい足音だ。
「ジェイド様!
お久しぶりで御座います!」
という声とともに、鮮やかな赤い髪と瞳をした派手な美女が待合室へと現れた。
年齢は大体アンジェリカと同じくらいだろうか。
だがその雰囲気は全くの逆で、アンジェリカが清楚で女神のような穏やかな美しさなら、エカテリーナは妖艶で毒々しく近寄りがたい退廃的な美しさを持っていた。
そして彼女からは、スパイシーかつオリエンタルなライサと同じ香りがした。
その隣には、エカテリーナと同じ色の髪と瞳を持つ、レオンよりはまだ少し幼いルーカスが立っていた。
彼の顔立ちは母親とは違い素朴であり、目は一重まぶたで顔の中心にはそばかすがあった。
彼は部屋に着いてすぐは、”母親に無理に連れてこられて迷惑してる”といった愛想の欠片もない表情をしていたが、待合室でモニカの姿を見つけると、
「ふぅん・・・」
と言って口角を上げ、モニカに値踏みするような眼差しを向け始めた。
「やぁ、エカテリーナさんにルーカス、一年ぶりだね。
今年は宮廷へ新年の挨拶には来なかったみたいだから、エステシャンの彼への用事のついでに挨拶をしたいと思ってさ。
どう?元気してる?」
とジェイド。
「えぇ、こちらは変わりありませんわジェイド様。
ご挨拶のほうは伺えずゴメンナサイね。
歳が明けてすぐにロジウム区域が大変なことになり、多くの騎士様達が出撃されてたでしょう?
ジェイド様も結界の維持等でお忙しいとお訊きしましたので、もう少し落ち着かれてからご挨拶に伺おうと思っていたのよ。」
とエカテリーナは答えた。
「あぁそうなんだ?
同じ宮廷には住んでいなくてもルーカスは僕の弟なんだよ?
遠慮せず来てくれて良かったのに。」 
彼等がそんな話をしていると、ルーカスがモニカの側にスッとやって来て、その丸い尻を触った。
モニカがギョッとしてルーカスを見ると、ルーカスはニヤッと歯を見せて笑ってからモニカに耳打ちをした。
『お姉さん珍しい髪と目の色だけど、かなりの美人だしエッチな身体つきをしてるね♡
僕、この間ついに精通してさぁ。
今度男の証の指輪を父様から貰うんだよ。
そしたら男の証を立てる相手をしてくれないかな?
君が相手なら、何発も射精出来ちゃいそう♥
今回の魔獣討伐戦でグリントとレオンハルトが死んだら僕が次期当主になるんだし、両方でなくともどちらかが死ぬだけでも繰り上がりで宮廷入りすることになるし、自分で言うのも何だけど、かなりの優良物件だと思うよ?』
モニカは無言でそのいやらしい手を指先で摘み、ギューッと抓った。
ルーカスは耐えきれず声を上げた。
「いててててっ!」 
離せ!離せよこのメイド無勢が!!」
その声に反応して部屋にいた皆がこちらに注目した。
モニカは一同に向けてニコッと微笑むと、
「あら・・・失礼致しました。
私の臀部を這い回るフトドキな手が御座いましたので、てっきりジェイド様のいつもの悪戯かと思い、思いっきり抓ってしまいましたわ!
まさかルーカス様だったなんて。」
「・・・・・。」
とルーカスは無言で恨めしそうにモニカを睨んだ。
『モニカちゃん!?
僕、君のおっぱいは触ったけど、お尻を触ったことなんてまだないよ!?』
とすかさずジェイドが小声で抗議してきた。
『承知しておりますが、ルーカス様のセクハラから逃れるために致し方なく・・・。
適当に話を合わせてくださいますと助かりますわ。』
『・・・後で本当に触らせてくれるならいいよ?
もちろん生尻で♡』
『性的なこと以外でお返しさせていただきますわ♡』
『はぁ・・・君くらいだよ?
僕をそんなふうに安く扱うのなんて・・・。
仕方がないなぁ。
また美味しいお菓子を作ってきてね?』
ジェイドは苦笑しながらそう言うと、今度はルーカスに向けてこう言った。
「ルーカス、彼女のお尻、最高の触り心地だったでしょ?
でも今後誰かの専属メイドにちょっかいを出す時は、主人に断ってからにしてね?」
ルーカスはつーんと無視をかましていたが、その代わりにエカテリーナがモニカに対してこう言った。
「フン!
多少のお触りくらい大目に見てあげなさいよ。
貴方、生娘じゃないでしょ?
私が見ればそれくらいすぐわかるのよ。
っていうか貴方確か・・・レオンハルトの専属メイドじゃなかったかしら?
それが何故ジェイド様の隣にいるのよ。」
「なんだって!?
レオンハルトの専属メイドだって!?」
とルーカスが声を荒げた。
「間違いないわ、ルーカス。
いかにもあの童貞坊やが好きそうな清純そうな見た目だけど、処女じゃないってひと目見て私にはすぐわかったから、それを知った坊やにすぐに解雇されるだろうと思っていたのに、まだ宮廷にいたのね貴方。
ジェイド様にお情けでもかけていただいたのかしら?」
とエカテリーナ。
モニカはエカテリーナにニコッと微笑むとこう返した。
「いいえ、エカテリーナ様。
本日はジェイド様の専属メイドさん達がお忙しかったので、手が空いていました私が代わりにジェイド様の付き添いを努めさせていただいておりますが、私は現在もレオンハルト様の専属メイドですわ。
ですがエカテリーナ様には本日初めてお会い致しましたのに、私がレオンハルト様の専属メイドだとよくご存知でしたわね?」
「えぇ・・・。
ジャポネのソイソース臭い女が、あの童貞坊やの専属メイドになったってライサが言ってたのよ。
あら・・・今の嫌味に聞こえたかしら?
ごめんなさいね!
あの子、ソイソースの匂いだけは苦手なの!
許してあげてね?
悪気はないんだから。」
と言ってエカテリーナは挑発的に微笑んだ。
それに対してモニカはうふふっと微笑みこう返した。
「まぁ!
ライサさんって、黒髪のとてもセクシーなフリーメイドの方ですよね?
確か彼女とは廊下で一度すれ違っただけだったと思うのですが、そんなに印象に残る程にソイソースの匂いをさせていましたか?
それは大変失礼致しましたとお伝え下さい。
そう言えばライサさんって、エカテリーナ様と同じ娼館ご出身なのですよね?
だからなのでしょうか?
廊下ですれ違った際に、エカテリーナ様と同じスパイシーでオリエンタルな香りの奥に、愛液の匂いが致しましたの!
どんなときにでも男性を受け入れる準備が整っておいでだなんて、流石ですわね!
あら・・・今の、嫌味に聞こえてしまいましたか?
だとしたら申し訳ございません!
ですが私、愛液の匂いって割と好きなので、褒め言葉のつもりだったのですよ?
許して下さいね?
悪気はなかったのですから。」
そうしてモニカとエカテリーナの間にビリビリと稲妻がほとばしるのを、ルーカスは慣れっこなのか冷めた眼差しで見ていたが、ジェイドとエステシャンのステファン、そして2人の見習いの青年は、その場から逃げ出したい心境で顔を青く染めながら見ているのだった。


「エステシャン見習いの1人がカタリナちゃんの部屋に通ってくれるようになって良かった。
これでじきに僕の平穏な日々が戻ってくるだろう・・・。」
と帰りの馬車の中でジェイドが安堵のため息をついた。
「えぇ、彼はリップサービスも上々でしたし、成り上がるためには手段を選ばないしたたかさも併せ持っていましたからね。
カタリナ様を上手く乗せて、数年後には成功を掴まれるのでは無いでしょうか?」
とモニカは答えたが、その表情はいつもよりも固く何処か上の空で、それに気が付いたジェイドは、はぁ・・・とまた小さくため息をつくと、モニカに向けてこう言った。
「エカテリーナとのこと、まだ引き摺っているようだね・・・。
本当、君とエカテリーナが目をバチバチ言わせながら稲妻をほとばしらせた時には、生きた心地がしなかったよ・・・。
あの場を丸く収めた僕の手腕を褒めて欲しいな・・・。」 
「お手数をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした・・・。」
「まぁムカつく女だけど、言わせておけばいいのにさ。
ムキになって言い返すなんて、君らしくないね?」
とジェイド。
「私のことを馬鹿にされたこともそれなりにムカつきましたが、何よりあの方は、レオン様を呼び捨てになさいました・・・。
確かこの国では公妃よりも公子のほうが地位が上ですわよね?」
「うん。
騎士が基準で出来た貴族制度だから、何事においても男が優先されるしね。
エカテリーナは僕ら公子よりも地位が低いよ。
ディアナやカタリナちゃんよりは上だけどね。」
と説明するジェイド。
「はい・・・。
それだけではなく、言葉の端々にレオン様への悪意を感じましたから、どうしても見過ごせませんでした・・・。
ですが、これでライサさんとエカテリーナ様が同一人物であるとことがはっきりしましたわ。」
「うん・・・。
証拠はないけど、君と彼女の会話のやり取りから僕もそれを感じたよ。
エカテリーナとライサは背丈も体型も近いから、元々変装は可能だろうと思ってはいたけどね。
当然父様の部屋に神避けを仕込んだのも彼女・・・。
その神避けを用いてダルダンテ神の戦争の企てに協力しているかもしれないってことだよね?」
「ええ・・・。
もしかしたら彼女の後ろにいる神と、ロジウムゲートが突然大きく開いたことと・・・何か関係があるのかもしれませんわ。
このことについては、ファルガー様が調査されるとおっしゃっていましたのでお任せするとして・・・まずはエカテリーナ様とライサさんが同一人物である可能性が非常に高いことを、ファルガー様にお伝えします。
そして彼女をどうするのか・・・。
その指示を仰ごうと思います。
これからもジェイド様のお力をお借りすることがあるかと思いますが、変わらずご協力いただけますか?」
モニカはそう言ってジェイドに手を差し出した。
ジェイドはその手を取ると優しく微笑みこう答えた。
「勿論だよ。
僕もこの国の宰相として隣国の神の意のままにされるのを阻止したいからね。
僕の出来る事ならなんだって協力させてもらう。
でも・・・それだけじゃなくてね。
君と同じ目的でこうして協力し合う時間・・・楽しくて結構好きなんだよね。
初めて女の子と肉体関係のないただの友達になれそうだと感じてる。
だから任務外のことでもいいからさ。
僕で力になれそうなことがあったら相談してよ。
あ、でも”レオくんを次期当主にしないで!”とか、”私をレオン様の第1妃にして!”とかは流石に訊いてあげられないけどさ・・・。
それ以外のことなら、出来るだけ力を貸すよ?」
モニカはそんなジェイドに柔らかい微笑みを向けてこう返した。
「ありがとうございます。
ジェイド様は今この国で、唯一私が自分を偽らずに済む大変貴重な相手です。
レオン様にも全てをお話しましたが、レオン様の心情を思うと、やはりファルガー様のことはあまり話せませんから・・・。
そして、私も貴方と過ごす時間が結構好きですよ?
こちらこそ、同盟相手としてだけではなく友としても、よろしくお願い致しますわね!」
そうして握手を交わす2人を乗せた馬車は、宮廷へと続く石橋を駆けて行くのだった。
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