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中学生編
1羽 空翔ける銀色狼
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ここは現代日本に似て非なる世界──。
東京の外れにある森中村に住む先日14歳を迎えてばかりの狼谷頼輝は、この土地にあるあの世とこの世の”境界”を守る”境界守り”としての役目を果たすべく、逢魔ヶ時に自宅の奥の森にある幾重にも重なる鳥居を潜った。
この鳥居の奥は”境界”と呼ばれる区域で、境界の更に奥にはあの世へ通じる”鬼門”と呼ばれる門がある。
鬼門は日本中のあちこちに存在するが、その中で最もあの世の中核に近い位置に存在するこの森中村の門からは、頻繁に異形の力を持つ”魔獣”がこの世へと溢れ出してくる。
それらが一般人に害をなさないように境界内で食い止め、狩るのが彼ら”境界守り”の仕事である──。
頼輝は日本人に珍しい銀の髪を靡かせて、その鋭い菫色の瞳に標的を捉えながら、幼少期から鍛え抜かれた脚で森を駆けていた。
彼はその銀髪と、姓である”狼谷”の”狼”の字を取り、村人からは通称”銀色狼”の名で呼ばれていた。
背丈は14という歳の割には高く、その体には引き締まった筋肉がしっかりと付いていた。
顔立ちは鼻筋が通っており整っているのだが、父親譲りの鋭い目が彼にとってはコンプレックスであり、それを緩和させるため頭髪に黒のヘアピンをつけ、若干可愛い印象もプラスされていた。
服装は学校から帰ってすぐにこちらに向かった為に銀ボタンの学ランのままで、上着の前を開け、インナーには眼鏡をかけて読書をしている狼のコミカルなイラストの入った白のTシャツを着ていた。
左右の耳にはピアス穴・・・本来の狩装束を着ている際には羽根と牙のピアスを下げるのだが、今はそれをつけていない状態だった。
腰のベルトには彼が魔獣討伐の際に愛用している日本刀と、戦闘用と作業用を兼ねたシースナイフを下げて、更に狩りに必要な道具が入ったポーチを付けていた。
そして、投擲武器として左手にはピストルクロスボウを持ち、同じく左腕には小手のように矢のストックを数本革ベルトに刺して巻き付けていた。
足元はグレーにネイビーのポイントが入ったスニーカーだ。
彼は標的との距離を詰めるべく木の枝へと跳躍すると、次々へと枝を渡って標的を追いかけた。
今回の標的は”鎌鼬”と呼ばれる魔獣で、大きさは尻尾を含めて1m程と小さいが、素早く木々を渡りながら風の刃を操っては、それを飛ばして攻撃を仕掛けてくる。
魔獣のランクはC──。
中程度の危険度とされ、まだ経験の浅い境界守りでは即死もあり得る相手だが、彼はこの地で幼い頃から父親により戦い方を教えられ鍛え抜かれてきたため、Cランクの魔獣でも一人で対応することが出来た。
頼輝は次々に飛んでくる風の刃を躱しながら左手に装備したピストルクロスボウで矢を3本順次に放った。
そのうちの1本が鎌鼬の足に刺さった。
鎌鼬は足を負傷したためかバランスを崩し、木の枝から落下し始めた。
頼輝はすかさず腰に下げた刀を抜くと、鎌鼬を追いかけて枝から飛び降りた。
頼輝が着地と共に刀を鎌鼬の胸に突き刺したところで、西に沈みかけていた太陽が完全に沈んで辺りは真っ暗になった。
そして、死に間際の鎌鼬が最後の風の刃を放った!
頼輝は咄嗟に避けたが、遅れて放たれた風の刃の欠片が彼の腹を直撃した。
「うっ・・・!」
頼輝は苦痛の声を漏らす。
彼が着ているTシャツが5cm程裂けて、赤い血が滲んだ。
彼はそのまま鎌鼬が息絶えた事を確認すると、突き刺した刀をその亡骸から抜いて軽く血を振り払ってから鞘に戻した。
続いて彼は腰のシースナイフを抜くと、その場で鎌鼬の胸を開いた。
すると、中から薄緑色の3~4㎝くらいの大きさの”魔石”と呼ばれる石が出てきた。
彼はそれを取り出すと、布で綺麗に拭ってからポーチに仕舞った。
「鎌鼬の魔石は風属性を持っていて使えるけど、肉は硬くて食えないんだよな・・・。
毛皮は高値で売れるから、ひとまず持って帰ろう。」
彼はそう言うとポーチからビニールの袋を取り出して、鎌鼬の亡骸を入れた。
続いてポーチから直径3㎝程の水色に光る石を取り出すと、地面に片膝を付き、鎌鼬が倒れて血溜まりが出来た場所にそれを置いた。
するとその血溜まりはキラキラと光りながらどんどん透明になっていき、水となり地面に吸収された。
「・・・これでよし。
血溜まりを浄化せずに放って置くと別の魔獣を寄せ付けるからな。」
彼はそう言うと鎌鼬の入った袋を持って立ち上がるが、腹に出来た傷が痛み、顔を顰めて傷口を手で抑えた。
「いっつっ・・・・・
血、なかなか止まらないな・・・。
咄嗟に致命傷は避けたけど、思ったより深手かもしれない。
帰りに璃音に診てもらおう・・・。」
彼は苦痛で渋い顔をしながらも、大好きな女の子に優しく労りながら手当てをして貰うことを考えて少し嬉しそうに頬を緩め、境界の出口となる鳥居へと向かうのだった。
「頼輝!
一体どうしたの?」
”桜駒鳥の薬屋”と書かれた看板のある家の玄関で頼輝を迎え入れたのは、頼輝が幼少期よりずっと想いを寄せている幼馴染の少女で、名前は最上璃音といった。
彼女は小鳥のように可愛らしい風貌と空のように美しく澄んだ青い瞳をしていて、好んで空色の服を着ることから、森中村の人達からは”空駒鳥”の愛称で親しまれていた。
今日の彼女は学校から帰宅してから私服に着替える時間がなかったのか、紺色に白の2本線の入ったセーラー服の上に、空色のチェックのエプロンをつけていた。
長い黒髪はサイドを編み込んで、耳の上で瞳の色と同じ空色のリボンをつけており、いつもは後ろ髪をおろしているが、今は料理中だったのか水玉模様のシュシュでクルッと輪を作って纏めていた。
そんな彼女が人形のように整った可愛い顔を不安で曇らせながら、頼輝を顔から順に見ていき、負傷した腹部のところで目を止め、青ざめて口に手を当てた。
「ちょっとこれどうしたの!?
酷い出血じゃない!!」
「あ・・・うん。
ちょっと魔獣狩るときにしくじって・・・。
小さい傷なんだけど、なかなか血が止まらないから診てくれるか?」
璃音はその出血度合いからそれなりの深手であることを悟り、真剣な面差しで言った。
「入って。
すぐに治療をするから。」
「うん・・・よろしくな。」
頼輝は鎌鼬の入った袋を玄関の脇に置くと、璃音に付いて薬屋の売り場を通り抜け、その奥のいつも治療で使う畳の部屋にスニーカーを脱いでから上がった。
そして上半身に着ていたシャツを脱ごうと手をかけた。
年の割に鍛え抜かれた引き締まった上半身が顕になると、目の前の彼女は白い顔を赤く染めて、慌てて手で視界を遮りそれを見ないようにしてから口を開いた。
「ぜ、全部脱がなくたっていいの!
あ、の・・・怪我をしたところまでシャツをたくし上げて貰えれば、治療できるから・・・。」
「あぁ・・・うん。」
頼輝はキョトンとしながらシャツを脱ぐことをやめ、怪我をした腹が出る胸の下辺りまでシャツをたくし上げた。
彼女はそれでも恥ずかしいのか、頬を赤く染めたままで治療を始めた。
「・・・頼輝、また無茶したんでしょ・・・。
こんな怪我しちゃうくらいの魔獣が相手なら、お父さんやお兄さんに任せたら良かったじゃない・・・。」
彼女は泣き出しそうな顔で傷口を消毒しながら言った。
彼は傷口が染みるのか、苦痛に顔を歪めながら答えた。
「いや・・・森中神社の神官さんから報せがあったとき、父さんも兄貴も魔獣討伐で出払ってて、俺しか向かえる境界守りがいなかったから。
鎌鼬なら何度か狩ってるし、別に平気かと思って俺が向かったんだよ。」
「じゃあ何で怪我しちゃうの!?」
璃音は感情的になり声を荒らげた。
頼輝はそれに対しムッとして、薄い眉を吊り上げながら、ぶっきらぼうに答えた。
「・・・日が暮れたら魔獣は強くなるから。
鎌鼬にトドメの一撃を加えたタイミングで日が沈んだから、いつもなら息絶えるところで持ち堪えて、死に間際にもう一撃出してきたんだよ。
至近距離で風の刃を出され、大きいのはギリギリで躱せたけど、小さいのは避けられなかった。」
「・・・何で狩装束じゃなくて制服のままで狩りに出たの!?
帷子を着ていたらこんなに怪我しなかったはずだよね!?」
璃音は綺麗な瞳に涙を滲ませながら怒鳴った。
「早く向かわないと境界を抜け出しそうな地点まで鎌鼬が迫ってたから、装備を着替えている時間が無かったんだよ!
仕方がないだろ!!?」
頼輝もつい感情的に怒鳴り返してしまう。
「・・・・・・・。」
彼女は眉間にシワを寄せ、空色の瞳から涙を数滴零しながら無言で傷口に軟膏を塗り、針に糸を通した。
「見た目より深く切れちゃってるから少し縫うよ・・・。
チクチクするけど我慢して・・・。」
璃音は淡々とした口調でそう言うと、涙を手で拭いながら傷口を縫い合わせていく。
「・・・これは跡が残っちゃうよ・・・。
ホントに、頼輝のバカバカバカ・・・!」
「い゛っ・・・いってっ・・・!!
璃音!
もう少し優しくやってくれよ・・・!!」
頼輝は堪らず抗議した。
彼女はプンスカ怒りながらも縫合を終え、仕上げに包帯を巻いた。
「治療、終わったよ。
血は止まったし、化膿止めと傷の治りを早める軟膏を塗ったから、だんだん楽になってくると思うけど、数日間は激しく動かないでね?
また傷口が開いちゃうかもしれないから。
痛み止めを出しておくから痛みが酷くなったら飲んで。」
璃音は無事治療が終わってホッとしたのか、先程までの苛立ちが抜けて幾らか落ち着いたようだった。
頼輝もそれを感じて、いつもの優しい口調に戻って言った。
「・・・ありがとう・・・助かった。
でも、何で怒るんだよ?
以前は俺が怪我をしても責めたりせず、すげー心配して優しく治療してくれただろ?
今日だってそうして欲しかったのに・・・。」
頼輝は彼女に期待した優しさを貰えなかったことが不満で、眉を寄せて彼女に尋ねた。
「・・・・・そうよね。
言われてみると、何であんなに腹が立ったんだろう・・・?」
彼女がそう首を傾げたところで、薬屋の売り場の方から彼女の曾祖母である通称”桜駒鳥”こと真瑠ばあさんが、魔女のような高い笑い声を上げながらやってきた。
「ヒャツヒャッヒャッ!
それが何故なのか、まだ気がついておらんのかい?
ほんとに璃音はニブチンだねぇ!」
「おばあちゃん!
ニブチンって何よぉ・・・!
からかわないで、理由がわかってるなら教えてよ!」
璃音は頬を膨らませて文句を飛ばした。
「やだね。
わしから教えてもお前さんはきっと認めんし、自分で気が付かないと意味が無いことだよ。」
「おばあちゃんの意地悪・・・!」
璃音はプンスカ怒ってその場で小さく足踏みをした。
そんな姿も可愛いなと頼輝はふっと小さく笑った。
「さて、もう19時。
店じまいの時間だから飯にしようかね。
頼輝、ついでだからお前さんも飯食っていきな?
さっきお前さんの家に怪我してうちに来たって電話しておいたから、菫さんに話も通っておるし。
璃音、夕食は大体出来ているんだろう?」
「あ、うん。
今日は麻婆豆腐にしたの。
何だか今日はお豆腐が食べたかったから・・・。
すぐ用意するから、頼輝も座って待ってて・・・!」
彼女はそう言うと、急いで台所へ向かった。
「やった!璃音の飯!」
彼女の作る食事が大好きな頼輝は嬉しそうに笑うのだった。
それから少しして──。
食卓にはほかほかの白いご飯と麻婆豆腐、唐揚げの甘酢あんかけ、ほうれん草ともやしとぜんまいのナムル、わかめと卵と胡麻のスープ、デザートに杏仁豆腐が並んでいた。
「「「いただきます!」」」
3人揃って手を合わせてから食事に箸をつける。
(この麻婆豆腐、母さんが作るのより辛さは抑えてあるけど、生姜と野蒜が入っているからか、クドくなくて美味いな!
唐揚げの甘酢あんかけは、多分俺が夕飯を食うことになったから急いで追加したんだろうな。
それなのにとても美味い・・・。
やっぱり璃音の飯は最高だ・・・!)
頼輝はそれらを大変満足で完食した。
「ご馳走さま!
今日も美味かったよ。
食器、食べ終えたぶんは俺が洗って帰るから、二人はゆっくり食べてろよ。」
一番先に食べ終えた頼輝がそう申し出た。
しかし、
「怪我をしてる人が何言ってるの!
いいから流しに置いておいて!
私が後で洗う!」
と璃音に怒られ断られてしまった。
(別にそれくらい平気なのに・・・。)
頼輝はそう思うが、食後のデザートの杏仁豆腐を「美味しいね♡」「うむ、さっぱりしてて良いね!」と会話しながらゆっくりと楽しんでいる二人を見て、それ以上長居しても申し訳が無いと思い、頼輝は璃音と真瑠ばあさんにお礼を言ってから家に帰ることにした。
「それじゃ、俺帰るよ。
璃音、手当てありがとう。
ばあちゃんもありがとう。
治療代、今持ち合わせが無くてさ。
明日でもいい?」
「なんの。
鎌鼬を置いていってくれればそいつとチャラでいいよ。」
「えっ、でも魔石抜いただけで何も処理して無いけど?」
「それがいいんじゃ、ヒャッヒャッヒャッ!
毛皮は変わった色に染めて金持ちに売りつけるつもりだし、内臓も油も骨も薬の材料に余すとこなく使えるからの!
特に毛生え薬と中折れに効く薬の材料には欠かせんのじゃよ!
お前さんにはどっちも当分必要が無さそうだがの!
ヒャッヒャッヒャッ!」
「おばあちゃん、中折れって何?」
璃音が小首を傾げて尋ねるが、その言葉の意味が何となくわかった頼輝は気まずくて汗をかき、口を波打たせ、二人から目を逸らした。
「ねぇ、何?
頼輝もわかってるなら教えてよ!」
「ヒッヒッヒッ!
璃音、後で詳しく教えてやるから安心しな?」
(えっ、それ、教えるんだ・・・。)
頼輝は中折れについて説明される璃音を想像してドキドキして顔を赤らめた。
「そう?
それならいいの!」
璃音は後で教えてもらえると聞いて納得したのかニコッと微笑んだ。
「それで頼輝、鎌鼬のことだがね。
相場を考えても悪くない取り引きだと思うが、どうかね?」
「うん、俺はそれでいいよ。
帰って解体する手間も省けるし助かる。
鎌鼬、玄関脇に置いてあるけど、早めに処理したほうがいいよ?
死骸は魔獣を引き寄せるから。」
「はいよ。」
「それじゃ、今度こそ帰るな。
飯、ご馳走さま。
またな!」
「うん、またおいで!」
真瑠ばあさんが笑って手を振った。
「頼輝、また明日学校でね!」
璃音も明るく笑って手を振って、いつもと変わらないごく普通の別れ方をするのだった。
頼輝はこのごく普通の別れ方をしたことを後に悔やむことになるのだが、この時は知る由もなかった。
桜駒鳥の薬屋を出た頼輝は、夜空に浮かぶ月をなんとなく見上げてから、道路向かいにある自宅へと足を運びながら呟いた。
「・・・4日後・・・璃音の誕生日なのに、プレゼントに欲しいものをまた聞きそびれたな・・・。」
目の前の道路を走る車が1台来たため、通り過ぎるのを待ってから渡る。
「いっそのこと、前々からいつか贈ろうと思って作ってた、狼谷家習わしのあれを完成させて渡そうか・・・。」
そう言ってから頭を振る。
「いや・・・やっぱりあれはまだだ!
もし断られたら最悪だからな・・・。
何か、別のものを・・・。
でももう4日しかないぞ。
どうする・・・?
兄貴に相談してみようか・・・。」
頼輝がそう独りごちながらため息を付くと、自宅の前に到着した。
彼の家は境界のある森中神社の隣にある木造の一戸建てで、玄関には境界守りの家であることを示す、鳥居を丸で囲った図が描かれた看板が下げてあった。
その隣に併設された建物には、”銀狼肉店 ~魔獣肉と惣菜の店~”という看板も下げられていたが、そちらはもう店じまいをしていて照明が落とされていた。
彼は灯りのついた玄関のほうから中に入り「ただいまー」と言った。
すると、すぐに母である狼谷菫がリビングから出てきた。
「頼輝、おかえりなさい!
夕食、桜駒鳥さんのところでご馳走になって来たんでしょ?」
「うん。
今日は璃音が作った麻婆豆腐とか唐揚げの甘酢あんかけとかナムルとか、中華風の献立だった。
どれも美味かったよ。」
「そう、良かったわね!
璃音ちゃんお料理上手だし、とっても可愛くて、ほんとに母さんの理想の娘なのよね~!
将来うちのお嫁さんに来てくれないかしら!?」
「・・・・・。
母さん、またそれ?
ホント璃音のこと好きだよな・・・。」
頼輝は母の定番の口癖が恥ずかしくて顔を赤く染めて俯いた。
「えぇ!大好きよ!
うちって男ばかりでしょ?
母さん女の子も欲しかったんだけど、うちには授からなかったから、息子の選ぶ女の子を娘のように可愛がっちゃおうって決めてたのもあるんだけど。
純粋に人として璃音ちゃんのこと、気に入ってるの!
春輝の彼女のひろちゃんも大好きよ♥
うちの春輝と付き合ってるからかしら?
周囲からヤンキーに見られるって嘆いてたけど、とっても美人さんだし、ピュアな性格で可愛いもの!
そのまま春輝と結婚してうちの娘になってくれないかしら・・・!?」
二人の娘候補に想いを馳せてハートを飛ばす母に頼輝は少し呆れて苦笑いをした。
「・・・そいや、兄貴と父さんはまだ帰ってないんだ?」
「えぇ。
今日はお父さん遠くまで狩りに行ってるから遅くなるし、春輝も南の境界付近の魔獣を狩り終えたら、ひろちゃんのところでお夕飯食べてくるって携帯にメッセージが来てたから、遅くなるんじゃないかしら?」
母はそう言ってから、携帯に家族からの追加のメッセージが来ていないかを確認しようと充電器のあるリビングの棚の上を見て、その側に置かれた茶封筒に気がついて手を合わせた。
「そうそう!
あんたが狩りに出た後にね、本多さんのところの結人君が、ちょっと遅れたけどあんたに誕生日プレゼントだってこの封筒を持って来てくれたんだったわ!」
母はその封筒を手に取ると頼輝に手渡した。
「結人が?
そいや、俺の誕プレに何か描くって言ってたような・・・それかな?」
「あらそうなの?楽しみね!」
頼輝は結人からのメッセージが来てないかと学ランの内ポケットから携帯を取り出して見る。
すると、予想通り結人からのメッセージが来ていた。
”さっき誕プレお前のカーチャンに託してきたぜ?”
”間違ってもカーチャンの前で開けるなよ!”
とあったため、頼輝は、
(ちょっとエロいのでも描いたのかな?)
と思って、
”サンキュー!
今受け取った。
夜寝る前に見るから感想は明日な!”
と返信した。
菫はそんな頼輝の様子をニコニコ見ながら言った。
「結人君、絵がとても上手で漫画家を目指してるんでしょ?
凄いわね!」
「う、うん・・・。」
(結人が目指してるのはエロ漫画家だけど、結人のためにも母さんには言わないでいてあげよう・・・。)
頼輝は友人の描く刺激の強い漫画を思い浮かべながら苦笑いを浮かべた。
「携帯のメッセージもいいけど、明日学校でも直接お礼を言うのよ?」
「うん、わかってるよ。
ところで母さん、風呂って湧いてる?」
「えぇ、湧いてるけど、怪我をしたんだから今日は無理でしょう?」
「うん。
でも汗かいてるし、明日も学校があるからさ。
怪我したの腹だから、そっから下と頭だけでも洗っておきたいなって。
上半身は拭くしかないけど。」
「あらあら、身綺麗にするのは良いことだけど、大丈夫なの?
母さんが手伝ってあげようか?」
菫は心配そうに眉を寄せて息子に尋ねた。
「えっ・・・!?
い、いいいや、いいって!!
俺もう中2だし、流石にそれはないだろ・・・!」
頼輝は真っ赤になって母の手伝いを全力で拒んだ。
「まぁ!
あなたついこの間まで一緒にお風呂入ってたのに!」
「この間!?
ええええっ!?
一緒に入ってたのって小2までだから!」
「あら、私にとってはついこの間のことなのよ?
まぁあの頃はもっと小さくて、女の子みたいに可愛かったけれど!
こんなに大きくなれば色々と恥ずかしくなるのも仕方がないわね・・・!
じゃあ、傷口を濡らさないように気をつけて入るのよ?」
頼輝はそんな母の言葉にまだ赤い顔のままで、
「・・・う、うん。」
と頷き、脱衣所に入った。
そして、学ランの上下を脱いで軽く畳んでから、血が固まったTシャツに手をかける。
(あーあ、このシャツ富蘭市で買って、気に入ってたのに。
血が落とせたとしても、派手に切れちまったから流石に着れないよな・・・。)
ふと、璃音がこのシャツを脱ごうとしたら真っ赤になって恥ずかしがっていたことを思い出す。
(女の子って男の上半身も恥ずかしいんだな。
女子みたいに胸が膨らんでる訳でもないのに。
胸・・・・・。
璃音の、胸・・・・・。)
ふと、去年の夏休みに璃音と一緒に宿題をやっているとき、前かがみになった彼女の胸がチラッと見えてしまったときのことを思い出した。
(胸小さかったけど、形、すげー綺麗だったよな・・・。
乳首もピンク色で・・・・・。)
思い出したらドキドキしてきて、下半身に血が集まり、むくむくと勃起してしまう。
(やべっ・・・余計なことを思い出すから!
勃っちまったらこれ、なかなか収まらないのに・・・!)
頼輝はじっ・・・と自身の元気な下半身を複雑な心情で見つめた後、ゴクッと生唾を飲み込んだ。
(風呂のついでだし、抜いてみようかな・・・。
結人とか他のみんなが言うには、気持ちいいらしいし・・・。)
そう、彼は性的興奮で勃起はするものの、まだ精通してはいなかった。
頼輝は学校でクラスの目立つ男子達が当たり前のようにオナニーの話をする中、自分も性器を弄ったりはするが、まだ射精するに至っていないことが少し気にはなっていた。
親友であるエロ漫画家志望の本多結人も、クラスでも体格がいい方の頼輝がまだであることを不思議に思い、早く体験しろと日々勧めてくるくらいだ。
頼輝はもう一度ゴクッと生唾を飲み込むと、誰もいない脱衣場で何故かキョロキョロし、身体を覆う最後の一枚のボクサーブリーフを脱いで洗濯機に放り込むと、急いで浴室に入り、椅子に腰を掛けた。
そして、自分の完全に勃ちあがったものにそっと手を当てて握ると、そのまま上下に扱いてみる。
はあっ、はあっ・・・彼の息が乱れ始める。
(・・・っ・・・良くなってきた・・・。
璃音っ・・・!)
彼は頭の中で大好きな彼女の控えめな胸を触る自分の姿を想像する。
(あの綺麗な胸を触りながら璃音とキスをして、ピンク色の乳首を舐め回したら、璃音があの可愛い声で甘く喘いで・・・。
そしたら璃音の足の付根にある特別な場所が濡れてきて、そこに俺の、このでかくなったチンコを強引に突っ込む・・・。)
頼輝はその状況を再現すべく、亀頭から竿に向けてゆっくりと強く扱き下ろした。
(くっ・・・はっ・・・!
・・・璃音のナカ、どんな感触なんだろう・・・
きっとすげー気持ちよくて、たまらないんだろうな・・・。
璃音は初めてで痛くて泣くだろうけど・・・。
でも、そのうち・・・)
彼女が涙目で頼輝を受け入れ、結人の描く漫画の女の子のように気持ちいいと喘ぐ姿を想像すると、ゾクゾクと身が震えた。
しかし、それを打ち消すかのように、璃音が自分と喧嘩して怒ったときの顔が思い浮かんできて、
「頼輝!?
私でこんなことするなんて、最っ低っ!!
だいっ嫌い!!!」
頭の中でそう怒鳴られ、頬を叩かれて、そこで快楽を追い求める手が止まってしまった。
(・・・・・やっぱり駄目だ・・・。
そんなことをして射精してしまったら、翌日どんな顔をして璃音に会えば良いんだ?
俺、そういうの顔に出やすいんだから、絶対変に思われるぞ!)
頼輝は煩悩を払い落とすかのように頭を振ると、まだ冷たいシャワーを頭にかけるのだった。
浴室から出た頼輝はまだ収まりきらない股間を恨めしく睨みながら、寝間着にしている白のオーバーサイズTシャツとサイドに白のラインの入ったグレーのジョガーパンツを着て、結人の原稿の入った封筒を手に取ると、母に声をかけられないうちにそそくさと2階への階段を上がった。
そして、自分の部屋に入るとホッとして、ベッドにドサッと横たわる。
すると兄が帰ってきたのか階段を上がってくる音がする。
(兄貴、今帰ってきたんだな。
兄貴とひろえ姉さん高2だし、もう最後までヤってるよな・・・。
ひろえ姉さんが兄貴の部屋に来てるとき、たまにエロい声が聴こえるし・・・。
今日もヤってきたのかな?
いいなぁ・・・俺も璃音といつか・・・・・。)
と、また先程のようないやらしい妄想をしてしまい、それを振り払うように頭を強く振ると、結人が自分の誕生日祝いにと置いていった封筒に目にいった。
(結人、何を描いてくれたんだろう?
去年は確か”格好いい境界守りの頼輝伝説”とかいう馬鹿みたいだけど面白いギャグ漫画を描いてくれたけど、今年はさっきの携帯に来てたメッセージからすると、ちょっとエロいやつなのかな・・・?)
頼輝はあははと笑いながら封筒を開け、中身を取り出した。
「!!!」
頼輝はその中身に描かれたものに衝撃を受け、思わず落としてしまい、急いで拾い直した。
それは、去年より格段に絵が上手くなった本多結人が本気で描いたと思われる、狼谷頼輝とその想い人である最上璃音が交わるところを描いたエロ漫画だったのだ!
一番最初のページには緑色の付箋メモがつけてあり、こう書かれていた。
─頼輝 誕生日おめ!
つか、結局誕生日に間に合わなくてスマン!
色々気にし過ぎのシャイなお前のために、今俺が描ける最高のおかずを提供してやる!
心して使え!
そんで、早くオナカマになろーぜ✌
P.S 想像くらい好きにしたって良いんだよ!
みんなやってることなんだし、我慢するのはストレス溜まって良くねーぜ?
感想待ってるからな!
本多結人─
頼輝は自分一人しかいない部屋を何故かキョロキョロと見渡すと、開いていたカーテンをきっちり隙間なく閉めてからベッドに横たわり、耳まで赤く染めながら改めてそれを読んだ。
その漫画は自分と璃音がただセックスをするだけでなく、璃音の心理描写も描かれてあった。
”私、頼輝が好き・・・!
私・・・胸、小さいし、こんなこと初めてで、怖いしとても恥ずかしいけど・・・頼輝に私のこと全部、奪って欲しい・・・。
・・・だから・・・頼輝の好きにして・・・いいよ・・・?”
その漫画の中の璃音のセリフは、頼輝が内心では彼女に一番求めているものであり、尚且かなりリアリティのある表情と共にそれらは描かれていた。
それを見て、頼輝の中にあった罪悪感との葛藤や、璃音に邪な自分を知られることへの恐怖も何もかも、あっけなく何処かへと吹き飛んでしまった。
それからは素直に璃音とのセックスで頭を一杯にして、左手で原稿を握りしめたまま、右手には性器を握りしめ、ひたすらに快楽を追い求め、手を上下に動かした。
「はあっ、はあっ・・・気持ちいい・・・
はあっ、っあっ・・・り、ねっ・・・
あっ・・・うあぁっ・・・璃音っ・・・!
好きだ・・・好きだよ・・・俺の璃音っ・・・!
はっ、はっ、はっ・・・っくっ、あぁっ・・・で、出そう・・・っあっ、はっ、はっ、はっ・・・りね・・・りねっ・・・璃音っ!!
・・・・・・・・・・・っく!!!」
頼輝はビクンビクンと身を震わせて白い精を大量に吐き出すと、荒い息をついて初めての絶頂の余韻に浸っていた。
しかし、すぐに自身の身体が透き通っていることに気がついた。
「えっ・・・!?
な、何だこれ・・・身体が、透き通ってる・・・・・!?」
そして、そのまま身体はすうっと宙へと浮き上がり、天井をすり抜け、ついには夜空へと浮かんだ。
「えっ、えっ、ええっ!?」
彼は驚いて声を上げた。
その直後、物凄いスピードで璃音の家のある方向へ引っ張られた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー…!!!」
そのまま彼女の家の上空を通過して、夜空の彼方、何処かへ向かって引っ張られていく。
その間、止まったり降りたりしてみようと何度も強く念じたり、「止まれ!!」と言ってみたりしたが、全く止まる気配もなく、ただただ肌が痛くなるくらいの猛スピードで飛ばされ続ける頼輝。
そのまま上空を飛び続け、1時間くらいが経過した頃だろうか。
上空から見た地形からして、恐らく北海道かと思われる場所で、突然ピタッと頼輝の身体が止まった。
かと思えば、真下へと物凄いスピードでシュン!と音を立てて落とされた。
狼谷頼輝は寝間着姿で裸足、腹には縫われた傷を覆う包帯が巻かれたままで、武器はおろか財布も携帯も持たず、左手には結人の原稿、右手には白い精液がカピカピに固まってついた状態で、遥か北の見知らぬ森の中に降り立ってしまったのだ。
5月上旬とはいえ雪国の森の中のため、雪がちらついていた。
「・・・寒っ・・・ここ・・・マジで北海道か・・・!!
・・・一体どうなっているんだ・・・??」
頼輝は吹き抜けた風の冷たさに身体を震わせた。
彼を囲う森の至るところから、魔獣の唸り声が聴こえていた──。
東京の外れにある森中村に住む先日14歳を迎えてばかりの狼谷頼輝は、この土地にあるあの世とこの世の”境界”を守る”境界守り”としての役目を果たすべく、逢魔ヶ時に自宅の奥の森にある幾重にも重なる鳥居を潜った。
この鳥居の奥は”境界”と呼ばれる区域で、境界の更に奥にはあの世へ通じる”鬼門”と呼ばれる門がある。
鬼門は日本中のあちこちに存在するが、その中で最もあの世の中核に近い位置に存在するこの森中村の門からは、頻繁に異形の力を持つ”魔獣”がこの世へと溢れ出してくる。
それらが一般人に害をなさないように境界内で食い止め、狩るのが彼ら”境界守り”の仕事である──。
頼輝は日本人に珍しい銀の髪を靡かせて、その鋭い菫色の瞳に標的を捉えながら、幼少期から鍛え抜かれた脚で森を駆けていた。
彼はその銀髪と、姓である”狼谷”の”狼”の字を取り、村人からは通称”銀色狼”の名で呼ばれていた。
背丈は14という歳の割には高く、その体には引き締まった筋肉がしっかりと付いていた。
顔立ちは鼻筋が通っており整っているのだが、父親譲りの鋭い目が彼にとってはコンプレックスであり、それを緩和させるため頭髪に黒のヘアピンをつけ、若干可愛い印象もプラスされていた。
服装は学校から帰ってすぐにこちらに向かった為に銀ボタンの学ランのままで、上着の前を開け、インナーには眼鏡をかけて読書をしている狼のコミカルなイラストの入った白のTシャツを着ていた。
左右の耳にはピアス穴・・・本来の狩装束を着ている際には羽根と牙のピアスを下げるのだが、今はそれをつけていない状態だった。
腰のベルトには彼が魔獣討伐の際に愛用している日本刀と、戦闘用と作業用を兼ねたシースナイフを下げて、更に狩りに必要な道具が入ったポーチを付けていた。
そして、投擲武器として左手にはピストルクロスボウを持ち、同じく左腕には小手のように矢のストックを数本革ベルトに刺して巻き付けていた。
足元はグレーにネイビーのポイントが入ったスニーカーだ。
彼は標的との距離を詰めるべく木の枝へと跳躍すると、次々へと枝を渡って標的を追いかけた。
今回の標的は”鎌鼬”と呼ばれる魔獣で、大きさは尻尾を含めて1m程と小さいが、素早く木々を渡りながら風の刃を操っては、それを飛ばして攻撃を仕掛けてくる。
魔獣のランクはC──。
中程度の危険度とされ、まだ経験の浅い境界守りでは即死もあり得る相手だが、彼はこの地で幼い頃から父親により戦い方を教えられ鍛え抜かれてきたため、Cランクの魔獣でも一人で対応することが出来た。
頼輝は次々に飛んでくる風の刃を躱しながら左手に装備したピストルクロスボウで矢を3本順次に放った。
そのうちの1本が鎌鼬の足に刺さった。
鎌鼬は足を負傷したためかバランスを崩し、木の枝から落下し始めた。
頼輝はすかさず腰に下げた刀を抜くと、鎌鼬を追いかけて枝から飛び降りた。
頼輝が着地と共に刀を鎌鼬の胸に突き刺したところで、西に沈みかけていた太陽が完全に沈んで辺りは真っ暗になった。
そして、死に間際の鎌鼬が最後の風の刃を放った!
頼輝は咄嗟に避けたが、遅れて放たれた風の刃の欠片が彼の腹を直撃した。
「うっ・・・!」
頼輝は苦痛の声を漏らす。
彼が着ているTシャツが5cm程裂けて、赤い血が滲んだ。
彼はそのまま鎌鼬が息絶えた事を確認すると、突き刺した刀をその亡骸から抜いて軽く血を振り払ってから鞘に戻した。
続いて彼は腰のシースナイフを抜くと、その場で鎌鼬の胸を開いた。
すると、中から薄緑色の3~4㎝くらいの大きさの”魔石”と呼ばれる石が出てきた。
彼はそれを取り出すと、布で綺麗に拭ってからポーチに仕舞った。
「鎌鼬の魔石は風属性を持っていて使えるけど、肉は硬くて食えないんだよな・・・。
毛皮は高値で売れるから、ひとまず持って帰ろう。」
彼はそう言うとポーチからビニールの袋を取り出して、鎌鼬の亡骸を入れた。
続いてポーチから直径3㎝程の水色に光る石を取り出すと、地面に片膝を付き、鎌鼬が倒れて血溜まりが出来た場所にそれを置いた。
するとその血溜まりはキラキラと光りながらどんどん透明になっていき、水となり地面に吸収された。
「・・・これでよし。
血溜まりを浄化せずに放って置くと別の魔獣を寄せ付けるからな。」
彼はそう言うと鎌鼬の入った袋を持って立ち上がるが、腹に出来た傷が痛み、顔を顰めて傷口を手で抑えた。
「いっつっ・・・・・
血、なかなか止まらないな・・・。
咄嗟に致命傷は避けたけど、思ったより深手かもしれない。
帰りに璃音に診てもらおう・・・。」
彼は苦痛で渋い顔をしながらも、大好きな女の子に優しく労りながら手当てをして貰うことを考えて少し嬉しそうに頬を緩め、境界の出口となる鳥居へと向かうのだった。
「頼輝!
一体どうしたの?」
”桜駒鳥の薬屋”と書かれた看板のある家の玄関で頼輝を迎え入れたのは、頼輝が幼少期よりずっと想いを寄せている幼馴染の少女で、名前は最上璃音といった。
彼女は小鳥のように可愛らしい風貌と空のように美しく澄んだ青い瞳をしていて、好んで空色の服を着ることから、森中村の人達からは”空駒鳥”の愛称で親しまれていた。
今日の彼女は学校から帰宅してから私服に着替える時間がなかったのか、紺色に白の2本線の入ったセーラー服の上に、空色のチェックのエプロンをつけていた。
長い黒髪はサイドを編み込んで、耳の上で瞳の色と同じ空色のリボンをつけており、いつもは後ろ髪をおろしているが、今は料理中だったのか水玉模様のシュシュでクルッと輪を作って纏めていた。
そんな彼女が人形のように整った可愛い顔を不安で曇らせながら、頼輝を顔から順に見ていき、負傷した腹部のところで目を止め、青ざめて口に手を当てた。
「ちょっとこれどうしたの!?
酷い出血じゃない!!」
「あ・・・うん。
ちょっと魔獣狩るときにしくじって・・・。
小さい傷なんだけど、なかなか血が止まらないから診てくれるか?」
璃音はその出血度合いからそれなりの深手であることを悟り、真剣な面差しで言った。
「入って。
すぐに治療をするから。」
「うん・・・よろしくな。」
頼輝は鎌鼬の入った袋を玄関の脇に置くと、璃音に付いて薬屋の売り場を通り抜け、その奥のいつも治療で使う畳の部屋にスニーカーを脱いでから上がった。
そして上半身に着ていたシャツを脱ごうと手をかけた。
年の割に鍛え抜かれた引き締まった上半身が顕になると、目の前の彼女は白い顔を赤く染めて、慌てて手で視界を遮りそれを見ないようにしてから口を開いた。
「ぜ、全部脱がなくたっていいの!
あ、の・・・怪我をしたところまでシャツをたくし上げて貰えれば、治療できるから・・・。」
「あぁ・・・うん。」
頼輝はキョトンとしながらシャツを脱ぐことをやめ、怪我をした腹が出る胸の下辺りまでシャツをたくし上げた。
彼女はそれでも恥ずかしいのか、頬を赤く染めたままで治療を始めた。
「・・・頼輝、また無茶したんでしょ・・・。
こんな怪我しちゃうくらいの魔獣が相手なら、お父さんやお兄さんに任せたら良かったじゃない・・・。」
彼女は泣き出しそうな顔で傷口を消毒しながら言った。
彼は傷口が染みるのか、苦痛に顔を歪めながら答えた。
「いや・・・森中神社の神官さんから報せがあったとき、父さんも兄貴も魔獣討伐で出払ってて、俺しか向かえる境界守りがいなかったから。
鎌鼬なら何度か狩ってるし、別に平気かと思って俺が向かったんだよ。」
「じゃあ何で怪我しちゃうの!?」
璃音は感情的になり声を荒らげた。
頼輝はそれに対しムッとして、薄い眉を吊り上げながら、ぶっきらぼうに答えた。
「・・・日が暮れたら魔獣は強くなるから。
鎌鼬にトドメの一撃を加えたタイミングで日が沈んだから、いつもなら息絶えるところで持ち堪えて、死に間際にもう一撃出してきたんだよ。
至近距離で風の刃を出され、大きいのはギリギリで躱せたけど、小さいのは避けられなかった。」
「・・・何で狩装束じゃなくて制服のままで狩りに出たの!?
帷子を着ていたらこんなに怪我しなかったはずだよね!?」
璃音は綺麗な瞳に涙を滲ませながら怒鳴った。
「早く向かわないと境界を抜け出しそうな地点まで鎌鼬が迫ってたから、装備を着替えている時間が無かったんだよ!
仕方がないだろ!!?」
頼輝もつい感情的に怒鳴り返してしまう。
「・・・・・・・。」
彼女は眉間にシワを寄せ、空色の瞳から涙を数滴零しながら無言で傷口に軟膏を塗り、針に糸を通した。
「見た目より深く切れちゃってるから少し縫うよ・・・。
チクチクするけど我慢して・・・。」
璃音は淡々とした口調でそう言うと、涙を手で拭いながら傷口を縫い合わせていく。
「・・・これは跡が残っちゃうよ・・・。
ホントに、頼輝のバカバカバカ・・・!」
「い゛っ・・・いってっ・・・!!
璃音!
もう少し優しくやってくれよ・・・!!」
頼輝は堪らず抗議した。
彼女はプンスカ怒りながらも縫合を終え、仕上げに包帯を巻いた。
「治療、終わったよ。
血は止まったし、化膿止めと傷の治りを早める軟膏を塗ったから、だんだん楽になってくると思うけど、数日間は激しく動かないでね?
また傷口が開いちゃうかもしれないから。
痛み止めを出しておくから痛みが酷くなったら飲んで。」
璃音は無事治療が終わってホッとしたのか、先程までの苛立ちが抜けて幾らか落ち着いたようだった。
頼輝もそれを感じて、いつもの優しい口調に戻って言った。
「・・・ありがとう・・・助かった。
でも、何で怒るんだよ?
以前は俺が怪我をしても責めたりせず、すげー心配して優しく治療してくれただろ?
今日だってそうして欲しかったのに・・・。」
頼輝は彼女に期待した優しさを貰えなかったことが不満で、眉を寄せて彼女に尋ねた。
「・・・・・そうよね。
言われてみると、何であんなに腹が立ったんだろう・・・?」
彼女がそう首を傾げたところで、薬屋の売り場の方から彼女の曾祖母である通称”桜駒鳥”こと真瑠ばあさんが、魔女のような高い笑い声を上げながらやってきた。
「ヒャツヒャッヒャッ!
それが何故なのか、まだ気がついておらんのかい?
ほんとに璃音はニブチンだねぇ!」
「おばあちゃん!
ニブチンって何よぉ・・・!
からかわないで、理由がわかってるなら教えてよ!」
璃音は頬を膨らませて文句を飛ばした。
「やだね。
わしから教えてもお前さんはきっと認めんし、自分で気が付かないと意味が無いことだよ。」
「おばあちゃんの意地悪・・・!」
璃音はプンスカ怒ってその場で小さく足踏みをした。
そんな姿も可愛いなと頼輝はふっと小さく笑った。
「さて、もう19時。
店じまいの時間だから飯にしようかね。
頼輝、ついでだからお前さんも飯食っていきな?
さっきお前さんの家に怪我してうちに来たって電話しておいたから、菫さんに話も通っておるし。
璃音、夕食は大体出来ているんだろう?」
「あ、うん。
今日は麻婆豆腐にしたの。
何だか今日はお豆腐が食べたかったから・・・。
すぐ用意するから、頼輝も座って待ってて・・・!」
彼女はそう言うと、急いで台所へ向かった。
「やった!璃音の飯!」
彼女の作る食事が大好きな頼輝は嬉しそうに笑うのだった。
それから少しして──。
食卓にはほかほかの白いご飯と麻婆豆腐、唐揚げの甘酢あんかけ、ほうれん草ともやしとぜんまいのナムル、わかめと卵と胡麻のスープ、デザートに杏仁豆腐が並んでいた。
「「「いただきます!」」」
3人揃って手を合わせてから食事に箸をつける。
(この麻婆豆腐、母さんが作るのより辛さは抑えてあるけど、生姜と野蒜が入っているからか、クドくなくて美味いな!
唐揚げの甘酢あんかけは、多分俺が夕飯を食うことになったから急いで追加したんだろうな。
それなのにとても美味い・・・。
やっぱり璃音の飯は最高だ・・・!)
頼輝はそれらを大変満足で完食した。
「ご馳走さま!
今日も美味かったよ。
食器、食べ終えたぶんは俺が洗って帰るから、二人はゆっくり食べてろよ。」
一番先に食べ終えた頼輝がそう申し出た。
しかし、
「怪我をしてる人が何言ってるの!
いいから流しに置いておいて!
私が後で洗う!」
と璃音に怒られ断られてしまった。
(別にそれくらい平気なのに・・・。)
頼輝はそう思うが、食後のデザートの杏仁豆腐を「美味しいね♡」「うむ、さっぱりしてて良いね!」と会話しながらゆっくりと楽しんでいる二人を見て、それ以上長居しても申し訳が無いと思い、頼輝は璃音と真瑠ばあさんにお礼を言ってから家に帰ることにした。
「それじゃ、俺帰るよ。
璃音、手当てありがとう。
ばあちゃんもありがとう。
治療代、今持ち合わせが無くてさ。
明日でもいい?」
「なんの。
鎌鼬を置いていってくれればそいつとチャラでいいよ。」
「えっ、でも魔石抜いただけで何も処理して無いけど?」
「それがいいんじゃ、ヒャッヒャッヒャッ!
毛皮は変わった色に染めて金持ちに売りつけるつもりだし、内臓も油も骨も薬の材料に余すとこなく使えるからの!
特に毛生え薬と中折れに効く薬の材料には欠かせんのじゃよ!
お前さんにはどっちも当分必要が無さそうだがの!
ヒャッヒャッヒャッ!」
「おばあちゃん、中折れって何?」
璃音が小首を傾げて尋ねるが、その言葉の意味が何となくわかった頼輝は気まずくて汗をかき、口を波打たせ、二人から目を逸らした。
「ねぇ、何?
頼輝もわかってるなら教えてよ!」
「ヒッヒッヒッ!
璃音、後で詳しく教えてやるから安心しな?」
(えっ、それ、教えるんだ・・・。)
頼輝は中折れについて説明される璃音を想像してドキドキして顔を赤らめた。
「そう?
それならいいの!」
璃音は後で教えてもらえると聞いて納得したのかニコッと微笑んだ。
「それで頼輝、鎌鼬のことだがね。
相場を考えても悪くない取り引きだと思うが、どうかね?」
「うん、俺はそれでいいよ。
帰って解体する手間も省けるし助かる。
鎌鼬、玄関脇に置いてあるけど、早めに処理したほうがいいよ?
死骸は魔獣を引き寄せるから。」
「はいよ。」
「それじゃ、今度こそ帰るな。
飯、ご馳走さま。
またな!」
「うん、またおいで!」
真瑠ばあさんが笑って手を振った。
「頼輝、また明日学校でね!」
璃音も明るく笑って手を振って、いつもと変わらないごく普通の別れ方をするのだった。
頼輝はこのごく普通の別れ方をしたことを後に悔やむことになるのだが、この時は知る由もなかった。
桜駒鳥の薬屋を出た頼輝は、夜空に浮かぶ月をなんとなく見上げてから、道路向かいにある自宅へと足を運びながら呟いた。
「・・・4日後・・・璃音の誕生日なのに、プレゼントに欲しいものをまた聞きそびれたな・・・。」
目の前の道路を走る車が1台来たため、通り過ぎるのを待ってから渡る。
「いっそのこと、前々からいつか贈ろうと思って作ってた、狼谷家習わしのあれを完成させて渡そうか・・・。」
そう言ってから頭を振る。
「いや・・・やっぱりあれはまだだ!
もし断られたら最悪だからな・・・。
何か、別のものを・・・。
でももう4日しかないぞ。
どうする・・・?
兄貴に相談してみようか・・・。」
頼輝がそう独りごちながらため息を付くと、自宅の前に到着した。
彼の家は境界のある森中神社の隣にある木造の一戸建てで、玄関には境界守りの家であることを示す、鳥居を丸で囲った図が描かれた看板が下げてあった。
その隣に併設された建物には、”銀狼肉店 ~魔獣肉と惣菜の店~”という看板も下げられていたが、そちらはもう店じまいをしていて照明が落とされていた。
彼は灯りのついた玄関のほうから中に入り「ただいまー」と言った。
すると、すぐに母である狼谷菫がリビングから出てきた。
「頼輝、おかえりなさい!
夕食、桜駒鳥さんのところでご馳走になって来たんでしょ?」
「うん。
今日は璃音が作った麻婆豆腐とか唐揚げの甘酢あんかけとかナムルとか、中華風の献立だった。
どれも美味かったよ。」
「そう、良かったわね!
璃音ちゃんお料理上手だし、とっても可愛くて、ほんとに母さんの理想の娘なのよね~!
将来うちのお嫁さんに来てくれないかしら!?」
「・・・・・。
母さん、またそれ?
ホント璃音のこと好きだよな・・・。」
頼輝は母の定番の口癖が恥ずかしくて顔を赤く染めて俯いた。
「えぇ!大好きよ!
うちって男ばかりでしょ?
母さん女の子も欲しかったんだけど、うちには授からなかったから、息子の選ぶ女の子を娘のように可愛がっちゃおうって決めてたのもあるんだけど。
純粋に人として璃音ちゃんのこと、気に入ってるの!
春輝の彼女のひろちゃんも大好きよ♥
うちの春輝と付き合ってるからかしら?
周囲からヤンキーに見られるって嘆いてたけど、とっても美人さんだし、ピュアな性格で可愛いもの!
そのまま春輝と結婚してうちの娘になってくれないかしら・・・!?」
二人の娘候補に想いを馳せてハートを飛ばす母に頼輝は少し呆れて苦笑いをした。
「・・・そいや、兄貴と父さんはまだ帰ってないんだ?」
「えぇ。
今日はお父さん遠くまで狩りに行ってるから遅くなるし、春輝も南の境界付近の魔獣を狩り終えたら、ひろちゃんのところでお夕飯食べてくるって携帯にメッセージが来てたから、遅くなるんじゃないかしら?」
母はそう言ってから、携帯に家族からの追加のメッセージが来ていないかを確認しようと充電器のあるリビングの棚の上を見て、その側に置かれた茶封筒に気がついて手を合わせた。
「そうそう!
あんたが狩りに出た後にね、本多さんのところの結人君が、ちょっと遅れたけどあんたに誕生日プレゼントだってこの封筒を持って来てくれたんだったわ!」
母はその封筒を手に取ると頼輝に手渡した。
「結人が?
そいや、俺の誕プレに何か描くって言ってたような・・・それかな?」
「あらそうなの?楽しみね!」
頼輝は結人からのメッセージが来てないかと学ランの内ポケットから携帯を取り出して見る。
すると、予想通り結人からのメッセージが来ていた。
”さっき誕プレお前のカーチャンに託してきたぜ?”
”間違ってもカーチャンの前で開けるなよ!”
とあったため、頼輝は、
(ちょっとエロいのでも描いたのかな?)
と思って、
”サンキュー!
今受け取った。
夜寝る前に見るから感想は明日な!”
と返信した。
菫はそんな頼輝の様子をニコニコ見ながら言った。
「結人君、絵がとても上手で漫画家を目指してるんでしょ?
凄いわね!」
「う、うん・・・。」
(結人が目指してるのはエロ漫画家だけど、結人のためにも母さんには言わないでいてあげよう・・・。)
頼輝は友人の描く刺激の強い漫画を思い浮かべながら苦笑いを浮かべた。
「携帯のメッセージもいいけど、明日学校でも直接お礼を言うのよ?」
「うん、わかってるよ。
ところで母さん、風呂って湧いてる?」
「えぇ、湧いてるけど、怪我をしたんだから今日は無理でしょう?」
「うん。
でも汗かいてるし、明日も学校があるからさ。
怪我したの腹だから、そっから下と頭だけでも洗っておきたいなって。
上半身は拭くしかないけど。」
「あらあら、身綺麗にするのは良いことだけど、大丈夫なの?
母さんが手伝ってあげようか?」
菫は心配そうに眉を寄せて息子に尋ねた。
「えっ・・・!?
い、いいいや、いいって!!
俺もう中2だし、流石にそれはないだろ・・・!」
頼輝は真っ赤になって母の手伝いを全力で拒んだ。
「まぁ!
あなたついこの間まで一緒にお風呂入ってたのに!」
「この間!?
ええええっ!?
一緒に入ってたのって小2までだから!」
「あら、私にとってはついこの間のことなのよ?
まぁあの頃はもっと小さくて、女の子みたいに可愛かったけれど!
こんなに大きくなれば色々と恥ずかしくなるのも仕方がないわね・・・!
じゃあ、傷口を濡らさないように気をつけて入るのよ?」
頼輝はそんな母の言葉にまだ赤い顔のままで、
「・・・う、うん。」
と頷き、脱衣所に入った。
そして、学ランの上下を脱いで軽く畳んでから、血が固まったTシャツに手をかける。
(あーあ、このシャツ富蘭市で買って、気に入ってたのに。
血が落とせたとしても、派手に切れちまったから流石に着れないよな・・・。)
ふと、璃音がこのシャツを脱ごうとしたら真っ赤になって恥ずかしがっていたことを思い出す。
(女の子って男の上半身も恥ずかしいんだな。
女子みたいに胸が膨らんでる訳でもないのに。
胸・・・・・。
璃音の、胸・・・・・。)
ふと、去年の夏休みに璃音と一緒に宿題をやっているとき、前かがみになった彼女の胸がチラッと見えてしまったときのことを思い出した。
(胸小さかったけど、形、すげー綺麗だったよな・・・。
乳首もピンク色で・・・・・。)
思い出したらドキドキしてきて、下半身に血が集まり、むくむくと勃起してしまう。
(やべっ・・・余計なことを思い出すから!
勃っちまったらこれ、なかなか収まらないのに・・・!)
頼輝はじっ・・・と自身の元気な下半身を複雑な心情で見つめた後、ゴクッと生唾を飲み込んだ。
(風呂のついでだし、抜いてみようかな・・・。
結人とか他のみんなが言うには、気持ちいいらしいし・・・。)
そう、彼は性的興奮で勃起はするものの、まだ精通してはいなかった。
頼輝は学校でクラスの目立つ男子達が当たり前のようにオナニーの話をする中、自分も性器を弄ったりはするが、まだ射精するに至っていないことが少し気にはなっていた。
親友であるエロ漫画家志望の本多結人も、クラスでも体格がいい方の頼輝がまだであることを不思議に思い、早く体験しろと日々勧めてくるくらいだ。
頼輝はもう一度ゴクッと生唾を飲み込むと、誰もいない脱衣場で何故かキョロキョロし、身体を覆う最後の一枚のボクサーブリーフを脱いで洗濯機に放り込むと、急いで浴室に入り、椅子に腰を掛けた。
そして、自分の完全に勃ちあがったものにそっと手を当てて握ると、そのまま上下に扱いてみる。
はあっ、はあっ・・・彼の息が乱れ始める。
(・・・っ・・・良くなってきた・・・。
璃音っ・・・!)
彼は頭の中で大好きな彼女の控えめな胸を触る自分の姿を想像する。
(あの綺麗な胸を触りながら璃音とキスをして、ピンク色の乳首を舐め回したら、璃音があの可愛い声で甘く喘いで・・・。
そしたら璃音の足の付根にある特別な場所が濡れてきて、そこに俺の、このでかくなったチンコを強引に突っ込む・・・。)
頼輝はその状況を再現すべく、亀頭から竿に向けてゆっくりと強く扱き下ろした。
(くっ・・・はっ・・・!
・・・璃音のナカ、どんな感触なんだろう・・・
きっとすげー気持ちよくて、たまらないんだろうな・・・。
璃音は初めてで痛くて泣くだろうけど・・・。
でも、そのうち・・・)
彼女が涙目で頼輝を受け入れ、結人の描く漫画の女の子のように気持ちいいと喘ぐ姿を想像すると、ゾクゾクと身が震えた。
しかし、それを打ち消すかのように、璃音が自分と喧嘩して怒ったときの顔が思い浮かんできて、
「頼輝!?
私でこんなことするなんて、最っ低っ!!
だいっ嫌い!!!」
頭の中でそう怒鳴られ、頬を叩かれて、そこで快楽を追い求める手が止まってしまった。
(・・・・・やっぱり駄目だ・・・。
そんなことをして射精してしまったら、翌日どんな顔をして璃音に会えば良いんだ?
俺、そういうの顔に出やすいんだから、絶対変に思われるぞ!)
頼輝は煩悩を払い落とすかのように頭を振ると、まだ冷たいシャワーを頭にかけるのだった。
浴室から出た頼輝はまだ収まりきらない股間を恨めしく睨みながら、寝間着にしている白のオーバーサイズTシャツとサイドに白のラインの入ったグレーのジョガーパンツを着て、結人の原稿の入った封筒を手に取ると、母に声をかけられないうちにそそくさと2階への階段を上がった。
そして、自分の部屋に入るとホッとして、ベッドにドサッと横たわる。
すると兄が帰ってきたのか階段を上がってくる音がする。
(兄貴、今帰ってきたんだな。
兄貴とひろえ姉さん高2だし、もう最後までヤってるよな・・・。
ひろえ姉さんが兄貴の部屋に来てるとき、たまにエロい声が聴こえるし・・・。
今日もヤってきたのかな?
いいなぁ・・・俺も璃音といつか・・・・・。)
と、また先程のようないやらしい妄想をしてしまい、それを振り払うように頭を強く振ると、結人が自分の誕生日祝いにと置いていった封筒に目にいった。
(結人、何を描いてくれたんだろう?
去年は確か”格好いい境界守りの頼輝伝説”とかいう馬鹿みたいだけど面白いギャグ漫画を描いてくれたけど、今年はさっきの携帯に来てたメッセージからすると、ちょっとエロいやつなのかな・・・?)
頼輝はあははと笑いながら封筒を開け、中身を取り出した。
「!!!」
頼輝はその中身に描かれたものに衝撃を受け、思わず落としてしまい、急いで拾い直した。
それは、去年より格段に絵が上手くなった本多結人が本気で描いたと思われる、狼谷頼輝とその想い人である最上璃音が交わるところを描いたエロ漫画だったのだ!
一番最初のページには緑色の付箋メモがつけてあり、こう書かれていた。
─頼輝 誕生日おめ!
つか、結局誕生日に間に合わなくてスマン!
色々気にし過ぎのシャイなお前のために、今俺が描ける最高のおかずを提供してやる!
心して使え!
そんで、早くオナカマになろーぜ✌
P.S 想像くらい好きにしたって良いんだよ!
みんなやってることなんだし、我慢するのはストレス溜まって良くねーぜ?
感想待ってるからな!
本多結人─
頼輝は自分一人しかいない部屋を何故かキョロキョロと見渡すと、開いていたカーテンをきっちり隙間なく閉めてからベッドに横たわり、耳まで赤く染めながら改めてそれを読んだ。
その漫画は自分と璃音がただセックスをするだけでなく、璃音の心理描写も描かれてあった。
”私、頼輝が好き・・・!
私・・・胸、小さいし、こんなこと初めてで、怖いしとても恥ずかしいけど・・・頼輝に私のこと全部、奪って欲しい・・・。
・・・だから・・・頼輝の好きにして・・・いいよ・・・?”
その漫画の中の璃音のセリフは、頼輝が内心では彼女に一番求めているものであり、尚且かなりリアリティのある表情と共にそれらは描かれていた。
それを見て、頼輝の中にあった罪悪感との葛藤や、璃音に邪な自分を知られることへの恐怖も何もかも、あっけなく何処かへと吹き飛んでしまった。
それからは素直に璃音とのセックスで頭を一杯にして、左手で原稿を握りしめたまま、右手には性器を握りしめ、ひたすらに快楽を追い求め、手を上下に動かした。
「はあっ、はあっ・・・気持ちいい・・・
はあっ、っあっ・・・り、ねっ・・・
あっ・・・うあぁっ・・・璃音っ・・・!
好きだ・・・好きだよ・・・俺の璃音っ・・・!
はっ、はっ、はっ・・・っくっ、あぁっ・・・で、出そう・・・っあっ、はっ、はっ、はっ・・・りね・・・りねっ・・・璃音っ!!
・・・・・・・・・・・っく!!!」
頼輝はビクンビクンと身を震わせて白い精を大量に吐き出すと、荒い息をついて初めての絶頂の余韻に浸っていた。
しかし、すぐに自身の身体が透き通っていることに気がついた。
「えっ・・・!?
な、何だこれ・・・身体が、透き通ってる・・・・・!?」
そして、そのまま身体はすうっと宙へと浮き上がり、天井をすり抜け、ついには夜空へと浮かんだ。
「えっ、えっ、ええっ!?」
彼は驚いて声を上げた。
その直後、物凄いスピードで璃音の家のある方向へ引っ張られた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー…!!!」
そのまま彼女の家の上空を通過して、夜空の彼方、何処かへ向かって引っ張られていく。
その間、止まったり降りたりしてみようと何度も強く念じたり、「止まれ!!」と言ってみたりしたが、全く止まる気配もなく、ただただ肌が痛くなるくらいの猛スピードで飛ばされ続ける頼輝。
そのまま上空を飛び続け、1時間くらいが経過した頃だろうか。
上空から見た地形からして、恐らく北海道かと思われる場所で、突然ピタッと頼輝の身体が止まった。
かと思えば、真下へと物凄いスピードでシュン!と音を立てて落とされた。
狼谷頼輝は寝間着姿で裸足、腹には縫われた傷を覆う包帯が巻かれたままで、武器はおろか財布も携帯も持たず、左手には結人の原稿、右手には白い精液がカピカピに固まってついた状態で、遥か北の見知らぬ森の中に降り立ってしまったのだ。
5月上旬とはいえ雪国の森の中のため、雪がちらついていた。
「・・・寒っ・・・ここ・・・マジで北海道か・・・!!
・・・一体どうなっているんだ・・・??」
頼輝は吹き抜けた風の冷たさに身体を震わせた。
彼を囲う森の至るところから、魔獣の唸り声が聴こえていた──。
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