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オトコとオンナになる11歳の夏
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燕月(7月)のある日。
昨日初潮を迎えたばかりのヒルデは、いつもの通学路をとてもブルーな気分で歩いていた。
(はぁ・・・お腹痛い・・・腰が重たい・・・。
こんなのが毎月来るだなんて、女って憂鬱だな・・・。)
そんなヒルデのスカートを後ろから突風のように駆けてきたハイドが勢い良くめくった!
「おはよー!小鹿ちゃん♪」
「きゃっ!ハ、ハイド!!」
「・・・あれ?
今日はパンツの上にもう1枚履いてやんの・・・つまんねー・・・。」
ヒルデは真っ赤になってスカートを押さえながら心の中で捲し立てた。
(あんたが毎朝スカートをめくってくるのはわかってるから対策したのよ!
生理が来たことなんかこいつに知られたらいつもより余計にからかわれるに決まってるし!)
ハイドはヒルデのスカートの前でしゃがみ込んだまま首をかしげていた。
「いや、この暑いのに重ね履きとかおかしくねーか?
・・・もしかして・・・。」
そう呟くと、ヒルデの死角からもう一度スカートをバッ!とめくるとパンツの上に履いているドロワーズを掴んで下ろした!
「ギャーーー!何すんのよ!!」
ヒルデの水玉ショーツが露わになり、布ナプキンが当ててあるのが見て取れた。
「サアラがたまに干してるのと同じようなの付けてるっつーことは・・・やっぱり・・・!
小鹿ちゃん女になったんだな!
おめでとう!!」
とニッと笑ってパチパチと手を叩いた。
酷くからかわれると思っていたヒルデはハイドの予想外の反応にあっけに取られ言葉を詰まらせた。
「・・・・・お、おめ!?
えっ?あっ・・・。
・・・ち、ちっともおめでたくなんかないわよ・・・。
お腹痛いし憂鬱だし・・・。
しかもあんたに知られるとかサイテー・・・。」
ヒルデは真っ赤な顔で眉をひそめプイッとそっぽを向いた。
「なんで?子供が産める身体になったってことだろ?
おめでたいじゃん。
そっか、それで昨日途中で帰っちまったんだな。
女子はお祝いとかするんだろ?
してもらえたか?」
「・・・昨日カルラおばさんがケーキを焼いてくれて、父さんが張り切ってデコレーションしてたわよ・・・。」
「そっか!良かったな!
俺もケーキ焼いてやるよ。
どんなのがいい?」
「えっ!い、いいわよ別に・・・。
ていうか、あんたがケーキ焼くとか冗談でしょ?」
「・・・あれ、言ってなかったか?
俺料理が趣味なの!
サアラの・・・あ、サアラは俺の母親の名前な!
あいつの誕生日に毎年俺がケーキ焼いてるぜ?
女って甘いの好きだよなー。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「うん。で、どんなのがいい?」
「い、いいってば・・・。
父さんでもお祝いされるの恥ずかしかったのに、同い歳の男子にお祝いされるとかどんな羞恥プレイよ・・・。」
真っ赤な顔を両手で隠して俯くヒルデ。
ハイドはその様子をニヤニヤしながら満足げに眺めて顔を近づけ覗き込んだ。
「ふーん・・・小鹿ちゃん俺にお祝いされるのが恥ずかしいんだ?
・・・ふふふっ、んじゃ尚更ケーキ作んねーと!
どんなケーキかはお楽しみっつー事でいい!?」
反対方向から登校してくるガロを見つけたハイドは彼に向かって手を振った。
「明日スクールの帰りに俺んち寄ってけよ。
ケーキ、用意しとくから!
俺ガロと話あるから先行くけど、今日はあんま無理すんなよ!」
と言い残してガロの所へ駆けて行った。
「もう、ケーキなんていらないって言ってるのに・・・。」
ヒルデは真っ赤になったまま独りごちた。
次の日のスクールの帰り道、ハイドは約束通りヒルデを自宅へと招くため、その隣をにこにこしながら歩いていた。
ヒルデは昨日よりは若干マシになったとはいえ、まだブルーデイの最中。
正直早く家に帰りたかったが、隣を歩いているハイドが上機嫌で鼻歌を歌っているので邪険にも出来ず、
(そんなに嬉しいんだ?・・・何か可愛いかも。)
と思って密かに微笑んだ。
彼の家は-Hunt-という文字と武器が描かれた看板のある、村の一番隅っこの家だった。
ヒルデは隣の肉屋のほうにはお遣いで訪れたことがあったが、こちらにお邪魔するのは初めてだった。
「どーぞ、あがってよ。」
「お邪魔します・・・。」
ヒルデが玄関先でおずおずと挨拶すると、ハイドから放課後に好きな子を自宅に連れてくると聞いていたサアラが肉屋と自宅を繋ぐ扉から顔を出して笑顔で出迎えた。
「あらいらっしゃい!
うふふ、ホントに可愛い子じゃない!
いつもこの子が迷惑かけてごめんなさいね!
どうぞごゆっくり!」
と言ってからお客の対応をしに慌てて店の方へ戻って行った。
「小鹿ちゃん、こっち。」
ハイドは玄関に入ってすぐ右側にある扉に手をかけて手招きをした。
そこはリビングになっていて、木のローテーブルと水色のソファー、観葉植物が置いてあり、狩人の家らしく羽や牙、角、毛皮などが壁や暖炉の上に飾られてあった。
「今持ってくるから適当に座って待ってろよ。」
そう言うとハイドは奥のキッチンの方に消えて行った。
ヒルデがキョロキョロ辺りを見渡してから近くのソファーにちょこんと腰を掛けると、2階からとんとんとんと少し軽い足音が降りてきて、銀の小さな頭がひょこっと覗いた。
「あっ、こんにちは!」
ハイドの弟のライキがペコッと頭を下げたので、ヒルデも「こんにちは、お邪魔してます。」と軽く挨拶をした。
(えぇと、確か3学年下の、低学年クラスにいる弟・・・。
名前はライキ、だっけ。)
スクールに彼が入学してきた時に女子を中心に噂になっていたので、ヒルデは少しだけ彼のことを知っていた。
彼もハイドと同じ髪色で少し癖があり、それをヘアピンで止めていた。
たが彼の目はハイドと違って鋭く、瞳の色はサアラと同じ澄んだ菫色。
兄とは違うタイプの凛々しい美少年だった。
彼はこれから狩りに行くのか軽く武装をしていた。
「おっ、ライキも食ってく?ケーキだけど。」
キッチンからケーキを持って現れたハイドが声をかけた。
「ううん、いいよ。」
「まぁお前も甘いの食わねーもんな。
今から森入んの?」
「うん!」
「お前ホント狩り好きな。
んじゃついでにこれ。
薬屋のばーちゃんと空駒鳥ちゃんにお裾分けしてきな?」
と自分の作ったケーキを2つ、容器に入れて渡した。
「ありがと兄貴!
ばーちゃんとリーネ甘いの好きだから喜びそう!」
「スクールだと空駒鳥ちゃんと話しにくいんだろ?
これをキッカケに少しでも話してこいよ。」
「・・・うん!
じゃ、行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい。」
ハイドは弟を見送ってから、ヒルデの横に来てケーキを出した。
「待たせたな。どーぞ。」
彼の作ったケーキは小さなブルーベリータルトで、小さな白い花を型どった砂糖菓子がひとつ、ブルーベリーの上に乗っかっていた。
「・・・凄く綺麗・・・。
これ、あんたが作ったんだ・・・。」
ヒルデは思わず息を飲み、素直な感想が口を付いて出た。
「うん。今朝作って冷やしといた!
小鹿ちゃんのイメージでブルーベリータルトにしたけど、嫌いじゃなかったか?」
「う、うん・・・。
ブルーベリー好き・・・。」
「よかった!飲み物は珈琲でいい?」
「・・・うん。」
手慣れた手つきで珈琲を淹れるハイド。
(驚いた・・・!
まさかここまでクオリティの高いケーキが出てくるなんて!
うちの店顔負けだわ・・・。)
そんなことを思っていると目の前にいい香りを放った珈琲が置かれた。
「砂糖とミルクはいるか?」
「あっ・・・じゃあミルクだけ・・・。」
「ん、どーぞ。」
ミルク壺をヒルデに渡すとヒルデの向かいに座り、テーブルに肘をついてニッと笑うハイド。
「どーぞ食って?」
「あんたのは?」
「俺甘いの好きじゃないの知ってるだろ?
俺は珈琲だけでいーや。
早く食ってみろって♪」
そう言って、にこにこ微笑みながらヒルデを見る。
(そんな見られてると食べづらいんだけど・・・。)
「い、いただきます・・・。」
手を合わせてからタルトにサクッとフォークを入れると、中はレアチーズベースの白いムースが入っていた。
ひとくち分を切り分けてから、そっと口に運ぶ。
はむっ・・・もぐもぐもぐ・・・。
「~~~~~!!」
ヒルデは幸せそうに頬を染めて微笑んだ!
「お、美味しいっ・・・!!」
「よかった!
まだあるからどんどん食っていーぜ?」
そう言ってニヤニヤと眺めてくるハイド。
「な、何よ・・・。
そんなニヤニヤ見てきてさ・・・。
気持ち悪いんだけど。」
「いや、
今この瞬間に俺が作ったケーキがどんどん小鹿ちゃんのナカに入っていって、
それを味わった小鹿ちゃんが幸せそうな顔して蕩けてると思ったらさ、
考えようによっちゃエロいっつーか、堪んねーなと思って♥」
ヒルデは真っ赤になって眉を寄せた。
「・・・・・。
あたしのケーキにだけ何か入れたりしてないでしょうね?
マールばあちゃんのとこの媚薬とか惚れ薬とか・・・。」
「アハハハ!ねーよ!
前に冷やかしで聞いてみたんだけどよ、スゲー値段すんだぜあれ!
見習い狩人に買えるかっつーの(笑)
つーか、そんなん無しで小鹿ちゃんをオトしたいの俺は。
でもこれで小鹿ちゃんが俺の事を好きになったなら、このケーキに媚薬が入ってたっつーことで周りに弁解してもいーんだぜ?」
「・・・残りのケーキひとつ貰っていい?
そしたらマールばあちゃんの所で惚れ薬を1滴わけてもらって、それをケーキに混ぜてあんたからだって父さんに渡してあげようか?
そしてあんたに惚れた父さんとイチャイチャすればいいのよ。」
「ゲッ・・・気持ちわるぅ!!
想像しただけで鳥肌たったわ!!」
ハイドが大袈裟なくらい青ざめてとても嫌そうな顔で拒むように手を振ったので、可笑しくてヒルデは笑った。
「アハハハ!あんたのその顔!可笑しい・・・!」
「・・・・・やっぱ笑ってる小鹿ちゃん最高に可愛い♥
これが見れるんなら毎日ケーキを焼いてもいいな!」
「・・・そんなにケーキばかり食べてたら太っちゃうからいらないってば!」
ヒルデはツンケンした態度をとりながらも、今回の件でハイドにいくらか心を許したようで、まんざらでもなさそうだった。
それを感じ取ったハイドは身を乗り出してヒルデに近づき、真っ直ぐに見つめながら本音をぶつけてきた。
「・・・なぁ、俺がオトコになったら、このお返しにキスして。」
「・・・・・!!」
それを聞いたヒルデは一瞬で顔を強ばらせ、俯き、そして低く冷たい声で言った。
「キスなんかしないわ。」
予想外のヒルデの反応に、ハイドは何かを感じて眉を寄せた。
「・・・どうした小鹿ちゃん?」
心配そうに自分を覗き込むハイドにはっとしたヒルデは慌てて顔を上げ、意地悪く歯を見せて笑ってから言った。
「・・・そのときは、あんたの好きな辛ーいケーキでも焼いてやろうかしら?」
─その数日後、ジュニアスクールの昼休み。
やっと生理が終わったヒルデは少し気持ちも落ち着き、自分の席で本を読んで過ごしていた。
だが10~12歳の3学年が集まるこの教室の男子達の中には、エロい話題に関心が強くなってきた者も幾らか出てきて、そんな男子達が集まり昨夜誰をおかずにしただのそんな下ネタで盛り上がっており、居心地が悪かった。
ネオラを初めとした女子達もその集団に軽蔑した眼差しを向けて文句を飛ばしていたが、そんなことはお構い無しで馬鹿騒ぎだ。
一方ハイドも教室の窓際の席で先に精通が来たガロとモロそっち系の話をしていた。
「こないだ俺んちのスパに覗き穴を作ったって言ったろ?
昨日そこから女湯を覗いてたらさ、すげーエロい女がいてよ。
それ見て扱いているうちにだんだん良くなってきて、それが限界まで登りつめたら出たわ。
白くてドロドロですげー匂いのヤツ・・・!
やーっとオトコになれたわオレ。」
「へぇー、そーか!
いーなぁガロ。
俺も早くオトコになりてーなぁ・・・。」
「ハイドは勃ったりはすんの?」
「うーん、刺激してりゃ勃つには勃つけどエロいことで興奮して勃つってのはまだ無いな。」
「そーか・・・ということは朝勃ちもまだか。
お前体格いいし早そーだからもうじき来るんじゃね?」
「だといーな。
そしたら小鹿ちゃんすんすんしたら勃ったりすんのかな!?」
「ハハッ、すんじゃね?」
「いやーん、はずかしーー♥
おっきくなったの小鹿ちゃんにバレちゃう♥」
「いや、お前はノリノリでヒルデに硬いの押し付ける質だろが(笑)」
「バレた?」
「バレバレだっつーの!」
ワハハ!と笑い合って2人はクロス当てを交わした。
それが聴こえていたヒルデは真っ赤になって席を立った。
(ぜーんぶ聴こえてるんだけど・・・!
な、何よエッチなことばっかり!
あいつがオトコになったらマジで火を噴くくらい激辛なケーキを焼いてやるわよ!)
通りすがりにハイドを睨んでから去っていく。
ヒルデが去ると、そのタイミングを狙って先程から下ネタで盛り上がっていた男子グループの中心人物、ハイドの1学年上のテオが話しだした。
「あのさ、俺昨日ヒルデで抜いたんだよ。
あいつ可愛いしこのクラスの中じゃ胸も一番デカいじゃん?エロいよなぁ・・・♥」
「ば、馬鹿野郎!ハイドに聞かれるぜ?」
すると既に聞こえていたハイドがすぐ傍に立っており、額に血管を浮かばせ腕組みをしてテオを見下ろしていた。
「・・・その話、俺も混ぜてもらっていい?」
「ハ、ハイド!!
い、いや、こいつ、このニックがこんな絵を描いて寄こしたからつい・・・!
わ、悪気はねーんだよ!ホントに!」
と隣にいた男子を指差してからその絵を見せた。
それを見たハイドは鼻で笑い飛ばす。
「ふっ・・・テオセンパイさぁ、こんなんで抜けんの?
全然ヒルデに似てねーじゃん。
ヒルデはもっとさぁ・・・。」
と言ってその絵を描いた男子ニックから鉛筆を奪うとサラサラと紙の裏に描きはじめた。
「こんな感じだろ?」
そして見せた絵はかなりリアルなヒルデの顔が再現されており、一同は度肝を抜かした。
「すげぇー――!!
絵上手いんすねハイドさん!!
まじパネェ!!」
テオが急に敬語になった。
「・・・でも、折角だから顔から下も描いてくれませんかねぇ?
出来れば素っ裸のやつ・・・!」
そう言ってゴマすりをしてくる。
「やだね。
ニックが描いた絵を元にした妄想ならたかが知れてるし、許してやってもいいけど、
リアルなヒルデで妄想するネタなんかくれてやるかよ。」
「そんなぁ!ハイドさん頼みますよ!」
「しゃーねぇなぁ・・・。
テオセンパイはこれでシコっとけよ。」
そういうと男子に人気の女性教師、シエラ先生の裸の絵をサラサラと描いて「ホイ」と渡した。
「おおおおおーーー!!
俺らの天使、シエラ先生がぁーーー!!」
更にサラサラとシエラ先生の艶かしい絵を量産してはその集団に差し出した。
「「「うぉおおぉーーー!!」」」
男子達は歓喜し、大騒ぎだ。
「ヒルデじゃなきゃまた描いてやるからもうヒルデで妄想はするなよ?
あいつは俺専用なんだよ。
したらどうなるか・・・わかるよな?」
ポキッ、ポキッと指を鳴らすハイド。
「「「ははぁぁぁーーー!!」」」
一同はその場に土下座するのだった。
「よし!これで当面のところの害虫は駆除出来たかな?」
ハイドが満足そうに頷く。
そのハイドの背後でガロが苦笑いしていた。
「よーやるわホント・・・。」
キーーーン、コーーーン、カーーーン・・・
そこで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いたため、みんないそいそと自分の席に着き始めた。
予鈴を聞いて戻ってきたヒルデはそんなやり取りがあったことも知らずに自分の席に着いた。
「はーい!皆さんそろそろ次の授業ですから準備をしてくださぁい!」
笑顔で教室のドアを開け次の授業の準備を促しに来たシエラ先生が、土下座の勢いで舞い上がっていて、ひらひらと目の前に落ちてきた1枚の紙を手に取って真っ赤になった。
「えっ!!これ私の裸!?」
シエラ先生は自分の裸の絵に狼狽えて、彼女が担当する学年の授業はボロボロだったようだが、5時間目は滞りなく終わり、本日最後の授業、6時間目になった。
それはハイドが待ちに待った体育、水泳だった。
フォレストサイド村のプール授業は、生徒の人数も少ないため、男女まとめて行われていた。
「小鹿ちゃんの水着姿、今日こそは拝めるかな?」
「このスケベが。」
「ガロは小鹿ちゃんのこと見んなよ?
さっき色気づいた男子共には釘を刺しておいたから、ヒルデの水着姿をネタにする命知らずはおそらくいねーだろーけどな。」
「見るなと言われてもあんだけ目立ちゃどーしても視界には入るだろーけど安心しろよ。
ネタにしねーからよ。
お前にボコられたかねーし(笑)」
プールサイドでそんなことをガロと話しながら、ハイドはワクワクと彼女が着替えを終えて出てくるのを待っていた。
プール自体は少し前に開いていたが、ヒルデは先日まで生理だったので、ずっと体育を休んでいたのだ。
よって、彼女の水着姿を見るのは今年初めてになる。
「お、女子が出てきたぜ?」
とガロが言った。
先にネオラとその取り巻きが出てきた後、恥ずかしそうに胸元を隠したヒルデがおずおずと出てきた。
ハイドはヒルデの傍まで駆け寄り、声をかけた。
「小鹿ちゃーん♪
・・・何で胸隠してんの?」
「・・・なんでって・・・それは・・・。」
「俺に良く見せてよ。
去年からどれくらいデカくなったの?」
ハイドはヒルデの手をどけようと手を伸ばした。
「やっ・・・!やめてよ!あんたみたいなのがいるから隠してんの!」
「隠されると余計に見たくなるんだけどなぁ?」
そんなやり取りを近くで見ていたネオラ達がひそひそと陰口を叩く。
「なーにあれ、あてつけ?」
「じゃない?
流石は男に媚を売るのがお得意なだけはあるわね。
いやらしい身体つきしちゃってさぁ。」
「店の客にお触り許しちゃってんじゃない?
揉むと大きくなるってうちのお兄ちゃんが言ってた。」
「やだぁ~~~不潔!!」
ヒルデはそれを聞いて、唇を噛み締め俯いた。
「・・・何で黙ってんの?
俺に対していつも言い返してくるみたいにあいつらにも言い返せばいいだろ?
小鹿ちゃんは何も後ろめたいことなんかしてないんだし、堂々とデカい胸張ってろよ。」
ハイドの言葉にヒルデは胸を隠していた手を下ろし、拳を握りしめると、低い声で返した。
「・・・あんたにはわかんないわよ。
あんたみたいな、早くオトコになりたいなんて言える奴には!
あたしが何を言ったって、ネオラ達には絶対に届かないし、無駄だってわかってるから、
だから黙ってやり過ごしてたのに、それの何が悪いの!?
それに、あたしだって自分のこんな身体、全然好きじゃない・・・!
オンナになんか、なりたくなかった・・・!!
こんなの、堂々とできるわけがないじゃない・・・!!」
「・・・・・・俺はお前の身体、すげー好きなんだけど・・・。」
ハイドは目の前で晒されているヒルデの水着姿に目が釘付けになりながらそう言った。
ヒルデはその視線に気が付き、慌ててまた胸を隠した。
「・・・これは、想像以上で、他の奴にはちょっと見せられねーわ・・・。」
ハイドは頬を赤らめ視線を逸らしながらそう呟くと、ヒルデの手を取り「よいしょ」と背負った。
「は!?えっ!?ええぇっ!?」
ヒルデはあまりの出来事に訳が分からず、素っ頓狂な声を上げた。
「このままフけよーぜ!小鹿ちゃん!」
「は?あんた何言って・・・!?
・・・っていうか、あんた重くないの!?
あたし女子の中でも背があるし、結構重・・・・・・。」
それ以上は言いたくなくてヒルデが口を噤むと、ハイドは彼女が言おうとしたことを最後まで察したうえで返した。
「俺時々角イノシシ担いで西の森から帰ってるけど、それに比べたら全然ヘーキ!
あいつら50㎏くらいあるんだぜ?」
そう言いながらハイドはプールを囲うフェンスをひょいっと乗り越えてグラウンドへと着地し、ガロに手を振るのだった。
「ガロ!
つーわけで俺、小鹿ちゃんをお持ち帰りするから、せんせーにはてきとーに言っといてくれよ!
んじゃまたなー!」
「お、おう・・・りょーかい。
またな!」
ガロは呆気にとられつつも笑って二人を見送った。
プールサイドにいたガロを除いたクラスメイトは皆ポカーンとそのままその場に立ち尽くし、遠ざかる二人の姿を見送った。
ハイドに背負われたまま、川沿いの流れる景色を眺めるヒルデ。
「・・・あんたホント何考えてんの・・・。
荷物とか全部スクールに置きっぱなしじゃないの。」
「そんなんどーにでもなるだろ。
俺にとっちゃ小鹿ちゃんの水着姿を他のヤローに見られる方が一大事なの。」
「・・・・めちゃくちゃな奴・・・。」
通り過ぎる村人たちが二人の姿に驚き振り返って見る。
(そりゃあ目立つよね・・・。
水着姿で背負われて・・・。
何やってんだろうあたし・・・。)
ヒルデは真っ赤になると、いたたまれずハイドの背中から下りようとするが、ガッシリ足を掴まれていて下りられない。
「・・・いつまで背負ってるのよ!
恥ずかしいから下ろしてよ!」
「やだね。
小鹿ちゃんの胸が背中に当たって気持ちいいからこのままがいい。」
「ばっ!ばかっ!余計に下ろしてよ!!」
ヒルデは強引に下りようと暴れる。
「うわっ!よせっ!危ねっ・・・!!」
ハイドの背中から仰け反るように落ちかけたヒルデを支えるため、ハイドは即座に体勢を変えた。
左手でしっかりヒルデの背中を受け止めることに成功し、ホッと肩を撫でおろすも、彼の右手は偶然にも彼女の胸の上にあり、その豊かな肉は彼の手のひらを柔らかく受け止めていた。
「あっ・・・乳、やわらけぇ・・・♥」
ハイドは堪らなくなり、そのまま右手を回すように動かし、感触を確かめた。
「やっ・・・あっ・・・!」
ヒルデが仰け反ったまま頬を赤く染め、声を漏らした。
その反応に興奮したハイドは更に胸の中心の硬くなった突起を水着越しに摘んだ!
「・・・ばっ・・・ばかぁ・・・!」
その瞳には涙が滲んでいて、それを見たハイドはゾクッと身が震え、自分の下半身に血が集まるのを感じた。
そしてそこへと視線を落とすと、勃起した性器が短パンからはみ出さんばかりに主張していた。
「あ・・・・・勃起した・・・!」
その直後、ヒルデはハイドに平手打ちを繰り出した!
ーパアンッ!ー
大きな音が辺りに鳴り響くと、彼の綺麗な顔の左頬に、真っ赤な手形が刻まれていた。
「バカっ!スケベ!!変態!!くたばっちまえ!!!」
彼女はそうまくしたてると水着姿のまま怒って立ち去って行ってしまった。
「・・・やっぱ小鹿ちゃんサイコー・・・♥」
ぶたれた頬を押さえ、股間を大きくしたままハイドは呟いた。
そのあとすぐに窓から帰宅したハイドは、ベッドに横になると手形の残った頬を冷やすこともせず、先程のヒルデの水着姿と触れた胸の感触、彼女のか細い声、そして真っ赤になって涙ぐんだ時の顔を思い出し、初めての自慰をするのだった。
「はっ・・・はあっ・・・小鹿ちゃん・・・小鹿ちゃん・・・
まじ・・・可愛い・・・もっと、泣かせたい・・・・・・くっ!
やばっ・・・気持ちいい・・・これっ・・・て、おれも・・・オトコに・・・なれんじゃね・・・・・・?
ハァ・・・ハァ・・・・・・ハアッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・ヒルデ・・・ヒル・・・デ・・・!・・・・・うくっ!!」
荒い息をつきながら、ハイドは手で受け止め損ねて布団にかかってしまった精液を見て拳を握りしめガッツポーズをとった。
「やったーーーーー!!
ついに・・・
オトコに、なったぞーーーーー!!!」
森の青鹿亭のヒルデの部屋まで届きそうな大声で歓喜するのだった。
その翌朝。
鞄をスクールに置いてきてしまったためにいつもと違う袋に荷物を詰めて登校しているヒルデを見つけたハイドは、彼女に気づかれないよう音を立てない走り方でその背後まで駆け寄ると、勢いよくそのスカートをめくりあげた。
「きゃっ!ハイド!あんたはもうっ、毎朝毎朝・・・!」
「おはよー!小鹿ちゃん!
おっ♥今日はピンクのストライプか!
いいことありそう♪」
「・・・あたしのパンツは占いか!」
ヒルデはいつものノリでそうつっ込んだ後、彼の頬に湿布が貼ってあるのを見て、昨日胸を触られたことと、頬を張ってしまったことを改めて思い出し、赤面しながら謝った。
「昨日は叩いちゃってごめん・・・。
でも、あんたがあんなことをするのが悪いんだからね!」
「あぁ、コレ?
もう全然ヘーキなのにサアラが念の為貼ってろって言うからさ。
直ぐに冷やせば良かったんだろーけど、あの時は他に優先したいコトがあったからよー・・・。」
と言ってそれを剥がすと、もう既に赤みは引いており、ヒルデはホッとした。
「でもあのラッキースケベの胸タッチから、更なる感触を追求せずに手を引くなんてオトコじゃねーだろ。
好きなオンナの胸だぜ?
もっと触りたくなるのがフツーだって。」
ハイドはニヤニヤしながらそう言った。
「・・・あんたまだオトコじゃないくせに何言ってんのよ・・・。」
ヒルデが顔を赤く染めて俯きながらそう言うと、ハイドはその顔を覗き込みながらしゃがみ込むと、彼女の瑠璃色の瞳を見上げて言った。
「小鹿ちゃん、俺あの後すぐにオトコになったぜ?」
「・・・えっ?」
「俺もう子種出せるの。
小鹿ちゃんと俺、子供が作れるんだぜ?
すげーよな!」
「・・・・・!!」
ヒルデはそれを聞き、既に赤かった顔を更に赤く染め、頭から湯気を立ち上らせた。
ハイドはそんな彼女の反応を暫く楽しそうに眺めていたが、
やがて唇を固く結ぶと、真剣な顔になり、膝に手をつき立ち上がってから切り出した。
「オトコになったら、ケーキのお返しにキスして欲しいって俺、言ったよな?
あれって有効?」
「・・・・・。」
ヒルデも真顔になり、少しの間黙り込んでから言った。
「お返しに物凄ーく辛いケーキを焼いてあげるって言ったじゃない。」
「俺は辛いケーキじゃなくて小鹿ちゃんの唇が欲しい。」
ハイドは真剣な顔のままそう返した。
「・・・そもそもオンナになったお祝いのケーキなんてあたし全然頼んでないのに、それを勝手に押し付けておいて、お返しを求めるなんて狡いわよ。
無効よ!そんなの。」
ヒルデは目を吊り上げながらそう言うと、プイッとそっぽを向いた。
「そうか?これはオトコとオンナの駆け引きってやつだろ。
俺が張った罠に引っ掛かったのは小鹿ちゃんの意思だ。」
ヒルデはハイドの容赦ないその言葉に背けた顔を戻すと、すぐに反論した。
「あれは、あんたが強引に話を進めちゃったから・・・!」
「強引でも何でも、本当に俺のことが嫌ならもっとはっきりと拒否することもできた筈だぜ?
・・・違うか?」
ヒルデは反論できず、俯いた。
「そんで、小鹿ちゃんは人にしてもらった好意を返さないなんてことはしないって俺は知ってる。」
「・・・・・あんたってホント狡いよ・・・・・。」
「なんとでも言えよ。
それじゃ、小鹿ちゃん、オトコになったお祝いのキス、早くしてくれね?」
ハイドは自分の唇を指差して意地悪く笑った。
ヒルデはしばらく考えた後、何かを決意し、頬を赤く染めてハイドの腕をとった。
「・・・人に見られると恥ずかしいから、こっちに来てくれる・・・?」
と、ヒルデに近くにある大きな街路樹の影へと誘われる。
ハイドは期待に胸を膨らませ、彼女に従った。
「目、閉じて・・・。」
ハイドはドキドキしながら目を閉じた。
そのまま待つこと10秒・・・。
ハイドの頬に、柔らかく温かいものが戸惑いがちに触れた。
「えっ・・・・・唇じゃねーの!!?」
思わず目を開けてからヒルデを見やると、彼女はかつて見たことがないくらい真っ赤になっていて、ツン!とソッポを向いた。
「別に唇だなんて言ってないし!
それじゃ、ちゃんとお返しはしたからね!!」
そう言い残すと真っ赤な顔のまま走って行ってしまった。
木陰に残されたハイドは、まだ彼女の唇の余韻が残る左頬を手でそっと押さえてから呟いた。
「ま、いっか・・・。
だが、次こそは唇を貰ってやる!」
そう言って自分の唇をペロッと舐めるのだった。
─ 追記〈辛~~いお菓子〉─
ヒルデの唇を頬に貰った数日後のこと。
その日は日曜日でスクールが休みなので、ハイドはライキと一緒に西の森に入った。
そして16時頃に帰宅し、
夕食までの時間にヒルデに会いに青鹿亭に顔を出してみるかなと、私服に着替えていた。
すると、サアラが部屋までやってきて、
「ハイド、玄関にお客さんが来てるわよ?」
と、妙にニコニコしながら伝えてきた。
「誰?ガロ?」
ハイドが尋ねると、サアラが首を振る。
「この間来てたヒルデちゃんよ?
うふふ、あんたも隅に置けないわねぇ。
あがって行ってって言ったんだけど、玄関で良いっていうのよ。
早く行ってあげなさい?
女の子を待たせるなんて可哀そうよ?」
ヒルデが来てくれたと聞いて嬉しくて、大急ぎで段を飛ばして階段を駆け下りた。
すると、小さな紙袋を持ったヒルデが青鹿亭の制服のままで玄関に立って待っていた。
「これ・・・あんたにあげるわ。
この間の”お返し”じゃ、あんた満足してなかったみたいだったから、不足分をこれで返させて・・・。」
彼女は頬を赤く染めてその紙袋を差し出した。
「・・・ありがと。
これ、何が入ってんの?」
ハイドはそれを受け取ると中を見た。
そこには見たことがない赤い粉がまぶしてある丸くて硬いものが数枚入っていた。
「本当は辛いケーキを焼いてみたんだけど、どうしても美味しくならなくて。
それで、リーネ・・・空駒鳥って知ってるでしょ?
その子あんたの弟と同じ年だけど、すごくお菓子作りが上手なのね。
だから、あんたが好きそうなお菓子をその子に相談して、作り方を教えてもらって作ってみたの。
おせんべいっていうんだって。
良かったら食べて・・・?」
「・・・ふーん・・・おせんべい・・・ね。」
ハイドは柔らかく笑ってからおせんべいと呼ばれたそのお菓子を袋から一枚取り出すと、その場で齧ってみた。
バリッ・・・もぐもぐもぐ・・・。
「おっ・・・これベースは米か?
それに、ちょっと変わった調味料使ってんな・・・。
表面にまぶしてるのは唐辛子か。
辛い・・・けど美味い・・・!
これ俺好きだわ!
サンキュー!ヒルデ!!」
と笑って更にもう一枚食べ始めた。
『・・・こいつの舌どーなってんの。
火を噴くくらい辛くしたのに顔色変えずに普通に食べてるし・・・。』
ヒルデは小さく呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、別に!
まぁ、気に入ってくれたならよかったわ!
それじゃあ、あたし店に戻るから。
また明日学校でね!」
「おう!またな!
明日はセクシーなパンツ履いて来いよ!」
「誰が履くか!」
あっかんべーをしながらオレンジに染まる道を駆けていくヒルデを見送るハイドなのだった。
昨日初潮を迎えたばかりのヒルデは、いつもの通学路をとてもブルーな気分で歩いていた。
(はぁ・・・お腹痛い・・・腰が重たい・・・。
こんなのが毎月来るだなんて、女って憂鬱だな・・・。)
そんなヒルデのスカートを後ろから突風のように駆けてきたハイドが勢い良くめくった!
「おはよー!小鹿ちゃん♪」
「きゃっ!ハ、ハイド!!」
「・・・あれ?
今日はパンツの上にもう1枚履いてやんの・・・つまんねー・・・。」
ヒルデは真っ赤になってスカートを押さえながら心の中で捲し立てた。
(あんたが毎朝スカートをめくってくるのはわかってるから対策したのよ!
生理が来たことなんかこいつに知られたらいつもより余計にからかわれるに決まってるし!)
ハイドはヒルデのスカートの前でしゃがみ込んだまま首をかしげていた。
「いや、この暑いのに重ね履きとかおかしくねーか?
・・・もしかして・・・。」
そう呟くと、ヒルデの死角からもう一度スカートをバッ!とめくるとパンツの上に履いているドロワーズを掴んで下ろした!
「ギャーーー!何すんのよ!!」
ヒルデの水玉ショーツが露わになり、布ナプキンが当ててあるのが見て取れた。
「サアラがたまに干してるのと同じようなの付けてるっつーことは・・・やっぱり・・・!
小鹿ちゃん女になったんだな!
おめでとう!!」
とニッと笑ってパチパチと手を叩いた。
酷くからかわれると思っていたヒルデはハイドの予想外の反応にあっけに取られ言葉を詰まらせた。
「・・・・・お、おめ!?
えっ?あっ・・・。
・・・ち、ちっともおめでたくなんかないわよ・・・。
お腹痛いし憂鬱だし・・・。
しかもあんたに知られるとかサイテー・・・。」
ヒルデは真っ赤な顔で眉をひそめプイッとそっぽを向いた。
「なんで?子供が産める身体になったってことだろ?
おめでたいじゃん。
そっか、それで昨日途中で帰っちまったんだな。
女子はお祝いとかするんだろ?
してもらえたか?」
「・・・昨日カルラおばさんがケーキを焼いてくれて、父さんが張り切ってデコレーションしてたわよ・・・。」
「そっか!良かったな!
俺もケーキ焼いてやるよ。
どんなのがいい?」
「えっ!い、いいわよ別に・・・。
ていうか、あんたがケーキ焼くとか冗談でしょ?」
「・・・あれ、言ってなかったか?
俺料理が趣味なの!
サアラの・・・あ、サアラは俺の母親の名前な!
あいつの誕生日に毎年俺がケーキ焼いてるぜ?
女って甘いの好きだよなー。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「うん。で、どんなのがいい?」
「い、いいってば・・・。
父さんでもお祝いされるの恥ずかしかったのに、同い歳の男子にお祝いされるとかどんな羞恥プレイよ・・・。」
真っ赤な顔を両手で隠して俯くヒルデ。
ハイドはその様子をニヤニヤしながら満足げに眺めて顔を近づけ覗き込んだ。
「ふーん・・・小鹿ちゃん俺にお祝いされるのが恥ずかしいんだ?
・・・ふふふっ、んじゃ尚更ケーキ作んねーと!
どんなケーキかはお楽しみっつー事でいい!?」
反対方向から登校してくるガロを見つけたハイドは彼に向かって手を振った。
「明日スクールの帰りに俺んち寄ってけよ。
ケーキ、用意しとくから!
俺ガロと話あるから先行くけど、今日はあんま無理すんなよ!」
と言い残してガロの所へ駆けて行った。
「もう、ケーキなんていらないって言ってるのに・・・。」
ヒルデは真っ赤になったまま独りごちた。
次の日のスクールの帰り道、ハイドは約束通りヒルデを自宅へと招くため、その隣をにこにこしながら歩いていた。
ヒルデは昨日よりは若干マシになったとはいえ、まだブルーデイの最中。
正直早く家に帰りたかったが、隣を歩いているハイドが上機嫌で鼻歌を歌っているので邪険にも出来ず、
(そんなに嬉しいんだ?・・・何か可愛いかも。)
と思って密かに微笑んだ。
彼の家は-Hunt-という文字と武器が描かれた看板のある、村の一番隅っこの家だった。
ヒルデは隣の肉屋のほうにはお遣いで訪れたことがあったが、こちらにお邪魔するのは初めてだった。
「どーぞ、あがってよ。」
「お邪魔します・・・。」
ヒルデが玄関先でおずおずと挨拶すると、ハイドから放課後に好きな子を自宅に連れてくると聞いていたサアラが肉屋と自宅を繋ぐ扉から顔を出して笑顔で出迎えた。
「あらいらっしゃい!
うふふ、ホントに可愛い子じゃない!
いつもこの子が迷惑かけてごめんなさいね!
どうぞごゆっくり!」
と言ってからお客の対応をしに慌てて店の方へ戻って行った。
「小鹿ちゃん、こっち。」
ハイドは玄関に入ってすぐ右側にある扉に手をかけて手招きをした。
そこはリビングになっていて、木のローテーブルと水色のソファー、観葉植物が置いてあり、狩人の家らしく羽や牙、角、毛皮などが壁や暖炉の上に飾られてあった。
「今持ってくるから適当に座って待ってろよ。」
そう言うとハイドは奥のキッチンの方に消えて行った。
ヒルデがキョロキョロ辺りを見渡してから近くのソファーにちょこんと腰を掛けると、2階からとんとんとんと少し軽い足音が降りてきて、銀の小さな頭がひょこっと覗いた。
「あっ、こんにちは!」
ハイドの弟のライキがペコッと頭を下げたので、ヒルデも「こんにちは、お邪魔してます。」と軽く挨拶をした。
(えぇと、確か3学年下の、低学年クラスにいる弟・・・。
名前はライキ、だっけ。)
スクールに彼が入学してきた時に女子を中心に噂になっていたので、ヒルデは少しだけ彼のことを知っていた。
彼もハイドと同じ髪色で少し癖があり、それをヘアピンで止めていた。
たが彼の目はハイドと違って鋭く、瞳の色はサアラと同じ澄んだ菫色。
兄とは違うタイプの凛々しい美少年だった。
彼はこれから狩りに行くのか軽く武装をしていた。
「おっ、ライキも食ってく?ケーキだけど。」
キッチンからケーキを持って現れたハイドが声をかけた。
「ううん、いいよ。」
「まぁお前も甘いの食わねーもんな。
今から森入んの?」
「うん!」
「お前ホント狩り好きな。
んじゃついでにこれ。
薬屋のばーちゃんと空駒鳥ちゃんにお裾分けしてきな?」
と自分の作ったケーキを2つ、容器に入れて渡した。
「ありがと兄貴!
ばーちゃんとリーネ甘いの好きだから喜びそう!」
「スクールだと空駒鳥ちゃんと話しにくいんだろ?
これをキッカケに少しでも話してこいよ。」
「・・・うん!
じゃ、行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい。」
ハイドは弟を見送ってから、ヒルデの横に来てケーキを出した。
「待たせたな。どーぞ。」
彼の作ったケーキは小さなブルーベリータルトで、小さな白い花を型どった砂糖菓子がひとつ、ブルーベリーの上に乗っかっていた。
「・・・凄く綺麗・・・。
これ、あんたが作ったんだ・・・。」
ヒルデは思わず息を飲み、素直な感想が口を付いて出た。
「うん。今朝作って冷やしといた!
小鹿ちゃんのイメージでブルーベリータルトにしたけど、嫌いじゃなかったか?」
「う、うん・・・。
ブルーベリー好き・・・。」
「よかった!飲み物は珈琲でいい?」
「・・・うん。」
手慣れた手つきで珈琲を淹れるハイド。
(驚いた・・・!
まさかここまでクオリティの高いケーキが出てくるなんて!
うちの店顔負けだわ・・・。)
そんなことを思っていると目の前にいい香りを放った珈琲が置かれた。
「砂糖とミルクはいるか?」
「あっ・・・じゃあミルクだけ・・・。」
「ん、どーぞ。」
ミルク壺をヒルデに渡すとヒルデの向かいに座り、テーブルに肘をついてニッと笑うハイド。
「どーぞ食って?」
「あんたのは?」
「俺甘いの好きじゃないの知ってるだろ?
俺は珈琲だけでいーや。
早く食ってみろって♪」
そう言って、にこにこ微笑みながらヒルデを見る。
(そんな見られてると食べづらいんだけど・・・。)
「い、いただきます・・・。」
手を合わせてからタルトにサクッとフォークを入れると、中はレアチーズベースの白いムースが入っていた。
ひとくち分を切り分けてから、そっと口に運ぶ。
はむっ・・・もぐもぐもぐ・・・。
「~~~~~!!」
ヒルデは幸せそうに頬を染めて微笑んだ!
「お、美味しいっ・・・!!」
「よかった!
まだあるからどんどん食っていーぜ?」
そう言ってニヤニヤと眺めてくるハイド。
「な、何よ・・・。
そんなニヤニヤ見てきてさ・・・。
気持ち悪いんだけど。」
「いや、
今この瞬間に俺が作ったケーキがどんどん小鹿ちゃんのナカに入っていって、
それを味わった小鹿ちゃんが幸せそうな顔して蕩けてると思ったらさ、
考えようによっちゃエロいっつーか、堪んねーなと思って♥」
ヒルデは真っ赤になって眉を寄せた。
「・・・・・。
あたしのケーキにだけ何か入れたりしてないでしょうね?
マールばあちゃんのとこの媚薬とか惚れ薬とか・・・。」
「アハハハ!ねーよ!
前に冷やかしで聞いてみたんだけどよ、スゲー値段すんだぜあれ!
見習い狩人に買えるかっつーの(笑)
つーか、そんなん無しで小鹿ちゃんをオトしたいの俺は。
でもこれで小鹿ちゃんが俺の事を好きになったなら、このケーキに媚薬が入ってたっつーことで周りに弁解してもいーんだぜ?」
「・・・残りのケーキひとつ貰っていい?
そしたらマールばあちゃんの所で惚れ薬を1滴わけてもらって、それをケーキに混ぜてあんたからだって父さんに渡してあげようか?
そしてあんたに惚れた父さんとイチャイチャすればいいのよ。」
「ゲッ・・・気持ちわるぅ!!
想像しただけで鳥肌たったわ!!」
ハイドが大袈裟なくらい青ざめてとても嫌そうな顔で拒むように手を振ったので、可笑しくてヒルデは笑った。
「アハハハ!あんたのその顔!可笑しい・・・!」
「・・・・・やっぱ笑ってる小鹿ちゃん最高に可愛い♥
これが見れるんなら毎日ケーキを焼いてもいいな!」
「・・・そんなにケーキばかり食べてたら太っちゃうからいらないってば!」
ヒルデはツンケンした態度をとりながらも、今回の件でハイドにいくらか心を許したようで、まんざらでもなさそうだった。
それを感じ取ったハイドは身を乗り出してヒルデに近づき、真っ直ぐに見つめながら本音をぶつけてきた。
「・・・なぁ、俺がオトコになったら、このお返しにキスして。」
「・・・・・!!」
それを聞いたヒルデは一瞬で顔を強ばらせ、俯き、そして低く冷たい声で言った。
「キスなんかしないわ。」
予想外のヒルデの反応に、ハイドは何かを感じて眉を寄せた。
「・・・どうした小鹿ちゃん?」
心配そうに自分を覗き込むハイドにはっとしたヒルデは慌てて顔を上げ、意地悪く歯を見せて笑ってから言った。
「・・・そのときは、あんたの好きな辛ーいケーキでも焼いてやろうかしら?」
─その数日後、ジュニアスクールの昼休み。
やっと生理が終わったヒルデは少し気持ちも落ち着き、自分の席で本を読んで過ごしていた。
だが10~12歳の3学年が集まるこの教室の男子達の中には、エロい話題に関心が強くなってきた者も幾らか出てきて、そんな男子達が集まり昨夜誰をおかずにしただのそんな下ネタで盛り上がっており、居心地が悪かった。
ネオラを初めとした女子達もその集団に軽蔑した眼差しを向けて文句を飛ばしていたが、そんなことはお構い無しで馬鹿騒ぎだ。
一方ハイドも教室の窓際の席で先に精通が来たガロとモロそっち系の話をしていた。
「こないだ俺んちのスパに覗き穴を作ったって言ったろ?
昨日そこから女湯を覗いてたらさ、すげーエロい女がいてよ。
それ見て扱いているうちにだんだん良くなってきて、それが限界まで登りつめたら出たわ。
白くてドロドロですげー匂いのヤツ・・・!
やーっとオトコになれたわオレ。」
「へぇー、そーか!
いーなぁガロ。
俺も早くオトコになりてーなぁ・・・。」
「ハイドは勃ったりはすんの?」
「うーん、刺激してりゃ勃つには勃つけどエロいことで興奮して勃つってのはまだ無いな。」
「そーか・・・ということは朝勃ちもまだか。
お前体格いいし早そーだからもうじき来るんじゃね?」
「だといーな。
そしたら小鹿ちゃんすんすんしたら勃ったりすんのかな!?」
「ハハッ、すんじゃね?」
「いやーん、はずかしーー♥
おっきくなったの小鹿ちゃんにバレちゃう♥」
「いや、お前はノリノリでヒルデに硬いの押し付ける質だろが(笑)」
「バレた?」
「バレバレだっつーの!」
ワハハ!と笑い合って2人はクロス当てを交わした。
それが聴こえていたヒルデは真っ赤になって席を立った。
(ぜーんぶ聴こえてるんだけど・・・!
な、何よエッチなことばっかり!
あいつがオトコになったらマジで火を噴くくらい激辛なケーキを焼いてやるわよ!)
通りすがりにハイドを睨んでから去っていく。
ヒルデが去ると、そのタイミングを狙って先程から下ネタで盛り上がっていた男子グループの中心人物、ハイドの1学年上のテオが話しだした。
「あのさ、俺昨日ヒルデで抜いたんだよ。
あいつ可愛いしこのクラスの中じゃ胸も一番デカいじゃん?エロいよなぁ・・・♥」
「ば、馬鹿野郎!ハイドに聞かれるぜ?」
すると既に聞こえていたハイドがすぐ傍に立っており、額に血管を浮かばせ腕組みをしてテオを見下ろしていた。
「・・・その話、俺も混ぜてもらっていい?」
「ハ、ハイド!!
い、いや、こいつ、このニックがこんな絵を描いて寄こしたからつい・・・!
わ、悪気はねーんだよ!ホントに!」
と隣にいた男子を指差してからその絵を見せた。
それを見たハイドは鼻で笑い飛ばす。
「ふっ・・・テオセンパイさぁ、こんなんで抜けんの?
全然ヒルデに似てねーじゃん。
ヒルデはもっとさぁ・・・。」
と言ってその絵を描いた男子ニックから鉛筆を奪うとサラサラと紙の裏に描きはじめた。
「こんな感じだろ?」
そして見せた絵はかなりリアルなヒルデの顔が再現されており、一同は度肝を抜かした。
「すげぇー――!!
絵上手いんすねハイドさん!!
まじパネェ!!」
テオが急に敬語になった。
「・・・でも、折角だから顔から下も描いてくれませんかねぇ?
出来れば素っ裸のやつ・・・!」
そう言ってゴマすりをしてくる。
「やだね。
ニックが描いた絵を元にした妄想ならたかが知れてるし、許してやってもいいけど、
リアルなヒルデで妄想するネタなんかくれてやるかよ。」
「そんなぁ!ハイドさん頼みますよ!」
「しゃーねぇなぁ・・・。
テオセンパイはこれでシコっとけよ。」
そういうと男子に人気の女性教師、シエラ先生の裸の絵をサラサラと描いて「ホイ」と渡した。
「おおおおおーーー!!
俺らの天使、シエラ先生がぁーーー!!」
更にサラサラとシエラ先生の艶かしい絵を量産してはその集団に差し出した。
「「「うぉおおぉーーー!!」」」
男子達は歓喜し、大騒ぎだ。
「ヒルデじゃなきゃまた描いてやるからもうヒルデで妄想はするなよ?
あいつは俺専用なんだよ。
したらどうなるか・・・わかるよな?」
ポキッ、ポキッと指を鳴らすハイド。
「「「ははぁぁぁーーー!!」」」
一同はその場に土下座するのだった。
「よし!これで当面のところの害虫は駆除出来たかな?」
ハイドが満足そうに頷く。
そのハイドの背後でガロが苦笑いしていた。
「よーやるわホント・・・。」
キーーーン、コーーーン、カーーーン・・・
そこで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いたため、みんないそいそと自分の席に着き始めた。
予鈴を聞いて戻ってきたヒルデはそんなやり取りがあったことも知らずに自分の席に着いた。
「はーい!皆さんそろそろ次の授業ですから準備をしてくださぁい!」
笑顔で教室のドアを開け次の授業の準備を促しに来たシエラ先生が、土下座の勢いで舞い上がっていて、ひらひらと目の前に落ちてきた1枚の紙を手に取って真っ赤になった。
「えっ!!これ私の裸!?」
シエラ先生は自分の裸の絵に狼狽えて、彼女が担当する学年の授業はボロボロだったようだが、5時間目は滞りなく終わり、本日最後の授業、6時間目になった。
それはハイドが待ちに待った体育、水泳だった。
フォレストサイド村のプール授業は、生徒の人数も少ないため、男女まとめて行われていた。
「小鹿ちゃんの水着姿、今日こそは拝めるかな?」
「このスケベが。」
「ガロは小鹿ちゃんのこと見んなよ?
さっき色気づいた男子共には釘を刺しておいたから、ヒルデの水着姿をネタにする命知らずはおそらくいねーだろーけどな。」
「見るなと言われてもあんだけ目立ちゃどーしても視界には入るだろーけど安心しろよ。
ネタにしねーからよ。
お前にボコられたかねーし(笑)」
プールサイドでそんなことをガロと話しながら、ハイドはワクワクと彼女が着替えを終えて出てくるのを待っていた。
プール自体は少し前に開いていたが、ヒルデは先日まで生理だったので、ずっと体育を休んでいたのだ。
よって、彼女の水着姿を見るのは今年初めてになる。
「お、女子が出てきたぜ?」
とガロが言った。
先にネオラとその取り巻きが出てきた後、恥ずかしそうに胸元を隠したヒルデがおずおずと出てきた。
ハイドはヒルデの傍まで駆け寄り、声をかけた。
「小鹿ちゃーん♪
・・・何で胸隠してんの?」
「・・・なんでって・・・それは・・・。」
「俺に良く見せてよ。
去年からどれくらいデカくなったの?」
ハイドはヒルデの手をどけようと手を伸ばした。
「やっ・・・!やめてよ!あんたみたいなのがいるから隠してんの!」
「隠されると余計に見たくなるんだけどなぁ?」
そんなやり取りを近くで見ていたネオラ達がひそひそと陰口を叩く。
「なーにあれ、あてつけ?」
「じゃない?
流石は男に媚を売るのがお得意なだけはあるわね。
いやらしい身体つきしちゃってさぁ。」
「店の客にお触り許しちゃってんじゃない?
揉むと大きくなるってうちのお兄ちゃんが言ってた。」
「やだぁ~~~不潔!!」
ヒルデはそれを聞いて、唇を噛み締め俯いた。
「・・・何で黙ってんの?
俺に対していつも言い返してくるみたいにあいつらにも言い返せばいいだろ?
小鹿ちゃんは何も後ろめたいことなんかしてないんだし、堂々とデカい胸張ってろよ。」
ハイドの言葉にヒルデは胸を隠していた手を下ろし、拳を握りしめると、低い声で返した。
「・・・あんたにはわかんないわよ。
あんたみたいな、早くオトコになりたいなんて言える奴には!
あたしが何を言ったって、ネオラ達には絶対に届かないし、無駄だってわかってるから、
だから黙ってやり過ごしてたのに、それの何が悪いの!?
それに、あたしだって自分のこんな身体、全然好きじゃない・・・!
オンナになんか、なりたくなかった・・・!!
こんなの、堂々とできるわけがないじゃない・・・!!」
「・・・・・・俺はお前の身体、すげー好きなんだけど・・・。」
ハイドは目の前で晒されているヒルデの水着姿に目が釘付けになりながらそう言った。
ヒルデはその視線に気が付き、慌ててまた胸を隠した。
「・・・これは、想像以上で、他の奴にはちょっと見せられねーわ・・・。」
ハイドは頬を赤らめ視線を逸らしながらそう呟くと、ヒルデの手を取り「よいしょ」と背負った。
「は!?えっ!?ええぇっ!?」
ヒルデはあまりの出来事に訳が分からず、素っ頓狂な声を上げた。
「このままフけよーぜ!小鹿ちゃん!」
「は?あんた何言って・・・!?
・・・っていうか、あんた重くないの!?
あたし女子の中でも背があるし、結構重・・・・・・。」
それ以上は言いたくなくてヒルデが口を噤むと、ハイドは彼女が言おうとしたことを最後まで察したうえで返した。
「俺時々角イノシシ担いで西の森から帰ってるけど、それに比べたら全然ヘーキ!
あいつら50㎏くらいあるんだぜ?」
そう言いながらハイドはプールを囲うフェンスをひょいっと乗り越えてグラウンドへと着地し、ガロに手を振るのだった。
「ガロ!
つーわけで俺、小鹿ちゃんをお持ち帰りするから、せんせーにはてきとーに言っといてくれよ!
んじゃまたなー!」
「お、おう・・・りょーかい。
またな!」
ガロは呆気にとられつつも笑って二人を見送った。
プールサイドにいたガロを除いたクラスメイトは皆ポカーンとそのままその場に立ち尽くし、遠ざかる二人の姿を見送った。
ハイドに背負われたまま、川沿いの流れる景色を眺めるヒルデ。
「・・・あんたホント何考えてんの・・・。
荷物とか全部スクールに置きっぱなしじゃないの。」
「そんなんどーにでもなるだろ。
俺にとっちゃ小鹿ちゃんの水着姿を他のヤローに見られる方が一大事なの。」
「・・・・めちゃくちゃな奴・・・。」
通り過ぎる村人たちが二人の姿に驚き振り返って見る。
(そりゃあ目立つよね・・・。
水着姿で背負われて・・・。
何やってんだろうあたし・・・。)
ヒルデは真っ赤になると、いたたまれずハイドの背中から下りようとするが、ガッシリ足を掴まれていて下りられない。
「・・・いつまで背負ってるのよ!
恥ずかしいから下ろしてよ!」
「やだね。
小鹿ちゃんの胸が背中に当たって気持ちいいからこのままがいい。」
「ばっ!ばかっ!余計に下ろしてよ!!」
ヒルデは強引に下りようと暴れる。
「うわっ!よせっ!危ねっ・・・!!」
ハイドの背中から仰け反るように落ちかけたヒルデを支えるため、ハイドは即座に体勢を変えた。
左手でしっかりヒルデの背中を受け止めることに成功し、ホッと肩を撫でおろすも、彼の右手は偶然にも彼女の胸の上にあり、その豊かな肉は彼の手のひらを柔らかく受け止めていた。
「あっ・・・乳、やわらけぇ・・・♥」
ハイドは堪らなくなり、そのまま右手を回すように動かし、感触を確かめた。
「やっ・・・あっ・・・!」
ヒルデが仰け反ったまま頬を赤く染め、声を漏らした。
その反応に興奮したハイドは更に胸の中心の硬くなった突起を水着越しに摘んだ!
「・・・ばっ・・・ばかぁ・・・!」
その瞳には涙が滲んでいて、それを見たハイドはゾクッと身が震え、自分の下半身に血が集まるのを感じた。
そしてそこへと視線を落とすと、勃起した性器が短パンからはみ出さんばかりに主張していた。
「あ・・・・・勃起した・・・!」
その直後、ヒルデはハイドに平手打ちを繰り出した!
ーパアンッ!ー
大きな音が辺りに鳴り響くと、彼の綺麗な顔の左頬に、真っ赤な手形が刻まれていた。
「バカっ!スケベ!!変態!!くたばっちまえ!!!」
彼女はそうまくしたてると水着姿のまま怒って立ち去って行ってしまった。
「・・・やっぱ小鹿ちゃんサイコー・・・♥」
ぶたれた頬を押さえ、股間を大きくしたままハイドは呟いた。
そのあとすぐに窓から帰宅したハイドは、ベッドに横になると手形の残った頬を冷やすこともせず、先程のヒルデの水着姿と触れた胸の感触、彼女のか細い声、そして真っ赤になって涙ぐんだ時の顔を思い出し、初めての自慰をするのだった。
「はっ・・・はあっ・・・小鹿ちゃん・・・小鹿ちゃん・・・
まじ・・・可愛い・・・もっと、泣かせたい・・・・・・くっ!
やばっ・・・気持ちいい・・・これっ・・・て、おれも・・・オトコに・・・なれんじゃね・・・・・・?
ハァ・・・ハァ・・・・・・ハアッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・ヒルデ・・・ヒル・・・デ・・・!・・・・・うくっ!!」
荒い息をつきながら、ハイドは手で受け止め損ねて布団にかかってしまった精液を見て拳を握りしめガッツポーズをとった。
「やったーーーーー!!
ついに・・・
オトコに、なったぞーーーーー!!!」
森の青鹿亭のヒルデの部屋まで届きそうな大声で歓喜するのだった。
その翌朝。
鞄をスクールに置いてきてしまったためにいつもと違う袋に荷物を詰めて登校しているヒルデを見つけたハイドは、彼女に気づかれないよう音を立てない走り方でその背後まで駆け寄ると、勢いよくそのスカートをめくりあげた。
「きゃっ!ハイド!あんたはもうっ、毎朝毎朝・・・!」
「おはよー!小鹿ちゃん!
おっ♥今日はピンクのストライプか!
いいことありそう♪」
「・・・あたしのパンツは占いか!」
ヒルデはいつものノリでそうつっ込んだ後、彼の頬に湿布が貼ってあるのを見て、昨日胸を触られたことと、頬を張ってしまったことを改めて思い出し、赤面しながら謝った。
「昨日は叩いちゃってごめん・・・。
でも、あんたがあんなことをするのが悪いんだからね!」
「あぁ、コレ?
もう全然ヘーキなのにサアラが念の為貼ってろって言うからさ。
直ぐに冷やせば良かったんだろーけど、あの時は他に優先したいコトがあったからよー・・・。」
と言ってそれを剥がすと、もう既に赤みは引いており、ヒルデはホッとした。
「でもあのラッキースケベの胸タッチから、更なる感触を追求せずに手を引くなんてオトコじゃねーだろ。
好きなオンナの胸だぜ?
もっと触りたくなるのがフツーだって。」
ハイドはニヤニヤしながらそう言った。
「・・・あんたまだオトコじゃないくせに何言ってんのよ・・・。」
ヒルデが顔を赤く染めて俯きながらそう言うと、ハイドはその顔を覗き込みながらしゃがみ込むと、彼女の瑠璃色の瞳を見上げて言った。
「小鹿ちゃん、俺あの後すぐにオトコになったぜ?」
「・・・えっ?」
「俺もう子種出せるの。
小鹿ちゃんと俺、子供が作れるんだぜ?
すげーよな!」
「・・・・・!!」
ヒルデはそれを聞き、既に赤かった顔を更に赤く染め、頭から湯気を立ち上らせた。
ハイドはそんな彼女の反応を暫く楽しそうに眺めていたが、
やがて唇を固く結ぶと、真剣な顔になり、膝に手をつき立ち上がってから切り出した。
「オトコになったら、ケーキのお返しにキスして欲しいって俺、言ったよな?
あれって有効?」
「・・・・・。」
ヒルデも真顔になり、少しの間黙り込んでから言った。
「お返しに物凄ーく辛いケーキを焼いてあげるって言ったじゃない。」
「俺は辛いケーキじゃなくて小鹿ちゃんの唇が欲しい。」
ハイドは真剣な顔のままそう返した。
「・・・そもそもオンナになったお祝いのケーキなんてあたし全然頼んでないのに、それを勝手に押し付けておいて、お返しを求めるなんて狡いわよ。
無効よ!そんなの。」
ヒルデは目を吊り上げながらそう言うと、プイッとそっぽを向いた。
「そうか?これはオトコとオンナの駆け引きってやつだろ。
俺が張った罠に引っ掛かったのは小鹿ちゃんの意思だ。」
ヒルデはハイドの容赦ないその言葉に背けた顔を戻すと、すぐに反論した。
「あれは、あんたが強引に話を進めちゃったから・・・!」
「強引でも何でも、本当に俺のことが嫌ならもっとはっきりと拒否することもできた筈だぜ?
・・・違うか?」
ヒルデは反論できず、俯いた。
「そんで、小鹿ちゃんは人にしてもらった好意を返さないなんてことはしないって俺は知ってる。」
「・・・・・あんたってホント狡いよ・・・・・。」
「なんとでも言えよ。
それじゃ、小鹿ちゃん、オトコになったお祝いのキス、早くしてくれね?」
ハイドは自分の唇を指差して意地悪く笑った。
ヒルデはしばらく考えた後、何かを決意し、頬を赤く染めてハイドの腕をとった。
「・・・人に見られると恥ずかしいから、こっちに来てくれる・・・?」
と、ヒルデに近くにある大きな街路樹の影へと誘われる。
ハイドは期待に胸を膨らませ、彼女に従った。
「目、閉じて・・・。」
ハイドはドキドキしながら目を閉じた。
そのまま待つこと10秒・・・。
ハイドの頬に、柔らかく温かいものが戸惑いがちに触れた。
「えっ・・・・・唇じゃねーの!!?」
思わず目を開けてからヒルデを見やると、彼女はかつて見たことがないくらい真っ赤になっていて、ツン!とソッポを向いた。
「別に唇だなんて言ってないし!
それじゃ、ちゃんとお返しはしたからね!!」
そう言い残すと真っ赤な顔のまま走って行ってしまった。
木陰に残されたハイドは、まだ彼女の唇の余韻が残る左頬を手でそっと押さえてから呟いた。
「ま、いっか・・・。
だが、次こそは唇を貰ってやる!」
そう言って自分の唇をペロッと舐めるのだった。
─ 追記〈辛~~いお菓子〉─
ヒルデの唇を頬に貰った数日後のこと。
その日は日曜日でスクールが休みなので、ハイドはライキと一緒に西の森に入った。
そして16時頃に帰宅し、
夕食までの時間にヒルデに会いに青鹿亭に顔を出してみるかなと、私服に着替えていた。
すると、サアラが部屋までやってきて、
「ハイド、玄関にお客さんが来てるわよ?」
と、妙にニコニコしながら伝えてきた。
「誰?ガロ?」
ハイドが尋ねると、サアラが首を振る。
「この間来てたヒルデちゃんよ?
うふふ、あんたも隅に置けないわねぇ。
あがって行ってって言ったんだけど、玄関で良いっていうのよ。
早く行ってあげなさい?
女の子を待たせるなんて可哀そうよ?」
ヒルデが来てくれたと聞いて嬉しくて、大急ぎで段を飛ばして階段を駆け下りた。
すると、小さな紙袋を持ったヒルデが青鹿亭の制服のままで玄関に立って待っていた。
「これ・・・あんたにあげるわ。
この間の”お返し”じゃ、あんた満足してなかったみたいだったから、不足分をこれで返させて・・・。」
彼女は頬を赤く染めてその紙袋を差し出した。
「・・・ありがと。
これ、何が入ってんの?」
ハイドはそれを受け取ると中を見た。
そこには見たことがない赤い粉がまぶしてある丸くて硬いものが数枚入っていた。
「本当は辛いケーキを焼いてみたんだけど、どうしても美味しくならなくて。
それで、リーネ・・・空駒鳥って知ってるでしょ?
その子あんたの弟と同じ年だけど、すごくお菓子作りが上手なのね。
だから、あんたが好きそうなお菓子をその子に相談して、作り方を教えてもらって作ってみたの。
おせんべいっていうんだって。
良かったら食べて・・・?」
「・・・ふーん・・・おせんべい・・・ね。」
ハイドは柔らかく笑ってからおせんべいと呼ばれたそのお菓子を袋から一枚取り出すと、その場で齧ってみた。
バリッ・・・もぐもぐもぐ・・・。
「おっ・・・これベースは米か?
それに、ちょっと変わった調味料使ってんな・・・。
表面にまぶしてるのは唐辛子か。
辛い・・・けど美味い・・・!
これ俺好きだわ!
サンキュー!ヒルデ!!」
と笑って更にもう一枚食べ始めた。
『・・・こいつの舌どーなってんの。
火を噴くくらい辛くしたのに顔色変えずに普通に食べてるし・・・。』
ヒルデは小さく呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、別に!
まぁ、気に入ってくれたならよかったわ!
それじゃあ、あたし店に戻るから。
また明日学校でね!」
「おう!またな!
明日はセクシーなパンツ履いて来いよ!」
「誰が履くか!」
あっかんべーをしながらオレンジに染まる道を駆けていくヒルデを見送るハイドなのだった。
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