春雷の銀狼と華やぐ青鹿

彩田和花

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卒業

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卒業式を来月に控えた鶫月(2月)15日、バレンタインデー翌日の朝──。

”卒業したらハイドとつがいになればいい”とマールに勧められたヒルデは、ハイドとの将来をほんのり夢見て、ひっそりとはにかみながらいつもの通学路を歩いていた。
そこへ背後から旋風のように足音もなく駆けてきたハイドが、毎朝の恒例となったスカートめくりをしながら挨拶をしてきた。
「おはよー!小鹿ちゃん!
おっ!今日はピンクのハート柄?
黒タイツに透けててなんかやらしーな♥
今日のは漲るわ俺!」
「ハイド!
あんたは何でこういつもいつも人のスカートを・・・!」
ヒルデは真っ赤になってスカートを押さえながら抗議の声を上げた。
「パンツがハート柄ってことは、もしかして小鹿ちゃんの中で昨日のバレンタインデーがまだ続いてんの?
じゃあパンツのハートの数だけ俺にキスしてくれる?」
「ち、違うわよ!
これは偶然だから!!
それにバレンタインデーは、あんたがくれくれしつこいから、辛~いお煎餅焼いてあげたでしょ!!」
「あのハート型の奴な!
美味かったからもう全部食っちまったよ。」
「うげ・・・唐辛子前の2倍にしたのよ?
何でケロッと食べてんのよ・・・。」
「んで、煎餅の枚数だけ小鹿ちゃんに向けて放っといたから!」
「放つ・・・って何を?」
キョトンと目を丸くして尋ねるヒルデ。
「・・・ナニを放ったのか聞きたい?」
意味深にニヤけてみせるハイド。
「・・・その感じは・・・。
何かエッチなことの気がするからいいわ。」
「ちぇっ!
小鹿ちゃんの顔から湯気が出るとこ見れると思ったのに!」
「やっぱりエッチなことだったんだ・・・。」
「ニシシ!
・・・そいや小鹿ちゃん咳しなくなったな?
風邪、治ったか?」
「・・・う、うん!」
「そっか、良かったな!」
ハイドは何も知らないかのように笑ってみせるのだった。

ジュニアスクールの校舎が近づくと、取り巻きと共に登校して来ているネオラがいたが、特にヒルデを睨んでくる様子もなく、ハイドはそれが逆に少し引っかかった。
(ばあちゃんが言ってたことがあるからな・・・。
卒業するまではなるべくヒルデから目を離さないようにしねーと・・・。)
「おはよー!お二人さん!」
反対側から登校してきたガロが挨拶してきた。
「おはよーガロ!」
「おはよう。
それじゃ、あたし先行くね。」
ヒルデはそう言うと軽く手を振り先に行ってしまった。
「・・・わりぃ、邪魔しちまった?」
ガロが申し訳なさそうに手を合わせてきた。
「いや、いいよ。」
とハイド。
「それよか珍しいな?
さっきネオラ見てただろ。
お前あいつ嫌いなくせに。」
「・・・あぁ。
最近小鹿ちゃんに絡んでこねーから逆に引っかかってんだよな・・・。」
ハイドは腑に落ちないといった顔で呟くように言った。
するとガロが何か心当たりがあるのか、眉を潜めてハイドに言った。
「ふーむ・・・。
ハイド、お前の気がかりに関係ねーかもしれねーけど、一応言っとく。
こないだオレんちの恋人ご用達の個室風呂を覗いてたらさ、ネオラと知らねー男がオレらとタメとは思えねーようなエロいことしててびびった。
別にあいつが誰と何しよーとオレにはカンケーねーけど、スクールじゃ清純ぶってお高く止まってるじゃん?
だから意外だったっつーか・・・。
あいつ、年齢の割に男慣れしてて女の厄介なとこ持ってると思う。
スクールでの妙な静けさも気になるし、何か企んでんのかもしれねー・・・。
気をつけな?」
「女の厄介なところ・・・か。
ありがとガロ。
・・・気を付けとく。」
ハイドはそう答えると唇を硬く結んだ。

その日のジュニアスクールは何事もなく終わり、帰宅したヒルデは鞄を置いてすぐ制服に着替えると、お店を手伝っていた。
ヒルデの叔母カルラは、観光でフォレストサイドに来ていたフランの町の資産家に見初められて結婚が決まっており、ヒルデのジュニアスクール卒業と共にフランの町に行ってしまう。
母親代わりとしてずっと共に暮らしていたカルラが居なくなることはとても寂しかったが、彼女の幸せを心から願っているヒルデは、病の発作が既に出ていてマールの薬でそれを抑えていることを、この叔母、そして父にすら隠していた。
もし知られてしまえば叔母は結婚を諦めてこの村に残ると言いそうだからだ。
「おばさんは結婚の準備とかあるでしょ?
後はあたしに任せてそっちしてなよ。
この店のホールくらいあたし一人でも回せるし!」
とヒルデは叔母を2階へ押し込むと、少し混み始めた店内を一人で注文を取って走り回るのだった。
それを客として訪れていたハイドが渋い顔で見ていた。

雀月(3月)初旬の卒業を間近に控えた頃──。
ジュニアスクールの昼休みの教室にて、ネオラが取り巻きに宣言をした。
「私、卒業式にハイドに告白をするから!」
その時ハイドは成績のことで先生に呼び出しを受けて席を外しており、そのタイミングを狙っての宣言だった。
ヒルデは教室にいたが、聞きたくない話題だったためトイレへと避難すべく席を立った。
「で、でもネオラちゃん、ハイド君は淫売のヒルデなんかが好きなんだよ?」
「そ、そうだよ。
告白してもネオラちゃんが傷つくことになりそうで、心配だよ・・・。」
取り巻き達が表向きは心配してる風に声をかけた。
「大丈夫・・・。
私には切り札があるもの。
それに必殺技もね・・・?」
ネオラは自信たっぷりに微笑んだ。
「その前に、邪魔が入らないように予防線をしっかり張っておかないとね・・・。
あなたたち、ちょっとだけ協力してくれる?」
ヒルデの去って行った方向に視線を送りつつ、取り巻きに言うネオラだった。

ヒルデが女子トイレで手を洗っていると、後からネオラが入ってきたため、ギョッとして顔を引き攣らせた。
だがネオラには珍しく取り巻きがいなかったため、不思議に思ったヒルデは怪訝に眉を潜めた。
「ヒルデ。
あんたに大事な話があるんだけど。」
とネオラが言った。
「・・・何?
いつもの取り巻きもいないようだけど。」
とヒルデはネオラに尋ねた。
「あの子達なら今お話の邪魔が入らないように外で見張りをして貰ってるわ。
あんたにもそのほうが都合のいい話だと思うけど?」
ヒルデはネオラの意味深な言葉に更に眉を潜めた。
「・・・何の話?」
「フフッ・・・。
あんたが前に給食当番のときに言ってた病のこと・・・あれ、本当なのね!」
ネオラは冷ややかに笑いながら言った。
「・・・あれはただの風邪だってハイドがみんなの前で証明したでしょ・・・。」
ヒルデは内心焦っていたが、それを気取られないよう淡々と反論した。
「あの時のキス・・・舌が入ってなかったんでしょ?
だからハイドに移らなかった。
クラスの馬鹿な子供連中はそれで騙せたかもしれないけど、私は引っかかってたのよね・・・。
それで私、診療所であんたのカルテを見たの♪」
「・・・嘘よそんなの!
カルテなんて簡単に部外者が見れるものじゃ・・・。」
ヒルデは眉を吊り上げ首を横に振った。
「あそこの受付、あたしのパパからお金借りてるから、ちょーっとお願いしたら、快く見せてくれたわよ?」
それを聞いてヒルデの顔色が青ざめた。
「それにあんたのおばさん、フランの金持ちと結婚するんだって?
あんたの病気のことを知ったらその結婚もどうなるかしら?」
「・・・!!」
ヒルデは険しい顔をして拳を握りしめ、俯いた。
「なるほど・・・。
それであたしを脅そうって訳・・・。
・・・何が狙い?」
「ハイドを私に頂戴。」
腰に手を当て勝ち誇ったように告げるネオラ。
「はあっ!?
ハイドは誰のものでもないわよ。
あたしに許可を求めるのは間違っているわ!」
「確かにあいつはフリーだけど、ハイドの心にはあんたがいるじゃない。
あんたがあいつに気のある素振りを見せる以上、私はハイドを手に入れられない。
だから、卒業までハイドを無視してよ。
あんたに無視されて傷ついたあいつを私が優しく慰めてあげるの。」
「・・・・・・・。」
黙り込むヒルデ。
「あいつ、エッチなことが大好きみたいだから、あんたの見た目のいやらしさに惹かれたんだろうけどさぁ・・・。
あんた、私より胸は大きいけど、女としてしてあげられること、私よりずっと少ないでしょ?」
「・・・してあげられること・・・?」
「そうよ。
フェラチオって知ってる?
男の子のおちんちんをね、お口でシてあげるんだけど、男の人はみんなそれが好きなのよ?
でもあんたがそれをしたなら、相手に病気を移しちゃうかもしれないでしょ?
それに、女の子の大事なところだって粘膜だから、それを使ったとびきり気持ちいいことだってあるのに、それすらもハイドにしてあげることができない。
あんたが相手じゃハイドが可哀想よ。」
「・・・あ、あんた・・・13歳になったばかりでしょ?
そんないやらしいこと、よく知ってるわね・・・。
そんなことまだあたし達の年齢じゃありえないし、あたしがそれを出来なくたって、あんたにとやかく言われる筋合いは無いわ!」
ヒルデは懸命に反論した。
「そうかしら?
ハイドはそういうこと、もうシたい筈よ・・・?
あいつ、とっくにオトコになってるでしょ?
嬉しそうにガロに話してたから知ってるの。
・・・私、気持ちのいいこと、とても上手なのよ?
ハイドのためにお姉ちゃんの男友達と色々練習したけど、みーんな気持ちよくてたまらないって褒めてくれるの♥
まだ処女だけど、ハイドが私を選んでくれるなら、いずれ処女もあげてもいいと思ってる。
私なら、ハイドのしたいこと、ぜーんぶしてあげられるわ♥」
「・・・・・あいつとつがいになれば、あたしの病はなくなるから、あんたの言うことなんて関係ない・・・!
あんたには負けないわ・・・!!」
ヒルデは絞り出すかのように低い声で、まだ眼の光を失わずに返した。
「つがい!?
あいつがあんたごときにそれを望むとでも!?
そんな重い足枷、引き受けてくれる男なんて何処にいるのかしら?」
「あたしの父さんが、そうだったわ・・・!
父さんとお母さんが出会った年齢じゃもうつがいにはなれなかったけど・・・もし早く巡り会えていたら、父さんはお母さんをつがいにしたわ!
それだけの覚悟が父さんにはあった!
あたしがここにいることがその証拠よ・・・!!」
ヒルデはマールに言われたことを思い出して、瞳に涙を滲ませながらも訴えた。
「あんたのお父さんって超ブサイクじゃない。
だから病気のあんたのお母さんくらいしか相手にしてくれる女がいなかったのよ。
ハイドは将来とてもいい男になるわ。
女なんて選り取り見取りよ。
わざわざ病気の女なんて足枷つけなくても、いくらでもいい思いが出来るわ。
ハイドとつがいだなんて、そんな馬鹿な夢見るのはやめなさいよ。
夢見るならあんたのお父さんみたいなブサイクのうんと優しい男にしときなさい!!」
「・・・・・っ!」
ヒルデは居た堪れなくなって大粒の涙を流しながら、女子トイレを飛び出した。
職員室から戻ったら教室にヒルデがいなかったため、彼女を探して女子トイレ前をウロウロしていたハイドは、急に女子トイレから飛び出して来たヒルデと勢い良くぶつかって、それを抱き止めた。
「小鹿ちゃん!?
お前・・・泣いてんのかよ・・・!?
一体どうした!?」
「・・・!!」
ヒルデは大粒の涙を流す自分を心配そうに覗き込んでくるハイドの胸にそのまま飛び込みたくなったが、先程のネオラの言葉を思い出し何も言えなくなって、その胸を強く押し返すとスクールを飛び出して行ってしまう。
泣きながら鞄も持たずに校舎から走り去るヒルデを、低学年クラスの教室の窓からリーネが目撃し、心配そうにその表情を曇らせた。
「ヒルデさん・・・?」

ハイドはヒルデを追おうとするが、すぐにトイレからネオラが出てきたので、その胸ぐらに物凄い形相で掴みかかった。
「お前ヒルデに何を言った!?」
「別に何も?
お手洗いで一緒になったから、ちょっと世間話をしただけよ?」
「嘘つけよ!!
あいつがあんなに泣くなんて、只事じゃねぇ!!」
ハイドが息を切らしながら怒鳴りつけると、ネオラは口の端をニヤリと上げ、掴まれたブラウスのボタンをワザと外すと大声で叫んだ。
「いやぁぁぁ!!
やめてえぇーーーー!!」
それを聞いて駆けつけた教師達に誤解されたハイドは、ヒルデを追いかけることも許されず、生徒指導室に連れて行かれ、放課後までたっぷりと絞られることになったのだった。

ようやくお説教から開放されたハイドは、ヒルデの忘れて行った鞄を届けてやりに森の青鹿亭を訪れた。
しかし親父が渋い顔で出迎えて言った。
「ヒルデならまだ帰ってねーよ。
スクールで何かあったのか?」
(まだ・・・?
・・・あれから2時間は経ってるぜ・・・?
ばあちゃんのとこか・・・?)
ハイドは無言でヒルデの鞄を親父に託して薬屋へと足を向けるのだった。

ヒルデはスクールを飛び出した後、泣いた顔のままで店に帰るわけにもいかなかったので、桜駒鳥の薬屋に駆け込んだ。
そしてしばらくわんわん泣いた後、マールに話を聞いてもらっていた。
「そうかい・・・そんなことを・・・。
まだジュニアスクールに通う年齢の女子とは思えない悪女っぷりだね。
もう2年位したらそういうのも現れるかとは思っていたけど・・・。」
マールは深くため息をついた。
「・・・お前さんがカルラの幸せのためにバカ王子を無視するしかないのなら、そうするといいさ。
確かにあいつは酷く傷つくだろうけどね・・・。」
「・・・・・。」
ヒルデは俯いて目を伏せ唇を噛んだ。
「でもあの子の言うとおり・・・あたしとつがいになることは、あいつの足枷になる・・・。」
それに対してマールは首を横に振って否定した。
「・・・前にも言ったけど、お前さんとつがいになることを足枷と感じるかどうかはあいつが決めることで、周りがとやかく言うことじゃないよ。」
「あいつだってあたしなんかより、健康で、したいことをさせてくれる女の子のほうがいいに決まってる・・・!!」
ヒルデは悔しそうにスカートを強く握りしめ、涙を散らした。
「・・・それでその女にあっさり気持ちが行くようなら、その程度の男だったってことで諦めな。
だけど、わしはそうは思わんがね?
これでもそれなりに人を見ておるつもりだし、そんな男ならお前さんにつがいになれだなんて勧めたりせんよ?」
マールは優しく諭すようにヒルデに言った。
「・・・・・。」
ヒルデは黙り込んだ。
「後1週間で卒業・・・それまでの辛抱さ。
卒業してしまえばその女子に会うこともないし、バカ王子を無視する必要もなくなるんだ。」
「でも!
卒業式の後告白するって言ってたのよ・・・!
そしたらあいつは・・・・・。」
左右に首を振り、目をギュッと閉じるヒルデ。
「それなら卒業式で白黒つくじゃないか。
ハイドがその女子を振って、卒業しても変わらずお前さんに会いに青鹿亭に来るというのなら、そのときゃ卒業前に無視して傷つけたことを謝って、今お前さんの出来ることで精一杯慰めておやりよ。」
「あたしのできること・・・?」
「うん。
何も粘膜を使わなくったって、手と唇・・・それにその大きなおっぱいという立派な武器がお前さんにはあるじゃないか。
それだけでバカ王子はイチコロだと思うがね?」
と意味深ににやけるマール。
「あっ、あの子みたいな淫らなことをしろというの!?」
真っ赤になってヒルデが抗議した。
「お前さんこの春で13じゃろう?
性器に触れるのはまだ早いと思うから、お前さんのペースでいいよ?
キスしてからおっぱいくらい好きに触らせてやったらどうかね!
ヒッヒッヒッ!」
ヒルデはその言葉に反応して真っ赤になるが、すぐに影を落として俯いてしまう。
「・・・・・きっとあいつは告白を受ける・・・・・。
だからあたしの慰めなんて、必要ない!!!」
そう言ってヒルデは勢いよく薬屋を飛び出して行ってしまった。
そこでヒルデを探して丘を上ってきたハイドに会う。
「!!」
だがヒルデはすぐに下を向いて何も言わずに走り去ってしまった。
「・・・小鹿ちゃん・・・。」
ハイドが薬屋に残されたマールに声をかけた。
「・・・ばあちゃん。
ヒルデと何を話した?」
「・・・お前さんにこの間言ったじゃろう?
女の悪意の話さ・・・。
ライバルに悪意をぶつけられ、女としてのハンデを容赦なく突き付けられて相当傷ついたようだね・・・。
まぁ、相手もまだ13歳・・・。
女の武器を手にしてるとはいえ、その程度で済んでよかったとも言えるがね・・・。
ただ、あの子にはそれでも相当堪えたようだね。
ちょっとエッチな話題でつついてみたけれど・・・あの反応を見ると根は深そうだ。
今はまだ良いけど、病気が進行するにつれ、今回受けた心の傷がまた開いてあの子を苦しめるだろう。
・・・覚悟しておきな・・・。」
「くっ・・・!
あの女・・・・・・・許せねぇ・・・!!」
ハイドは悔しそうに顔を歪めると、行き場のない怒りをぶつける様に拳を固く握った。
「ハイド。
あの子から女としての自信をとことん奪ったうえで、相手がお前さんに容赦なく色仕掛けをしてくるとしたなら、果たしてお前さんはあらがえるのかい?」
マールは真剣な顔でハイドに問いかけるのだった。

翌日、ヒルデは叔母に心配かけまいと何事もなかったかのようにジュニアスクールに通っていた。
すると、いつものように背後から駆けてきたハイドが勢いよくスカートをめくり、少し大人っぽい水色のレースの下着が露になった。
「おはよー!小鹿ちゃん♥
今日はえらく背伸びしたパンツ履いてんじゃん!
俺すげー漲るわ!!」
懸命に明るく振舞うが、ハイドも期待する彼女の反応は貰えないであろうことが解っているだけに、それは祈るような気持ちの含まれた明るさだった。
「・・・・・。」
ヒルデはスカートを押さえることもせず、ハイドの手を振り払うと、無言でスタスタと先に行ってしまった。
「・・・・・。」
ハイドは眉を寄せ、その場にそのまま立ち尽くすのだった。

西日が差し込み赤く染まるハント家のリビングで、来月10歳になるハイドの弟のライキは顔を曇らせていた。
「・・・どうしたの?ライキ。」
サアラが心配して声をかけた。
「あ・・・母さん・・・。
最近兄貴が元気ないから、どうしたのかなって・・・。
俺が訊いても、何も話してくれないんだ・・・。」
すると母サアラはライキの頭を優しくなでてやると言った。
「お兄ちゃんは恋をしているからね・・・。
恋は時に人を天にも昇らせるけれど、地に落とすこともあるわ。
きっと、今はつらい時期なのでしょう・・・。」
「何か俺にできることはないの・・・?
元の兄貴に戻ってほしい・・・。」
「・・・それなら、教会の女神フェリシア様にお祈りしておいで。
あなたもハイドもフェリシア様から祝福を受けた私たち夫婦の子供なんですもの。
あなたが強く祈れば、きっとあなたの声に気が付いて、フェリシア様が明るい方向へと導いてくださるわ。」
「・・・うん、わかった・・・。
今俺に出来ることを精一杯にやってみるよ・・・!
ありがとう、母さん・・・!」
ライキはすぐに家を飛び出し、教会へと続くオレンジ色に染まる道を駆けていく。
教会に辿り着くと、ステンドグラスを背に立つ女神像の前に跪き、手を組むと兄の幸せを強く願うのだった。
彼が祈りを終えて顔を上げると、
「・・・ライキ?」
と、可愛らしい声に呼ばれた。
そこには彼の愛しの少女リーネの姿があり、彼女も一人で教会に来ていたのだった。
「ライキもフェリシア様にお願いがあってきたの?」
「・・・うん。」
「・・・私も、なんだ・・・。
仲良しのお姉さんが、元気ないから・・・。」
彼女はそう言うと、彼の隣に跪き、空色の瞳を閉じると手を組んで祈り始めた。
ライキは彼女が祈り終えるのを待ち、もう暗くなるからと桜駒鳥の薬屋まで送っていくのだった。

その翌日のことである。
教室で女子達が伝説の神使ヴィセルテの姿を村の教会で見かけたと噂していた。
何でもその美しい金の瞳は全てを見通せる特別な力を持っているだとか。
男子達は逆にうさんくせぇ・・・と呆れかえっていた。
ヒルデは叔母に心配をかけたくなくて毎日ジュニアスクールには来ていたが、元気がなく、何事にも関心を示さないで虚ろな目をしていた。
ハイドはそんな彼女を心配そうに見ることしか出来なかった・・・。
一方ネオラは、
「ヴィセルテ様のその神秘なる金の瞳で、ハイドとの幸せな未来を視てもらいたい!」
と身勝手にはしゃいでいたのだった。

そしてついに卒業式──。
ヒルデは来なかった。
叔母は昨日夫となる人が迎えに来てフランの町へと行ってしまったし、彼女にはもう無理をしてジュニアスクールに行く必要もなかったのだ。
朝のうちは客も少ないし、卒業式は午前中で終わるから式には出て来いと父親に言われたが、それよりも店にいる方が気が楽だった彼女は、
「神使様がどうとかで村中騒がしいし、教会から近いうちにお客さんがたくさん来るかもしれないじゃない!
そしたら父さん一人でどうするのよ!
看板娘がいないと困るでしょ?」
と笑い飛ばした。
だが一番の理由は、ハイドがネオラとくっつく所を見たくなかったからだった──。

卒業式が終わる──。
ガロは後輩女子から告白が目的だと思われる呼び出しを受けて行ってしまったため、ハイドは一人裏庭にいた。
ハイドに告白したい女子は沢山いたが、ネオラが圧力をかけていたため彼に告白する勇気のある者はいなかった。
(まだ無視されるかもしれねーけど、小鹿ちゃんに会いに行ってみよう・・・。)
そう決意して裏庭の塀を越えて帰ろうとするハイドを見つけたネオラが走って追いかけてきた。
そしてその腕を捕まえると、はぁ、はぁと息を切らしながら、
「待って・・・!
大事なお話があるの!」
と言った。
ハイドは待ってやる義理などなかったが、ここは決着をつけるためにも敢えて聞くべきだろうと判断し、無言で足を止めた。
それを見て安心したネオラは、呼吸を整えてから胸に手を当て、告白を始めた。
「ハイド・・・。
あなたのことがずっと好きだったの・・・。
つがいになって欲しいだなんて言わないから、私の恋人になって欲しいの・・・!」
ハイドは無言でそれを冷たく見下ろすと、低い声でこう返した。
「・・・つがいになって欲しいなんて言わない、じゃなくて、つがいには出来ないけど、の間違えじゃないのか?
俺が移民の子だから、よそ者を毛嫌いする家系のお前は俺を家に入れる気など端からなく、ただアクセサリーと一緒で見栄えのいい俺を気の済むまで周囲に見せびらかしたいだけなんだろ?
見え見えなんだよ。
それにつがいになんかなったら、大好きな男遊びを影で出来なくなるもんな?
ガロが風呂場で全部見てたから、言い逃れはできないぜ?」
「ち、違うわ・・・!
わたしはただ、あなたの負担になりたくなかったから・・・!
それに男遊びだなんて誤解よ!
私はハイドのために・・・」
言い訳をするネオラを無視してハイドは続けた。
「そんで?
自分より綺麗で目立つヒルデが許せないから、あいつから俺を奪えば勝てるとでも思っているか?
勝てるわけねーだろ!
あいつは見た目だけじゃなく心も純粋な本物のいい女なんだよ!
それを酷く傷つけたお前を俺は決して許さない。」
「そ、それは・・・!
確かにあの子を傷つけたかもしれないけど、私だってあなたに恋してるのに・・・!
私の気持ちは見てくれないの!?」
「お前のは恋なんかじゃなく、ただの"欲"だ。
俺はヒルデに本物の恋をしているから、他の誰の気持ちも要らない。」
キッパリとハイドは告げた。
ネオラは俯くと暫く黙り込んだ。
だがやがて口角を上げると、切り札を持ち出した。
「・・・私診療所のカルテを見たの。
あの子が前に言ってた冗談・・・あれ、本当のことよ?」
ハイドは顔色一つ変えずに返した。
「それがどうした。
そんなことは承知の上だ。」
ネオラはそれを聞いて怯んだが、まだ必殺技があると彼女は続けた。
「そ、そう・・・知っていたのね。
それならわかるでしょう?
あの子と付き合っても、粘膜が触れ合う行為・・・ディープキスもフェラチオも・・・セックスも、気持ちのいいことぜーんぶできないのよ?」
と言って、彼女は自分の唇に意味深に触れると、その指をハイドの下半身へと伸ばすのだった。
「・・・私ならすべてしてあげられるわ。
私、ハイドに喜んでほしくていーっぱい練習したの・・・♥」
そのまま手慣れた手つきでジッパーを下ろすと、彼のものを引き出し、手でいやらしく擦った。
「・・・触るな・・・!」
ハイドがその手を拒絶し払うが、ネオラは構わず下へ屈み込むと、まだ柔らかいそこへ唇をそっとあてがった。
ハイドはここ数日のメンタル的に自慰どころではなく、暫く抜いてなかったこともあり、その手が、その唇が、愛しのヒルデのものであるとつい考えてしまった。
そして、身体が反応して声を上げた。
「・・・っ・・・・・!」
「・・・ふふっ・・・身体は正直じゃない・・・。
いいのよ?
そのまま快楽に身を委ねちゃいなさいよ・・・。
あぁっ・・・なぁにこれ、すっごく大きい♡
これが私のものに・・・たまらない・・・♥」
彼女は容赦なく彼のものを咥え込んだ。
その時、ハイドの脳裏にヒルデの笑顔がぱあっと浮かんだ。

──ここでこいつの思い通りになっては、二度とあの笑顔は手に入らない!!──

ハイドはキッ!と目を尖らせると、勢いよくネオラを蹴り飛ばした!
そして、強くこう言い放った。
「お前がやろうとしていることは逆レイプで、たとえそれで俺の身体が反応したとしても、心は何ひとつ動かない。
むしろお前をより軽蔑した!
この淫売が!!」
ネオラは逆上した。
「あんたがその気なら、ヒルデの病のことを今から村中に言いふらすから!!」
「なんだと!?」
「そしたらあの子のお店、誰も客が寄り付かなくなるわよ?
不細工な父親と一緒に店を畳んで村を出ていくしかないんじゃないかしら?
折角あの子が守った叔母だって、噂が知れ渡ればすぐに離縁されるなんてことになるかもね?
それにあの子、ここより空気の悪い町に移れば、あっという間に病が悪化して死んじゃうんじゃない?」
「・・・・・・・・。」
ハイドは普段の彼から想像ができないほど鋭く冷たい視線をネオラに向けた。
「私に謝って。
大人しく私の男になったほうが利口よ?
そうしたら言わないでいてあげるわ。」
ハイドはネオラを睨みつけたまま、恐ろしく冷静な思考でヒルデのために出来ることを考えていた。
(ネオラをここで痛みつけても解決はしない。
だが、こいつの口を塞ぐために俺がいいなりになるなんてのは御免だ!
・・・そうだな・・・。
いいなりになるフリをして、ここから南の森にでも連れ込んで、手足を固定してから魔獣の餌にでもしてやろうか・・・。
こいつが命乞いをして今すぐ村を出るっていうのなら生かしてやるが、そうでなければ・・・。)
ハイドが物騒なことを考え始めたところで、黒髪に金の瞳の美しい男がサアッと砂が集まるようにして姿を現すと、ネオラの肩にぽんっと手を置いた。
「可愛いお嬢さん。
彼はやめたほうがいい。
相当危険な思想の持ち主で、あなたの手に負える相手ではありませんよ?」
「・・・!?
あ、あなた様は・・・神使のヴィセルテ様!!?」
ネオラが顎が外れそうなほど口を開けて驚いた。
「おや、こんな田舎の村にまで私の名前が知れ渡っているのですね。」
「と、当然です・・・!
あなた様はこの国で様々な天災や人の手に負えない事件が発生した時に必ず現れて、奇跡を起こして去っていくって・・・書物にもなっている伝説の英雄なんですもの・・・!
あぁ、そのお姿もなんて美しい・・・!!」
「・・・私のことをご存じなら話は早いです。
あなたはミドルスクールに進学の話があったのに、断りましたね?」
「は、はい・・・。
だって、ミドルスクールになんか行ったら・・・。」
ネオラが言い終わらないうちに彼が代弁した。
「寮に入らなくてはならなくて男遊びも自由に出来なくなるし、ちやほやしてくれる取り巻きもいなくなり、田舎の小金持ちに過ぎないあなたでは町の有名商家や貴族の方の中に入れば馬鹿にされ、地位が確立出来ないからですか?」
「えっ、ええ!?」
ネオラは笑顔で淡々とそんなことを語るヴィセルテに困惑し、素っ頓狂な声を上げた。
「そんな理由で断るなんて勿体ない。
ミドルスクールにはあなたの運命の人がいますよ?
彼は家柄も申し分がなく、見た目もあなたと釣り合いの取れたお似合いの方ですよ?
加えて身体の相性も素晴らしく、あなたを身体の芯から満足させてくれるでしょう。」
「えっ!?
運命の人がミドルスクールに・・・!?
でもでもどうしよう!!
もう進学を断っちゃったのに!!」
取り乱す彼女の肩にもう一度手を置くとヴィセルテが言った。
「そのことなら私から教会に口を利いてあげますから大丈夫ですよ。
すぐに進学の準備をなさい。
そして、運命の相手を捕まえるのですよ。」
とニッコリと微笑んだ。
彼らのやり取りをポカーンと見ていたハイドだったが、状況を素早く整理して口を開いた。
「・・・行く前に約束しろ。
もう二度とヒルデと俺に近づくな。」
ネオラは”あぁ、あんたのことなんて忘れていたわ”といった様子で投げやりに、
「当たり前でしょ!
私には運命の相手が待ってるんだから、もうあんたもヒルデもどうでもいいわ!
安心してよ!」
と言い去って行った。

ネオラの姿が見えなくなると、ハイドはヴィセルテの方を向き、頭を下げた。
「・・・助けてくれたんだよな・・・?
あ、ありがとう・・・。
その・・・俺、敬語とか苦手だから・・・。
これでも、感謝してる・・・。」
「・・・ふふっ・・・いいんですよ。
あなたたちがあまり落ち込んでいると、フェリシア様のお気に入りの雛たちが悲しみますからね。
どうか顔をあげて、前を向いていてください。
これから彼女の病が進行すれば、あなたたちの間に壁を生みます。
その壁のせいで彼女の気持ちが見えず、辛くなり、ぶつかってしまうこともあるでしょう。
ですが、諦めずに声をかけ続けてあげてください。
彼女が耳を塞いでいても、ちゃんとあなたの声は届いていて、それが彼女にとっての希望の光になります。
そしていつか必ず二人を隔たる壁は打ち砕かれ、幸せになれますからね。」
「・・・あ・・・ありがとうござい・・・ます。」
慣れない敬語を使い、恥ずかしくなって頭を掻きむしるハイド。
「・・・でも、ヒルデをあんなに傷つけたあいつが幸せになれるなんて、正直納得いかねーな・・・。
まぁ、今後一切関わらないってんならそれでいーけどよ・・・。」
「あぁ、そのことですか。
先程彼女に言ったことは真実ですが、伝えていない真実もあります。
彼女がミドルスクールで出会う男性は、まぁ貴族ですので家柄は申し分なくお金持ちではありますが、醜いブタ男でしてね?
醜い心を持った彼女には釣り合いが取れたお相手でしょう?
彼女はその彼の愛妾として性奴隷のような扱いを受け、頭のねじが飛んである意味快楽に溺れる日々を過ごすことになるでしょう。
というわけで、彼女は未来においてそれ相当の報いを受けますから、ご安心なさい。」
ヴィセルテは笑顔でとんでもないことを言ってのけた。
ハイドもさすがに引いて、引き攣った顔で言った。
「あんた、相当なドS・・・?」
「フフッ、あなたも相当な素質がおありだとお見受けしますが。
好きな娘の涙に唆られてしまうのは仕方ないですが、あまり泣かせすぎないよう、程々にね。
これからも弟君の良き相談相手でいてあげてください。
それでは、またいつの日か。」
そう言うと、その姿は砂となって消え去るのだった。

神使ヴィセルテを見送った後、すぐヒルデに会いに森の青鹿亭へと走るハイド。
彼の愛しの"小鹿ちゃん"は、混み始めた店内で大量の料理を両手に持ってあたふたしていた。
ハイドはそれを見てふっと微笑むと、片方のお盆を持ってやる。
「あんま一気に運ぼうとすんなよ。
ちょっとくらい客待たせたって構わねーから、確実に運べるだけにしろ。
ほら、こっちどこのテーブル?」
ヒルデはそんなハイドに戸惑いつつ、「3番テーブル・・・。」と答えた。
そのままお昼時となり店はどんどん忙しくなり、ハイドは黙って店を手伝ってやった。
ホールの手伝いをメインとし、厨房の親父がてんてこ舞いな時はちゃっちゃと厨房も手伝ってやった。
彼は何でもさらっとこなすタイプの天才なのと、料理は得意分野ということもあり、初めての仕事にも関わらず要領が良かった。
ようやく客が捌け、店員の昼食と午後からのぶんの仕込みも兼ねた休憩時間に入る。

「・・・クソガキが・・・出しゃばりやがって。
まぁ、カルラがいなくなった途端にまさかの客入りで、正直助かったけどよ・・・。
休憩室で賄い食ってきな。
お前にメニューの選択権はねーけどな!」
と言って、ドンッ!とマルゲリータピザをカウンターに置いた。
相変わらずの毒舌っぷりに呆れながら、ハイドはピザを持ってヒルデのいる休憩室に入った。
「・・・よぉ、小鹿ちゃん。
店、大盛況で良かったな?」
「・・・・・・。」
ヒルデはハイドにどう接していいのかわからず、無言で返した。
「まだ無視続いてんの?
それ、ネオラに言われてやってたんだろ?
なら、もう口利いたっていいんじゃね?」
ハイドは一味足りないピザを口にしながら言った。
「・・・・・お店を手伝ってくれたことにはお礼を言うわ。
でも・・・うちに来てていいの?
ネオラに告白されたんでしょう?」
ヒルデはピザを食べながら、手元の本をめくってそう尋ねた。
「・・・ネオラのことはキッパリ断った。
そんで、あいつ噂になってた神使に町のミドルスクールに運命の相手がいるとか言われて、俺に興味なくしてミドルスクールに行くことになったぜ?
お前と俺の前には二度と現れないよう約束もさせたから、もう心配いらない。」
ハイドはそう伝えた。
「・・・そう・・・・・そっか・・・。
バカだね・・・。
そのまま告白を受けておけば、いい思いが出来ただろうに・・・。」
ホッとしたように、表情を緩めたヒルデだが、相変わらず本に目を落としたままそう答えた。
「・・・それなら小鹿ちゃんが俺にいい思いをさせてよ。
俺、ここ1週間小鹿ちゃんに無視され続けるわ、
今日なんかネオラに逆レイプされかけたんだぜ?」
それを聞いたヒルデは本を読むことをやめ、眉を寄せてハイドを振り返った。
「・・・それ本当・・・?」
ハイドは眉を寄せて頭を掻きながら頷いた。
「・・・マジで。
手で触られて・・・それからフェラってわかる・・・?」
ヒルデは怒りで震えながら、青ざめた顔で頷いた。
「・・・口ですることでしょ・・・。」
「そう、それな。
ちょっとされただけで、すぐ蹴り飛ばしたけどな。」
「・・・・・あのくそビッチが・・・・・。」
ヒルデが歯を食いしばってそう呟いた。
「・・・ホントに散々な目に遭ってんだぜ?
・・・慰めてよ。
それに、店を手伝った報酬もまだ貰ってねーし?」
「お店の報酬は父さんが払うわ。
でも・・・他のことは・・・・・無関係・・・じゃ、ない・・・・・けど・・・あたしで慰めになるの・・・?」
ヒルデは耳まで真っ赤にして彼に尋ねた。
「・・・もちろん。
小鹿ちゃんが慰めてくれたら、今までの嫌なコト全部幸せで上書きされっから。
・・・な?頼むよ。
小鹿ちゃんが嫌じゃないことでいいから。」
「・・・あんたって本当ずるいよ・・・・・。」
ヒルデはそう言うと頬を染め、戸惑いながらハイドの唇に優しくキスをした。
ハイドは堪らなくなって、ヒルデを抱きしめ、首筋に顔を埋めるとその匂いを嗅いだ。
「・・・小鹿ちゃん・・・小鹿ちゃん・・・。」
そのまま服の上からその大きな胸を揉む。
「あっ・・・っ・・・」
ヒルデは耳まで赤くして、小さくか細い喘ぎを漏らした。
そして・・・。
”おっぱいくらい好きに触らせてやったらどうかね!?”
マールの言葉を思い出したヒルデは、震える手で、制服のブラウスのボタンにそっと手をかけたのだった。
プチン、プチン、プチン・・・
ハイドは彼女のその行動に驚いて凝視した。
──プルンプルン!
白い豊かな双丘が開いたブラウスから溢れんばかりに飛び出し、揺れた。
ヒルデは更に胸を覆う最後の布・・・白いブラの前紐をスッ・・・と引っ張った。
ハラリ・・・とブラは真ん中から開き、釣り鐘型で、ピンク色の頂のある豊かなふくらみがすべて露になった。
「・・・小鹿ちゃんの胸・・・
すげー綺麗・・・・・。」
ハイドはその姿をしっかりと目に焼き付けた後、心配そうにヒルデの顔に視線を移した。
「けど、何で・・・?」
すると彼女は真っ赤になったまま、震える唇で言った。
「これが今、あたしに出来る、精一杯の慰めだから・・・・・。
胸は・・・好きに、して・・・いいよ・・・?」
ハイドは理性のタガが外れそうになりながらも懸命に堪え、今度は自分から薄紅色の唇を奪うと、露になった生の乳房をその手で揉みしだいた。
信じられないくらい柔らかなそこは、手がふわっと沈んだかと思えばそれを押し返してくる弾力があり、堪らない感触だった。
「・・・小鹿ちゃんの乳・・・マショマロみてぇ・・・やわらけぇ・・・♥」
「あっ・・・あっ・・・ああっ・・・」
ヒルデも堪らなくなって小さく声を漏らす。
ハイドは両手でその胸を回すようにした後、硬くなったピンク色の頂を指先で摘んだ。
「あぅんっ・・・♥」
ピクン!と身を震わせて高い声を上げるヒルデ。
ハイドはゾクゾクして、もうすでに固くなった股間のものを服越しに彼女の太ももに擦り付けた。
「やっ・・・!?
な、何か硬いのがっ・・・当たって・・・」
「好きな子の胸好きにしてんだからそりゃ俺のオトコがガチガチに反応するに決まってんだろ・・・。
小鹿ちゃん・・・小鹿ちゃん・・・!」
ハイドはうわ言のように彼女を呼びながら、今度は胸の谷間に顔を埋めると頬ずりし、そのままピンク色の頂きをペロッと舐めた!
「ひゃあぁっ・・・♥」
ヒルデが仰け反ってひと際甘い声を出した。
「・・・こんなん・・・こんなん・・・止まらねーよ!
・・・ヒルデ・・・ヒルデ・・・!」
「あっあんっ♡あっやぁ・・・ひゃあっ♡・・・あんっ・・・♥あっ・・・あっ♥」
ハイドは乳首をチュパチュパ吸いながらカチャカチャと自分のパンツのベルトを緩め、勢い良く下着を下ろすと、限界まで立ち上がったものを手に持つとその胸に挟んだ!
「!!!」
ヒルデは大きく目を見開いて自分の胸に挟まれたハイドの大きく滾ったものを凝視した。
「えっ・・・!!?
ハ、ハイドの・・・お、おちんちん・・・!?
あ、熱くて・・・硬くて・・・・・こ、こんなに大きいの・・・!?
やっ・・・やだあっ・・・!!」
あまりの衝撃に涙を浮かべ逃げ出そうとするが、がっしりと胸を掴まれており、逃げ出せない!
彼は愛しの彼女の涙にますますゾクゾクすると舌なめずりをし、そのまま腰を振り始めた。
「あっ・・・ハイド・・・待って、待ってぇ・・・!
これは・・・さすがに・・・だめぇ・・・だめだってば・・・!
そこまでしていいだなんて、言ってない・・・!!」
「はあっ、はあっ・・・胸はっ・・・好きにしていいって、言ったろ?」
ハイドは構わずヒルデの胸を自分の両手でぐっと押して寄せながら、腰を揺すり続けた。
彼の大きなものは勢い付いて時々ヒルデの唇に触れた。
段々荒くなる彼の吐息。
激しい腰使い・・・。
ヒルデには目の前で繰り広げられる光景が刺激的過ぎて限界を感じ、涙目のまま思いっきり頭を引くと、ガンッ!とハイドのみぞおち辺りに頭突きをかました!!
「うぐっ!?」
威力不足で少し飛ばされ尻もちをつく程度だったハイドにとどめを刺すかのように、今度は足で金的をかました!!
「────────!!!」
「調子に乗んな!このド変態!!
充分すぎるくらい慰められたでしょうが!!」
ヒルデは自分の胸を手で隠してそうまくしたてるのだった。
しばらく股間を押さえ、もんどり打ったのち、なんとか口が利ける程度まで痛みから開放されたハイドは、
「ってーーー・・・
慰められたと同時に・・・俺の股間潰されたけど・・・な・・・!
・・・はっ・・・ははっ!
・・・小鹿ちゃんは・・・やっぱ、これくらいでないと♡」
「あんた股間押さえながら何言ってんのよ・・・!
バカみたい!!」 
ヒルデは怒りながら身なりを整えると部屋から出ようと扉に手をかけた。
「・・・小鹿ちゃん。」
ハイドはヒルデの背中に声をかけた。
「何よ!」
ヒルデは眉を吊り上げたまま少しだけ振り返る。
「今日でジュニアスクールを卒業したから、明日から俺はプロの狩人になる。
沢山獲物を狩って、毎日青鹿亭に飯食いに行くから、漲るパンツ履いて待ってな?
そんで・・・必ず小鹿ちゃんの身も心もすべて、俺のモノにして見せるから!!」
まだ少し痛むのか微妙に顔を引き攣らせながらウインクをして、指をピストルのように指し、そう宣言するのだった。


─追記〈亭主ルルドの叫び〉─

ハイドに賄いのマルゲリータピザを出して休憩室に送った後少し経過した頃。
─あっあんっ♡あっやぁ・・・ひゃあっ♡・・・あんっ・・・♥あっ・・・あっ♥・・・─
休憩室の方から娘のものだと思われる喘ぎ声が漏れてきた。
「あんの野郎ヒルデに手を出しやがったな!!?
畜生、止めに行きてーけどベシャメルソースから手が離せねぇ・・・!!
近頃ヒルデが気を落としてたみてーだから、何とかしてやりたくてあいつと二人きりにしてやった俺が間違ってた!!
あのクソガキーーーー!!
ヒルデはまだ12だぞ!?
ウオォォーーーー!!!」
物凄い気迫でベシャメルソースを仕上げたルルドがようやく休憩室のドアに手をかけようとしたら、眉を吊り上げて怒った愛娘が休憩室から出てきた。
「あっ、父さん!」
娘はそう言うとバツの悪い顔をしてバッ!とドアを締めた。
まるで見られたくないものがそこにあるかのようにだ。
「ヒルデ、あの害獣に何かやらしいことをされたんじゃねーのか?
さっきそっちから妙な声がしたからよ・・・。」
「・・・べ、別に何もないよ?
猫でもいたんじゃない?」
ヒルデは目を泳がせた。
「・・・怪しい・・・そこ開けろ。」
ルルドは強引にヒルデを押し退け休憩室の扉に手をかけた。
─ガチャッ─
するとそこには大慌てでボトムスを上げてベルトを締めようとするハイドの姿があった。
あちゃ~・・・と、ヒルデは額に手を当てて、
「愛の女神フェリシア様、どうかあのバカに御慈悲をお与えください・・・。」
と呟いて、2階へとそそくさと消えて行った。
「あっ・・・き、着替え中だぜ?」
ハイドは引き攣った笑みを浮かべながら言った。
「うそこけ・・・。
俺のピザも食い掛けでほったらかして何してやがった・・・!」
「ナニって、小鹿ちゃんが痴女に襲われかけたかわいそーな俺を慰めてくれるって言うから・・・?
据え膳食わぬは男の恥って言うだろ・・・?
いや、据えられなくても同情にかこつけてちょっと味見しようかなーとは思ってたけ、──グハッ!!」
ルルドはハイドが最後まで言いきらないうちにそのみぞおちに拳を沈めた。
「こんの害獣があぁあぁーーーーー!!」
と更に振りかぶった。
「ウワァーーーーー・・・…」
暫く春雷の銀狼の悲鳴が響くバイオレンスな森の青鹿亭なのだった。
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