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一章 悪の組織と正義の組織

第3夜「スパイは上の人()がやっているよ」

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 鱗が去った後の保健室では人外染みた美貌をもつ2人が話していた。

「密くんまだ頭は痛いかな?」
「はい、まだ少しだけですけど」

先程まで喋れない程頭痛に襲われていた夕密という名の学生は先程までよりは頭痛が治まったのか返事をした。
夕密の声は男にしては高く女としては少し低いような中性的な声をしていた。

「そっか、、、密くんの場合は薬よりは寝ていた方が良いからもう少し休んでて大丈夫だよ。あの子達には私から伝えておくから」
「すみません」
「こういうときは謝らないで欲しいかな?」
「、、、ありがとうございます」
「ん、どういたしまして。あ、、、和(かず)くんは最近とても忙しそうだから伝えない方が良いかな?」
「そうしていただけますか?」
「うん、分かったよ。私もあの子には少しでも休んで欲しいしね。瑠璃(るり)くんには連絡しとくから休んでて?」
「はい」

そう言われた夕密はベッドの上で目を閉じた。
それを見ながら朔夜は親指程の小さな機械みたいなモノを取り出した。

“フッ”
“ブゥゥン”
“ピッピッ、ピッ”
「コレで直ぐ来るだろうな」

朔夜は取り出したモノに息を吹き掛けると電源が入った機械からうっすらと青い透明な液晶パネルが宙に浮かび上がった。
親指程の小さな機械みたいなモノの正体は今でいうスマホだ。
色々な呼び方があったが最終的に昔の呼び名である“携帯”という名になった。
朔夜はその携帯で誰か、、、瑠璃という名の者に連絡をした。

「確か瑠璃くんは、、、あ、体育か、、、気づくかな?」




夕密視点

静かな空間で目を覚ます。
時間を見るとまだ30分くらいしかたってなかった。
(さっきよりすっきりしてる、、、まだ頭が重い様な気がするけど)

「ん?ああ、密くんまだ寝ていても大丈夫だよ?瑠璃くんには連絡を入れたんだけど瑠璃くんこの時間は体育みたいだから気づくのにはもう少しかかるかも知れないね」
「いえ、大丈夫です朔夜さ、、ん」
「クスクス、ここでは私と君だけだから大丈夫だけど学園の中だから気をつけようね」
「、、、はい」
「けど頭がぼーっとした状態だったのに途中で気づいたのは凄いよ。良い子だね」
「、、、朔夜様、、、」
「フフっ、戻ってしまっているよ」

朔夜様は僕の頭を優しく撫でてきた。
少し恥ずかしいけど嬉しさの方が上だったのでつい、いつもの呼び方をしてしまった。

“コンコン、ガラガラ”
「ミツ!」
「あ、ルリちゃん」

ルリちゃんが慌てた様子で保健室に入って来た。
彼は僕の幼馴染みの 香流 瑠璃華(かりゅう るりか)という名前で僕はルリちゃんと呼んでいる。

「瑠璃くん、思ったより早く気づいたんだね」
「はい、それでミツは」
「大丈夫だよ。さっきまでは頭が痛かったみたいだけど少し休んだら少し治まったみたいだ。けど、密くん」
「はい」
「まだ完全には治って無いだろ?もう少し休んでなさい」
「、、、はい」
「ん、良い子。瑠璃くんも急いで来たんだよね?良い子」

僕とルリちゃんは朔夜様に頭を撫でられた。
人に触れられるのや関わられるのが嫌いなルリちゃんも朔夜様は特別なので嫌そうな顔をしながら内心では嬉しがっているのを僕は知っている。

「一人で来たのか」
「ん?ああ、僕かい?途中までは一人で来ようとしたんだけどね?」
「途中まで?」
「うん。途中で頭痛が酷くなって立っていられなくなった時にたまたま学園に来ていた人に助けられてここまで連れて来てくれたんだ」
「そうか、、、誰だ?」
「そうだ!それをルリちゃんに話したくてね、あのね?」
「ゆっくりで良い」
「うん」

僕が少し興奮したのが分かってルリちゃんは僕が落ち着く様に静かな声でそう言った。
(でも早くルリちゃんにこの事を伝えたいんだよね)

「あのね、ルリちゃんは龍麒麟の鱗さんを知ってるよね?」
「ああ、お前が月下、、、パートとしてよく会う奴だろう」
「うん、ラピスのルリちゃんも会うでしょ?その鱗さんが学園に用事があったみたいでたまたま来ていたみたいで」
「つまりそいつがお前をここまで連れて来てくれたんだな?」
「うん、そうなんだ。気づいた時は僕もびっくりしちゃったよ。いつもは顔が隠れて見えないから誰か分からなかったんだけど、朔夜様の所で名前が分かってね、声も確かに聞いた事がある声だったから本当にびっくりしちゃったよ」
「そうか、、、しかし何故学園に来ていたんだ?」

いつもは顔を隠していて見たことがなかった鱗さんの素顔に驚いてルリちゃんに報告していたらルリちゃんが疑問を口にした。
ここまで話していたら分かっただろうけど僕達は悪の組織の夜花だ。
僕は月下(又はパートやアルバイト)でルリちゃんはラピスだ。
(確かに、なんの用事だったんだろ?)

「ああ、鱗くんが学園に来たのは他のチームとの連携の為だよ」
「え?」
「連携?」

僕達の疑問に答えてくれたのは朔夜様だった。

「そう、連携。和くんが教えてくれたんだけどね?ほら、最近の私達は何人かの幹部で出るよね?」
「はい、最近は龍麒麟も強くなってきてますし僕達が一人で来ても一般人達も直ぐに龍麒麟達が来て助けてくれると思ってますからなかなか畏れなどが集まらなくて」
「だから幹部が2人以上で行くようにしたんだよね?あと、出来れば2人とも普通に話して欲しいな?」
「え、でも、、、」
「、、、。」
「嫌かい?」
「い、嫌なんてとんでもない!嫌じゃないで、、無いよ!」
「俺も別に構わない」
「そっか、なら普通に話してくれるかい?」
「はい、じゃない、うん」
「分かった」

朔夜様に悲しい顔をされたら逆らえるわけがない僕達はあっさりと頷いた。
(あ、朔夜様とても嬉しそう。なら普通に話そう。朔夜様が悲しいのは嫌だもんね)

「それでね、その幹部が複数で来るものだから龍麒麟は一チームだけでは対応仕切れないだろう?だから他のチームと連携をとろうとしているらしいよ」
「そうなんだ。けど、龍麒麟って、その、」
「プライドが高く自身のチームに誇りを持ち自信満々で協力なんて出来そうに無い奴等が多い」
「ルリちゃん、、、けど、その、ルリちゃんの言った通り連携するのは難しそうだけど?」

龍麒麟の人達は確かに強くて正義感にあふれているけどプライドが高すぎて連携に向かないのだ。

「うん、だから鱗くんのチームなんだ」
「鱗さんの?」
「鱗くんのチームはそんなプライドより鱗くんを信頼して鱗くんの言葉に従う子が多いのは分かるよね?」
「あ、確かに鱗さんのチームは鱗さんが中心みたいで他のチームとは違うかも」
「うん、そうだろう?それとヒーロー隊もよく会うだろう?」
「はい、レッドさんは学園でも良く会うし」
「そうだねレッドくんはこっちでも良く会うからね。で、どういうチームかも分かるよね?」
「、、、アイツは暑苦しく正義感に溢れているが他の奴等みたいなアホでもバカでもない。最近入った一年3人は知らんがブルーとレッドなら他のチームと連携しても揉めないだろう」

レッドくんは学園でも仕事でもよく会うので仕事でしか会わない鱗さんよりも僕もルリちゃんも知っている。
(確かにレッドさんとブルーさんなら他のチームと揉めないだろうな)

「だからその2つのチームが最初の見本となって連携するらしいよ」
「、、、確かにあの2チームなら最初の見本としては最適だろうな」

ルリちゃんがそう言い終わると朔夜様が僕の方に顔を寄せて来た。

「密くん」
「はい」
「頭はもう大丈夫?ちゃんと答えて」
「えっと、、、まだ少しだけ重い感じがする、、かな?」
「そっか。なら、やっぱりもう少し休んでなさい」
「俺もここに居る。今日の普通科の授業はさっきので終わったしな」   
「けど、そんなに酷く無いし」
「密くん、もう少し体を大事にしようね?特に君は“女の子”なんだから」
「、、、はい」

朔夜様や幼馴染みなどには知られているが僕は女だ。
ある事情で女である事は隠している。
組織の幹部の人達も知らない事だけど僕てきには幹部の人達なら知られても良いと思っている。
(あの人達なら怖くないしね)

「その、僕が女だって幹部の人達になら知られても大丈夫だよ」
「そのうち話そうね?今はもう少し秘密にしておかないとね?あの子達なら普通に納得して今までと変わらないだろうけど今は忙しいからね」
「はい、、、けど朔夜様ほどの秘密では無いと思うよ」
「確かにな」
「そうかな?」

僕は元々が男に間違えられていたので性別を偽っていても違和感も無いからかバレる事が無い。
けど朔夜様の方は色々とヤバいんだ。

「どう考えてもおかしいからな」
「うん、朔夜様がここで保健室の先生をしてるのもおかしい」
「スパイならおかしく無いだろう?」
「いや、おかしい」
「むしろ朔夜様がスパイしているのもおかしいからね?」

朔夜様は腑に落ちないという顔をしているけどこの事に関しては僕達の考えは普通だ。

「夜花の幹部ならまだ分かるよ?けど朔夜様は違うじゃない」
「そうかな?似たようなものだと思うけど?それに最高幹部の和くんだってスパイしてるじゃないか」
「、、、アイツは元々そうするつもりだった。他の最高幹部達もアイツがスパイをする事を納得していたからな。だが、、、」
「朔夜様が、、、夜花の“夜王”である“ボス”自らがスパイするのはおかしいよ」

そう、朔夜様は僕達の、、、夜花のボス(コードネーム“夜王(やおう)”)なのだ。
夜花で一番上の人であるボスの朔夜様は何故か龍麒麟の一部といっていい天輪学園でスパイをしている。

「そうかなぁ?、、、けど、私と和くんだけじゃなく君達もこの学園に通ってるじゃないか」
「僕はともかくルリちゃんは龍麒麟からスカウトが来ていたからここに通わないのはおかしいかな?って思うし」
「俺は和成(かずなり)の件もあるからな。それに俺と和成がミツを俺達の目の届かない所に置くと思うか?」
「思わないね。そんなこと絶対にしないだろうね」
「和成がこの学園に入ると決めた時からミツはこの学園に通わせるつもりだった。だから俺達がこの学園に通ってるのは不可抗力みたいなモノだ、、、アンタとは違う」

僕がこの学園に通ってるのはルリちゃんが言ってた和成という方に学校に通うならこの学園に通ってくれと頼まれたからだ。
頼まれた事を詳しく言うと『この学園にスパイとしてそのうち自分(和成)も通うからどこかの学校に通うなら頼む、、、この天輪学園に通ってくれ』と言われた。
僕は特に何処かに入りたいと思っていなかったから頷いてこの学園の普通科に通っている。
そしてルリちゃんがこの学園に通ってるのはルリちゃんが言うように不可抗力で、色々あって龍麒麟にスカウトされている上にさっき言っていたスパイをしている和成という方とルリちゃんの間には色々あり、結果この学園に通う事になったんだ。
ルリちゃんは最初は戦闘科に入るはずだったんだけど元々ルリちゃんは龍麒麟に入るつもりは一切ないので戦闘科そして次の候補のサポート科にも入るのを拒み幼馴染みの僕と同じ普通科に入ったんだ。

「朔夜様は僕達のボスでしょ?バレたら一番危険なスパイをする必要はないでしょ?」
「、、、私は自分が守られるだけの人間になるのは嫌なんだ。一番危険だからこそ自分でやりたいんだ」
「、、、アンタの場合は趣味なのもあるんじゃないのか?」
「ん~、、、それも否定しないよ。というか今では趣味の方が比率は大きいかな?この学園に通ってるうちにここの生徒達も可愛いと思ってきてしまったしね」
「アンタも和成も、、、はぁ、上の人間はこんな奴等ばっかりだな」

ルリちゃんが言うように夜花の上の人間は優しい人が多く危ない事をしていても本人が命令や趣味だと言うので辞めさせる事が難しい人ばかりなんだ。
(趣味だと言っているけど本当は僕達を守る為に直ぐに情報が入るここに通ってるのは僕もルリちゃんも知ってるんだけどなぁ)

「クスクス、すまないねぇ。特に瑠璃くんと密くんはスパイをしている和くんに近いからまだ正式に夜花に入れないのは悪いとは思ってるんだよ?」
「別に気にしていない、仕方ないことだからな。和成と近い俺とミツが正式に組織に入ったらそこからスパイの和成が疑われる可能性があるからな。この学園に通ってるうちは正式に入れないのは承知している」

そう、僕とルリちゃんは正式に夜花の組織に入っていない。
僕はパートとして入っているしルリちゃんも僕と似たようなものなんだ。

「うん、それは知ってるんだけどね?早く正式に私の子になって欲しいなぁとも思ってしまってね」
「、、、俺達が学園を卒業するか和成がスパイを終らせるかどちらかを待て」
「うん、楽しみに待ってるよ。正式に私の組織に入っていないけど君達は私にとって特別だからね、、、、早く私の元に来て欲しいと願ってしまうんだ。いつまでも愛してるからね私の大事な子供達」

朔夜様のその言葉を聞いた僕達は休めていた体を動かして朔夜様の近くで跪く。

「それは僕達のセリフだよ朔夜様。僕達の恩人であり僕達にとって何よりも大好きな僕達のボスである朔夜様。僕達は貴方の、、、朔夜様の元に居るのが何よりも幸福なんです」
「俺達にとってアンタは神であり王であり親でもある。俺達がアンタを、、、朔夜様を嫌う事はこの世界が滅びてもあり得ない事だ。朔夜様が幸福であるなら俺達も幸福なんだ」
「だから、朔夜様の元に正式に入るのを少しの間だけ待っていてくれますか?」
「、、、もちろん待てるしいつまでも愛し続けるに決まってる。だから密くんは早くベッドに戻ってもう少し休もうね?」
「、、、はい」

僕がそう返事をした瞬間に僕の体をルリちゃんが抱えベッドに優しく寝かせた。
(ルリちゃんは行動が早いな。それにちょっと過保護なんだよね、、、僕の方が年上のはずなのになぁ)

「ヒーロー隊と光輝隊の連携の練習はこの学園の私の保健室から見える所でやるだろうからその時は一緒にその練習場面を見ようか?」
「何故、練習場所をしってる?」
「和くんが私の見える範囲の場所に連携の練習をする様にその場所を貸すって言っていたからね。練習する日にちは今日決めてるだろうから今日のうちに何時かも分かるだろうからね」

つまりスパイしているあの人が朔夜様にそう報告して、日にちも今日報告されるだろうから色々知っているって事だろうな。

「分かった。俺達も見学する」
「うん、僕達もどんな事するのか見ておきたいからね」
「分かったよ、日にちが分かったら連絡するね」

どうやら本当に朔夜様はスパイ活動を楽しんでやっているみたいなのでこれ以上なにも言わない事にした。
(けど、本当に何で夜花はボスと最高幹部の2人がスパイをする事を許したんだろう?
最高幹部の方はまだしもあの方々が何よりも大切にしているボスの方は止めそうだけど、、、僕達と同じで朔夜様の“お願い”にあの方々もとても弱いから、、、折れたんだろうな。
龍麒麟もまさか夜花の一番偉いボス自らがスパイをしてるとは思わないよね、、、僕も思わないだろうし)




(けど、朔夜様が楽しいなら嬉しいなら幸せなら結局何でも良いと思ってしまうから敵わないんだろうな)






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