あいするひと。【完】

雪乃

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アベル②

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「恥ずかしくなって解消とか言い出したんだろうな。初めてなのにそこら辺の娼婦並みにヨガってた自分が」

「…………れ」

「とろけた顔で俺が好きだって言いながら何度も狂ったようにイってたよ。
処女とは思えないくらい咥え込むの上手すぎだったしな」

「…………黙れ。」




「だから問題ねえよ。お望みどーり離さねえから安心しろ。

……テメーはもう用済みだ、アベル」







鈍い音と一緒に目の前にいたはずの男が吹っ飛んだ。



近年、二足歩行で動く人型の魔獣が発見された。
数は少なく力もないが知能が高く、こちらの罠を掻い潜る。あくまでも人型というだけで人語を操れるわけでもないが、よく似た口角は今にも言葉を発しそうな恐怖を抱かせる。

だから遭遇すれば先手必勝。
二手も三手も立て続けに食らわせ、隙を見せてはいけないと教わった。



ーーヒトだと、惑わされないために。




三手目の途中で鳩尾に蹴りが入った。
大きな物音に複数の足音が近づいてくる。
身体を起こしてまた掴み直そうとしたところで引き剥がされ



「ーー…っ何をしてるんですかアベル様!…シエル様っお止めください!」



振り払って向き直った瞬間、顔面に食らう。
よろける間際に蹴り飛ばすと周りの悲鳴はうるさくなり、今度こそ羽交い締めにされ動けなくなった。


「…離せ。」

「出来ません…っ…お二人とも、お怪我を、」

「ーーレイラのところへ行く。離せ」

「…ってぇ…、ガイ、ただの兄弟ゲンカだ気にすんな」

「ですが…っ!」

「いーから、命令だ」


両親が不在の場で、嫡男に従うしかない執事や従者が苦渋に顔を見合わせ、やっと俺たちを解放した。


口もとを拭いながら顔を上げ、無機質な視線を寄越す。
鏡のように、自分の唇からも血が流れるのを感じた。


「……お前の出番はもうないと思うけどな。いーぜ、行ってこいよ」


お前の許可なんて必要ない。




嘲りを背中に浴びながら、駆けるように厩舎に向かった。



手綱が千切れそうにギリギリと軋む。





とれほどの痛みか、
どんな気持ちでいたのか、


滲む唇を噛み締めても、なんの気休めにもならなかった。






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