あいするひと。【完】

雪乃

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ーーまさか、そんな。




「ーー…傷の治療をしないとだめよ…治癒師を…お母様、」

「いいんだ、俺は」

「だめよ。お父様、アベルを」

「レイラ。」


ベッドの側で跪いて、転がったままのわたしの手を取った。


「俺はもう遠慮しない。諦めない。お前をから守る。今度こそ間違わない。逃げない。」

「アベ、ル、?」


潤んだ瞳に籠る熱量に戸惑いながら、なぜか逸らせない。



「愛してる、レイラ」



逸らせないでいた。



きゅ、と一度強く握り、指さきにふわりとふれて。今日は帰ります、と両親に頭を下げ背を向ける。


指さきの余韻だけ、残して。






「…まぁあの子ったら仮にも婚約者のいる娘になんてこと、…あらレイラあなた…」

「……親のいる眼前でやってくれるな……」


両親の言葉は何ひとつ、頭に入ってこなかった。













三日月に、欠けてる月の輪郭が見えることがある。それがずっと不思議だった。




……アベルが、わたしをーー。




知りたくなかった。


知られたく、なかった。



ふれられた指が熱いなんてこと、知らないままでいたかった。





あれだけ好きだと思っていたひとのことも、
自分の身に起きたことも忘れて、
月の影が溶けてゆくのを、ただ眺めていた。













ーーそれからアベルは授業が終わり、訓練の合間にやってくる。
断ってもほぼ毎日のように、貴重な休憩時間を利用して。
身体を休めることに使ってほしいと何度もお願いしてやっと、日を空けてくれるようになったほど。
治癒師に依頼しなかった顔の傷は、まだうっすらと残っている。「こんなのはほっといても治る」どうでもいいことのように笑う。

その瞳に以前は気づかなかった熱があることに気づく。
不必要にはふれない。甘い言葉もない。
を気遣い、変わらず優しく接する。

けれど瞳がじゅうぶんに伝えてくる。


考えなければならないことがあるのに、甘えている、また。


甘えながら逃げることばかり、考えている。



誰よりどうしようもないのは、わたしだった。

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