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9.
しおりを挟むーーまさか、そんな。
「ーー…傷の治療をしないとだめよ…治癒師を…お母様、」
「いいんだ、俺は」
「だめよ。お父様、アベルを」
「レイラ。」
ベッドの側で跪いて、転がったままのわたしの手を取った。
「俺はもう遠慮しない。諦めない。お前を傷つける奴から守る。今度こそ間違わない。逃げない。」
「アベ、ル、?」
潤んだ瞳に籠る熱量に戸惑いながら、なぜか逸らせない。
「愛してる、レイラ」
逸らせないでいた。
きゅ、と一度強く握り、指さきにふわりとふれて。今日は帰ります、と両親に頭を下げ背を向ける。
指さきの余韻だけ、残して。
「…まぁあの子ったら仮にも婚約者のいる娘になんてこと、…あらレイラあなた…」
「……親のいる眼前でやってくれるな……」
両親の言葉は何ひとつ、頭に入ってこなかった。
三日月に、欠けてる月の輪郭が見えることがある。それがずっと不思議だった。
……アベルが、わたしをーー。
知りたくなかった。
知られたく、なかった。
ふれられた指が熱いなんてこと、知らないままでいたかった。
あれだけ好きだと思っていたひとのことも、
自分の身に起きたことも忘れて、
月の影が溶けてゆくのを、ただ眺めていた。
ーーそれからアベルは授業が終わり、訓練の合間にやってくる。
断ってもほぼ毎日のように、貴重な休憩時間を利用して。
身体を休めることに使ってほしいと何度もお願いしてやっと、日を空けてくれるようになったほど。
治癒師に依頼しなかった顔の傷は、まだうっすらと残っている。「こんなのはほっといても治る」どうでもいいことのように笑う。
その瞳に以前は気づかなかった熱があることに気づく。
不必要にはふれない。甘い言葉もない。
幼なじみを気遣い、変わらず優しく接する。
けれど瞳がじゅうぶんに伝えてくる。
考えなければならないことがあるのに、甘えている、また。
甘えながら逃げることばかり、考えている。
誰よりどうしようもないのは、わたしだった。
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