あいするひと。【完】

雪乃

文字の大きさ
14 / 22

11.

しおりを挟む



固く握りすぎて、感覚がない。
白くなってゆく自分の指だけを見ていた。


なぜそんなことを言うのだろう。
思ってもいないことを、言えるのだろう。

切実さを帯びているようにすら聞こえてしまうから、恐ろしくてたまらない。



「……申し訳ないが私たちは娘の気持ちを尊重したい。解消が納得いかないのなら破棄でも構わない。もちろん慰謝料も用意する。
援助は継続するが、…申し訳ないが白紙が条件だ」

「デビッドそれは、」

「すまないディート。だが娘はこれ以上ないほど傷ついている。この場にも連れてきたくはなかったが最後だと思い同席させているんだ。どうか配慮してほしい。……シエル、きみにも大変申し訳なく思うがわかってくれ」

「納得できません。時間が必要というなら待ちます。でも白紙など絶対に嫌です」

「なぜだ?正直言って二人の関係は良好とはいえなかっただろう。……きみは娘を厭うていた。
今の状況はのきみにとっては都合が良いはずだ」

「…あなた」

「……たしかに褒められる行動はしていません。申し訳ありません。……でも俺は。今回のことでやり直したいと思ったんです」

「今更信じるとでも思っているのか?」

「これから証明します」



部屋の空気がずしりと重くなってゆく。
言葉を発することもできず、顔すら上げることもできず。



「……きみの決意がどうあれこちらの気持ちは変わらない。ディート、書類にサインを。」

「……、わかった……」

「ーー父上っ」

「…シエル。お前が、婚約者として寄り添っていたなら困難の支えになれたかもしれないが、それを放棄したのはお前だ。
…レイラが何と言おうと、こちらから解消を頼むべきだった。責任は私にもある。
私たちができることはレイラが平穏を取り戻すことのできるよう願うだけだ。
……レイラ、すまなかった」

「…っ」


おじ様、違うの。
ぜんぶわたしの我儘で、こんなことになるまで知ろうとしなかったわたしのせいなの。
ごめんなさい。
ごめんなさい。


そう思いながらも言葉にはならず、首を振るしかできなかった。





重い空気のまま、ペンを動かす音と紙の重なる音が止んだとき。





「…………最後に二人だけで、話をさせてください」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

公爵令嬢のひとりごと

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

処理中です...