その恋心お断りいたします!【完】

雪乃

文字の大きさ
8 / 33

すばらしくなかった、領地…。




夕食後だったからか、手紙を頼んだあとそのまま少しうとうとしていたようだ。


寒さに目覚めたからだが、ぶるりと震えた。



「…ゆあみ…、…?」


ぼうっとつぶやいたとき、廊下が騒がしいのに気づく。




昨日からお義兄様が泊まりで視察に出かけているから、わたしは本邸にいる。
お義兄様が不在のときは優しいお姉様がそうしてくれるのだ。



「…お姉様…?どうしたの…?」



ブランケットにくるまりながら階段まで来ると、そのお姉様がコートを着込み、玄関ホールにいた。
外出しようとしている。
…こんな時間に、天気も悪いのに。

室内履きだし、はしたないのは承知で駆けおりる。


「…クリスタ、」

「ごめんなさい、でも、…どうしたのかと思って。…何かあったの」


困ったような表情がわずかに曇って不安になる。


「連絡があったのよ。…旦那様の視察先で崖崩れが起きたらしいの。町の外れだから大丈夫だとは思うのよ。…けれど心配だから少し様子を見て来るわ」

「そんな、」

「怪我人もいないらしいから大丈夫よ、きっと。念のためよ」

「、でもお姉様は、雨が、」

「クリスタ。」


お姉様のすべすべした手が、頬を撫でる。


「御者も騎士もみんな優秀だわ。馬たちだってそうよ、知ってるでしょう?」

「…みんなわたしより賢い…」


くす、と微笑んでわたしを抱きしめて「それを証明してもらうわ」朗らかに毒舌を言った。


「…っ気をつけてくださいお姉様、…お義兄様にも、」

「えぇわかってるわ、ありがとう。冷えるからすぐ休みなさい。…バートン、後は頼んだわ」

「かしこまりました。どうぞお気をつけて」


ぽんぽん、と背中を撫でて離れると執事に声をかけてお姉様は馬車に乗り込んだ。








わたしはお姉様の言う通り、湯浴みをしてすぐベッドにもぐり込んだ。


お姉様が大丈夫というなら、きっと大丈夫。


だけどいつもは怖くない雨の音が、いつもより大きく聞こえて怖くなる。
風の音が、いつまでも止まないから怖くなる。















どれくらい時間が経ったのかもわからなくなったころ、ドアが開いた。


「ーー」


おねえさま、とわたしの喉は発するはずだった。


ぎし、とベッドを軋ませたのは、






「…………クリス、」






ーー嵐はまだ、止まないようだ。
感想 3

あなたにおすすめの小説

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

冷酷公爵と呼ばれる彼は、幼なじみの前でだけ笑う

由香
恋愛
“冷酷”“無慈悲”“氷の貴公子”――そう恐れられる公爵アレクシスには、誰も知らない秘密がある。 それは、幼なじみのリリアーナの前でだけ、優しく笑うこと。 貴族社会の頂点に立つ彼と、身分の低い彼女。 決して交わらないはずの二人なのに、彼は彼女を守り、触れ、独占しようとする。 「俺が笑うのは、お前の前だけだ」 無自覚な彼女と、執着を隠しきれない彼。 やがてその歪な関係は周囲を巻き込み、彼の“冷酷”と呼ばれる理由、そして彼女への想いの深さが暴かれていく―― これは、氷のような男が、たった一人にだけ溺れる物語。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

りわ あすか
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。