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恋慕
しおりを挟む「…もう、下ろしてくれて平気よ。…ありがとう」
戸惑いに瞳を揺らし、曖昧に微笑んできみが言った。
わざとゆっくり歩いていたことに、聡いきみはきっと気づいていただろう。
けれどどうか、
名残惜しくて、離せないでいることも。
離したくなくて、口実を探していることも。
諦められなくて、足掻いているどうしようもない俺には気づかないで。
侯爵邸からどうやって戻ったのか。
自分のベッドに横になって、思い出すのはパリスのことばかりだった。
二か月も来てなかった。
言われて初めて気づいた。
言われなきゃ気づかなかった。
指が、震えていた。
「、…………ほんっと…っ、」
自分のことしか考えてないんだな、お前は、
どのツラ下げて、言えたんだ。
ーーそんな資格もないのに、
腕に押しつけた瞼の奥が熱くなる。喉の奥がひりつく。鉄の味が滲む。
いつまで気づかないんだ。
いつになったら気づくんだ。
パリス、
「……ごめん、」
でも、諦められない。
解放するべきなのに。
俺よりまともな男なんて溢れてて、
俺なんか相応しくないってわかってるのに。
どうしても、きみがーー。
『ーー…すまなかった、ロビン。…きみのご両親にも、侯爵家の方々にも、とんでもないことをしでかしてしまった…ご令嬢に、なんとお詫びしていいのか…』
『……彼はどうなりますか』
『……退学させ、領地に連れ帰る、……ということになっている』
『…?どういうことです?』
『……まだ本人にも伝えていないし詳しくは言えないんだが、さる高貴な方に望まれてね。……こんなことをして王都で縁など望めないだろう?…それに領地でもあまり評判は良くないんだ…。
更生させようにも甘やかして育ててしまった私たちでは同じ轍を踏むだけじゃないかと悩んでいたところに、そういったことも含めてのお話をいただいたんだ』
リン男爵から聞いた話は初めて聞くものばかりで。
領地の評判というのも閨事に関するもの。
…うんざりだ。
自分がまた何も知らなかったということを知る羽目にもなり、二重の意味でそう思った。
改めて両親とともに侯爵家に謝罪に向かったが、パリスと夫人は不在。
『謝罪は受け取る。次は無い。』
先触れは出していた。
侯爵閣下との対面すらものの五分で終わり、
一目だけでもと浅ましい魂胆の自分を恥じた。
窶れた表情だった男爵夫妻はさらに顔色まで失くしたまま、しばらく逗留するという宿へと戻って行った。
相手方との手続きが終われば領地に戻ると言い残して。
『…引き受けると約束した話を反故にしたこと、対応を見誤りこのような事態を引き起こしたこと、申し訳ありませんでした』
『…きみのせいじゃない。私たちも一緒になって甘えていた。きみの近くにいれば変わるだろうと…要らぬ責任まで押しつけようとして。
…本当にすまなかった。
今まであの子と仲良くしてくれてありがとう…』
お世話になりました、と最後に告げれば少しだけ笑顔を見せてくれた。
少しだけ、心苦しかった。
悪人ではない。
でも俺も、男爵夫妻も、同罪だ。
学園から言い渡された俺の処分は三日間の停学と、学園以外の外出禁止。
キャシディは一週間の停学。同様の外出禁止。加えて授業はすべて別室で受け、食堂など必要以外の場所へは立ち入り禁止。
それは退学になるまで続く。
同席した両親曰く、暴れて大変だったという。
即刻退学処分になり得ることだと思ったが諸々終わるまで、それも指示があるのかもしれない。
監視もつけるとあったから、警戒だけはしておこうと思った。
高貴な方、の考えなど、わかるわけもない。
視線を交わせなくても、話しをすることができなくても、おなじ空間にいられる。
俺にできることを、しなければならないことを、
残された時間をもう、いっしゅんも無駄にしたくない。
正しい選択肢を選ぶ。
それがいつか、きみに届くように。
……いない。
男女別の授業が終わり教室へ戻るとパリスが見当たらなかった。
いつも一緒に行動してるフローリア公爵令嬢はいるのに、パリスだけいない。
まさか、なんてもう思わない。
きっと違いないと、教室を飛び出しながら思っていた。
見つけて、叫んだ。
久しぶりに目が合う。うれしいと思う暇もなく、驚いた表情のまま倒れてゆく。
手を伸ばしたのに届かなくて。
間違えないと決めたのにまた、間違えたのかと目の前が暗く染まりかけたとき彼女の身体が白く光って浮いた。
魔法だ。
この国でそれを使用できるのは王族と、その血縁に連なる者だけ。
階下に見えた人物が優しく彼女を抱き止めるのをただ見ていた。
無事でよかったと、心から思って。
でも、
じりじりと焦げつくような感情を知られたくなくて顔を伏せた。
ーー触れるな。
横で騒がれたってどうでもよくてそれだけが頭を占める。
そんなこと思う資格もないのに、
一刻も早く自分の手のなかに取り戻したくてはやる気持ちで彼女を奪う。
それで落ちつくと思ったのに、
あまりにも自然に腕をまわしてくるからその仕草と感触に。
ただ不安定だからだって、それだけだってわかってるのに。
心が音を立てる。
どうしようもなくなりそうで、必死に堪えた。
笑い声に顔を上げれば、ラスト様が目を眇め俺を見ていた。"がんば"くちびるだけを動かし階段の上へと向かう姿に、男爵夫妻の言葉がよぎった。
疑問ばかりが頭に浮かぶけど、そんなものでは誤魔化せなかった。
どうしようもなく、あふれる。
どうしたら長く触れていられるだろう。
どうしたらこのまま見つめていられるだろう。
腕のなかにいるひとを、もう一度抱きしめるにはどうしたら。
そんなどうしようもないことばかり、あふれてた。
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