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EX②
しおりを挟む「…………ごめんね」
ブライスは痩せ細り、青白く冷たくなった少女を見下ろしながらつぶやいた。
苦痛を伴わないモノならいくらでもあるというのに、こんな粗悪な毒を飲まされどれほど苦しかっただろう。
それなのに表情は穏やかで微笑んでいるようにすら見えるから。
死だけが、この少女の救いだったのだ。
死だけが、救いだなんて。
そんな残酷な世界で生きていたのだ、ひとりで。
手のひらを握りしめる。
妹は生きている。
けれど妹によく似た髪色が錯覚させる。
死者への冒涜だと理解していても、そう思わずにいられなかった。
国で起こった事件により、国王は魔力調査を一新させ、入国する者にはより厳しい審査を科した。
依頼があれば友好国に限るが、他国の調査にも協力する。
エターナリア王国魔術師団、魔力・魔術調査部がそれらを一手に引き受けている。
今までも他国へ調査に向かうことはあったが、事件の影響は小さくなく依頼は増えていて、ブライスは他人の魔力も借りたいと思うほど忙しくしていた。
実妹が紆余曲折を経て王太子妃となってから一年余り。
国内は概ね平和であり、依頼先でも不穏な感知はされずさらに半年、事件からおよそ二年が過ぎようとしていたころ。
海を越えた先にシルベリーという小国国家がある。
四方を海に囲まれ海産物の輸出と希少な鉱物、繊細な織物や布地はどの国でも人気があった。
"魔力を発現した少年の制御が上手くいかず力を借りたい"と依頼を受け、ブライスが初めて訪れたその国で一週間前に、ひとりの侯爵令嬢が毒殺されていた。
偶々だった。
少年の制御訓練を終えて、何気なく外を見たのは。
教会。
ゆらゆらと立ち昇る幽かな、魔力。
『止めろっ!!』
叫びながら馬車から飛び降り、走りながらブライスは思った。間に合ってくれ、と。
同時によぎるのは、
間に合わない。という思い。
喪服の葬列が、崩れた。
被害者は成人し家を継いだばかりの少女。
加害者の後妻とその娘は美人親子として有名だったそうだが、ブライスには悪鬼にしか視えなかった。
自白魔法でべらべらと動く舌を見て、ますますそう思った。
これから裁判にかけられるようだが、どうせ代償で長生きはできないだろう。
精神干渉を受け少女を虐げていた実父、婚約者、使用人、友人ーー。
回復すれば大なり小なり罰を受ける。
ーー回復すれば、だが。
どうあっても、悪意はなくならない。
ひとときの快楽のために、それを賛美だと勘違いすることがいかに虚しいものなのか気づかない人間が多すぎる。
ごめんね、ともう一度つぶやいてブライスは棺から離れた。
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みんなの感想(4件)
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泣きましたー
新しい形での再出発…
元サヤ無し、後悔し続けるがいい‼︎派でしたが、2人が幸せそうで良かったです。
だいぶ周りにお膳立てして貰った感はありますが笑
これからも素敵なお話待ってます。
やさしいお言葉ありがとうございます😭
私も基本元サヤすきじゃないのですが本人よければいーわすきにやれよって感じでw
たしかに周りがご都合ですw
ほんとそのおかげもあるしよかったねオマエラというふたりでしたが、
読んでくださりありがとうございました♡
魔女のエピソードを間に挟み、エピローグの急展開の結末。。。なんだかプロットがよく分からなかった。ともかく、最終的にはニールとティアが幸せに暮らせたようで安心したけれど。。。
よくわからないのにさいごまで読んでもらっちゃって無駄な時間取らせましたね?
まぁプロットは読者さんにわかるわけねーでしょ、とは思いますが私のお話こんなんばっかなんで、合わないんだろうし今後は避けていただくのがよろしいですね!
完結、お疲れ様でした!
そしてありがとうございました、、
作者様の作品は、趣があり、全てを文章にせず、読み手側が想像をかきたてられ、読みながら映像に脳内変換て笑、心がホワホワしたり、何度も読み返し涙したり、怒ったりと、毎回更新を楽しみにしております。
他作品もこれからの作品も、心待ちにしております!(圧ではありません笑)
ちょっとやさしすぎる…😭
最後までお付き合いいただきほんとにありがとうございました!…ほか、がんばります!😅