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リツ
しおりを挟む血なんて関係ない。
「…っ、」
ほんとうに心から、そう思うか?
「…っ、は、…っ」
血に刻まれた呪いは存在するのに。
それを知られたら、俺はあのひとのそばにはいられないだろう。
背中が熱い。
身体が。
撒き散らすように何度、果てても。
月もない深い夜の底で、湿った息。
ぬちゃぬちゃと、手に纏わりつく。
上下に摩る。扱く。この手で、
幹を掴む、この手で。
あのひとに触れた。
匂い。体温。まばたきの回数まで覚えてる。
ーーあの男は馬鹿だ。
それがどんなに幸福なことか理解ってたはずだ。
本能。
醜い性。
捨てられないなら、断ち切るべきだったんだ。
自分が。
ーー自分が、欠陥品でよかったと、これほど思ったことはない。
そばにいさせてほしい。
そばにいたい。
あなたには見せないから。
醜い俺を、決して見せないと誓うから。
「、…、く、…は、っ」
せめてあなたの瞳が閉じている今だけは、
夜にひそんで、あなたを想うことをゆるして。
辺りは濃密で、妖しい雰囲気に満ちていた。
呻き声のように発して、リツは達する。
飛び出る白濁がぱたぱたと土に落ちた。
幾度もそうしているのに、常人より大きなリツの陰茎は萎える気配も見せず硬度を保ったまま、やけになまめかしい影をつくる。
荒い息で胸を上下させ、喉の突起を汗が伝う。
少し開いたくちびるまで濡らして、光る眼が星のない空を見上げていた。
リツはサーカス団で産まれた。
そこで産まれたモノは赤ん坊のころから芸を仕込まれるが、希少だったリツは団長のお気に入りだった。
艶々とした漆黒の毛並み。雪のように白い肌。
長くその価値を維持するためにあらゆる薬を投薬され、魔術を施された。
背中の印も、その過程で刻まれたもの。
両親の顔も知らず他に生きる道も知らなかったリツは当然そこでしか生きられず、そこで死ぬんだと思っていた。
サーカスは国じゅうを周る。
なかには忌み嫌う者もいる。
そんなときには皆それらしく振る舞い、決して本性は見せないよう徹底されていた。
もしミスをすればどんな罰を受けるかわからない。
リツは仕込まれた芸を、観客に披露することはゆるされていなかった。
人前に出ることも、滅多には許可されない。
その日は偶々だったのだ。
ひまを持て余していたし、月がきれいだったから。
もっと近くで見てみたい、とそれだけで。
罰を受けてもかまわないと遊技場が見渡せる高層に登り、ーーそこで少女を見つけた。
ーー昏い森のなかで、リツは己の手のひらを見つめる。
べたべたしていて不快だ。乾くとさらにそれが増す。
たった、一日。
誤魔化すのは得意だ。隠すのも。
今まで一度も、バレたことはないのだから。
この一週間は人生でいちばん楽しい時間だった。
しあわせだった。
声を、ーー…名前を、呼んでほしい。
受動的な生きかたが生き延びる術だった。
手に入れることはできないとわかっている。
ただあの日、サーカスの屋根裏から見下ろした地上で見つけた光が、一番星のように心に焼き付いてしまったのだ。
それでもそばにいたいと、リツは思ってしまったのだ。
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