21 / 46
リツ②
しおりを挟むつけていたリボンの色、服の色。髪の色、瞳の色。
知らないのは笑っているその声くらいだった。
少女の笑顔につられて屋根裏でひとり、リツは生まれて初めて笑った。
それに気づきもしないほど、見惚れていた。奪われていた。
感情が、そのとき自分のなかに初めて生まれたことにも、気づかず。
その正体が何かも、わからないまま。
興行が終わり、その町を離れてからもリツは少女のことが忘れられなかった。
やがてサーカスは解散となる。
団長が不審死を遂げたためだったが事件は未解決のまま。
その直前に逃げ出す団員を見たことをリツは誰にも言わなかった。
鳥獣人の男女は、リツのめんどうをよく見てくれていた。
羽は捥がれて飛べないはずなのに、片手ずつを取り合って走り出す姿はまるで飛んでいるようにリツには見えたから。
それに捜査の手が入ったことにより置かれていた環境の劣悪さ、境遇は白日にさらされ、団員は皆おなじように自由になれたのだ。
ふいに与えられた自由にリツは戸惑うが、少女の笑顔が浮かび、もう一度会いたいと迷わず思う。
リツは少女のいる町に行ったが、少女には会えなかった。
何日も探したが見つからない。
ひとに尋ねてみるなどということに思い至らないリツは違う場所を探してみようと、
最後にサーカステントがあった町外れの広場に立ち寄ってから、そこを去った。
いくつもの町に辿り着き、少女を探す。
何年経っていても、会えば必ずわかるはずだとリツは思っていた。
ーーその確信は当たっていた。
今では明確な目標を持って生きていたリツは、どんな仕事でもやった。
どんな仕事も、サーカスにいたころよりは遥かにマシだと思いながら。
生きるためには金が要る。知識も要る。
命の危険を感じることはなかった。身体能力は元々高い。一般人でもそうでなくても、負けることはなかった。
その能力を買われある町で用心棒のような仕事をしていたとき、雇い主の知り合いという男に仕事を頼まれた。
女の行動を見張れ、と。
リツは言われるままその仕事を受け、その女の住む街に向かった。
一目でわかった。
大人びていても、背が伸びていても、笑顔はあのときのまま。
リツが見つけた光。
一番星の光が、輝いていた。
込み上げてくる気持ちが何なのかはまだわからなくても、
これは喜びだと、リツはわかった。
話しかけたかった。
声を、聞きたかった。
でも悟られてはいけない。それはキツく言われていたから。
リツは少し、いやかなり不服に思いながらもこれから毎日会えるという事実にその思いを飲み込んだ。
果物が好きなようだ。特に林檎が。
リツも好きかもしれないと思った。
パンも毎日買っている。
どれが好きかはわからないからリツは全種類を買って、それを少しずつ食べた。
仕事場の食堂へ行くのを見送り、家に帰るのを見守る。
特に問題はないと、報告書に細かく記す。
そんな日々を送りながらリツは、
なぜ、あのひとを見張るのだろう、と。
今さら依頼内容に思い至った。
そして、
見たこともない笑顔で、寄り添っているのを見た。
抱きしめ合い、物陰でくちづけを交わすのを見た。
髪に触れ、頬に触れ、囁いているのを見た。
リツは初めて、
生まれて初めて、
今まで生きてきてどんなことをされても感じたことのなかった感情を抱いた。
リツは男を、殺したいと思った。
92
あなたにおすすめの小説
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる