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 呼び込みのお姉さんと何とか別れて、私はまた歩き始めた。しばらくすると、また一段と空気が暗くなった。並べ立てられた檻のショーウィンドウには布がかけられて、中には薄らと人影が見える。

 奴隷街に入ったようだった。

 兎に角街から出る方法を模索する必要があった。もし先程の女性が言う通りこの区画内で何かを買わなければならないのなら、どこかに小さな本屋でもないかしらと探すつもりでもいた。

 さがす道の途中三又に別れた路地があった。直感的に左端の路地に入ってはみたものの、道なりに進んで角を曲がると何も無いただの行き止まりになっている。

 道を戻ろうと体の向きを変えた瞬間ドッと音がして、私は体が後ろに倒れた。角が浮いた石畳に足を取られて転んだらしい。

 しかもどうやら、それだけでは済まなかったようだ。一度ゴロリとうつ伏せて床に手をついて、立ち上がろうとしたところで気がついた。地面が石畳から木造のお洒落な床に変わっている。背後には、閉まったばかりと思われる金属製の扉が。

 躓いてすっ転んだ挙句、何も無かったはずの壁に現れた扉を押し開いてしまってどこかに入り込んでしまったらしい。

「いらっしゃいませ」

 唐突に声をかけられた。見れば、長い灰髪を一つにまとめた怪しい男がニコニコと営業的微笑を浮かべてこちらを向いていた。

「土木建築事務仕事に戦闘、遊びの御相手まで。用途も種族も性別も様々な奴隷を扱っております、アラウィス最大手の奴隷商店チェインです」

 怪しさ満点の店員がそう言った。

 ここまで奥深くに扉の偽装までして営業しているあたり合法の大手ではなく違法の大手なんだろうことは、察しの悪い私でもハッキリと理解出来た。

 どうぞと差し出された手を掴んで立ち上がり、パタパタと服を叩いて汚れを落としていると店員が口を開いた。

「本日はどのような奴隷をお探しで?それとも物品等?」
「あぁ、いや……」
「それとも、身売りですか?」

 揉み手の笑顔で迫り来る店員の腰から下がっている鎖が音を立てて揺れた。何か言わなければ捕獲されて奴隷堕ちさせられそうだ。

 人を買うのは気が引けると思い周囲を見回すと、左側にある会計カウンターの反対側に区切られたスペースがある。どうやらあそこが物品コーナーらしい。

 何か買えそうなものでも見えないかと目を向けると、そこから見えるのは首輪に鞭に拘束具に……否、止めよう。

「こちらへどうぞ」

 何も言わないでアタフタしていたら店員がくるりと向きを変えて歩き出した。店の奥に、入口の金属扉より遥かに頑丈そうな扉が佇んでいる。今うちに逃げられないかと、店員を追いかける前に入口の扉を引いてみるがビクともしない。鍵でもかかっているのだろうか。

 腰から鎖と共に下がっていた鍵束から鍵を取りだし、三重と思われる鍵を開けた店員はそのままそこで待っている。薄ら笑みをを浮かべた、こんなことを言うのもなんだけれど酷く不気味な人だと思った。

 出入口が開かないなら、私に残された道は一つしかない。店員ついて階段を下りると、そこは両側に牢獄が広がる長い廊下だった。

 薄暗い中を見ると右手に女性、左手に男性が入れられている。左側の人達は、一瞬私の方を見てすぐに目を逸らした。一方右側の人達は、皆一様に下を向いていたのが店員と連れ立って歩く私を見て必死の笑顔を向けてきた。
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