3 / 6
告白
しおりを挟む
結局、医務室まで運ばれたところで、教諭が学会で不在ということが分かった。
仕方がないので勝手に湿布を貼り、先生を呼びに教員棟に向かわれたソルズベリー侯爵子息に、もう大丈夫なのでそのまま授業に戻るように伝えるため、席を立とうとしたところで、ドアが開いた。
戻ってきたソルズベリー侯爵子息に、勝手に手当したことを驚かれ、せめて侯爵家お抱えの医師を手配したので侯爵家まで来て欲しいと懇願されている。
なぜ??
教員棟に先生を呼びに行くと言ったのではなかったのか。
疑問しかないのだけれど。
「申し訳ありません。そこまでして頂く理由がありませんわ。」
「私が耐えられないから、ということではいけませんか?」
……意味不明である
「……あの、申し訳ありません。どういう意味か全くわかりません。医師なら我が家にも懇意にしてる先生がいらっしゃいますし、必要ありませんわ。」
ここでキッパリ断らないと、押し切られる気がする。
増して婚約を白紙にしたばかりの女が、侯爵家子息と2人きりで長時間密室にいるのも良くない。
侯爵子息の婚約者に目をつけられる事態は避けたい……抱き抱えられ運ばれた時点で既に手遅れな気がするが。
何故こんな状況になっているのだろう!
「授業が始まってしまってますし、お戻りになってくださいませ。大事な授業を遅刻させてしまって申し訳ないのです」
なるべく相手を刺激せず、戻ってもらうにはどうしたらいいのか、全く答えが見えない。
「ソルズベリー侯爵子息様、私は一人で教室に戻れますし本当に大丈夫ですので、どうぞお戻りになってください」
念を押し、治療用の席を立ってドアに向き直ったところで、後ろから声をかけられた。
「…ナルシアドと呼んでください」
「?!……どういう意味か分かりかねます。ファーストネームなど恐れ多いです!」
振り向くと、至近距離にソルズベリー侯爵子息がいた。
「もう、何年も、貴女を想っていたのです」
微かに震える手で私の手を取り、膝をつき、見上げる形で懇願される。
「このまま貴女を帰したくない。唐突なのは分かっています。しかし貴女をようやく見つけたのです。しかも婚約者がいない、何のしがらみもない貴女を。この期を逃したくないのです」
真摯に目を潤ませながら見つめ、思いの丈をぶつけてくる方を振り切れるほど、私は強くも耐性もないです!
しかし、いくら真摯に伝えられたとはいえ、はいそうですかと安易に返事もできないのも事実。
もう何年も、ディード様しか見つめてこなかったですから。
すげなくあしらわれる事しか無かった私が、自分に自信なんかある筈がありません。
16歳で卒業を迎える女性と、18歳で卒業する男性とでは、教育内容が異なるため教育棟自体が違い、すれ違うことも見かけることもない。
男性は女子棟での授業がある科目もあるにはあるが、年に数回と激レアな上に、まず男子棟と女子棟でかなりの距離があり、教員棟や食堂以外で男性を見かけることはまずない。
余程の目的があり、その場所を目指さない限りは。
ディード様に会いに行くのに、かなりの労力を要したのだ。
嫌われ避けられている婚約者がまた会いに来たと。
注目され、遠巻きに陰口を叩かれ、嘲笑われる。
ただ。
向き合いたかっただけなのに。
何故か、無性に虚しくなった。
何故私なのかと。
何故ディード様にこの想いの1/1000でも持って貰えなかったのかと。
好きでなくてもいい、嫌いでも良かった。
ただ。
私という一個人に向き合って欲しかった。
告白されたことよりも、何も出来なかったこの8年が、無性に虚しくなった。
何がいけなかったのか。
私が何かしたなら、言って欲しかった。
ただ只避けられ、何も言われず、答えてもらえず、分からぬまま過ぎた5年が悔しかった。
ツンと鼻の奥が痛くなった。
「……申し訳ありません」
小さく、小さく答える。
「今はまだ貴方様のお気持ちに答えることは出来ません。何も解決していなかったのです。ディード様……は、クウェータ子爵子息とはきちんと話し合って解決しなければ終わらないと気づきました。私のこの想いも昇華してあげないと報われないと。」
あの方の名前を口にすると、泣きそうになる。
気にならないと、興味無いと思い込んで、義務だから、仕方ないからと言い訳し、自分に蓋をしないと泣いてしまいそうになっていた昔の自分を思い出してしまった。
好き、かどうかは分からない。
ただ、この方と一緒に生きていくのだと、8年前に笑いあった、あの方の笑顔が、声が。
ただ、痛かった。
「……申し訳ありません。」
「いえ。貴女とこうして向かい合えている奇跡に浮かれていたようです。こちらこそ突然困惑させてしまい、申し訳ない。」
自嘲するソルズベリー侯爵子息に、慌てて首を振る
「いえ!あの……」
「すみません。……ただ、知っていて欲しいのです。初めて会った時から、私は貴女の虜だと。気持ちはすぐには切り替えられないでしょう。どういった経緯で白紙になったかも知りません。何も聞いていませんから。貴女があいつの婚約者だったとも今日まで知らなかったのです。」
真っ直ぐ見つめられ、吸い込まれそうになる。
「……いつお会いしたのかも覚えていませんの。申し訳ありません」
こんな風に想ってもらえて、純粋に嬉しい。
でも、本当に会った記憶がなかった。
夜会も、数回しか出ていない。
しかしディード様の友人を紹介された記憶はないのだ。
というか、同じ年頃の方がいらっしゃる夜会に出たことがない。
「私が一方的に知っていただけです。4年ほど前に授業に躓き腐っていた時に、裏山によくサボりに行ってたんです。一日中隠れていた時もありました。そんな時、昼食を裏山のベンチで一人でとっている貴女に出会いました。少し寂しそうに、でも食べ終わると必ず負けないわ!と気合を入れ戻っていく貴女に衝撃を受けたのを覚えています」
羞恥で顔が赤くなる。
見られていたなんて!!
「とても新鮮だったんです。出来ないことを腐らず、出来ないからこそやる、止めたら負けだわ!完璧になるまでやってやる!と意気込む貴女に、本当に一瞬で魅せられた。貴女のお陰なんです、今の私があるのは」
真っ赤な私に、ソルズベリー侯爵子息はクスっと笑うと、指先にキスをした。
「あ、と失礼。思わず……そんなに可愛い顔をされては困ってしまう。」
手を離し、私と少し距離をとると、窓の方を向き、顔を逸らすとまた話し始める
「本当に貴女のお陰なんです。年下だと思われる少女に、負けている自分が恥ずかしくなって。そこから必死に努力するようになりました。あなたに、恥ずかしくない自分になろうと思えました。……どの夜会でも会うことはなく、どこのご令嬢か分からぬまま、もう4年です。しばらく行かないうちに貴女は裏山に来なくなっていました。諦めた方がいいのかと思う時もありました。この年齢です。婚約者もいる筈だ、縁がなかったと、このまま親が勧める縁談に進むしかないのか、諦めるしかないのか……悩みながらも何もせず諦めることは出来なかった。会えなくても裏山に行くつもりで出した。どうしても最後に貴女に会いたくて……」
振り向くソルズベリー侯爵子息は泣きそうな顔で、切なそうに笑いました。
「急ぎません。しかし希望があるとわかった以上、諦めることは出来ない。断られることもあるでしょう。でも、少しでいい、考えて欲しい。今すぐでなくとも、貴女が考えられるまで待っています」
ゆっくりと差し出された手を、見つめます。
こんなに真剣に想って貰えるほど、私はすごい人間ではないです。
でも。
今はまだ、何も考えられないけれど。
全てが落ち着いたら、ちゃんと考えたい。
この真摯な想いに向かい合うことが、この方へのお礼だと思えた。
だから、もう少しお待たせする事をお許しください。
仕方がないので勝手に湿布を貼り、先生を呼びに教員棟に向かわれたソルズベリー侯爵子息に、もう大丈夫なのでそのまま授業に戻るように伝えるため、席を立とうとしたところで、ドアが開いた。
戻ってきたソルズベリー侯爵子息に、勝手に手当したことを驚かれ、せめて侯爵家お抱えの医師を手配したので侯爵家まで来て欲しいと懇願されている。
なぜ??
教員棟に先生を呼びに行くと言ったのではなかったのか。
疑問しかないのだけれど。
「申し訳ありません。そこまでして頂く理由がありませんわ。」
「私が耐えられないから、ということではいけませんか?」
……意味不明である
「……あの、申し訳ありません。どういう意味か全くわかりません。医師なら我が家にも懇意にしてる先生がいらっしゃいますし、必要ありませんわ。」
ここでキッパリ断らないと、押し切られる気がする。
増して婚約を白紙にしたばかりの女が、侯爵家子息と2人きりで長時間密室にいるのも良くない。
侯爵子息の婚約者に目をつけられる事態は避けたい……抱き抱えられ運ばれた時点で既に手遅れな気がするが。
何故こんな状況になっているのだろう!
「授業が始まってしまってますし、お戻りになってくださいませ。大事な授業を遅刻させてしまって申し訳ないのです」
なるべく相手を刺激せず、戻ってもらうにはどうしたらいいのか、全く答えが見えない。
「ソルズベリー侯爵子息様、私は一人で教室に戻れますし本当に大丈夫ですので、どうぞお戻りになってください」
念を押し、治療用の席を立ってドアに向き直ったところで、後ろから声をかけられた。
「…ナルシアドと呼んでください」
「?!……どういう意味か分かりかねます。ファーストネームなど恐れ多いです!」
振り向くと、至近距離にソルズベリー侯爵子息がいた。
「もう、何年も、貴女を想っていたのです」
微かに震える手で私の手を取り、膝をつき、見上げる形で懇願される。
「このまま貴女を帰したくない。唐突なのは分かっています。しかし貴女をようやく見つけたのです。しかも婚約者がいない、何のしがらみもない貴女を。この期を逃したくないのです」
真摯に目を潤ませながら見つめ、思いの丈をぶつけてくる方を振り切れるほど、私は強くも耐性もないです!
しかし、いくら真摯に伝えられたとはいえ、はいそうですかと安易に返事もできないのも事実。
もう何年も、ディード様しか見つめてこなかったですから。
すげなくあしらわれる事しか無かった私が、自分に自信なんかある筈がありません。
16歳で卒業を迎える女性と、18歳で卒業する男性とでは、教育内容が異なるため教育棟自体が違い、すれ違うことも見かけることもない。
男性は女子棟での授業がある科目もあるにはあるが、年に数回と激レアな上に、まず男子棟と女子棟でかなりの距離があり、教員棟や食堂以外で男性を見かけることはまずない。
余程の目的があり、その場所を目指さない限りは。
ディード様に会いに行くのに、かなりの労力を要したのだ。
嫌われ避けられている婚約者がまた会いに来たと。
注目され、遠巻きに陰口を叩かれ、嘲笑われる。
ただ。
向き合いたかっただけなのに。
何故か、無性に虚しくなった。
何故私なのかと。
何故ディード様にこの想いの1/1000でも持って貰えなかったのかと。
好きでなくてもいい、嫌いでも良かった。
ただ。
私という一個人に向き合って欲しかった。
告白されたことよりも、何も出来なかったこの8年が、無性に虚しくなった。
何がいけなかったのか。
私が何かしたなら、言って欲しかった。
ただ只避けられ、何も言われず、答えてもらえず、分からぬまま過ぎた5年が悔しかった。
ツンと鼻の奥が痛くなった。
「……申し訳ありません」
小さく、小さく答える。
「今はまだ貴方様のお気持ちに答えることは出来ません。何も解決していなかったのです。ディード様……は、クウェータ子爵子息とはきちんと話し合って解決しなければ終わらないと気づきました。私のこの想いも昇華してあげないと報われないと。」
あの方の名前を口にすると、泣きそうになる。
気にならないと、興味無いと思い込んで、義務だから、仕方ないからと言い訳し、自分に蓋をしないと泣いてしまいそうになっていた昔の自分を思い出してしまった。
好き、かどうかは分からない。
ただ、この方と一緒に生きていくのだと、8年前に笑いあった、あの方の笑顔が、声が。
ただ、痛かった。
「……申し訳ありません。」
「いえ。貴女とこうして向かい合えている奇跡に浮かれていたようです。こちらこそ突然困惑させてしまい、申し訳ない。」
自嘲するソルズベリー侯爵子息に、慌てて首を振る
「いえ!あの……」
「すみません。……ただ、知っていて欲しいのです。初めて会った時から、私は貴女の虜だと。気持ちはすぐには切り替えられないでしょう。どういった経緯で白紙になったかも知りません。何も聞いていませんから。貴女があいつの婚約者だったとも今日まで知らなかったのです。」
真っ直ぐ見つめられ、吸い込まれそうになる。
「……いつお会いしたのかも覚えていませんの。申し訳ありません」
こんな風に想ってもらえて、純粋に嬉しい。
でも、本当に会った記憶がなかった。
夜会も、数回しか出ていない。
しかしディード様の友人を紹介された記憶はないのだ。
というか、同じ年頃の方がいらっしゃる夜会に出たことがない。
「私が一方的に知っていただけです。4年ほど前に授業に躓き腐っていた時に、裏山によくサボりに行ってたんです。一日中隠れていた時もありました。そんな時、昼食を裏山のベンチで一人でとっている貴女に出会いました。少し寂しそうに、でも食べ終わると必ず負けないわ!と気合を入れ戻っていく貴女に衝撃を受けたのを覚えています」
羞恥で顔が赤くなる。
見られていたなんて!!
「とても新鮮だったんです。出来ないことを腐らず、出来ないからこそやる、止めたら負けだわ!完璧になるまでやってやる!と意気込む貴女に、本当に一瞬で魅せられた。貴女のお陰なんです、今の私があるのは」
真っ赤な私に、ソルズベリー侯爵子息はクスっと笑うと、指先にキスをした。
「あ、と失礼。思わず……そんなに可愛い顔をされては困ってしまう。」
手を離し、私と少し距離をとると、窓の方を向き、顔を逸らすとまた話し始める
「本当に貴女のお陰なんです。年下だと思われる少女に、負けている自分が恥ずかしくなって。そこから必死に努力するようになりました。あなたに、恥ずかしくない自分になろうと思えました。……どの夜会でも会うことはなく、どこのご令嬢か分からぬまま、もう4年です。しばらく行かないうちに貴女は裏山に来なくなっていました。諦めた方がいいのかと思う時もありました。この年齢です。婚約者もいる筈だ、縁がなかったと、このまま親が勧める縁談に進むしかないのか、諦めるしかないのか……悩みながらも何もせず諦めることは出来なかった。会えなくても裏山に行くつもりで出した。どうしても最後に貴女に会いたくて……」
振り向くソルズベリー侯爵子息は泣きそうな顔で、切なそうに笑いました。
「急ぎません。しかし希望があるとわかった以上、諦めることは出来ない。断られることもあるでしょう。でも、少しでいい、考えて欲しい。今すぐでなくとも、貴女が考えられるまで待っています」
ゆっくりと差し出された手を、見つめます。
こんなに真剣に想って貰えるほど、私はすごい人間ではないです。
でも。
今はまだ、何も考えられないけれど。
全てが落ち着いたら、ちゃんと考えたい。
この真摯な想いに向かい合うことが、この方へのお礼だと思えた。
だから、もう少しお待たせする事をお許しください。
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる