『甘露歴程 …ハイチュウ、17世紀 アジアを平定す…』

与四季団地

文字の大きさ
3 / 18
プロローグ

3・森本右近太夫一房

しおりを挟む
 ニザエモンに連れられたオリオリオは、<腕輪族>の兵士らと、緑深きジャングルへと、いったん、消えていった。
 一彦は、そんなオリオリオに、いつの間にやら立ち上がり、手を伸ばしていた、が、その手は空しく何もつかめない・・・。
 いま一度 腕時計を見る。
     13:22
 この地とは時差があるのだろうか。
「うっ・・・」
 気づいたが、身体がかなり重く感じる。
 かなり、負担が掛かっていたのだ。
 一彦の前には、数百人はいると思われる<羽飾り族>たちが、あたかも指示を待っている・・・。
 あまりにもの超展開の畳みかけに、一彦は混乱していた。
 ちょちょちょちょ、ちょーい! 落ち着け、落ち着け!
「すーっ!」と、一彦はゆっくり呼吸した。
 全然 落ち着かない。
「すーっ!」「すーっ!」「すーっ!」
 ふう・・・、段々 リラックスしてきたぞ。
 あたたかで、おそらくスコールの後の湿った大気はノドに心地よかった。
 最後にもう一度、深呼吸をしようとした。
「す~~~・・・」
 と、そこに、武骨な兵士たちの間から、涼し気な男が現われた。
「ゲホホホッ!」
 その突然に、咳き込まされた。
「申し訳なか、驚かせてしまったとか?」
 日本語・・・。
 ドラマや映画で聞いたことのある気さくな訛り。
 肌も色も他の兵士に比べて白い、…こいつが、オリオリオの言っていた「ウコンダユウ」?
 頭に、他の現地人と同じく、巻き寿司を作る時に使うスダレみたいな物を髪飾りにしていたり(羽飾りではなかった)、両の頬骨に白い塗り物をしているが、薄汚れてはいれども、着ている物は和装だ。
 腰に刀を二本差している。
 こんな場所には不似合いな、そしてお国訛りも不似合いな草食的イケメンだった。
「い、いえ、あなた、日本人ですよね?」
「・・・二ホン、・・・へぇ、ニッポン人ですたい」
「言葉が通じますね^^」
「へぇ」
 なんか、その返答の「へぇ」もピンとこないけど、気にしてはいられない。
「俺、いや、僕は、・・・なんて言えばいいか、違う世界から来ましたが、日本人です」
「わかるばい。江戸から来たと? 変わった服装やけん」
「そ、そう、江戸から来ました。あなたは、さっきの娘が教えてくれたんですけど、ウコンダユウさん?」
「へぇ、平戸藩士、森本右近太夫一房と言う」
 その年齢はアラサー辺りか。
「・・・カズフサ・・・、僕の名前は田中一彦、カズヒコ! 似てますね^^」
 そう言って、ふと下を見たら、先ほど、オリオリオが、一彦の額にあててくれていたハンカチが落ちていた。
 薄い青いハンカチ。
 右近太夫も一緒に視線を追っていた。
「それ・・・」と右近太夫、「それば貰うてんかんまんか?」と言ってきた。
 大事なオリオリオの持ち物、だが、この右近太夫は、この先の行動の中で重要な人物になるのが予想できた。
「え、ええ、でも、後で本人が返してと言ったら返してあげてね」
「かたじけなか」
 右近太夫は、やや頬を赤らめながら、素早くハンカチを拾い、懐に入れた。
 顔を赤くしている、こいつ、オリオリオに惚れたのか^^;
 まあ、彼女は、普通に現代日本で生活していても「すこぶるつきのイイ女だからなぁ」^^
 <すこぶるつきのイイ女>は表現が古いが、最近 一彦が、古い映画で聞いて気に入っている表現だ。
 そんな右近太夫の動きを見て、<髪飾り族>の兵士たちの数人から奇声が上がった。
 自分だけずるいゾ! てなニュアンスか。
 奇声はやまず、次第に怒声に変わっていった。
 ・・・、なんだよ、もっと右近太夫に色々 聞きたいのに、なかなか安心させてもらえないな・・・!
 兵士たちに糾弾されている当の右近太夫は、なんか嬉しそうな涼しい顔をしている、いい気なものである。
「どうすればいいんだよ・・・」と悩む、悩んだ末に、オリオリオの言っていたことを思い出す。
            <ハイチュウは武器>!!
「そうだ! こいつらにハイチューを食べさせてみよう」
 一彦は、「ちょっと、ちょっと待っとけ」とジェスチャ―込みで言い、トラックに向かうのだった。

 一彦は、自分の10tトラックに向かうのだが、平らに見えた地面が、なかなか歩きにくかった。
 例えるならば各種のテレビみたいな大きさの、大きな石のブロックみたいなものが崩れたかのように散乱しており、そこかしこに草が生えているのだ。
「そりゃ遺跡ん後や」と、ついてきている右近太夫。
「遺跡・・・?」
「こん国は建物ば石で作る。昔に作られたものが崩れたあとだ」
「へー」
 ・・・って、右近太夫の返信口癖の「へぇ」をまねした訳ではないよ^^;
 リモコンキーで、トラックの開錠をしようとする。
 ピッ、ピッ と音が開錠を知らせる、と、まあ、自分が車外に出されていたのだから、もともと開いていたんだと思う、運転中もロックしていなかったし。
 散乱した石の上をピョンピョン跳ねて、一彦はトラックに近づく。
 次第に、自分の身体に、この異世界への転移のダメージは少なくなっていってるようだった。
 そして、地面がボコボコなので傾いてはいるが、トラックにも、見える範囲では破損はない。
 どうやら、この<日野プロフィア・ハイブリッド>は、平らな地面に移せれば動くかもしれない。
 運転席のドアを開ける。
 社内のココナッツの芳香剤の匂いに、一瞬にして、それまでの生活への懐かしさがよみがえる。
 嗅覚とは、記憶への影響が非常に大きいそうだ。
 が、今は感傷に浸っている余裕はない、この熱帯の大気の暑さが、車内にちょっと身体を入れただけで、汗を浮き出させる。
 荷台には、今日の搬出量であった14万8000粒のハイチュウが梱包されて入っているが、車内の小寝台部分にはサンプルのハイチュウが数箱あった。
 それを取り出しつつ、ドリンクホルダーの、残っていたカフェオレを飲み干しておこうとする。
 うん、腐っていない。
 サウナ状態の車内なので、暑くてホットとして美味かった。
 これが、俺の飲む人生最後のカフェオレかも知れないな、と一彦は思う。

「そりゃなんや?」
 運転席から出てきた一彦に抱えられている2つの箱を見て、右近太夫が聞いてきた。
 一彦は、まだまだ現状への疑問さえ起らない程の、状況への条件反射しか起こらないが、右近太夫は、まあ、当たり前だが、同じ日本人のようだが、異相で特殊な鉄の車両とともに現われた男が気になってしょうがないようだ。
 一彦も、ちょっと立ち止まり、もう少し右近太夫を知らなくちゃと思った。
「これはね、俺の国でのお菓子だよ。みんなに配ろうと思って、右近太夫、君だけ、ハンカチ、いや、さっきの布を貰ったでしょ、他の兵隊の方々が怒っているみたいだから、これを配ろうと思ってね」
「へぇ」
「ところで、俺は、もうちょい、君のことを知りたいから、いろいろ聞いていいか?」
「・・・ハンカチ、あん布はハンカチと言うんか」
 ・・・右近太夫、オリオリオのハンカチのことで頭がいっぱいだ^^;
「ああ、・・・ハンカチのことは置いといて、とりあえず、ちょっとお互いのことを話そうか^^;」
「へぇ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...