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第一部・アンコールワットへの道
8・鬼っ子プラタナ
しおりを挟む(写真はイメージです^^)
一彦は、青いナイロン地のボストンバッグを肩にかけ、もう一つの肩にアスカを乗せ、右近太夫のもとへ向かった。
右近太夫たちの戦(いくさ)の前線は、今やクメール軍の陣地となっていた。
一彦とオリオリオの出現によって、一時停戦、アユタヤ軍が後退したことによる。
クメールのガルーダ(チュアン)が着地し、翼を休めていることもある。
例え負傷していようとも、巨大モンスターの周囲への攻撃力は侮れないのだ。
右近太夫は、3人の百人頭に、自分が戦線を離脱するにあたっての事後の指示をしていた。
あらためてこの場を見渡すと、大きな石造りの遺跡に囲まれた、深き緑に囲まれた数百平方メートルの空間であった。
つまり、巨大な遺跡の中庭的な空間。
壁が崩れている箇所も多く、その隙間からは草が繁茂し、蔓が複雑に伸びている。
そこに、日野の10tトラック・プロフィアが出現した訳だ。
さぞ、驚いたことだろう、と思いきや・・・。
「おっ、おおっ!!」
一彦は、それよりものけぞった。
中庭から外界に出るには、門があるのだが、その向こうに小山ほどの影があり、気にしていなかったのだが、視界の隅で動いているように思え、視線を向けると、何匹もの象だった!
「ぞ、象!」
「キッチュ!」と、驚く一彦に合わせ、アスカも叫ぶ。
肩にやや食い込む、小猿の手足の力が感じられる。
頭には<髪飾族>のような飾りが設えられ、背には、人が座れるように木組みのゴンドラが乗っかっている。
外にはいっぱいいるのだろうか、壁で見えない。
一彦は、会議をしている右近太夫のもとへ近づいて、つい邪魔して聞いてしまった。
「あ、あれは象か?」
「そうだよ。この国では普通にいる。おいも最初は驚いた。すぐに慣れるよ^^ アンコールへの道中は、あれで行く」
・・・っ!? おっ、おろっ、右近太夫の方言がなくなった!
「驚いたか? そいつ(アスカ)の力だ。わいさんの肩に乗せたから、精霊の力が増大された。あっ、もちろん、おい自身の話し方は変えていないよ、わいさんの受ける気持ちが精霊の力で変わったんだよ」
つまり、アスカを直接 身につけていることにより、サラスヴァティ―の力の増幅器としての精霊小猿の感度・精度・発信度が上がったという事か。
「なるほどぉ」と、一彦はなおも話したかった。
「わいさん、ちょっと待っていてくれ、こいつらと、おいがここを留守にするにあたっての打ち合わせをしなくちゃならない。荷造りが済んだのなら、象のところで待機していてくれるか?」
「はい」と、一彦はやや寂しい気持ちになりつつ、石畳を踏んで中庭を門に歩いて行った。
ちぇっ、いつまでも注目を浴びられるわけでもねぇか・・・。
ふと、大きな石組の石畳の横に、やはり石組みの手すりの…ガードレールみたいな…トコに、6歳ほどの女の子が座っていた。
「チュムリアップソー」と微笑んできた。
こんにちわ、の意味だ。
汚れているのかか肌色なのか分からないが褐色の容姿、つぶらな瞳とはにかんだ口元が可愛い、ショートカットが丸い顔をクリクリにしている。
髪の毛は色素が薄いのか茶髪だ。
戦場に、こんな幼児がフラフラしているのが、多分、この国の適当さだ。
「私、プラタナ。あなたは?」
6歳くらいにしてははっきりした話し方だ。
大きな一枚布に穴をあけ、そこに頭を通し、腰をツルで巻いた格好をしていた。
ある意味ワンピースで、可愛らしい格好だ。
「俺か? 俺はカズヒコ」
「ふーん。あのさぁ」
「うん」と、一彦は立ち止まった。
「さっきの、私にもちょうだいよ」
もちろん、サラスヴァティ―の力で話せている。
「さっきの?」
「うん、おっさんたちにあげていたお菓子、ちょうだいよ」
「あげたいのはやまやまだけど、一人の子供にあげたら、全ての子供にあげなくちゃならないから切りがなくなるからあげない」
「だって、いっぱいあるんでしょ?」
「でも、全ての子供にあげていたら、すぐになくなっちゃう」
「あはは、限りある魔法使いなのね」
限りある、なんて、そんな言いまわし、6歳にしては大人っぽいし、一彦の状況を理解している。
「そう、あのお菓子がなくなったら、俺なんていなくてもいい人間になりそうな気がする^^;」
「でもさぁ、門の外には子供いるけど、今、ここにはいないから、私にだけちょうだいよ」
と、そこに、背後から大きな声がした。
「カズヒコさんっ! そいつと話したらダメだよ、そいつは鬼っ子だ。わいさんは相手にしちゃダメだ^^;」
鬼っ子・・・、とは穏やかな表現じゃないが、右近太夫の口調に笑みが混じっているので、やや冗談なのだろう。
「了解!」と、一彦は歩いて行こうとした。
「キッチュ!」と、肩のアスカが鳴いた。
「待ってよ!」とプラタナ。「私は、この先、カズヒコの役に立つと思うよ。話していて、バカっぽくないでしょ?」
一彦は立ち止まり、プラタナを見た。「確かに、幼い割には頭が良さそうだ」
「私、それ程幼くないよ、もう12歳だよ」
「マジか?」
「マジだよ」と、カズヒコの現代の言い回しを真似てニヤリと笑うプラタナ。「この国の子供はみんなこんな感じだよ」
「役に立つからって、俺は君をどうも出来ないよ」
「私をカズヒコのお付きにしてよ。私は、みんなから<鬼っ子>と疎まれている。だからこそよ、カズヒコが回りに不安を感じた時、私だけが信じられる存在になるの」
一彦は、この娘に感心した、あまりにも利発な物言いだ。
「ふーん」と一彦は悩んだ。
「まだ、この国の勝手が分からないのかも知れないけど、あなたが王様に与えられる地位においては、私一人をそばに置いておくぐらいわけもないわよ。今、この時点でも、あなたがウコンダユウに、こいつを連れて行くことに決めた、と言えば、それはすんなりと受け入れられる。私は頭もいい、この地域を知っている、天女のように美しい、、カズヒコに尽くす」
出てくる語彙・言い回しのことごとくが、この子の知性を裏付けているし、確かに、可愛い。
はきはきとしていると、可愛さとは離れていくものだが、この子の場合はバランスが取れていた。
芦田愛菜のようだった^^;
「それに・・・」とプラタナは続ける。「私のほうが、数いる人物からカズヒコを選んだの。唯一の人物として選んだの」
オンリーワン・・・
その言葉で、この世界の人間関係・主従関係のシステムは分からないが、一彦はプラタナと行動をとることに決めた。
部活動の後輩みたいな扱いをすればいいんだなと感じた。。
その時、ふと思った。
一彦は硬式テニス部だったのだが、この先、敵軍と戦わざるを得ないハメにもなると思われ、無意識のうちに、自分の得物(武器)はなににしようかと漠然と考えていたのだが、テニスラケットにしようと閃いた。
手ごろな石をサーブして敵を攻撃するのだ。
一彦のサーブにはパワー・コントロールともに定評があったし、敵に直に対面しないで良くて、一種の<飛び道具>として有効だろう。
「どうかした?」とプラタナ。
テニスラケットは2本、トラックの運転席の後ろの小寝台に積んでいた。
物流は長い待ち時間も仕事のうちで、大きな物流倉庫ほど、テニスコートなどが完備されていたりしていた。
ラケットを、プラタナに取ってきてもらおうと思った。
その時に、車内の、他の物品に邪まな気持ち(盗む)を実行せずに、依頼のみを遂行できたら、自分のそばに置こうと思った。
「ほんじゃ、先ず、頼んでもいいか? あの乗物から、俺が忘れたものを取ってきて欲しいんだ」
かくして、一彦は、トラックの鍵の開閉、ラケットの形状を教え、プラタナにキーを渡した。
ニコッと微笑むと、プラタナはトラックに小走りしていった。
途中、3人の頭(かしら)と打ち合わせしている右近太夫の近くを通り過ぎるのだが、4人から話しかけられている。
プラタナは笑いながら、4人に応じている。
結構、<300人隊>の首脳に愛されているようだ。
「カズヒコについていくことになった」とでも言っているのか。
車内には<ハイチュウ>もある。
この時点で、一粒でも盗んだら、採用テストは落選となる。
でも、おそらく、プラタナはこっちの期待を裏切らないだろう。
ただ、トラックの施錠だけはちゃんとしてきてくれよ・・・。
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