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第一部・アンコールワットへの道
11・最初の戦い(3)
しおりを挟む「よし、デピンはこちらに、他の百人頭たちは、他の神能力者を探し続けてくれ」
と、右近太夫はデピンたちに命じると、背中に掛けていた弓を手に取った。
「待ってくれ!」と一彦。「俺がやるよ」
しかし、右近太夫は言う。
「その得物は強力な武器になるだろうけど、一町半(150メートル強)は飛ぶまい。弓ならば、この名のある弓の飛距離ならば、二町はいける。ここは任せて欲しい」
「そっか」
一彦はすぐに引き下がった。
やる気を見せたが、これは大任でもあったから、不安もあった。
150メートル先にピンポイント打撃なんて、絶対に無理だった。
「この、源家ゆかりの名弓<雷上動(らいじょうどう)>で、敵をねじ伏せる!」
「雷上動・・・、俺、その名を知ってるぞ(ゲームやアニメでよく出てくる!)。なんで、そんな伝説の弓を持って・・・ウッ!」
持っているの? と聞こうとしたら、プラタナが一彦の口を押さえてきた。
そして、耳元で言う。
「なんか曰くありげなことを言ってるけど、あれは嘘よ。ああして、自分に気合を入れているんだと思う。あれは何の変哲もない弓矢よ」
「ありゃ、そうか・・・^^;」
しかし、弓を構える右近太夫は凛々しかった。
右近太夫は、構えながら、デピンに言った。
「デピン! 俺の後ろ、肩越しに手を伸ばし、敵の方向を示してくれ。それから、カズヒコ、俺は、連続して矢を放つ。それを避けつつ、いや、迂回して、敵を追い、状況で、敵に弾を打ってくれ! 鬼っ子は、カズヒコの手助けを!」
「了解!」
「了解!」
いきなりの指示に驚きつつ、一彦はラケットをきつく握り、立ちながらスターティングポーズを取った。
プラタナに注意を払っている暇はなかった。
拾った石は6個であった。
小猿のアスカは、肩だと居心地が悪くなりそうだと感じたのか、頭部に乗ってきた。
やや、爪が頭皮に食い込む。
デピンの手には真っすぐな小枝(指示棒か?)が握られ、その腕は、横向きになって弓を構える右近太夫の前方の肩に乗せつつ、真っすぐにターゲットの方向を示していた。
右近太夫はマジ顔で、緑深きジャングルに、見えない敵を見定めていた。
なんとも、涼し気な表情の男である。
ビシュッ! と、右近太夫は矢を放った。
間を置かず、ビシュッ、ビシュッと続く。
一彦も、右手からグルリと大回りで走り始めた。
50メートルは進んだだろうか、前方の草むらでガサゴソと動きがあった。
「神能力者の一人よ! まだまだ近づこう!」
後ろに張りついていたプラタナが言った。
「おう!」
途中、突っ立っているモーニーとソクラを見たので、二人は他の能力者に注意を怠っていないのだろう。
後方を見ると、まだまだ、右近太夫が矢を射っていた。
撃った後に、矢筒から次を取り出すのだが、その間は、サッとデピンが身を下げる。
それを遅滞なく繰り返す様は、餅をついているときの突き手と合いの手の「阿吽の呼吸」のようだった。
100メートル以上は進んだろうか、一彦とプラタナは森に突入した。
植物の葉に滴っていた雨粒が一彦の頬や腕を濡らした。
サッと、二人&一匹は、大きな木の幹の陰に飛び込む。
「いるな?」
「うん」
「逃げてるな?」
「うん」
「・・・ところで、プラタナ」
「うん?」
「お前、なんか武器あんの?」
「ないよ」
「この戦争のさなか、武器やら超能力のある奴らばかりなのに、お前って、なんにもないのか?」
「機転は誰よりも利くつもりですがなにか?」
「頭がいいのは分かっているけど、この状況下で物理的攻撃的なスペックのないお前さんって一体・・・」
「・・・、・・・カズヒコの盾くらいにはなれるわよ」
「変なこと言ってすまん・・・」
うは、相手の短所をあげつらったら、それを覆うかのような思いやりを頂いた気分・・・^^;
カズヒコは、木の幹の裏に立ち上がり、右手のラケットのグリップを強く握り、左手には石を持った。
「私、ナビするわ」と、プラタナが木の幹から前方を覗く。「いた。15メートルほど向こうを前進している」
「矢は?」
「ん?」
「右近太夫の矢が刺さっているとか?」
「それはないみたい」
矢は威嚇の効果しかないようだった。
「そうか、分かった!」
一彦は木の幹から躍り出た。
そして、テニスのサービスを打つポーズに入った。
敵は、確かに程よい距離にいて、こちらに背中を向けている。
木々は密集しているが、攻撃の妨げにはならないようだ。
身体の小さな男が後退していた。
一彦は、わりと土壇場に強い男だった。
間髪入れずに、石を中空に放り投げ、それを振り上げたラケットで打つ、いわゆる「トロフィーポーズ」!!
投げた石を下から見上げ、振りぬく形。
が、・・・、
し、しまった!!!
ガコーン!と音が響いた。
枝が出ていた。
石を打つ前に、ラケットが引っ掛かった。
その音を聞き、神能力者の小男が振り向いて、気づいてしまった。
「やべ、気づかれた・・・」
どうしよう、プラタナ? と後ろを振り向いたら、彼女はいなかった。
「あれ?」と、前を振り向くと、なんとプラタナ、小男に躍りかかっていた。
あたかもスイカを身体全体で抱えるように、小男の頭部に張りついていた。
小男は奇声をあげながら、プラタナを引きはがそうとするが、プラタナは四肢でスッポンの様に食らいつく、しまいには頭部が重くなり、バランスが保てなくなり、小男はプラタナともども倒れた。
なおも、プラタナは離さなくて叫ぶ。
「早く、早く一彦、来て! 助けて!」
「お、おう!」
一彦は走り、そして、プラタナに頭部を塞がれ、ジタバタしている小男の身体と足をラケットで殴りまくった。
特に、弁慶の泣き所、・・・向こう脛を叩きまくった。
小男、さすがに抵抗をやめた。
プラタナはすかさず、近くにあった木のツルで、小男を後ろ手に拘束した。
小男を座らせて、ともあれ、一彦とプラタナも腰を下ろし、荒くなった息を整えた。
「ハァ、ハァ、・・・やったね^^ しかし、プラタナ、やるね^^」
「うん。必死だった・・・」
一彦はプラタナを見る。
まだまだ未成熟の、華奢で筋張った身体でここまでよくやるもんだ^^
人心地つくと、プラタナは、手身近にあった割れた岩から、鋭い破片の石を拾った。
それを捕虜となった男のノドに突き付けて言った。
「これから、クメール軍のきつい尋問があるでしょう。私が聞きたいのは2つ。これに応えたら、尋問がソフトになるように、私、取り計らえるから、心して答えて。もう聞かないわよ。私が聞きたいのは2つ」
淡々と話す故に、小男の心には、プラタナの言葉が効果的に届いたようで、小刻みに何度も頷くのだった。
「ここに来た<ブラフマー>の能力者は何人?」
「・・・は、8人・・・」
「ふむ、やはり虚弱な神能力者なのね。それにしても8人は多いわね。それから、もう一つ、8人から一人 欠けても神能力はつかえるの? これは重要よ、ちゃんと答えてね」
プラタナの質問は、非常に合理的だった。
そもそも、プラタナ自身が合理的な人間で、故に、それを貫徹するために頭脳を鍛えて生きてきたのだろう。
「・・・使えない。8人以下になると、能力がコントロール出来なくなる。我ら8人ワンチームだった」
「ありがとう^^ ちなみにチーム名はあるの?」
一彦は思った、絶対に「オクトパス」だと。
「・・・、・・・スパイダーだ!」
足8本のタコではなく、脚8本のクモかよ・・・。
しかし、よくよく考えると、こいつ(ら)は、俺を溺れ死にさせようとしたんだよなぁ・・・。
「チェッ!」と一彦は、妙に怒りの湧いてこない自分にも苛立ちを隠せないのだった。
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