涙袋 PART2 ~現代居酒屋千夜一夜物語~

与四季団地

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「哀・戦士」編

   第314夜・『真夏の洗礼(冒険は短くも不意に訪れる・・・)』

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☆・・・(2006/08/14)

 夏休み前の夜勤五連チャン明け・・・。

 夜勤の連続も、つい二,三年前までは屁でもなかったのだが、さすがに寄る年波で体にきつい。

 私は、疲労を抑えつつ、職場の仲間に挨拶するのだった。

「しかし、いい天気ですね^^ 夏休み日和ですね^^」

 空には真夏の太陽が照りつけていた。

 私は、ポケットに小銭が二百円ほどしかなかった。

 銀行でお金を下ろさなくてはならなかった。

 ・・・と、こう考えた。

 帰りに立川に寄り道して、銀行で金を下ろして、昼頃までスターバックスでコーヒーを飲みつつ、読みかけの『静かなノモンハン(伊藤桂一著・講談社)』を先に進め、どこかでうまいランチセットを食って帰ろう^^

 私の定期券は、立川は範囲内でないのだが、二百円があるのでそこまで行くのには問題なかった。

 さすがに夜勤明け・・・。

 私は立川までの車中でついうたた寝してしまった。

 さて、立川で下り、銀行のATMに向かう。

 財布からカードを取り出そうとする。

      ・・・ないのである。

 家に置いてきていたのである。

 ・・・ああ・・・、私は一文無しだった。

 ビルの谷間から覗ける空は青く、入道雲が沸き立ち、太陽がギラギラ輝いていた。

 定期が使用できるのは拝島駅からだった。

 立川から拝島までの160円が、今の私にはなかった。

 私は、眠い目を擦り、疲労した足を引きずり、炎天下の中、立川から拝島に向かうのだった。

 スタバのコーヒーも、美味しいランチも吹っ飛んだ^^

 駅の数にすると五駅。道のりで約8km。

 辛かった。

 汗がダラダラ垂れた・・・。

 後方から、真夏の太陽が首筋を熱くした。

 ちょうど昨夜、『静かなノモンハン』の、<一の章・あの稜線へ 鈴木上等兵>の場合を読了していた。

 そこでは、灼熱のノモンハンでの行軍の様が描かれていた。

 ちょっとだけ、鈴木上等兵の気持ちが実感できた。

   ・・・西立川。
   ・・・東中神。
   ・・・中神。
   ・・・昭島。
   ・・・拝島。

 東中神駅の辺りで歩道橋があった。

 これが辛かった・・・。

 疲労している時の階段の昇り降りの辛いコトったらない。

 中神駅では、やたらと車の通りの多い小さな通りがあった。

 私は、思い切って一台の車を遮り、道を横断した。

 そしたら、その遮られた車は、私を渡らせたばかりに、踏み切りで引っかかってた。

 ごめんちゃい^^;

 昭島駅では、思わず座り込みたくなってしまった。

 そんな風に思ってしまう自分に、ちょっと新鮮な思いを感じた。

   立川-拝島間。

 私は、1時間15五分で歩き通した。

 さて、拝島駅に着くと、いつも五日市線は改札直前の一番ホームからの出発なのだが、今は二番ホームからの出発だった。

 しかも、発車は一分後、・・・走る!

 地下道への階段を走り下り、地下道(現在はない)を走り、二番ホームへの階段を走り上り、五日市線の列車に飛び込む。

 エアコンの効いた車内で一息つく。

「ごくごく平凡に生活しているつもりだが、<旅>や<冒険>は、生活のそこかしこに存在しているんだなあ・・・」

 と、思うのだった・・・。

                                       (2006/08/14)
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