涙袋 ~現代居酒屋千夜一夜物語~

与四季団地

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   第46夜・『縁もゆかりもない女』

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 ポスティングのバイト先は、社長からして挨拶に非常にうるさく、挨拶しない者は雇わないと言うほど徹底している。
 ・・・さて、私は、いつもバイトに行き、8時半に朝礼を済まし、速攻で、作業道具をまとめ、現場に向かうのだった。
 で、事務所から、現場に行くための駅に向かうと、いつも、9時出勤の内勤の女の子とすれ違う。
 で、その入社したばかりの娘に、私は挨拶する。「おはよー!」
 その女の子も、「おはようございます」と返してくる。
 しかし、それが数日に渡って続くと、その子は、声に出して挨拶することはなくなり、不機嫌そうに会釈するだけになった。
 それは、この、挨拶にうるさいバイト先においては、許されざることだった。
「なんだよ! あの人、社長がいないと挨拶の一つも出来ないのかよ」
 と、私は、ちょいと不機嫌になった。
 私は、この、知力・体力・時の運が左右するバイト作業において、二年以上に渡って、ずーっと平均業績トップを続けている男である。
 社長や部長は、他人に私を紹介する時、「我が社の稼ぎ頭です^^ 怪物です」と言うほどである(当時の本職のほうは、フォークリフトと言う危険なマシーンを使うので、慎重になり、それほど優秀ではない)。
 その私に、新入社員が挨拶の一つもしないのは、私のプライドを著しく傷つける。
 でも、面倒なので、気前良く高額のバイト料をくれる会社に文句を言うことはなかった。
 私は基本的に、面倒くさがりなので、会社の内勤事務所に顔を出すことはないのだが、昨日、バイト料の請求書を提出に内勤事務所に赴いた。
 すると、最近入社した女の子が、私に用件を聞きにきた。
 ・・・顔が違う。
 いつも、朝、現場に向かう時、駅への道ですれ違う女の子と顔が明らかに違うのだ。
 ・・・じゃあ、いつも私が挨拶していた女の子は、誰なんだ?
 つまり、私は、朝、ただすれ違うだけの、縁もゆかりもない女性に、数ヶ月間に渡ってフレンドリーに挨拶し続けていたのだ。
 自分個人の思いの中で急激に恥ずかしくなってきたし、
 また、相手の娘の、私に対しての違和感を想像すると、更に恥ずかしくなった・・・^^;
 でも、次回、その女性とすれ違うとき、私が挨拶しないと、その女性はどう思うのだろうか?
 その時、どうすべきか、私は全く考えていない・・・。
                      ・・・(2012/11/28)
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