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第三章 魔法使い
限界値への扉。
しおりを挟む初デート()を終えた二人は次のダンジョン探索の準備、買い出しを終えて翌朝を迎えた。
昨日二人が帰った時にはカーラに根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもなかった。
『凄く綺麗ですよ!』『高かったでしょ!?』『き、金貨45枚…』
と、騒がしいカーラに揶揄われた。
いつもの冒険者活動の服に身を包んだミルキィとレビンはダンジョンに向かっている。
「水が出せる魔導具っていくらするんだろうね?」
「サリーさんに聞いてみるしかないんじゃないの?もしくはカレンさんか」
あれからというものレビンは魔導具が気になって仕方ないようだ。
「でもおそらく私達には手が出せない値段よ?」
「そうなの?」
「カレンさんからの魔法講義の時に少し触れていたけど、魔導具は大した事がないものでも金貨100枚は下らないみたいよ」
ミルキィからもたらされた情報にレビンは項垂れるしか出来なかった。
ダンジョンに入り気を取り直したレビンは別の事をミルキィと話し合う事にした。
もちろんダンジョン内であるため、考え込まない程度の会話に終始するようだ。
同じ過ちは繰り返さない。
というより、アランに小突かれたくないだけかもしれない。
「ミルキィは今レベル87だよね?」
「そうね。信じられないけど事実よ」
改めて自身のレベルを確認したミルキィは聞いた事がないレベルに未だに慣れない。
「…」
「何よ?」
確認したレビンが黙り込んだ為、ミルキィは魔力探査を行いながらも尋ねた。
「…レベルが99になったら次は100なのかな?」
「?それはそうなんじゃない?」
何を当たり前な。とミルキィは返すがレビンが数を数えられないとは微塵も思っていない。
「レベル100…三桁なんて聞いたことある?」
「…ないわね」
「僕もない。というか、読んでた冒険録にも出てこないし、ギルドでも聞いたこともない」
「つまり?」
「99がレベルの限界かなって。まだわかんないんだけど」
レビンは他の人のレベルをチェックしているわけではない。
しかしギルドの依頼ボードに貼り出されている依頼書にもレベルの指定があるものもある。
レビンが確認したその中の最大のレベルでさえ50というものだった。
レビンが確認する依頼書は塩漬依頼が殆どの為、確信は持てないが余っている依頼より高いレベルが求められる依頼はなさそうである。
50レベルが巷に溢れていない、少ないから残っていると考えていた。
「今回の目標はレベル99から上があるのか?の検証もあるから頑張ろうね」
「多分それはすぐわかりそうね」
ミルキィの言葉にレビンも頷いて答えた。
雪山エリアにつけばすぐにわかることだろう。
最近ではレビンのレベルの上がる早さよりミルキィのレベルドレインの方が遅いのだ。
前回のダンジョン探索でもミルキィのレベルアップによる酔い・・覚まし待ちでかなりの時間をゆっくりと過ごしていた。
「どう?まだ高揚感はある?」
レベルドレイン後、暫く経ってからレビンはミルキィへと聞く。
「もう大丈夫よ。これでレベル92ね」
「うん。この調子ならすぐだね」
この雪山エリアのいい所は、寒さによりレベルアップの高揚感がすぐ覚めるところも含まれていた。
そしてミルキィのレベルドレインも今回の探索で5回目。
後7回でレベル99。次の一回でレベル三桁が存在するのかがわかる。
レビンのレベルは現在レベル14(105)であった。
(僕のレベルは実際のレベルが低いからなのか、上がり続けているんだよね。
高揚感もあるし、ホントに僅かだけど強くなっている感覚もあるからあがっているはず)
レビンは自身の事はまだミルキィには伝える気はない。
もしかしたらミルキィがまた足手纏いになると悩むかもしれないからだ。
ミルキィへと渡すレベルは確保している為、魔物との戦闘は一旦中止にして、前回同様に雪山での雪中キャンプの準備に取り掛かった。
「よし。こんなもんかな」
「上出来よ。だんだん慣れてきたんじゃないの?」
二人の目の前にはかまくら…とは名ばかりの立派な雪の洞窟が鎮座していた。
「後は水を掛けて固まれば崩れないね」
入り口は二人が屈んでやっと通れるサイズだが、中は広々としていた。
入り口のところにキッチン()を作り、奥には居住区、さらに奥には荷物置き場を作った。
「こういうところでレベルの恩恵を感じるね」
「なんか間違っている気がしないでもないけど…頷いてしまうわ」
レベルアップによるフィジカルを使い、瞬く間に作り上げてしまった。
そして前回よりも大きくなっていた。
慣れると人はどこででも快適さを求めてしまうのかもしれない。
「居住区には草原エリアで刈った草を敷き詰めたし、これで快適だね!」
「ええ。料理も捗りそうだわ」
二人は快適になった雪山エリアを満喫していた。
「どうかな?」
レビンが不安そうに幼馴染を見つめる。
その慈愛の籠った視線に幼馴染は柔らかく答えた。
「大丈夫よ。無事に上がったわ」
そう答えたミルキィはレビンにレベル99のタグを見せた。
「ふぅ。とりあえずは後一回だね。もちろんミルキィの身体に影響がないならこれからも僕の血を吸ってもらうけど」
「ふふ。大丈夫よ。今更拒絶反応なんて出ないわ。それにママにも言われたけど、美味しい不味いはあっても血に拒否反応が出るヴァンパイアなんて聞いたこともないわ」
それでもレビンは心配なのである。
(レベルが吸えるのはミルキィだけなんだ…何も起こらないといいんだけど…)
もちろん幼馴染にはその事は言わない。解決策もそれ以前にまだ問題も起きていないのだ。
無駄になるかもしれない不安を煽るような事はしない。
どこまでも幼馴染ファーストな二人なのである。
「僕のレベルも上がり辛くなってるし、今日はこの辺にして休もう?」
「そうね。近くに魔物はいないみたいだし賛成よ」
魔力探知で生き物の魔力を探したミルキィはレビンにそう伝えるとキャンプ地へ向け足を動かした。
雪の家へと帰ってきた二人は仲良く夕食を食べた。
夕食といってもダンジョン内では常に時間は一定である為、二人にとってはと注釈がつくが。
「これから目標の一つだったレベル100に向かうんだけど……」
レビンはレベル100になれるか気になるが、それ以上にただの幼馴染としての感情を超えているミルキィが心配だった。
「大丈夫よ。体調に問題はないわ。もちろん吸血衝動もないけど、それはいつもだから。ね?」
迷子の子供のような表情のレビンにまるで聖母のような表情で安心を与えるミルキィ。
「うん。もし何か異変を感じたらすぐにやめてね?」
「わかっているわ。私に何かあっても相談できる人がいないものね。ごめんね?」
ミルキィはハーフと言えどヴァンパイアである。
もし病気になっても治癒師に見せていいものかもわからない。
「それこそ今更だよ。ミルキィに何かあっても僕が必ず助けるから!」
普段であればこのようなクサイレビンの言葉に顔を赤くするミルキィだったが、レビンのこの言葉は長い幼馴染として当たり前にあったものだからか自然と腑に落ちた。
困ったことがあればいつも二人で解決してきた。
悲しいことがあればいつも二人で泣きあった。
嬉しい事は二人で。
シュッ
カプッ
いつものようにレビンに歯を立てられないミルキィの為にナイフを使い吸血させた。
ドサッ
「!?ミルキィッ!?」
吸血後、倒れたミルキィに呼びかけるレビン。
しかしミルキィが目覚める事はなかった。
レベル
レビン:12→10→15→14→16→15→17→16→17→16→
18→17→18→17→18→17→18→17→19→18→19→18→22(121)
ミルキィ:87→99
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