天上の喫茶店

東雲 千宝

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撃壌之歌

1話

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ある日の朝、痩せこけた一人の男が店にやってきた。

白髪混じりの頭はその男が若くないことを表していた。

「ここはどこでしょうか?私は死んだのでは無いのでしょうか?」

その男は天上の喫茶店、店主のジャック見つけるなりしゃがれた声でそう言った。

「いらっしゃいませ。ここは天上の喫茶店といい、お亡くなりになられた方が最後のひとときを過ごす場所でございます。そして私はここのマスターをしております【ジャック】と言う者です。」

そう言ったジャックはやってきた男にこの店の説明と、ここがどこであるかを一通り説明した。


すると男は「そうですか…なら何か一杯いただきたい。メニューはありますか?」と言った。

「ここではお望みのものは何でも出てくる仕組みとなっておりますので、是非お好きなものをご注文ください。」

そうジャックが口にすると、男は少し考えたあと、物寂しそうに言った。

「望みのものは何でも出てくるということですが、例えばそれは誰かの手料理の味をそのまま再現したものとかも出すことができるという認識でいいのでしょうか?」

「はい。左様でございます。」

「では最後に妻がよく作ってくれていたトール茶が飲みたい。」

こう答えた男だったが、ジャックにはトール茶が何であるのか皆目見当がつかなかった。

しかし言われたからには出すしかないと思ったジャックは【かしこまりました。】と一言言ってから厨房へと入り、とある方法を使って全く同じ味を再現してみせたのだ。


程なくしてジャックは男の望み通りの品を目の前に差し出した。懐かしい匂いに男は出されるやいなや、すぐにコップに入ったトール茶を飲み始めた。

「この味…確かに妻がよく作ってくれたトール茶の味だ。生きていた時に他の人に頼んでみたものの、全く再現出来なかった味…本当に。本当にありがとう…」

そう男は涙ながらに答えた。

しかしジャックは【トール茶】という飲み物を知らなかった。

「トール茶というのはお客様の地元では有名な飲み物なのですか?」

男はジャックの言葉を聞いて少し驚いた顔を見せた。

「まさかトール茶をご存知ない?我々の住む【レスペナテア共和国】では知らない者はいないと言われるくらい美味しいお茶ですよ。」

「レスペナテア共和国…?」

ついつい漏らしてしまった言葉に男が反応する。

「まさかレスペナテア共和国のこともご存知ない?レスペナテアは今や世界でも有数の強国ですよ?」

ジャックはそう答える男の真っ直ぐな目を見て、男が言っていることは嘘ではなく本当のことなのだろうと察した。

しかしジャックはレスペナテアと言う国名は聞いたことがなかった。【これはもしや私の生きていた世界とは違う世界から来たのではないか…?】などと考えていると、何かを察したのか男から声をかけられた。

「ジャックさん?」

「すみません、考え事をしておりました。」

「レスペナテア共和国についてですか?」

「はい。ただ私も生きていた頃の記憶が曖昧なので、ひょっとするとただ忘れているだけの可能性もあるなぁ…と思いまして…」

「そうなんですね。」

男からの質問にその場しのぎの嘘をついて何とか乗りきったジャックだったが、レスペナテアについて未だに気がかりであった。そこで男にいくつか質問をしてみることにした。

「お客様、失礼ですがお名前はなんというのでしょうか?」

「名前…?あぁ、まだ言ってなかったですか。私の名前はオルハンと言います。オルハン・イルハームです。」

「オルハン…良いお名前ですね。」

「ありがとうございます。」

「ちなみにトール茶というのはどのようなお茶でしょうか?」

「トール茶ですか…詳しく説明しますと私の祖国、レスペナテアには【ナル】と言う木が自生しております。その木は年一回、葉っぱが生え変わる時期がありましてね。その時期になるとナルの枯葉が取れるのです。その枯葉を煮詰めて作ったのがトール茶です。」

ここまでオルハンの説明を聞いたジャックだったが、トール茶もナルの木もレスペナテアについても何も思い当たる節がない。何か手がかりとなる記憶は無いのか、そう考えている間にも男は続ける。

「味は少し苦味もありますが、その中に少しの甘みもあって美味しいんです。」

【味は苦味がある…ということは我々の世界で言うコーヒーのような飲み物なのか…?】などと思ったが、一通り話し終えたオルハンが話しかけてきた。

「少しはなにか思い出しましたか?」

「いえ…まだ何も…」

「そうですか…」

そこでジャックはレスペナテア共和国とは何かを知るために男にひとつの提案をした。

「やはりどうしても私もレスペナテアという国名は聞き覚えの無い国名です。少しばかりあなたのことや、レスペナテア共和国について教えて頂けませんか?」

「いいですよ。」

そう一言言うとオルハンは語り始めた。
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