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撃壌之歌
3話
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ある1人の男が廊下を足早に移動する。
石造りの床と男が履く革靴の底が重なり、コツコツと高い音が廊下に響く。
そして男はとある部屋へと辿り着く。
その部屋の扉を勢いよく開くと男は言った。
「大統領。ホネーデより電報が。ダウード市長が…何者かによって暗殺されました。」
「やはり来たか。犯人はブレジニアのスパイだろう。」
大統領はその男が告げた内容を予見していたのか、そう冷静に言葉を返す。
「ブレジニア…ですか。まだ犯人は分かっていませんが【例の戦争】がもうすぐ起こるわけですね。」
「あぁそうだ。急ぎブレジニアとの国境付近に配備している西方十二大隊にブレジニアの行動に注意するように伝えてくれ。」
「承知致しました。」
そう男は大統領からの指示を受け、部屋を去った。
その約1週間後、西方十二大隊から連絡が入った。
【ブレジニアの軍勢、およそ3万がレスペナテアとの国境に向かう街道を進軍中。狙いはホネーデの可能性が高いが、予想よりも軍の数がはるかに少ないため、複数の部隊に分けて進軍している可能性がある。よってブレジニアと国境を面する関所は全て厳戒態勢にしておいた方が良いであろう。】
とのことだった。
この一報を受けたレスペナテア共和国大統領、ルクマンはレスペナテア共和国とブレジニア帝国の間にある3つの関所にレスペナテア共和国の西側を防衛する西方防衛師団を集結させた。
そして月が変わった4月。
ブレジニア帝国最強部隊と呼ばれる中央騎兵隊とレスペナテア共和国西方防衛師団の中でも選りすぐりの人材が集まるエリート部隊、西方十二大隊とがパポカルチ関門で激突することになった。
この関門はレスペナテア共和国とブレジニア帝国の間にある3つの関門のうち中央に位置する関門で西部の要衝ホネーデに一番近い関門であった。
当初戦況はレスペナテア共和国側有利で進むかと思われたが、予想以上の粘りを見せたブレジニア帝国側が巻き返しを図るなど、戦況は一向に動かなかった。
そして長く続いたパポカルチ関門の戦いはブレジニア帝国の勝利で幕を閉じたのだった。
西方十二大隊を破った中央騎兵隊は勢いそのままに西部の要衝ホネーデに侵攻、占拠したのだ。
この歴史的敗戦は瞬く間にレスペナテア共和国中に伝わることになる。
またこの知らせはホネーデとは離れたレスペナテア共和国の東側を防衛する東方防衛師団に所属することになったオルハン達にも伝わったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
〈ヘアス暦1510年4月〉
「オルハン!聞いたか?!ホネーデが…陥落した…」
そう息を切らせて走ってきたアーティフにオルハンは状況を理解できなかった。
「去年言ってたブレジニアが攻めてくるかもしれないって話…あれは本当だったんだ!」
そう言うアーティフの声をかき消すかのように放送で指示が飛ぶ。
【総員直ちにグラウンドへ集合】
その指示を聞いたオルハンとアーティフは急いでグラウンドに出た。
グラウンドにはオルハンが所属する東方三十大隊437人全員が集まった。
そして東方三十大隊の大隊長、リワールから指示が出る。
「皆も知っている通り、西部の要衝ホネーデが昨日陥落した。敵はブレジニア帝国最強部隊、中央騎兵隊。ブレジニアが今の大きさになる前から存在する伝統のある部隊で、ブレジニアの領土拡大の時にも誰一人として落とすことが叶わなかった難攻不落の要塞をたった一部隊で落としたと言われている部隊である。
その化け物染みた強さから【不死鳥】との異名を持っている。
そして今日君たちをここに呼んだのは訳がある。先程西方防衛師団から連絡があり、ホネーデを取り返すことが西方防衛師団のみでは不可能だということだ。そこでホネーデに侵入し、敵の偵察、出来れば第84期中央騎兵隊隊長ミールを暗殺してくれないか。との事だ。この任務は大変危険であり、強制は出来ない。我こそはと思うものは手をあげよ。」
そうリワールは言ったものの誰も手をあげようとはしない。
俺は少し悩んだが横にいるアーティフをチラリと一瞥するとアーティフもまた悩んでいるようだった。
オルハンはアーティフに小声で話しかけた。
「どうする?危険だけどやってみる価値はあるのかもしれない。」
「やってみるもなにも失敗したら命はないんだよ?いくら国のためだからって言っても死にに行くようなことは…」
そう言ってアーティフは名乗り出ることを躊躇っていた。
そこでオルハンは言った。
「俺はやろうかなって思ってる。もうこうなった以上いつかは戦地に行くことになるんだろうしさ。なら何かやってみたいって思うんだ。」
まだアーティフは悩んでいるようだったがすぐに答えは出た。
「わかった。オルハンがそう言うならやろうかな。」
その答えを聞いた俺はその場で名乗り出た。
「俺が行きます。」
全員の視線が刺さる。
「名前はなんと言う?」
「東方防衛師団第56期召集兵オルハン・イルハームと申します。」
そう言ったオルハンに続くようにアーティフが前に出る。
「同じく東方防衛師団第56期召集兵アーティフ・マージドもこの任務、参加します。」
「ほう…二人か。他にはいないのか?」
少しの沈黙の後、ある聞き馴染みのある声がした。
「その任務、私とこいつも参加します。」
「名前は?」
「その2人と同じ東方防衛師団第56期召集兵のハキーマ・ワラカとクトゥブ・ヒラールです。」
「全員召集兵か…本当にいいのか?」
そう問いかけるリワールにハキーマが言った。
「私たちは昔から4人でいました。だからこそお互いが信頼し合い、そしてお互いよく知った者同士です。そういった能力は潜入作戦には1番必要なスキルなのではないでしょうか。」
「確かにそうだが……よし分かった。特別にこの4人を正規兵に昇格させ、今回の偵察、及び暗殺任務の担当者に任命する。危険な任務だが、くれぐれも命だけは落とさぬよう頑張ってこい。」
そして4人はホネーデに1番近い街、ラージュへと向かうことになった。
この日の晩、ハキーマとクトゥブが話しかけてきた。
「去年あれだけビビってたオルハンが真っ先に名乗り出て私びっくりしちゃったな。」
そう言うハキーマはこれから命の危険が大きい任務に向かうとは思えないほど明るい顔をしていた。
「まぁ俺だって知らないものは怖いよ。けと怖いのはみんな一緒だと思うんだ。なら少しは人の役に立ちたいじゃないか。どうせいつか戦地に行くならこの際一役買ってみたいなって思ってね。」
そう答えたオルハンにクトゥブがニヤッとして言う
「なんか変わっちまったなぁ。けど今のお前も嫌いじゃないぞ。」
「とりあえず気を引き締めて、誰も最後まで欠けないように頑張ろう。」
そうアーティフが言うとみんなは何も言わず首を縦に振った。
「明日は早いし、早く寝た方がいい。」
そうしてラージュへと向かう日が来たのだった。
石造りの床と男が履く革靴の底が重なり、コツコツと高い音が廊下に響く。
そして男はとある部屋へと辿り着く。
その部屋の扉を勢いよく開くと男は言った。
「大統領。ホネーデより電報が。ダウード市長が…何者かによって暗殺されました。」
「やはり来たか。犯人はブレジニアのスパイだろう。」
大統領はその男が告げた内容を予見していたのか、そう冷静に言葉を返す。
「ブレジニア…ですか。まだ犯人は分かっていませんが【例の戦争】がもうすぐ起こるわけですね。」
「あぁそうだ。急ぎブレジニアとの国境付近に配備している西方十二大隊にブレジニアの行動に注意するように伝えてくれ。」
「承知致しました。」
そう男は大統領からの指示を受け、部屋を去った。
その約1週間後、西方十二大隊から連絡が入った。
【ブレジニアの軍勢、およそ3万がレスペナテアとの国境に向かう街道を進軍中。狙いはホネーデの可能性が高いが、予想よりも軍の数がはるかに少ないため、複数の部隊に分けて進軍している可能性がある。よってブレジニアと国境を面する関所は全て厳戒態勢にしておいた方が良いであろう。】
とのことだった。
この一報を受けたレスペナテア共和国大統領、ルクマンはレスペナテア共和国とブレジニア帝国の間にある3つの関所にレスペナテア共和国の西側を防衛する西方防衛師団を集結させた。
そして月が変わった4月。
ブレジニア帝国最強部隊と呼ばれる中央騎兵隊とレスペナテア共和国西方防衛師団の中でも選りすぐりの人材が集まるエリート部隊、西方十二大隊とがパポカルチ関門で激突することになった。
この関門はレスペナテア共和国とブレジニア帝国の間にある3つの関門のうち中央に位置する関門で西部の要衝ホネーデに一番近い関門であった。
当初戦況はレスペナテア共和国側有利で進むかと思われたが、予想以上の粘りを見せたブレジニア帝国側が巻き返しを図るなど、戦況は一向に動かなかった。
そして長く続いたパポカルチ関門の戦いはブレジニア帝国の勝利で幕を閉じたのだった。
西方十二大隊を破った中央騎兵隊は勢いそのままに西部の要衝ホネーデに侵攻、占拠したのだ。
この歴史的敗戦は瞬く間にレスペナテア共和国中に伝わることになる。
またこの知らせはホネーデとは離れたレスペナテア共和国の東側を防衛する東方防衛師団に所属することになったオルハン達にも伝わったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
〈ヘアス暦1510年4月〉
「オルハン!聞いたか?!ホネーデが…陥落した…」
そう息を切らせて走ってきたアーティフにオルハンは状況を理解できなかった。
「去年言ってたブレジニアが攻めてくるかもしれないって話…あれは本当だったんだ!」
そう言うアーティフの声をかき消すかのように放送で指示が飛ぶ。
【総員直ちにグラウンドへ集合】
その指示を聞いたオルハンとアーティフは急いでグラウンドに出た。
グラウンドにはオルハンが所属する東方三十大隊437人全員が集まった。
そして東方三十大隊の大隊長、リワールから指示が出る。
「皆も知っている通り、西部の要衝ホネーデが昨日陥落した。敵はブレジニア帝国最強部隊、中央騎兵隊。ブレジニアが今の大きさになる前から存在する伝統のある部隊で、ブレジニアの領土拡大の時にも誰一人として落とすことが叶わなかった難攻不落の要塞をたった一部隊で落としたと言われている部隊である。
その化け物染みた強さから【不死鳥】との異名を持っている。
そして今日君たちをここに呼んだのは訳がある。先程西方防衛師団から連絡があり、ホネーデを取り返すことが西方防衛師団のみでは不可能だということだ。そこでホネーデに侵入し、敵の偵察、出来れば第84期中央騎兵隊隊長ミールを暗殺してくれないか。との事だ。この任務は大変危険であり、強制は出来ない。我こそはと思うものは手をあげよ。」
そうリワールは言ったものの誰も手をあげようとはしない。
俺は少し悩んだが横にいるアーティフをチラリと一瞥するとアーティフもまた悩んでいるようだった。
オルハンはアーティフに小声で話しかけた。
「どうする?危険だけどやってみる価値はあるのかもしれない。」
「やってみるもなにも失敗したら命はないんだよ?いくら国のためだからって言っても死にに行くようなことは…」
そう言ってアーティフは名乗り出ることを躊躇っていた。
そこでオルハンは言った。
「俺はやろうかなって思ってる。もうこうなった以上いつかは戦地に行くことになるんだろうしさ。なら何かやってみたいって思うんだ。」
まだアーティフは悩んでいるようだったがすぐに答えは出た。
「わかった。オルハンがそう言うならやろうかな。」
その答えを聞いた俺はその場で名乗り出た。
「俺が行きます。」
全員の視線が刺さる。
「名前はなんと言う?」
「東方防衛師団第56期召集兵オルハン・イルハームと申します。」
そう言ったオルハンに続くようにアーティフが前に出る。
「同じく東方防衛師団第56期召集兵アーティフ・マージドもこの任務、参加します。」
「ほう…二人か。他にはいないのか?」
少しの沈黙の後、ある聞き馴染みのある声がした。
「その任務、私とこいつも参加します。」
「名前は?」
「その2人と同じ東方防衛師団第56期召集兵のハキーマ・ワラカとクトゥブ・ヒラールです。」
「全員召集兵か…本当にいいのか?」
そう問いかけるリワールにハキーマが言った。
「私たちは昔から4人でいました。だからこそお互いが信頼し合い、そしてお互いよく知った者同士です。そういった能力は潜入作戦には1番必要なスキルなのではないでしょうか。」
「確かにそうだが……よし分かった。特別にこの4人を正規兵に昇格させ、今回の偵察、及び暗殺任務の担当者に任命する。危険な任務だが、くれぐれも命だけは落とさぬよう頑張ってこい。」
そして4人はホネーデに1番近い街、ラージュへと向かうことになった。
この日の晩、ハキーマとクトゥブが話しかけてきた。
「去年あれだけビビってたオルハンが真っ先に名乗り出て私びっくりしちゃったな。」
そう言うハキーマはこれから命の危険が大きい任務に向かうとは思えないほど明るい顔をしていた。
「まぁ俺だって知らないものは怖いよ。けと怖いのはみんな一緒だと思うんだ。なら少しは人の役に立ちたいじゃないか。どうせいつか戦地に行くならこの際一役買ってみたいなって思ってね。」
そう答えたオルハンにクトゥブがニヤッとして言う
「なんか変わっちまったなぁ。けど今のお前も嫌いじゃないぞ。」
「とりあえず気を引き締めて、誰も最後まで欠けないように頑張ろう。」
そうアーティフが言うとみんなは何も言わず首を縦に振った。
「明日は早いし、早く寝た方がいい。」
そうしてラージュへと向かう日が来たのだった。
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