妹転生!~妹への愛が止まらないのに、何故か僕には妹がいない~

百円玉

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三章

第38話 目を血走らせ、爪を噛み、頭を掻きむしる男

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「――それ以上はやめた方がいいんじゃないかな……?」

 なにぃ……!?僕より先に声を上げるとはなんてことだ……!
 しかもなんか気だるげな感じで、いけ好かない声だ……!
 どうしよう……僕の妹がこんないけ好かない声の奴に取られてしまう……!
 絡まれているところに助太刀に入るほどポイントを稼げるタイミングはないのに……!
 くそう!そう考えると千載一遇のチャンスを逃してしまったことになる……!

「なんだ……?貴様は?」

 激昂して手を振り上げたまま、声がする方に振り返る。

「俺はこの学園の受験生だよ。 君も試験を受けに来たんだろう? あんまり騒ぎを大きくしない方がいいんじゃないか? 試験官もいるだろうし、こんなことで心証が悪くなっても面白くないだろう?」

 そこには、黒髪のイケメン野郎がいやがった。
 僕の妹は、そのイケメン野郎をじっと見つめている。
 こんな屈辱があるのだろうか。許せない……!

「…………ちっ! 覚えておくことだな……!」

 イケメンが言ったこともあながち間違いではないとでも思ったのだろう。
 イケメンを憎々しげに睨みつけ、貴族少年は立ち去って行った。

「大丈夫かい?」

「あ、ありがとうございます……」

 それを確認したイケメン野郎はこともあろうに僕の妹に声をかけ、そして、そして……!!手を差し伸べたである!!!
 妹はその手をとって……!!ち、ち、ちくしょう……!!!

 僕は歯を食いしばりながらイケメンを憎々しげに睨みつけ、ユーリに引きずられていった。





 僕は筆記試験会場の自分に割り当てられた席に座って、目を血走らせ、爪を噛み、頭を掻きむしりながら、体を怒りに震わせていた。
 僕の貧乏ゆすりにより、机がガタガタと震えているのを見て周りの受験者たちから、奇妙なものを見るような視線を向けられていても関係ない。


 許せなかった――


 僕の妹を颯爽と奪っていったあのいけ好かないイケメン野郎がどうしても許せなかったのだ。
 絶対に……絶対に復讐してやる……!

「お兄ちゃん、もう試験始まるよ……?」

「フーフーフーフー!!」

 後ろの席からユーリが声をかけてくるが、僕の怒りは収まらない。

「おい、ニアの奴、一体どうしたっていうんだよ……? いつになくおかしくなっちまってねぇか? 試験に緊張してるって感じには見えねぇしよぉ…… いや、見ようによっちゃあ見えねぇこともねぇがよ……」

 ユーリの後ろに座るダンが口を出す。
 一応試験開始までには間に合ったらしい。
 トイレに籠っていれば恥をかかずに済んだものを……。

「昨日女の子を助けられなかったからみたいだよ……」

「……は? なんだそりゃますますわかんねぇぞ……」

「僕も知らない……!」

「そ、そうか……」

 ユーリがなんだか機嫌が悪そうに頬を膨らませるが、知ったことではない。
 僕は今奴にどうやって復讐するのかを考えているところなのだ。

「試験始めるぞー ……って何なんだお前は! 一体何をしている! 今すぐその行為をやめるんだ!」

 試験官が爪を噛んだり、頭を掻きむしったり、貧乏ゆすりをするのをやめるように言ってくるが、今はそんなくだらない言葉を聞いている暇がないので、無視する。

 ガタガタと収まらない机の揺れを見て、試験官が近づいてくる。

「おい、試験を始めるからもうやめるんだ! ……………………やめろと言っているっ!!」

「ぐへぇっ!!!」

 無視し続けていると僕の頭にげんこつを落としてきやがった……!
 痛すぎて涙が滲んでくる。
 ちくしょう!なんなんだこいつは!!
 どいつもこいつも僕の邪魔をしやがって……!

「すみません……」

 反抗的な態度をとって報復されるのが怖かったとかそんな意図はないが、一応素直に謝っておく。

 悔しい……!!
 なんで僕がこんなに惨めな思いをしなくちゃいけないんだ……!!
 これも全てはあのいけ好かないイケメン野郎のせいだ……!!

「ふん…… 次やったら不合格にするから覚えておけよ……?」

 くそう!!偉そうにしやがって……!
 この世界には力で押さえつければ良いと思っている奴らしかいないのか……!

「よし、答案用紙は行き渡ったな? それでは試験開始!」

 イライラが収まらない僕は答案用紙が破けそうになるほどの筆圧で回答を書き込むのだった。




***




 筆記試験が終わり、僕は実技試験の会場に来ていた。

 ちなみに筆記試験の出来栄えとしては完ぺきにできていたと言っても過言ではない。
 ちょっといけ好かないイケメン野郎に心を乱されはしたが、前世の知識がある以上、あの程度の試験など僕にとっては朝飯前なのだ。

 実技試験の内容は魔法の適性を図る水晶玉に手をかざすというお馴染みのやつだ。
 適性のある属性の色に輝き、光の強さにより、その適性の高さを表すのだ。
 複数の適性がある場合は複数の色が輝くらしい。
 ただ、正確な数値は判断できないので、試験官による独断と偏見で点数が決められるとのことだ。
 ここは少しでも媚を売っておくほうがいいかもしれない。
 僕の試験を担当するであろうカエルのような顔をした小太りの人物に近づいていく。

「お疲れ様ですぅ!」

「ん? なんだお前は?」

「受験生のニアと申しますぅ」

 揉み手をしながら擦り寄っていく。

「ああ、よろしく。 俺はトードンだ」

「いやぁ、お疲れでしょう……? 肩、揉みましょうか……?」

「ん? ああ、すまないな」

 カエルのような顔をしたトードンの後ろにサッと回り肩を揉み始める。

「いやぁ、それにしてもすごい学園ですよねぇ本当に…… 歴史があるというか、重みがあるというか……」

 接待において重要なのは、会話を絶やしてはいけないということだ。
 そして、相手が気持ち良くなるような言葉をさりげなーくかけてあげるのが肝要だ。
 誰しも自身の所属する組織に誇りを持っているはずであり、それを褒められると気分が良いものなのだ。
 ここで本人を褒めるのではなく、組織を褒めるというのがポイントである。
 露骨に褒めてしまっては、おべっかを使っていることに気付かれてしまうからだ。

「ああ、まあなぁ。 というかお前、こんなところで油売ってて大丈夫なのか?」

「え?」

 見ると、僕以外の受験者がなにやら集まっている。

「なんか、皆集まってるみたいだぞ? 行かなくてもいいのか?」

「あ、あれ? あなたは何を?」

「ああ、俺か? たまには日の光を浴びてこいってなぁ、母親に言われたんだよ」

「………………」

 受験者の集団に向かって無言で走り出す。

 一体誰なんだあいつは!!
 僕は何が楽しくて、学園内に迷い込んだ引きこもりオヤジの肩を揉んでいるのだ。
 ちくしょう!!あんな奴に無駄な時間を使ってしまった……!
 無駄に貫禄があるので、試験官と勘違いしてしまったではないか……!本当に紛らわしい奴だ……!!

「おい、受験番号146番ニア・シスコーン! 返事をしろ!」

「はい! ここですぅ!!」

「いるならさっさと返事をしろ!!」

「……すみません」

 あのカエル男め……!
 なんで僕が怒られなければならないのか……!
 くそう……!あいつのせいで試験官の心証は最悪だ……!

「お兄ちゃん、どこ行ってたの……? 急にお腹痛くなっちゃったの?」

「いや、引きこもりのカエルオヤジの肩揉みさせられてた……」

「…………?」

 ユーリはこてんと首をかしげるが、僕もよくわかっていないのだ。
 僕は知的な策を巡らせていたと思ってたら、引きこもりカエルオヤジの肩を揉んでいた。
 何を言っているのかわからないと思うが、僕も何をさせられたのかわからなかったのだ。

 僕が今しがた起こった恐ろしい経験をユーリに話していると、受験者たちは受験番号順に水晶の前に並ぶように指示された。

 ふと前を見ると、僕の二つ前に、あの憎きいけ好かないイケメンのぼんずがいやがった。
 なんとその前には妹ちゃんがいるではないか……!!
 ということは僕の妹とイケメン野郎は受験番号が並びであるということである。
 これは妹ちゃんからしたら、助けてもらった人と受験番号が一つ違いであり、運命だと勘違いするパターンのやつだ。
 だが、そんな運命などないのである。
 どうせあいつは試験前から僕の妹に目をつけ、ずっと尾行していたに違いない。
 偶然、受験番号が並びなんてことは絶対にないのだ。
 顔がイケメンで、尚且つ心が綺麗なんて人間は存在しない。
 つまり、顔がイマイチなら心が綺麗だし、顔がイケメンなら心は薄汚れていると相場は決まっているのだ。
 だからこそ僕は、そんな薄汚い人間から妹を守るために、あのイケメン野郎を闇に葬る必要があるのだ。

 耳の穴を膨らませて、会話を盗み聞く。

「さっきは……その……ありがとうございました。 私フランって言います」

 フランちゃん!本当は僕が助ける予定だったんだけどねっ!
 僕は万力のようにギリギリと歯を食いしばる。

「俺はアーサー、何事もなくて良かったよ」

 イケメンが太陽のような笑顔で答える。
 ちくしょう!!何が、ナニゴトモナクテヨカッタヨだ!反吐が出るわ!
 しかも随分と大仰な名前をしてやがる……!
 なんだ?主人公気取りか?

「私、昔からどんくさくて家族からは一人で学園なんて行けるのか、なんて心配されちゃて…… 私だって一人でもできるんだぞって思っていたんですけど、初日からトラブルになっちゃいました……えへへ」

 か、可愛い……!!
 ドジっ子などフィクションでしか存在しないと思っていたのだが、実在したのだ……!
 感動で僕の頬に涙が伝う。

「俺も一人だから正直心細くてさ、話ができる友人ができたのは嬉しいよ」

 こいつぅ……!さりげなく友達認定しやがりやがって……!
 どうしてやろうか……!
 もはや四肢をもぎ取る程度ではこの怒り収まらない……!

「あ……お友だち……」

「あ、またやっちゃったか…… 俺昔から距離感を図るのが苦手なんだ…… 不快に感じたのなら謝るよ」

 不快に感じたなら謝る!?
 こんな言葉を吐く奴は信用ならん!
 そんなことを言われたら、本当に不快だったとしても、はい不快ですーなどと素直に言う奴なんかいないのだ!
 そんなことないですよーと言わせたところをなし崩し的に友達になろうという汚い魂胆が見え見えなんだよ!

「い、いやそうじゃなくて…… 私、村にいたときもお友だちが少なくて…… だから嬉しかったというか……」

 ぬおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!!
 僕のフランちゃんだぞ!!
 薄汚い貴様には過ぎたお友だちだ、今すぐ地に還るんだ……!それが唯一の賢い選択だ……!!

「良かった。 それじゃあこれからよろしく!」

「はい! よろしくお願いします!」

 ぐぎぎぎぎぎぎ……!!ちくしょう……ちくしょう……!!
 そんな二人の様子に、僕は血の涙が止まらなかった。

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