拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第五章 再会

拾われ子と家族

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 奴隷生活五日目の朝。三人が同室でいられるのはこの日、仕事で部屋を出る直前までだ。
 朝食が運ばれてくると、いつもクローディアが話し、スイとエトマが相槌を打ったり便乗して話したりするのだが、今日は口数が少ない。

 朝食を終えると別れの時間となった。あまり長く話していると怒られるので、短い挨拶を交わしてクローディアは自分の部屋となる所へ、スイとエトマはザーズリーの仕事部屋に連れていかれる。
 今日はエトマが団扇で扇ぎ、スイが雑用係として物の片付けと掃除を命じられた。

『(慣れないなぁ……! いや、慣れたら駄目か……)』

 初日以降はスイもザーズリーの「お触り」の餌食となり、頭や身体を触られては強い不快感に耐える日々を送っている。
 エトマが言っていた事が、この数日でスイにもよく解るようになった。

『(……全然違う……)』

 両親に撫でてもらうのとは違うとエトマは言っていたが、その通りだと思った。
 養祖父母の手とも、シュウトの手とも違う。
 それぞれ撫で方に違いはあったけれど、三人共優しさと暖かさが感じられた。撫でられている時は、とても心が満たされて幸せな気持ちになったのをスイはまだ覚えている。
 何度も、その時の時間が恋しくなる程に。

『(……余計な事より、此処から脱出する時の事を考えておかないと。……あと二年で、成人するんだし……)』

 会いたい、と思ってしまった自分をスイは叱咤する。
 早く大人になって心も身体も強くなりたいのだ。甘えてなんていられない。
 スイは自分の中の「子ども」を押さえつけて思考を切り替えると、ザーズリーの「お触り」に耐えてどうにか今日の仕事を終えた。

「ディア、平気かな」

『やる気満々だったし、きっと大丈夫だよ』

「……そうだよね」

『うん』

 二人だけの夕食の時間。明るくて話好きなクローディアがいないからか、時々二、三言葉を交わしては無言になる。

「…………」

『(な、何を話そう……。ハンターって事はまだ言えないから旅の話は出来ないし……)』

 クローディア程ではないが、エトマも感情や心境が表情に出る方だ。何かの拍子にハンターの話題がザーズリーやバールスから出て、エトマが反応してしまうとスイだけでなくエトマにとっても危うくなる。
 ザーズリーのお気に入りなので折檻や殺されたりはしないだろうが、あらぬ疑いを掛けられて詰問はされるかもしれない。男性が苦手なエトマにとってはかなりの苦痛になるだろう。

『(……ディアは、接客のお仕事は本当に向いているんじゃないかな)』

 外からの情報なんて入ってこない状況で、絶えず話題を提供してくれていたクローディアの凄さを思い知る時間となった。
 夕食の後はシャワーだ。自分の所有物は綺麗にしておきたいのだろう。監視付きではあるが、毎日シャワーは使わせてもらえている。
 それも済めば後は就寝時間だ。スイはクローディアが使っていたベッドに横になる。
 屋敷の構造や人員はほぼ把握済みだし、昼も夜も動き回っていたのでここ最近寝不足で、今夜は動く気が起きない。
 ソファーよりふわふわで、寝心地が良いのもあって一気に睡魔が襲ってきた。

「スイレン」

『……なに?』

 半分眠りかけていた意識だったが、何とか返事をする。エトマの方を向くと眼が合った。

「ごめんね、眠い?」

『うぅん、大丈夫だよ。どうかしたの?』

「……スイレンのお話、聞きたいなって思って」

『私の? 此処に来た理由はこの間話した通りだし、ディアみたいに色んな話は知らないよ?』

「スイレンのパパとママの事、聞きたいの」

 スイは言葉に詰まった。
 刺すようなものではない。けれど、確かな痛み。
 心を棒状の物で突かれたような、鈍い痛みだった。

『…………』

 ふっ、と部屋の明かりが消えて就寝時間を告げた。スイは静かに深呼吸をする。

『両親の事、あんまり覚えてないんだ。でも、優しい人達なのは知ってる』

「……そっか。……わたしのパパとママもね、すっごく優しかったの」

『うん』

「パパは女の人みたいな話し方で、ご飯作るのが上手なの。身体が大きくてね、ママと会う前はハンターとしてモンスターと戦ってたんだって」

『へぇ……! そうなんだ』

 スイも、しっかりした体格のジュリアンに対して冒険者やハンターのようだと思った事がある。
 まさか本当にハンターだったとは思わず、今度会えた時にハンター時代の事と、答えてもらえるならハンターを辞めて宿屋を営んでいる理由を訊きたいと思った。

「ママはね、パパよりももっと優しいの。いつも良い匂いがして、ふわふわで、歌うのがとっても上手でね。夜、ママに歌ってもらうとすぐ眠くなっちゃうんだ。あ、ママもご飯作れるけど、パパの方が上手なんだよ」

 くすくすと笑うエトマは、この五日間で一番幸せそうな声をしている。

『(……良いなぁ)』

 リリアナに抱っこされて、料理をするジュリアンを一緒に眺めて、三人でご飯を食べる。夜はリリアナと同じベッドに入り、子守唄を聴きながら眠るエトマ。
 スイの脳裏には、幸せそうな三人が思い浮かんでいた。

『(……明かりが消えてて、良かった)』

 今のスイに、表情を取り繕える自信は無かった。眼の奥に熱と痛みを感じて強く瞼を閉じる。
 蘇った記憶の中には、家族に囲まれていたものがある。
 シュウトはごく偶にしか家にいなかったが、何度か両親と姉兄、スイと六人揃って幸せな時間を過ごした記憶があるのだ。

『(……会いたい……)』

 向かい側から、小さく寝息が聞こえてきた。
 大好きな両親の事を思い出しながら眠れたのなら、少しは救われているのかもしれない。
 どうかそのままエトマが幸せな夢を見られるようにと願うと、スイは背中を丸めた。

『(……私も会いたい。夢で良いから、皆に会いたい)』

 考えれば考える程、家族への気持ちが募る。スイは家族を想いながら、今度こそ睡魔に抗わずに眠った。
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