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第五章 再会
拾われ子と夕暮れ時の影
南大陸とは違い、肌に纏わりつくじめっとした空気があまり無い東大陸の夏は、昼はからっとした暑さが続く。
夕陽が町を染める時間帯になると、徐々に空気は涼しくなり、風も吹くので不快さはない。
煙管を咥えたソウジロウは、宿の外壁の端側に寄りかかって空を見上げる。
境目の曖昧な赤、橙、紫、薄青。それらを跨ぐ濃灰色の雲。煙が、空を横断するように夕焼け空に立ち昇った。
「(町並は違うのに、空の色は故郷と変わらんな)」
暫く帰っていない遠い故郷を思っていると、近くに気配を感じた。人通りのある道に面しているソウジロウに対して、誰かは宿屋外壁の側面にいる。
建物の影になっている上に二人の間には樽や木箱が積まれているので、見ようと思って覗きでもしない限りは、その誰かは見えない。
それでも念を入れて、ソウジロウは指輪型の盗聴防止魔道具を起動した。
「お久しぶりです。息災なようで」
低いが、張りがあって若さを感じる声だ。
ソウジロウは煙を燻らせると、唇を動かさずに言葉を返した。
「愚息に心配される程、耄碌してはおらん」
「……先の失態について言い訳するつもりはありません。申し訳ございませんでした」
「素人のような失敗をしおって。焦って動くなど一族の末端にも置けん。もし、また同じ失態を犯した時は追放する」
「はっ……。肝に銘じます。……それで、親父殿」
「声に動揺が出ておるぞ。奴隷商の下っ端に遅れを取ったりと、暫く眼を離した間に半人前に成り下がったか」
ソウジロウの厳しい声に、男は言葉を詰まらせた。
「……親父殿。ひとつだけ教えていただきたい」
「内容による。言ってみよ」
「御子様は、まだ見付かっていないのですか? シュウト様と親父殿が探し回って十年経つのに、まだ……」
「そうだ。だが、シュウト様は諦めてはおらぬ。ならば、儂等もそれに従うまでだ」
「……そう、ですか。いや、そうですね」
男は消沈したが、すぐに気を持ち直す。
何か言おうとしたが、風が運んできた煙管の煙を吸い、咳込んだ。
「それで、用件は何だ」
「旦那様から、親父殿に言伝が」
「!」
男は、預かっていた言葉をソウジロウに伝える。
聞き終わると、ソウジロウは煙を吐いた。
「相分かった。拝命した旨、旦那様に伝えよ」
「はっ。失礼します」
気配が完全に消えると、ソウジロウは魔道具を停止させた。
「(やはり美味いとは思えぬな)」
外で誰かと密会するなら、敢えて人通りのある所で自然体でいる方が人の眼にも記憶にも留まりにくい。
ソウジロウの場合はその役に立つのが煙管だった。景色に溶け込むと言う理由では何度も使っているが、美味いと思った事は一度も無い。使う時も殆ど肺まで吸い込まず、吹かしているだけだ。
「(さて……旦那様直々の命とあらば動かねばならぬ)」
ソウジロウは宿の自室に戻り、椅子に座るとアイテムポーチから青い何かを取り出した。
「(……本来なら、島の者に託すべきなのだが止むを得まい。これが最善だと、旦那様もシュウト様も許してくださるだろう)」
窓から入ってくる夕陽を反射する青いそれを、漆黒の眼が眺める。
「(同行者を考えれば丁度良かったのかもしれぬが、聊か憂いはある……。我らが龍の神よ、どうか貴方様の御子を導き給え)」
ソウジロウは一人静かに故郷の古い神へと祈ると、紙と筆、硯と墨を取り出した。
その頃、スイは消耗品の補充で道具屋に来ていた。
『(色を変えていても気付かれたけど……何もしないよりはマシな筈)』
「ハンタースイ」の存在がバレると誰からイズモに伝わるかわからないので、髪と眼の色は変え、コハクにもまた影に潜んでもらっている。
『すみません。ソープナッツって此処にある分しか在庫ありませんか?』
「ありゃ、もうそれしか無かったか。ごめんよ、在庫なら裏にあるから、ちょいと待っててくれ。おーい!」
家族か、従業員か。店主は人を呼ぶと店の裏へと向かわせる。
ソープナッツが補充されるまで売り物を物色していると、後ろの方から話し声が聞こえてきた。
「へぇ! あそこのお屋敷、末の子が継いだの? 今時珍しいわね、最初に生まれた子が継がないなんて」
「そうよねぇ。でも末坊ちゃんが一番出来が良かったらしいわよ」
「時々あるわよねぇ。長子じゃなくて、能力で下の子を跡継ぎに決めるの。でもそれって兄弟間の仲はどうなのかしら? 親にも不満を持ちそうな気もするけど――」
道具屋の反対側にある青物屋の前で、中年女性が二人話し込んでいる。
籠を持っているから買い物に来ているのだろうが、その籠の中には何も入っていない。会話に夢中になっているが、軒下の影に入って涼んでいる辺り、ちゃっかりしている。
話の内容的に、彼女らの話題に上っているのは貴族のようだ。中年女性の井戸端ならぬ道端会議はどの町でも見掛けるが、大きな町の往来で貴族についてあれこれ言うのは中々命知らずである。
「――跡継ぎの決め方と言えば、今は殆ど聞かなくなったけれど、敢えて末の子に継がせるって言うのもあったわよねぇ」
「あったわねぇ! 上の子よりも、末の子の方が成功しやすいって話でしょう。三人兄弟が出てくる御伽噺だと、三番目の子だけが成功するからって言う」
「そうそう。何て言ったかしら――」
聞こえてくる会話にいつしか向けていた意識が、ガラガラと硬い物がぶつかる音で遮断された。
すっからかんだった箱に、ソープナッツが山盛りに入っている。
「はいよ。お待たせしたね! ソープナッツは幾つ入用だい?」
『えぇと、三十個お願いします』
「あいよ!」
店主に提示された価格を払い、品物を受け取ったスイは宿屋に向かって歩いていく。先程までの会話の事はすっかり忘れ、スイの頭の中は宿で作る薬の種類や数で占められていた。
道具屋の向かい側ではまだ女性二人が話し込んでおり、店主は従業員と顔を見合わせて苦笑する。どうやら、この通りでは日常的な光景のようだ。
「思い出したわ! 末子成功譚よ」
「あぁーあ! そうそう、そうだったわ。でも末子成功譚に則るお家って、末の子があまり出来が良くなかったらどうするのかしら?」
「その場合は無かった事にするって聞いたわよ。だから、三人以上子どもを作るお家が多かったみたいね」
「……どう言う事? 末の子に拘らず、長子に家を継がせるんじゃないの?」
「いいえ、出来の悪い末の子は最初からいなかった事にして、あくまで末の子に継がせるようにしたんですって」
夕陽が町を染める時間帯になると、徐々に空気は涼しくなり、風も吹くので不快さはない。
煙管を咥えたソウジロウは、宿の外壁の端側に寄りかかって空を見上げる。
境目の曖昧な赤、橙、紫、薄青。それらを跨ぐ濃灰色の雲。煙が、空を横断するように夕焼け空に立ち昇った。
「(町並は違うのに、空の色は故郷と変わらんな)」
暫く帰っていない遠い故郷を思っていると、近くに気配を感じた。人通りのある道に面しているソウジロウに対して、誰かは宿屋外壁の側面にいる。
建物の影になっている上に二人の間には樽や木箱が積まれているので、見ようと思って覗きでもしない限りは、その誰かは見えない。
それでも念を入れて、ソウジロウは指輪型の盗聴防止魔道具を起動した。
「お久しぶりです。息災なようで」
低いが、張りがあって若さを感じる声だ。
ソウジロウは煙を燻らせると、唇を動かさずに言葉を返した。
「愚息に心配される程、耄碌してはおらん」
「……先の失態について言い訳するつもりはありません。申し訳ございませんでした」
「素人のような失敗をしおって。焦って動くなど一族の末端にも置けん。もし、また同じ失態を犯した時は追放する」
「はっ……。肝に銘じます。……それで、親父殿」
「声に動揺が出ておるぞ。奴隷商の下っ端に遅れを取ったりと、暫く眼を離した間に半人前に成り下がったか」
ソウジロウの厳しい声に、男は言葉を詰まらせた。
「……親父殿。ひとつだけ教えていただきたい」
「内容による。言ってみよ」
「御子様は、まだ見付かっていないのですか? シュウト様と親父殿が探し回って十年経つのに、まだ……」
「そうだ。だが、シュウト様は諦めてはおらぬ。ならば、儂等もそれに従うまでだ」
「……そう、ですか。いや、そうですね」
男は消沈したが、すぐに気を持ち直す。
何か言おうとしたが、風が運んできた煙管の煙を吸い、咳込んだ。
「それで、用件は何だ」
「旦那様から、親父殿に言伝が」
「!」
男は、預かっていた言葉をソウジロウに伝える。
聞き終わると、ソウジロウは煙を吐いた。
「相分かった。拝命した旨、旦那様に伝えよ」
「はっ。失礼します」
気配が完全に消えると、ソウジロウは魔道具を停止させた。
「(やはり美味いとは思えぬな)」
外で誰かと密会するなら、敢えて人通りのある所で自然体でいる方が人の眼にも記憶にも留まりにくい。
ソウジロウの場合はその役に立つのが煙管だった。景色に溶け込むと言う理由では何度も使っているが、美味いと思った事は一度も無い。使う時も殆ど肺まで吸い込まず、吹かしているだけだ。
「(さて……旦那様直々の命とあらば動かねばならぬ)」
ソウジロウは宿の自室に戻り、椅子に座るとアイテムポーチから青い何かを取り出した。
「(……本来なら、島の者に託すべきなのだが止むを得まい。これが最善だと、旦那様もシュウト様も許してくださるだろう)」
窓から入ってくる夕陽を反射する青いそれを、漆黒の眼が眺める。
「(同行者を考えれば丁度良かったのかもしれぬが、聊か憂いはある……。我らが龍の神よ、どうか貴方様の御子を導き給え)」
ソウジロウは一人静かに故郷の古い神へと祈ると、紙と筆、硯と墨を取り出した。
その頃、スイは消耗品の補充で道具屋に来ていた。
『(色を変えていても気付かれたけど……何もしないよりはマシな筈)』
「ハンタースイ」の存在がバレると誰からイズモに伝わるかわからないので、髪と眼の色は変え、コハクにもまた影に潜んでもらっている。
『すみません。ソープナッツって此処にある分しか在庫ありませんか?』
「ありゃ、もうそれしか無かったか。ごめんよ、在庫なら裏にあるから、ちょいと待っててくれ。おーい!」
家族か、従業員か。店主は人を呼ぶと店の裏へと向かわせる。
ソープナッツが補充されるまで売り物を物色していると、後ろの方から話し声が聞こえてきた。
「へぇ! あそこのお屋敷、末の子が継いだの? 今時珍しいわね、最初に生まれた子が継がないなんて」
「そうよねぇ。でも末坊ちゃんが一番出来が良かったらしいわよ」
「時々あるわよねぇ。長子じゃなくて、能力で下の子を跡継ぎに決めるの。でもそれって兄弟間の仲はどうなのかしら? 親にも不満を持ちそうな気もするけど――」
道具屋の反対側にある青物屋の前で、中年女性が二人話し込んでいる。
籠を持っているから買い物に来ているのだろうが、その籠の中には何も入っていない。会話に夢中になっているが、軒下の影に入って涼んでいる辺り、ちゃっかりしている。
話の内容的に、彼女らの話題に上っているのは貴族のようだ。中年女性の井戸端ならぬ道端会議はどの町でも見掛けるが、大きな町の往来で貴族についてあれこれ言うのは中々命知らずである。
「――跡継ぎの決め方と言えば、今は殆ど聞かなくなったけれど、敢えて末の子に継がせるって言うのもあったわよねぇ」
「あったわねぇ! 上の子よりも、末の子の方が成功しやすいって話でしょう。三人兄弟が出てくる御伽噺だと、三番目の子だけが成功するからって言う」
「そうそう。何て言ったかしら――」
聞こえてくる会話にいつしか向けていた意識が、ガラガラと硬い物がぶつかる音で遮断された。
すっからかんだった箱に、ソープナッツが山盛りに入っている。
「はいよ。お待たせしたね! ソープナッツは幾つ入用だい?」
『えぇと、三十個お願いします』
「あいよ!」
店主に提示された価格を払い、品物を受け取ったスイは宿屋に向かって歩いていく。先程までの会話の事はすっかり忘れ、スイの頭の中は宿で作る薬の種類や数で占められていた。
道具屋の向かい側ではまだ女性二人が話し込んでおり、店主は従業員と顔を見合わせて苦笑する。どうやら、この通りでは日常的な光景のようだ。
「思い出したわ! 末子成功譚よ」
「あぁーあ! そうそう、そうだったわ。でも末子成功譚に則るお家って、末の子があまり出来が良くなかったらどうするのかしら?」
「その場合は無かった事にするって聞いたわよ。だから、三人以上子どもを作るお家が多かったみたいね」
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