拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第五章 再会

拾われ子と王都

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 セイナンの町を出て二ヶ月半近く。コハクに乗って移動する時間が多かった事もあり、当初の予定よりも早くスイ達は王都の近くまで来ていた。セイナンを出た時は夏だった季節も、今は秋へと変わりつつあり、冷たい風が吹いている。

『エトマ、寒くない?』

「うん。スイが買ってくれたコレ、暖かいから平気だよ」

 コレ、と言ってエトマが摘んだのは防寒着だ。
 水属性を持つスイは、寒さに耐性が有るので冬前でも夏服のまま旅が出来るが、エトマはそうはいかない。
 先日嚔をして震えたエトマに、スイは大急ぎで防寒着を用意したのだ。

『(自分の基準で旅してたから全然気付かなかったなぁ……)』

 旅の途中で寄った町で教会に行き、属性を調べてもらった事で、スイはエトマが無属性持ちである事を知っている。
 それなのに、水属性と他属性の体感温度の違いについて思い付かなかった事にスイは大いに反省した。

『(今日中に王都に着くだろうから、良さそうな宿で何日かゆっくり休んでもらおう)』

 エトマを見ると、振る舞いは元気そうだが顔には疲労の色が滲んでいる。
 此処まで毎日宿に泊まり、食事も休憩もとってはいるが、長い時間歩く旅を何日も続けていると本人も気付かない内に疲労が蓄積する。
 多少宿代が高くても質の良い宿屋で休む事を考えていたスイは、自分達に向かってくる気配を感知してショートソードのグリップに手を添えた。

『エトマ、コハクに乗って』

「う、うん!」

 然して時を経たずに、スイ達は五人の男に囲まれた。
 下卑た笑いに、訊く意味は無さそうだと思いながらもスイは一応の質問を投げかける。

『何か御用ですか?』

「何だァ? 随分落ち着いたガキだな、つまらねぇ」

「大人しくしてりゃあ痛がるような事はしねぇ。武器とアイテムポーチを寄越しな」

 野盗間違い無し。確証を得たスイは、容赦無く即座に五人全員を打ちのめす。
 三人の上に二人乗せ、上半身と両足を五人纏めて凍らせてしまえば一個の塊である。数分足らずで五人の男は全員意識の無い状態で拘束され、簡易ソリに乗せられてコハクに荷物として引かれていた。

『中央大陸入って三回目かな』

《馬鹿だな》

 子ども二人と大型獣のモンスター。町に住む一般人が見ても何かあるのではと怪しむだろうに、鼻息荒くして襲ってくる者がいる事にスイもコハクも呆れる。

《こんなんでよく今まで生きてこれたな》

『盗賊になったばかりなのかも。戦い慣れてない人からなら何かしら奪えるだろうし』

 野盗の一人が持っているバッグからは、金品がはみ出ている。今日までに誰かは襲ったようなので、早ければハンターズギルドからは討伐依頼が出ている筈だ。

「…………」

 また襲ってこないか、不安なのだろう。コハクから降りたエトマは、チラチラと野盗達を見ている。

『大丈夫だよ。気絶してるし、起きて魔法を使おうとしたらその前に私が撃つから』

 氷の精霊術で創られた一本の大きな楔が野盗達の上に現れる。それはすぐに消えたが、牽制の役割は果たしたようで唯一意識を取り戻していた男の害意を完全に砕いていた。
 王都に着くと、スイ達は長い列に並んで滞在申請を行う。エトマの身分は、ハンターズギルドからの護送依頼書が保証してくれる。申請理由等を書いた書類を渡すと、護送依頼書と申請書類を確認した衛兵が敬礼をした。

「リーディンシャウフの大英雄殿か。お目にかかり、光栄だ。捕らえた賊は此方で対応するので、出立までにギルドに行って報酬を受け取ってほしい。それでは、ゆっくり休んでいってくれ」

『ありがとうございます』

 罪人捕縛の証明書を衛兵から受け取り、王都に入る。建物は大きく、人も多い王都に圧倒されてエトマの口が空いた。だが、好奇心は刺激されているらしく、銀の眼がキラキラと輝いている。

『エトマ、足は大丈夫?』

「うん。平気だよ」

『じゃあ、宿を探しながら少し観光しようか』

「! うん!」

 この三ヶ月近い旅の中で、エトマは他人の顔色を窺う癖が薄れた。スイやコハクから渡された物は素直に受け取るようになったし、質問にも虚勢を張る事は少なくなった。
 気になるものがあれば今みたいに眼を輝かせるので、元々は好奇心旺盛だったのかもしれない。

『(だから、オアシスでもはぐれちゃったのかな)』

 攫われる原因となった行動だからか、エトマは眼を惹くものがあってもスイ達から離れはしない。スイやコハクに手を伸ばせば届く距離を保って歩き、人が多い所ではふたりのどちらかに触れて歩いている。一定以上の距離が空く事を恐れているのだ。
 心の傷に大きく関わる事なので、少々動きづらくてもそれで安心出来るならとふたりはエトマに合わせて歩いている。

『宿屋を決めたらギルドに行こう。報酬と……メッセージも送っておかないと』

《シュウにか?》

『うん。前伝えた予定よりも遅れているから』

 予定では夏の終わりまでには着く予定だったが、今のペースだと冬前になりそうだ。詫びておかなければならないとスイは思う。

『……こういうのはちゃんと言っておかないと、また雷魔法を出すくらい怒られるかもしれないし……』

《キューン……!》

「?」

 正確には、雷魔法を使われそうになったのはスイのせいではなくヴァレオンのせいなのだが、備えておいて損は無い。

「……あ、良い匂い……」

『良い匂い? 何だろう。……あ、あそこにあるパン屋さんかな?』

《…………》

 焼きたてのパンの匂いが風に乗り、スイ達通行人の元に届けられた。集客効果は高く、何人かが吸い込まれるように店の中に入っていく。エトマに何か買ってあげようかとスイはパン屋に入ろうとしたが、取っ手を掴む前に勝手にドアが開いた。

『あれ?』

「あら?」

「どうしました? クロエ……あら?」

 深緑の髪のメイドと、後ろにいる紅茶色の髪の女性。動きを止めた三人の中で、一番先に反応したのはメイドだった。

「お久しぶりでございます、スイ様」

『お久しぶりです、クロエさん。シンシア様も』

 シンシアは頷くと、クロエに続いて店を出た。店と出入りする客の邪魔にならぬよう、パン屋から離れて道端に移動する。

「スイはいつから王都に? そちらの子は?」

『さっき来たばかりです。この子はエトマで、依頼でオアシスまで護衛している途中なんです』

「依頼で? ……それはそれは……」

「……何やら、込み入った事情がありそうですね」

 シンシアとクロエにじっと見つめられて、スイは困惑と誤魔化しの笑みを浮かべた。

「スイ、宿はもう取りましたか?」

『いいえ、まだです。これか、ら……』

 あ、とスイが思った時には既に遅く、スイの両手はシンシアに握られていた。

「それでしたら、また私の家に泊まっていってください。色々と聞きたい話もありますし。ね? クロエ」

「そうですね。丁度パンも買った所ですし、昼食もご用意致しましょう。そちらのお嬢さん、焼きたてのパンはいかがですか?」

「はわぁ……!!」

『(策士だ……!)』

 クロエはパンが入った籠をエトマの眼の前に掲げると、しれっと風の精霊術でそよ風を吹かせ、焼きたての香りで包んだ。
 視覚と嗅覚の双攻撃で籠絡されたエトマを見てしまったら、スイにはもう断る事など出来ない。

『……お世話になります』

「はい、ぜひお世話させてくださいませ」

「久しぶりに賑やかになりますね、楽しみです」

『(……まぁ、いっか)』

 宿屋は実際に泊まるまで質の善し悪しがわからないが、シンシアの家の快適さは経験済みだ。女性しかいないので、エトマも心身ともに休めるだろう。
 丸め込まれた形となったが、結果的に最良なのかもしれないと考えを切り替え、スイはエトマを伴ってシンシア達に着いていった。
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