298 / 315
第五章 再会
拾われ子が取り戻したもの
月明かりに照らされたオアシスの町で、郊外を歩く人影がある。スタンドネックのマントを身に纏い、肩に小さなコハクを乗せているスイは宿代わりにしている家が見えると首を傾げた。
そのまま歩き続けて家のドアを開ける。振り返った人物に、気配で誰がいるのか感知していたスイは驚く事なく挨拶をした。
『こんばんは、セオドアさん』
「よっ。シュウから聞いたが、日没過ぎに散歩してるんだって?」
『はい。夜の方が人気が無いですから』
ハンタースイ、白翡翠の髪の少女、白銀色の大型モンスター。全部、今オアシスの話題になっている存在だ。
ハンタースイと白翡翠の髪の少女が同一人物なのも、大型モンスターがコハクである事も、知っている人物は限られている。
今、ハンターである事に引け目を感じているスイは「ハンタースイ」として接される事に抵抗がある。
なるべく人目に触れない為にも昼間はあまり外に出ていないのだが、身体を動かさないでいるのも後々に響くので日没後に町郊外を散歩したり、時々町の外に出てコハクと模擬戦をするのが日課になっていた。
《グルァン。ンルルルル》
「はは、凄ぇ甘えてる」
コハクは家の外に出る時は身体を小さくしている。
本来の姿だと目立つからと言うのも理由のひとつではあるが、本意は抱っこしてもらえたり、膝に乗せてもらえるからだろう。スイもシュウトも解っているが、何も言わずにコハクのしたいようにさせている。
今もスイの肩で満足気に喉を鳴らしていたが、セオドアの撫で方が気に食わなかったのか牙を剥き出した。
《フシャーーッ! 下手くそっ!》
「ヤベッ」
慌てて手を離したセオドアにスイが笑う。宥めようと頭に置かれた柔らかな手に、コハクが目を細めてまた喉を鳴らしているとセオドアの後ろからシュウトが顔を見せた。
「おかえり。支部長が話があるそうだ」
『私にですか?』
「いや、どっちも。つーか皆だな。コハクもだから」
《オレも?》
「あぁ。……あー……」
疑問の眼で見上げてくる一人と一匹に、セオドアは少し迷うそぶりを見せたが話し始めた。
「ジュリアン達がスイに礼をしたいと言っている」
『……お気持ちだけで充分です』
「アイツらからすればそうはいかんさ。愛娘を取り戻してくれたんだ。どうしても礼がしたいってもんだ。こう言うのは受け取っておくもんだぞ……って、言いたいんだがな……」
「何か問題があるのか?」
後頭部をがしがしと掻きながら言い淀むセオドアに、痺れを切らしたシュウトが氷の魔力を醸し出す。
「はっきり言え。言えないならそもそも来るな」
「ご尤もだ」
『……シュウトさん、短気は良くないです』
「……すまん、そうだな」
「いや謝るなら俺に謝れ」
困ったような表情を浮かべたスイに諌められてシュウトは魔力を抑えたが、セオドアの苦言には素知らぬ顔をした。
シュウトはスイの事になると敏感過ぎる所がある。再会してからは輪をかけて酷くなっているのもあってスイは不満気な眼をシュウトに向けたが、その前に大きな手の平が差し込まれてスイの視線を遮った。
「俺が悪いのは事実だ。あのな、ジュリアン達がお前達を家に招待したいんだそうだ。アイツが料理上手いのは知ってるだろ? 腕によりをかけて何でも作ると張り切っている」
「今は遠慮した方が良いと思うが」
シュウトはスイとセオドア、二人に向けて提案する。僅かに回復はしたが、スイの味覚はまだ殆ど無いままだ。
せっかくの料理を楽しめないとあっては、作り手であるジュリアンに申し訳無いし、余計な心配をかける事になる。
『……そうですね。すみませんが……』
「一応、それとなく理由はぼかして難しいかもとは伝えておいたんだが、そしたらエトマがスイに会いたいとゴネてな。スイにお礼を言えてないと」
『……気にしなくて良いのに……』
「気持ちは解る。が、逆の立場だったらそう出来るか?」
『…………出来ません』
「だろ。会うだけ会ってやってくれないか? そうすればエトマも少し落ち着く筈だ」
『…………はい』
「じゃあ、明日で良いか?」
『はい』
「解った。伝えておく」
そう言って帰っていったセオドアをスイは見送る。
そして翌日夜。玄関のドアがノックされ、シュウトが開けるとバスケットを持ったジュリアンが立っていた。後ろにはリリアナが居り、その隣に手を繋いでエトマもいる。
笑顔から怯えた表情に変わったエトマに、シュウトはなるべくエトマの視界に入らない様にジュリアンの前に立った。
「……ごめんなさいね」
「気にするな。事情は聞いている」
『こんばんは、ジュリアンさん』
「こんばんは、スイちゃん。久しぶり、ね……」
ジュリアンは笑顔を浮かべたが、スイの顔を見ると驚きを隠しきれずに目を見開いた。
正面から同等以下の目線で見ればスタンドネックのマントである程度は誤魔化せるが、長身の者が見下ろすとやはり頬がこけているのがわかる。
困ったように、申し訳無さそうに微笑ったスイにジュリアンはハッとしてから目を伏せた。
「ごめんなさい、私ったら……」
『大丈夫です』
「スイがこう言ってるからな。気にしないでくれるとこっちも助かる。いつまでもそこにいるのもなんだし、中に入ってくれ。ご家族もな」
「……えぇ、そうさせてもらうわ」
シュウトの意図を理解したジュリアンは神妙な面持ちで頷くと家の中に入り、リリアナとエトマもそれに続いた。
「急ですみません。どうしてもお礼だけでも言いたく、て……」
「エトマが早くスイちゃんに会いたいって聞かなくてね。私達も会いたかったから、セオドアに無理を言ったの」
スイを見て戸惑うリリアナの言葉をジュリアンが繋げ、エトマを前に出す。スイと対面したエトマは、ホッとして笑顔を浮かべた。
「やっと会えた! スイとコハクが旅に出ちゃったらどうしようって思ってたの。会えて良かったぁ……。あのね、スイ」
『うん?』
「わたしを助けてくれて、オアシスまで送ってくれて、ありがとう。パパとママが生きてるって教えてくれてありがとう」
『っ…………?』
見えない何かが、見えた気がした。
両親が生きていると知った時のエトマを思い出した時も、同じ様な感覚を覚えた。それが何なのか解らなくて、スイは胸を押さえる。
「あのままあそこにいたらって時々考えるんだけど、いつも怖くなるの。パパとママが生きてるのを知らないまま、二度と会えないまま、奴隷として辛いと解ってる明日を生き続けたんだろうなって。スイに会えて良かった。助けてくれて、本当にありがとう」
『…………っ、うん』
胸が詰まる。何かが、こじ開けようとしている。開きそうで開かない、見えそうで見えない何かがそこにある。
「……うぅぅぅ! んあー、もうっ!」
『!?』
突然大声を出したエトマに、スイだけでなくジュリアンとリリアナも驚いて眼を丸くしたり、肩を跳ねさせた。
「どうしたの? エトマ」
「……ママ、パパ。わたし、勉強したい」
「勉強? 急にどうしたの?」
ジュリアンとリリアナが心配そうに見つめると、エトマは手足をバタバタさせながら歯痒そうに表情を歪めた。
「解んないの」
「解らない?」
何の事なのか。二人も、エトマの意図が理解出来ずに同じ言葉を返して訊ねる。
「わたし、スイにはいっぱいありがとうって思ってるの。でも、それを全部伝えられる言葉が解らない……! それが悔しい……ホントに悔しいの……!」
こんなんじゃ全然伝えきれない、と涙眼になるエトマにスイの胸が苦しさを増す。どうすれば良いのかスイも解らずにいると、エトマの苦悩に微笑んだリリアナが屈んでスイと目線を合わせた。
「スイちゃん。私からもお礼を言わせて。エトマを私達の元に帰してくれて、本当にありがとう」
『…………』
「エトマはきっと生きてるって信じながらも、手掛かりが全く無いまま過ごす毎日はとても苦しかったわ……。そんな日々をスイちゃんが終わらせてくれた。救われたのはエトマだけじゃない、私とジュリアンもなの」
「セオドアやカテリナちゃんから聞いたわ。エトマが居た所の事と、そこで起きた事を。もしかしたらエトマも同じ様な目に遭わされたかもしれないと思うと、狂いそうになる」
『………………っ』
スイの視界が滲み、三人の顔が見えなくなる。胸がいっぱいになり言葉が詰まって何も言えないでいると、前から何かが迫ってきてぶつかり、スイの身体を拘束した。
反射的に引き剥がそうとしたが、聞こえてきた声に拘束してきたものの正体を知り、スイは相手の肩に置いた手から力を抜く。
「んんんん……!」
『エトマ? な、何で?』
「いっぱいのありがとうを伝えられる言葉を知らないから、ぎゅーってするの。んんん、伝われー……!」
『っ…………!』
やろうと思えば簡単に振り解けるだろう細腕から、言葉と共に感情が流れ込んで来る気がした。
何も言えずにいるスイを、リリアナがエトマごと抱き締める。その頭上から、ジュリアンの声が聞こえた。
「私達親子の大恩人よ。感謝しても、本当にしきれない」
ありがとう。
三人の声が重なった瞬間、瞬きをしたスイの目から大粒の涙がいくつも流れ、ふっと胸が楽になった。同時に、見えなかった何かが姿を見せ、それはスイの中で僅かに引っ掛かる事もなくストンと底に落ち着いた。
『(……あぁ、そっか。……それで良いんだ……)』
ありがとうと、救われたと言ってくれる人がいる。
ハンターとして戦う事で、心から笑ってくれる人がいる。
例え、助けた十人の中に九人の悪人がいて嗤っていたとしても、残りの一人がエトマ達のように笑ってくれるなら、それで良い。
それだけで、戦う理由になる。戦う意味はある。
『…………っ』
スイは震える声でどうにか言葉を紡ぐ。
『…………わたしも、ありがとう…………』
ハンターとして生き続ける理由を教えてくれて。
見失っていたものを気付かせてくれて。
たった一言に、言葉の意味以上の感謝の思いを込めてスイもエトマとリリアナを抱き締め返す。
「……スイちゃん。これ、良かったら食べて。シュウやコハクの分もあるから」
二人から離れたスイが涙を拭うと、ジュリアンがバスケットをスイに渡した。中にはバゲットサンドと肉の塊が入っている。
「夕飯時にお邪魔するから、作ってきたの」
「わたしも手伝ったんだよ!」
『そうなの?』
「うん、パンを切ったの!」
よく見なくてもバゲットの切り口が歪だ。慣れないパンナイフで切っている様子が目に浮かぶ。
「ね、食べてみて!」
『……うん、いただきます』
背後にいるシュウトやコハクから、心配の視線が向けられたのが解ったがスイは力を入れてバゲットサンドをちぎって食べた。
何度か咀嚼してから、眼を丸くして飲み込む。もう一口分ちぎると、同じ様に口の中に入れた。
「どう? どう?」
『……美味しい』
「ホント? 良かったぁ」
『……うん。本当に、美味しい……』
「……スイ?」
バゲットサンドを持ちながら、スイはぽろぽろと涙を零す。
粉の風味と塩気。瑞々しい野菜の食感と匂い。焼いた肉の味と、振られたスパイスの辛味と風味。
数ヶ月ぶりに感じたしっかりとした味に、スイは心から『美味しい』と言って笑った。
「スイ、まだオアシスにいるんだよね?」
『うん。年内はオアシスで過ごすつもりだよ』
「じゃあ、今度ブレスに来て! スイのお祝いしよう!」
『お祝い? 何の?』
祝われる様な事は何も無い。スイは目を擦ってシュウトへ振り返ったが、シュウトも首を左右に振って見せたので前を向いてジュリアンとリリアナに眼を向けた。
「スイちゃんのBランク昇格祝いよ。前にね、セオドアから話を聞いた時に、いつかスイちゃんがオアシスに戻ってきたらお祝いしましょうって話してたの」
「料理はジュリアンが作るから、味は私とエトマが自信を持って保証するわ」
「全部美味しいよ!」
何を作るかも全然決まっていないのに、エトマの中では美味しい事が決定事項である。絶対的な自信にスイが笑うと、ジュリアンがぱちりとウィンクした。
「エトマやリリィにここまで言われたら下手な事は出来ないわ。任せてスイちゃん、腕によりをかけて作るから。勿論シュウやコハクも来てちょうだい。皆で楽しく過ごしましょ」
「スイ、行くか?」
『……はい。ぜひ』
スイは憑き物が落ちたように笑った。その笑顔に、翳りは一欠片も無い。コハクが嬉しそうに尻尾を振り、シュウも微笑んでジュリアンに顔を向ける。
「それなら俺達も邪魔したい」
「招待客なんだから邪魔な訳ないでしょ。決まりね、セオドア達には私から話しておくわ。いつにするか決まったら伝えに来るから」
「あぁ。楽しみにしている」
「じゃあ、そろそろお暇するわ。行きましょう、エトマ、リリィ」
「うん。バイバイ、スイ。またね」
「お邪魔しました。おやすみなさい」
スイも手を振って三人を見送る。ドアを閉めると、スイはバスケットをリビングのテーブルに置いた。
『……シュウトさん。私、ハンター業に戻ります。これからもハンターとして生きていきたいです』
迷いも曇りもない眼で、スイはシュウトを見上げる。
『人間は良い人ばかりじゃない……。それは当たり前の事で、どうやっても変えられないし、これからも変わらないと思うんです』
「……そうだな。人間が存在する限り、それは絶対だろう」
『はい。でも悪い人ばかりでもない。私が戦う事で助かった生命の中に、一人でも心から喜んでくれる人がいるなら……エトマ達みたいに幸せそうに笑ってくれる人がいるなら、それで良いと思ったんです。それが、私がハンターで在る理由になるんだって』
「……悪人も一緒に助かったとしてもか?」
『はい。結果的に悪人を助ける事になっても、後で捕まえれば良いですし』
ショートソードのグリップに手を添えたスイに、シュウトは「逞しい」と零して笑った。
「スイが本心からそう思ってハンターを続けたいと言うなら、俺は止めずに応援するよ」
スイは笑って頷くと、バスケットからもう一本のバゲットサンドと紙に包まれたブロック肉を取り出した。
『これ、本当に美味しかったです。こっちがシュウトさんの分で……コハクはこっちね』
「味はちゃんと解るんだな?」
『はい! 匂いも解ります。……エトマ達のおかげで気付いたんですけど……』
自分の分である食べかけのバゲットサンドに齧り付いたスイは、咀嚼して飲み込むと眼を潤ませて笑う。
『ご飯が美味しいって思えるのも、美味しいご飯が食べられる事も、幸せですね』
「……そうだな。本当にそう思う」
本来のスイが戻ってきた事に、シュウトは目を細めて柔らかく微笑った。
スイの頭を撫でると手早く準備をし、皆で夕飯を摂る。再会してから初めて、二人と一匹は憂いの無い笑顔でテーブルを囲んだ。
そのまま歩き続けて家のドアを開ける。振り返った人物に、気配で誰がいるのか感知していたスイは驚く事なく挨拶をした。
『こんばんは、セオドアさん』
「よっ。シュウから聞いたが、日没過ぎに散歩してるんだって?」
『はい。夜の方が人気が無いですから』
ハンタースイ、白翡翠の髪の少女、白銀色の大型モンスター。全部、今オアシスの話題になっている存在だ。
ハンタースイと白翡翠の髪の少女が同一人物なのも、大型モンスターがコハクである事も、知っている人物は限られている。
今、ハンターである事に引け目を感じているスイは「ハンタースイ」として接される事に抵抗がある。
なるべく人目に触れない為にも昼間はあまり外に出ていないのだが、身体を動かさないでいるのも後々に響くので日没後に町郊外を散歩したり、時々町の外に出てコハクと模擬戦をするのが日課になっていた。
《グルァン。ンルルルル》
「はは、凄ぇ甘えてる」
コハクは家の外に出る時は身体を小さくしている。
本来の姿だと目立つからと言うのも理由のひとつではあるが、本意は抱っこしてもらえたり、膝に乗せてもらえるからだろう。スイもシュウトも解っているが、何も言わずにコハクのしたいようにさせている。
今もスイの肩で満足気に喉を鳴らしていたが、セオドアの撫で方が気に食わなかったのか牙を剥き出した。
《フシャーーッ! 下手くそっ!》
「ヤベッ」
慌てて手を離したセオドアにスイが笑う。宥めようと頭に置かれた柔らかな手に、コハクが目を細めてまた喉を鳴らしているとセオドアの後ろからシュウトが顔を見せた。
「おかえり。支部長が話があるそうだ」
『私にですか?』
「いや、どっちも。つーか皆だな。コハクもだから」
《オレも?》
「あぁ。……あー……」
疑問の眼で見上げてくる一人と一匹に、セオドアは少し迷うそぶりを見せたが話し始めた。
「ジュリアン達がスイに礼をしたいと言っている」
『……お気持ちだけで充分です』
「アイツらからすればそうはいかんさ。愛娘を取り戻してくれたんだ。どうしても礼がしたいってもんだ。こう言うのは受け取っておくもんだぞ……って、言いたいんだがな……」
「何か問題があるのか?」
後頭部をがしがしと掻きながら言い淀むセオドアに、痺れを切らしたシュウトが氷の魔力を醸し出す。
「はっきり言え。言えないならそもそも来るな」
「ご尤もだ」
『……シュウトさん、短気は良くないです』
「……すまん、そうだな」
「いや謝るなら俺に謝れ」
困ったような表情を浮かべたスイに諌められてシュウトは魔力を抑えたが、セオドアの苦言には素知らぬ顔をした。
シュウトはスイの事になると敏感過ぎる所がある。再会してからは輪をかけて酷くなっているのもあってスイは不満気な眼をシュウトに向けたが、その前に大きな手の平が差し込まれてスイの視線を遮った。
「俺が悪いのは事実だ。あのな、ジュリアン達がお前達を家に招待したいんだそうだ。アイツが料理上手いのは知ってるだろ? 腕によりをかけて何でも作ると張り切っている」
「今は遠慮した方が良いと思うが」
シュウトはスイとセオドア、二人に向けて提案する。僅かに回復はしたが、スイの味覚はまだ殆ど無いままだ。
せっかくの料理を楽しめないとあっては、作り手であるジュリアンに申し訳無いし、余計な心配をかける事になる。
『……そうですね。すみませんが……』
「一応、それとなく理由はぼかして難しいかもとは伝えておいたんだが、そしたらエトマがスイに会いたいとゴネてな。スイにお礼を言えてないと」
『……気にしなくて良いのに……』
「気持ちは解る。が、逆の立場だったらそう出来るか?」
『…………出来ません』
「だろ。会うだけ会ってやってくれないか? そうすればエトマも少し落ち着く筈だ」
『…………はい』
「じゃあ、明日で良いか?」
『はい』
「解った。伝えておく」
そう言って帰っていったセオドアをスイは見送る。
そして翌日夜。玄関のドアがノックされ、シュウトが開けるとバスケットを持ったジュリアンが立っていた。後ろにはリリアナが居り、その隣に手を繋いでエトマもいる。
笑顔から怯えた表情に変わったエトマに、シュウトはなるべくエトマの視界に入らない様にジュリアンの前に立った。
「……ごめんなさいね」
「気にするな。事情は聞いている」
『こんばんは、ジュリアンさん』
「こんばんは、スイちゃん。久しぶり、ね……」
ジュリアンは笑顔を浮かべたが、スイの顔を見ると驚きを隠しきれずに目を見開いた。
正面から同等以下の目線で見ればスタンドネックのマントである程度は誤魔化せるが、長身の者が見下ろすとやはり頬がこけているのがわかる。
困ったように、申し訳無さそうに微笑ったスイにジュリアンはハッとしてから目を伏せた。
「ごめんなさい、私ったら……」
『大丈夫です』
「スイがこう言ってるからな。気にしないでくれるとこっちも助かる。いつまでもそこにいるのもなんだし、中に入ってくれ。ご家族もな」
「……えぇ、そうさせてもらうわ」
シュウトの意図を理解したジュリアンは神妙な面持ちで頷くと家の中に入り、リリアナとエトマもそれに続いた。
「急ですみません。どうしてもお礼だけでも言いたく、て……」
「エトマが早くスイちゃんに会いたいって聞かなくてね。私達も会いたかったから、セオドアに無理を言ったの」
スイを見て戸惑うリリアナの言葉をジュリアンが繋げ、エトマを前に出す。スイと対面したエトマは、ホッとして笑顔を浮かべた。
「やっと会えた! スイとコハクが旅に出ちゃったらどうしようって思ってたの。会えて良かったぁ……。あのね、スイ」
『うん?』
「わたしを助けてくれて、オアシスまで送ってくれて、ありがとう。パパとママが生きてるって教えてくれてありがとう」
『っ…………?』
見えない何かが、見えた気がした。
両親が生きていると知った時のエトマを思い出した時も、同じ様な感覚を覚えた。それが何なのか解らなくて、スイは胸を押さえる。
「あのままあそこにいたらって時々考えるんだけど、いつも怖くなるの。パパとママが生きてるのを知らないまま、二度と会えないまま、奴隷として辛いと解ってる明日を生き続けたんだろうなって。スイに会えて良かった。助けてくれて、本当にありがとう」
『…………っ、うん』
胸が詰まる。何かが、こじ開けようとしている。開きそうで開かない、見えそうで見えない何かがそこにある。
「……うぅぅぅ! んあー、もうっ!」
『!?』
突然大声を出したエトマに、スイだけでなくジュリアンとリリアナも驚いて眼を丸くしたり、肩を跳ねさせた。
「どうしたの? エトマ」
「……ママ、パパ。わたし、勉強したい」
「勉強? 急にどうしたの?」
ジュリアンとリリアナが心配そうに見つめると、エトマは手足をバタバタさせながら歯痒そうに表情を歪めた。
「解んないの」
「解らない?」
何の事なのか。二人も、エトマの意図が理解出来ずに同じ言葉を返して訊ねる。
「わたし、スイにはいっぱいありがとうって思ってるの。でも、それを全部伝えられる言葉が解らない……! それが悔しい……ホントに悔しいの……!」
こんなんじゃ全然伝えきれない、と涙眼になるエトマにスイの胸が苦しさを増す。どうすれば良いのかスイも解らずにいると、エトマの苦悩に微笑んだリリアナが屈んでスイと目線を合わせた。
「スイちゃん。私からもお礼を言わせて。エトマを私達の元に帰してくれて、本当にありがとう」
『…………』
「エトマはきっと生きてるって信じながらも、手掛かりが全く無いまま過ごす毎日はとても苦しかったわ……。そんな日々をスイちゃんが終わらせてくれた。救われたのはエトマだけじゃない、私とジュリアンもなの」
「セオドアやカテリナちゃんから聞いたわ。エトマが居た所の事と、そこで起きた事を。もしかしたらエトマも同じ様な目に遭わされたかもしれないと思うと、狂いそうになる」
『………………っ』
スイの視界が滲み、三人の顔が見えなくなる。胸がいっぱいになり言葉が詰まって何も言えないでいると、前から何かが迫ってきてぶつかり、スイの身体を拘束した。
反射的に引き剥がそうとしたが、聞こえてきた声に拘束してきたものの正体を知り、スイは相手の肩に置いた手から力を抜く。
「んんんん……!」
『エトマ? な、何で?』
「いっぱいのありがとうを伝えられる言葉を知らないから、ぎゅーってするの。んんん、伝われー……!」
『っ…………!』
やろうと思えば簡単に振り解けるだろう細腕から、言葉と共に感情が流れ込んで来る気がした。
何も言えずにいるスイを、リリアナがエトマごと抱き締める。その頭上から、ジュリアンの声が聞こえた。
「私達親子の大恩人よ。感謝しても、本当にしきれない」
ありがとう。
三人の声が重なった瞬間、瞬きをしたスイの目から大粒の涙がいくつも流れ、ふっと胸が楽になった。同時に、見えなかった何かが姿を見せ、それはスイの中で僅かに引っ掛かる事もなくストンと底に落ち着いた。
『(……あぁ、そっか。……それで良いんだ……)』
ありがとうと、救われたと言ってくれる人がいる。
ハンターとして戦う事で、心から笑ってくれる人がいる。
例え、助けた十人の中に九人の悪人がいて嗤っていたとしても、残りの一人がエトマ達のように笑ってくれるなら、それで良い。
それだけで、戦う理由になる。戦う意味はある。
『…………っ』
スイは震える声でどうにか言葉を紡ぐ。
『…………わたしも、ありがとう…………』
ハンターとして生き続ける理由を教えてくれて。
見失っていたものを気付かせてくれて。
たった一言に、言葉の意味以上の感謝の思いを込めてスイもエトマとリリアナを抱き締め返す。
「……スイちゃん。これ、良かったら食べて。シュウやコハクの分もあるから」
二人から離れたスイが涙を拭うと、ジュリアンがバスケットをスイに渡した。中にはバゲットサンドと肉の塊が入っている。
「夕飯時にお邪魔するから、作ってきたの」
「わたしも手伝ったんだよ!」
『そうなの?』
「うん、パンを切ったの!」
よく見なくてもバゲットの切り口が歪だ。慣れないパンナイフで切っている様子が目に浮かぶ。
「ね、食べてみて!」
『……うん、いただきます』
背後にいるシュウトやコハクから、心配の視線が向けられたのが解ったがスイは力を入れてバゲットサンドをちぎって食べた。
何度か咀嚼してから、眼を丸くして飲み込む。もう一口分ちぎると、同じ様に口の中に入れた。
「どう? どう?」
『……美味しい』
「ホント? 良かったぁ」
『……うん。本当に、美味しい……』
「……スイ?」
バゲットサンドを持ちながら、スイはぽろぽろと涙を零す。
粉の風味と塩気。瑞々しい野菜の食感と匂い。焼いた肉の味と、振られたスパイスの辛味と風味。
数ヶ月ぶりに感じたしっかりとした味に、スイは心から『美味しい』と言って笑った。
「スイ、まだオアシスにいるんだよね?」
『うん。年内はオアシスで過ごすつもりだよ』
「じゃあ、今度ブレスに来て! スイのお祝いしよう!」
『お祝い? 何の?』
祝われる様な事は何も無い。スイは目を擦ってシュウトへ振り返ったが、シュウトも首を左右に振って見せたので前を向いてジュリアンとリリアナに眼を向けた。
「スイちゃんのBランク昇格祝いよ。前にね、セオドアから話を聞いた時に、いつかスイちゃんがオアシスに戻ってきたらお祝いしましょうって話してたの」
「料理はジュリアンが作るから、味は私とエトマが自信を持って保証するわ」
「全部美味しいよ!」
何を作るかも全然決まっていないのに、エトマの中では美味しい事が決定事項である。絶対的な自信にスイが笑うと、ジュリアンがぱちりとウィンクした。
「エトマやリリィにここまで言われたら下手な事は出来ないわ。任せてスイちゃん、腕によりをかけて作るから。勿論シュウやコハクも来てちょうだい。皆で楽しく過ごしましょ」
「スイ、行くか?」
『……はい。ぜひ』
スイは憑き物が落ちたように笑った。その笑顔に、翳りは一欠片も無い。コハクが嬉しそうに尻尾を振り、シュウも微笑んでジュリアンに顔を向ける。
「それなら俺達も邪魔したい」
「招待客なんだから邪魔な訳ないでしょ。決まりね、セオドア達には私から話しておくわ。いつにするか決まったら伝えに来るから」
「あぁ。楽しみにしている」
「じゃあ、そろそろお暇するわ。行きましょう、エトマ、リリィ」
「うん。バイバイ、スイ。またね」
「お邪魔しました。おやすみなさい」
スイも手を振って三人を見送る。ドアを閉めると、スイはバスケットをリビングのテーブルに置いた。
『……シュウトさん。私、ハンター業に戻ります。これからもハンターとして生きていきたいです』
迷いも曇りもない眼で、スイはシュウトを見上げる。
『人間は良い人ばかりじゃない……。それは当たり前の事で、どうやっても変えられないし、これからも変わらないと思うんです』
「……そうだな。人間が存在する限り、それは絶対だろう」
『はい。でも悪い人ばかりでもない。私が戦う事で助かった生命の中に、一人でも心から喜んでくれる人がいるなら……エトマ達みたいに幸せそうに笑ってくれる人がいるなら、それで良いと思ったんです。それが、私がハンターで在る理由になるんだって』
「……悪人も一緒に助かったとしてもか?」
『はい。結果的に悪人を助ける事になっても、後で捕まえれば良いですし』
ショートソードのグリップに手を添えたスイに、シュウトは「逞しい」と零して笑った。
「スイが本心からそう思ってハンターを続けたいと言うなら、俺は止めずに応援するよ」
スイは笑って頷くと、バスケットからもう一本のバゲットサンドと紙に包まれたブロック肉を取り出した。
『これ、本当に美味しかったです。こっちがシュウトさんの分で……コハクはこっちね』
「味はちゃんと解るんだな?」
『はい! 匂いも解ります。……エトマ達のおかげで気付いたんですけど……』
自分の分である食べかけのバゲットサンドに齧り付いたスイは、咀嚼して飲み込むと眼を潤ませて笑う。
『ご飯が美味しいって思えるのも、美味しいご飯が食べられる事も、幸せですね』
「……そうだな。本当にそう思う」
本来のスイが戻ってきた事に、シュウトは目を細めて柔らかく微笑った。
スイの頭を撫でると手早く準備をし、皆で夕飯を摂る。再会してから初めて、二人と一匹は憂いの無い笑顔でテーブルを囲んだ。
あなたにおすすめの小説
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る
りーさん
ファンタジー
アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。
その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。
そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。
その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜
グリゴリ
ファンタジー
木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。
SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。
祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。
恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
契約結婚から始まる公爵家改造計画 ~魔力ゴミ令嬢は最強魔術師の胃袋をつかみました~
夢喰るか
恋愛
貧乏男爵令嬢エマは、破格の報酬に惹かれて「人食い公爵」と恐れられるヴォルガード公爵邸の乳母に応募する。そこで出会ったのは、魔力過多症で衰弱する三歳のレオと、冷酷な氷の魔術師ジークフリート。前世の保育士経験を持つエマは、自身の「浄化魔力」で作った料理でレオを救い、契約結婚を結ぶことに。エマの温かさに触れ、ジークフリートの凍りついた心は次第に溶けていく。