拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第二章 中央大陸

拾われ子とカンペールの町

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「ソープナッツ三十個と、まな板と、塩と、最小の火の魔石が五個。全部で320ゲルトだ」

 カンペールの町の道具屋で、スイは代金と引換えに商品を受け取った。

「はいよ。確かに」

『ありがとうございます。行こう、コハク』

 店先の品物を眺めていたコハクが、スイに駆け寄り頭を擦り付ける。
 コハクが甘えたい時にする仕草のひとつだ。スイはコハクを撫でながら大通りを歩き、ゴブリンを倒した後の事を思い返した。

 カンペールの町に着くなり、商人は衛兵に引き渡された。
 スイは衛兵と、駆けつけてきた冒険者・ハンターズ両ギルドの支部長に詳細を説明し、若い冒険者達はスイの説明と救助に対して事実だと認めた。

「……下手をすれば町がゴブリンの大群に襲われたかもしれないな。違反者の発見と捕縛、それと彼等の救助、ゴブリンの大量討伐に感謝する。救助依頼料と大量討伐の特別報酬はハンターズギルドに支払っておくので、そちらで受取ってくれ」

『解りました』

「お前達はギルドに来い。スイが救助に入る前の話を聞かせろ。あと危険運搬物についての講習も受けてもらう」

「……はい」

 冒険者ギルドの支部長に叱られて落ち込んでいた三人だが、リーダーらしき少年がスイに声を掛けた。

「リーダーのアーロブだ。助けてくれて、本当にありがとう」

『いえ、大きな怪我もなくて良かったです』

「……スイは、歳の割にしっかりしているな。エリオットに見習わせたいくらいだ」

「何だって!?」

「そういう所だぞ、エリオット」

 呆れた眼をアーロブに向けられ、エリオットは声を詰まらせるとスイに顔を向ける。

「その、助かった。俺はエリオットだ」

「君が来てくれなかったら今頃どうなっていたかと考えると、ゾッとするわ……。私はモイラ。感謝してもしきれないわ、ありがとう」

『どういたしまして』

 スイは三人と握手を交わす。

「スイはすぐに町を出るのか?」

『買いたい物がありますし、太陽の位置も低くなったので今日はこの町に泊まります』

「なら、こっちの用が終わった後になるが礼をさせてくれ」

『救助依頼料はちゃんといただくので、気にしないでください』

 スイは断ったが、アーロブも首を左右に振った。

「あんな大勢のゴブリン、もし襲われていたら俺達ではひとたまりも無かった。下位ローランクだから大した事は出来ないけど、心ばかりの礼はさせてほしい」

『……じゃあ、ご飯を奢ってもらえると嬉しいです』

 下位ならばスイよりランクは下だ。ハンターと冒険者で依頼の報酬にどれくらい差があるのか知らないが、食事代ならそれ程痛手にはならないだろう。
 そう考えてスイがお願いすると、アーロブは笑って頷いた。

「任せろ、俺達はこの町の出身だから美味い店なら知ってる。どこの宿に泊まる予定だ?」

 来たばかりでまだ宿を決めていないスイは、ハンターズギルドの支部長を見上げる。

『この町で、モンスターと宿泊出来る宿は何処ですか?』

「ハンターズギルドの向かい側にポーと言う宿がある。そこなら従魔も泊まれる」

『では買い物が終わったらその宿に行きます』

「解った。後で向かうよ」

 そう言うと三人は詰所を出て行った。
 スイは支部長を見上げて三人の処遇について訪ねる。

『あの人達はどうなるんですか?』

「本当に知らなかったと事実確認が取れれば、依頼者側に問題があったと言う事で今回の依頼については白紙扱いになり、ペナルティは課されない。あの様子ならそうなる可能性が高いと思う」

『それなら良かったです』

 何も知らずに犯罪の片棒を担がされそうになったのだ。
 恐らくは冒険者になってそれ程経っていない彼等が、理不尽な巻き込まれ方をして評価に傷が付くなんて事になったらあんまりだ。

「それにしても……」

 カンペール支部長は顎に手を当てて、まじまじとスイを見る。

「従魔の協力もあるとは言え、ゴブリン数十匹を短時間で殲滅したとは……噂通りのとんでもない新人ハンターが生まれたな」

 ゴブリンの数と殲滅済みである事を伝えた時、衛兵も両ギルドの支部長も困惑の顔で聞き返してきた。救助隊とアーロブ達が証人となったから良いものの、彼等がいなければ妄言として扱われたかもしれない。

「西大陸でDまで上がったんだ。中央大陸ここは稼ぎ甲斐が無く感じるんじゃないか?」

『お金が貯まりにくいのは確かにありますが……ハンターはモンスターの脅威から町の人達を守る為に戦う事が仕事なので、依頼を請けてモンスターと戦うって点では西大陸と変わらないです』

 金が無ければ確かに困るが、稼ぐ事が主目的ではない。
 綺麗事だとか、青臭いとか言われようともスイはその考えだけは大人になっても変わらないと思う。

「……そうだな。その考えを持ったまま、大きくなってくれよ」

 そう言った支部長の眼は、哀れみと諦めが混じりながらも眩しそうにスイを見ていた。

『(……おじいさまとハンターシュウも、私と同じ事を言うんじゃないかな)』

 遙か彼方、ハンターとして目指すべき所に立つ養祖父を思い浮かべる。根拠は無くても、確信に近い思いがあった。
 マリクは最期までハンターの在り方をスイに説いた。
 シュウも考え方はマリクに近い。きっと、生涯ハンターの本分を間違える事は無い。

「……さて、じゃあハンターズギルドまで来てくれ。救助依頼料と特別報酬を支払う」

『はい』

 スイは支部長の後ろに着いていき、ハンターズギルドカンペール支部に入ると報酬を受取った。
 その後は宿屋ポーに行き、宿泊手続きを終えてから買い物を済ませるべく道具屋へと向かう。
 買い物も済ませ、宿屋に戻って部屋でアイテムポーチの中身を整理していると、ドアがノックされた。

『はい?』

 ドアを開けて入ってきたのは、この宿の女性オーナーだ。

「下にアーロブ達……冒険者を名乗る三人がスイ君にって来てるけど、知り合いかい?」

『あ、そうです。ご飯を一緒に食べに行く約束をしています』

「あぁ、知り合いなら良いんだよ。あの子達が何か企んでると疑っていた訳じゃないけど……じゃあ、事前に聞いていた通り、夕食は準備しなくて良いんだね?」

『はい』

 稀にだが、知り合いを装って宿泊客を誘い出し、悪事を働く者がいる。
 面識が無いのにのこのこと着いていく方も悪いが、新人の若いハンターや冒険者は引っ掛かる者もおり、この女性オーナーもそれを心配してスイに確認を取ったのだ。
 スイはアイテムポーチを腰に着け、ショートソードを下げると部屋を出て一階に向かう。
 宿の入口に、アーロブ達が立っていた。

「待たせたな、スイ」

『いえ。……大丈夫でした?』

「めちゃくちゃ怒られた……」

 三人のげんなりした声に、スイは苦笑する。

「危険運搬物とかさ……そんなん、下位ローランクの俺らが関わる事になると思わないだろ……」

『って油断してるし、疑う人が少ないから下位の時の方が悪徳商人とかに狙われやすいと聞きます』

「俺達よりスイの方が賢いじゃねーか。それ、支部長や先輩達にも言われた……」

 エリオットが沈んだ声でそう言うと、アーロブが努めて明るい声を出した。

「ま、まぁまぁ、それより飯だ。スイは何か食べたい物あるか?」

「出来る限り応えるから、まずは遠慮しないで教えて? 何でも好きな物言ってって、言えないのが情けないけど……」

 申し訳無さそうに微笑うモイラに、スイは少し考える。

『ボクはこの町を知らないので、お勧めの料理か、皆さんが好きな料理があればそれを食べたいです。それとモンスター同伴で入れる所をお願いしたいのですが、ありますか?』

「あるよ。それならアシュが良いな」

「スイの従魔、名前は何て言うの?」

『コハクです』

「肉、好きそうだよな」

『そうですね』

「じゃあコハクにもちょうど良いな。アシュの肉料理は美味いんだ」

 スイは三人に案内されて、食事処アシュに入った。店の看板には細めの幹や枝に対して葉の部分が大きい樹の絵が描かれている。
 店内をきょろきょろと見回していると、店長らしき中年の男性がアーロブ達に気付いて近付いてきた。

「いらっしゃい。聞いたぞ、お前ら。色々危ない目に遭ったらしいな」

 揶揄う様に笑う男性に、アーロブとエリオットは「ゲッ」と声を出して嫌そうな顔をする。

「もう知られてんのかよ……」

「田舎の嫌な所だよなぁ、噂が広まるのが早い」

「諦めろ。それが田舎ってもんだ。……あれ、この子は……うおっ、モンスター!?」

 ぎょっとした店長に、スイは会釈をする。

「その子と従魔が私達を助けてくれたの、おじさん。私達よりずっと歳下なのに、Dランクのハンターなのよ」

「D!? そりゃあ大した子だ……。ごめんな、従魔のデカさにびっくりしてデカい声出ちまった。この店を仕切ってるマイルズだ」

『スイです。こちらは相棒のコハク。よろしくお願いします』

《ぐるる》

 頭を下げたスイに、マイルズはアーロブ達と見比べる。

「お前らより賢そうだな」

「言うと思った。支部長にも似たような事言われたし」

「ははははは!」

 一頻り笑った後、マイルズはスイ達を席に案内した。

「マイルズさん、いつもの頼むよ」

「常連ぶるなエリオット。十年早ぇ」

「たまに来てるんだから常連で良いだろ!?」

 振り返り、椅子の背もたれ越しに異議を唱えるエリオットにスイは思わず笑った。
 先に運ばれて来ていた果実水のグラスを、アーロブが手に取る。

「まずは乾杯といくか」

「そうね」

「おう」

 二人に続いて、スイもグラスを持つ。

「無事に帰って来れた事と、スイへの感謝を込めて」

 三人の声が重なった。

「「「乾杯チェアーズ!!」」」

『チ、乾杯チェアーズ……!』

 やや遅れながら、スイも三人とグラスを合わせた。
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