拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第三章 北大陸

拾われ子と北大陸最初の町

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 北の関門を抜けた後、天候は変わり、雪が降る中をスイとコハクは北に向かって歩いていた。
 吐く息は白く、鳴き雪と時折樹枝から雪が落ちるがふたりの鼓膜を震わせる。それ以外の音は無い。あるとすれば、しぃんと言う無音の音だ。
 中央大陸とは全く異なる環境にスイは少し不安を覚えた。

『静か過ぎて落ち着かない……』

《オレも。聴こえない訳じゃないけど、音が小さ過ぎる》

 聴覚の鋭いコハクには幾つかの音が聞こえているが、雪に吸われてしまって聞き取りづらくなっている。

『……慣れるまで疲れるかも……』

 気付けば、音を拾おうと耳に意識が向いている。積もった雪も歩きづらい。移動に使う気力と体力の度合で言えば、西大陸の砂漠と似た所がある。

『この先にある町に何日か滞在しよう。環境に慣れないと危ない気がする』

《オレもそう思う。中央大陸と違い過ぎる》

『……町、こっちで合ってるよね……?』

 どれだけ歩いても景色が殆ど変わらない。白以外の色は、そこかしこに生えている針葉樹の濃緑位だ。その針葉樹も大部分が雪を被っている。
 スイは肩から掛けているショルダーバッグを見下ろした。

『ザクロ、また空から確認してくれる?』

「ハーイ」

 ショルダーバッグから顔を出したザクロが飛び立つ。雪を降らす浅葱鼠色の空に、ザクロの赤い羽色は鮮やかに眼に映った。

「ゴ主人、町、アッチ。町ノ近クニ赤イ柱ガ有ッタ」

 降りてきたザクロは羽を前に向けた。

『方向は合ってるね。このまま進もう』

「ザクロ、戻ルネ」

 ザクロはバッグの中へすっぽりと入った。中には濃灰色の毛が敷き詰められている。換毛期でコハクから抜けた毛だ。
 属性相性のせいか、防寒魔道具を着けていてもザクロは寒がった。何か良い物が無いかとアイテムポーチの中を探したスイが、コハクの毛をショルダーバッグの中に詰めてザクロを入れてみた結果、かなり暖かいようで戦闘時以外はずっと入っている。

『まさかこんな活用方法があるとは思わなかった』

「暖カイ。デモ、ゴ主人ノ服ノ中モ好キ」

『ザクロを入れてると私も暖かいけど、急に襲われた時危ないからね』

《…………》

『? どうしたの、コハク』

《……何でもない》

 元気の無いコハクが気になるが、スイは深く追求せずに町に向かって歩く。

『…………』

《スイ》

『うん』

 途中、何処か覚えのある魔力を感じてふたりは足を止めた。
 耳を済ませると、微かに断続的に雪を潰す音が聞こえる。

『この感じ……フリージングスライム?』

 バッグのフラップを開けて、いつでもザクロが飛び出せるようにしながらスイはショートソードを抜く。
 音が聞こえる方に向かうと、木の幹の後ろから二匹の青いスライムが姿を見せた。ジェル状の身体を伸縮させて、臨戦態勢に入っている。

『ザクロは上空で待機しながら他にモンスターがいないか見て欲しい』

合点ガッテン!」

 ザクロがバッグから飛び立つ。

「――!」

「――!」

 身体を伸ばしたフリージングスライムから魔力の膨張を感じ、スイは自分とコハクの前に氷の盾アイスシールドを創り出した。
 フリージングスライムの氷魔法を防ぎ、スイとコハクも魔法で応戦する。

多重刃ハッシュ

大地の楔アースウェッジ

「―――!?」

 風の刃と岩の楔に核を壊されて、フリージングスライムの身体は溶解した。後には氷の魔石が遺り、スイは拾ったそれを頭上に翳す。

『大きいし、内包魔力が多いから色が濃くて綺麗』

《リロの洞窟で遭ったのより身体がデカかったな》

『元々は北大陸ここが生息地だからね。ザクロ、周りに他にモンスターはいなかった?』

 上空から降りてきたザクロに訊ねる。

「イナカッタ。町ノ目印ハ、スグソコニアッタヨ」

『あぁ、良かった。それなら日没前に着けるね』

 ザクロからの報告にスイはホッと息を吐いて微笑った。抜いたものの使わなかったショートソードを鞘にしまい、歩き出す。
 ザクロの言った通り、すぐに赤い柱が見えてきた。北大陸は、遭難防止に町の近くや道の途中途中に目印となるオブジェが設置されてあり、地図にも記されている。
 この赤い柱は北の関門から一番近い町、セイトリアの目印だ。吹雪いていない時は、柱から町の入口にある門が見える。
 スイ達は足を速め、門の前まで来ると見張り中の門番に話しかけた。

『こんにちは。一週間程滞在したいのですが』

 ハンターの証と関門の通行許可証を見せると、門番は驚いた顔でスイを見た。

「ハンター……!? 君みたいな子が……もしや、西大陸で誕生したと聞いた最年少ハンターの子か?」

 何とも懐かしい反応が帰ってきた。未だにそう言われる事にスイは気恥ずかしくなったが、事実は事実なので素直に認めた方が話が早いのは学習済みだ。

『そうです。滞在申請出来ますか?』

「あぁ、ちょっと待ってくれ」

 門番が詰所の窓口をノックすると、中から衛兵が顔を見せた。

「旅人だ。手続きを頼む」

「旅人……?」

 スイを見て困惑した顔の衛兵に、門番が笑いながら説明する。

「去年噂になってた、最年少ハンターだ」

「あぁ! あれ本当だったのか……いや、失礼した。ようこそ、セイトリアの町へ。左側にある扉から中に入ってきてくれ」

『?』

 窓口で手続きをしないのかと疑問に思いながら、スイは言われた通りに窓口の左側にある扉を開けて中に入る。コハクはまた、ぶるぶると身体を振るわせて毛についている雪を落としてから中に入った。

『……暖かい……!』

 防寒着のフードを後ろに外し、感じた事をそのまま口にすれば、中にいた衛兵が皆笑顔を浮かべた。

「初々しいな。北大陸に来たのは初めてか?」

『はい』

「じゃあ此処まで来るのは大変だっただろう。慣れていないと歩くのも一苦労みたいだしな」

「この椅子に座って、書類に必要事項を記入してくれ」

 窓口から顔を見せた衛兵が、テーブルに書類を置くと椅子を引いて座るように促す。
 スイは椅子に座ると、ペンの先にインクをつけながら衛兵に気になった事を訊ねた。

『この町では、滞在手続きは詰所の中でやるんですか?』

「この町と言うか、北大陸は基本的に建物の中だな。外でやるとインクが凍るから」

『え?』

 スイの反応に衛兵達は苦笑いを浮かべた。

「この寒さでなぁ……外に出すとすぐ凍るんだ」

「使い物にならなくなるから、大体何処の町も詰所の中で手続きするんだよ」

『へぇ……! そうなんですね……』

 所変われば品変わる。西大陸や中央大陸とは異なるやり方に、スイは感心の声をあげながらペンを動かす。
 ハンターの証と通行許可証から情報照合をしていた衛兵が近付いてきて、テーブルの上にふたつを置いた。

「このふたつを返すよ。まさかと思っていたが、本当にアサシンレオウルフだとは……。凄いのを連れてるな……」

『可愛くて強くて、自慢の仲間です』

《スイ……!》

 唐突に褒められて、コハクは喉を鳴らしながらスイの脚に顔を擦り寄せす。

「ザクロハ!?」

「「うぉぁっ!?」」

いてェ!」

 ショルダーバッグから大声を出しながら勢い良く顔を出したザクロに、スイと同じテーブルについていた衛兵数人が仰け反った。一人、椅子ごとひっくり返っている。

『すみません、大丈夫ですか? このコもボクの仲間です』

「ゴ主人、ザクロハ……!?」

『ザクロも可愛くてお茶目で、自慢の仲間だよ』

「ムフー」

 満足したらしく、ザクロはバッグの中に顔を引っ込めた。そのバッグを、衛兵達が凝視する。

「……メッセージバード、か?」

『そうです』

「その割にはかなり流暢に喋ってたが……」

『お喋りが上手なんです』

「へぇぇ……まぁ、個体によって覚える言葉や量は違うって言うから、話すのが上手いのもいるんだろうな……」

『(本当にメッセージバードかどうかは判らないけど……)』

 シンシアとクロエからは「その内、ハッキリしますよ」としか言われず、曖昧なままだ。

『……書けました。お願いします』

 書類を渡すと、衛兵が受け取り眼を通していく。

「ハンターの仕事はしていくのか?」

『はい。北大陸の環境やモンスターに慣れておきたいので』

「初めて来たならそれが良いだろうな。セイトリア周辺はそこまで強いモンスターも出ないし。これが滞在許可証だ。町を出る時に返してくれ」

『解りました』

 滞在許可証を受け取ると、スイは椅子から立ち上がった。

「従魔を連れているなら、入ってすぐにあるカミンって宿屋がお勧めだ。北大陸は暖房魔道具の維持費が掛かるから全体的に宿代が高めなんだが、カミンは従魔も泊まれる宿の中では良心的な方だ」

『カミン、ですね。ありがとうございます』

 外に出て町の中に入ると、本当にすぐにカミンと書かれた看板を掲げる宿屋が見えた。
 取っ手に手を掛けて押すと、予想よりも扉は重い。力を入れて押し開けて中に入ると、受付にいた初老の男がスイに気付いた。

「……その格好、旅人か?」

『はい。人間一人、モンスター二匹でとりあえず一晩泊まりたいのですが』

 スイはハンターの証を見せる。アサシンレオウルフを連れているスイに、男は衛兵と同じように驚いた顔をしたが、町に入れたと言う事は衛兵が問題無いと判断したと言う事だ。怖がることも無く、料金表を見せながらスイに部屋について説明を始めた。

「夕食と翌日の朝食付きで一晩850ゲルトだが、良いか?」

 今まで泊まってきた宿の中で一番高いが、衛兵の言葉を信じるならばこれでも安い方になる。スイは了承して、宿代と引き換えに鍵を受け取った。

「部屋には暖房魔道具がある。宿代は変わらんから遠慮なく使ってくれ。赤いスイッチを押せば動く。止める時は白い方を押せばいい」

『解りました』

 二階の一番奥の部屋に入ると、部屋の奥の壁に火の魔石が埋め込まれている大きめの魔道具があった。赤いスイッチを押すと、ブゥン……と音が鳴り、少しずつ部屋が暖かくなり始める。

『……暖かい』

 スイは息を吐いて、マントとバッグの類いを外してテーブルの上に置くと、ベッドに座った。
 ザクロもバッグから出てきてテーブルの上に乗る。

『今日はこのまま宿で休もう。町の散策とか依頼を請けるのは明日以降にする』

《ん》

合点ガッテン!」

 ザクロは窓際に飛んで行った。寒いのは苦手だが、雪を見るのは好きらしい。
 コハクはスイの側に来て、膝に顎を乗せた。

『コハク?』

《……んー……》

 頭を撫でられて、コハクは眼を閉じる。距離を詰めてスイの腹部に鼻を埋めた。

『どうしたの?』

《…………もっと撫でて》

『ふふっ、じゃあ座って』

 他にも何か言いたげではあったが、コハクは言われた通りにスイの脚の間に座ると、更に鼻を押し付ける。
 擽ったさにスイは息を洩らして笑うと、コハクに抱き着いて全身をわしゃわしゃと撫で回した。
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