拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子とボルカウィッチの町

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 ごつごつとした山肌を這い登る大きな蜥蜴がいる。真っ赤な鱗を持ち、時折口から火を吹くそれはファイヤーリザードと呼ばれ、危険度ランクはC+に認定されている。

「ゲッゲッ……ゲッ?」

 太陽を背に自分を見下ろす影に、ファイヤーリザードは首を傾げた。直後、首に衝撃を感じて前足が離れ、身体は落下していく。何が起きたのかを理解する前に意識は沈んだ。

『(のんびりした個体だったなぁ……)』

 スイは山肌を滑りながら降りると、動かなくなったファイヤーリザードをアイテムポーチに入れた。討伐したのはこれで六匹目だ。

『アレックスさん、このくらいで足りますか?』

「足りるよ。二件くらいいけそうだね」

 先程まで自分が立っていた所を見上げて呼べば、アレックスが姿を見せた。その左手は何かを掴んでいるような形を取っているが、何もいない。

『?』

 ファイヤーリザードのようにスイが首を傾げると、それに気付いたアレックスが「あぁ」と声をあげた。

「もうちょっと待ってて。見えてくるから」

『見えてくる……?』

 どういう事なのか。傾げた首をそのままにじっとアレックスの手を見ていると、じわじわと左手から先、何も無かった筈の空間が色を帯び始めた。

『えっ?』

 はっきりと姿を見せたそれは、緑色の蜥蜴だった。体長はファイヤーリザードと同じくらいで、頭部に突起があり、丸く立体的な目がぎょろりとしている。

「チェンジリザードだよ。ランクはB。本来なら中央部のこの辺にはいない筈なんだけどねぇ……。Bランク帯が中央部にまで出てきたのが、北大陸の事もあるしちょっと引っ掛かる」

 アレックスの声も表情も、いつもと変わらない。ただ、雰囲気が少々硬い。生息地の変化に警戒心を抱いている。

『東大陸みたいに、モンスターの移動が南大陸でも起きているんでしょうか……』

「可能性はあるね。東部の村の事も気になるし、ボルカウィッチに着いたらギルドで話を聞いてみよう」

 アレックスはチェンジリザードをアイテムポーチに入れると、スイに向けて手を差し出す。スイは山肌を駆け上がると、アレックスの手を握って登りきった。

「昼頃には着きそうだね。他にも幾つかモンスターを狩っていこう」

 物作りの町、ボルカウィッチでは素材採取の依頼が多い。
 鉱石は余程希少レアな物でなければ安定した入手ルートがあるので採取依頼は無いし売値も安いが、モンスターの素材は常時採取依頼が出ている。
 特に、属性の力が強かったり、特殊な体質を持つモンスターは報酬が高い場合が多い。

 南大陸では全域で高額買取りされている水や氷の魔石も、ボルカウィッチでは更に高値で買い取っている。町まで苦労せずに行ける実力があれば、ボルカウィッチで売る方が得である。

 チェンジリザードはアレックスが討伐した一匹だけだったが、ファイヤーリザード、バジリスク、キラーマンティス、フロシスグリズリーなど初めて遭うモンスターをスイ達は次々に討伐していった。

 そして昼を過ぎた頃、スイ達は山肌を削って作られた階段を降りてボルカウィッチの町に着いた。
 滞在手続きを終えて町の中に入ると、ドワーフと人間が歩いている風景に、スイは西大陸のアードウィッチを思い出して懐かしさを覚える。コハクが尻尾をスイの脚に絡ませながら喉を鳴らした。

《懐かしい》

『そうだね』

 当時の身体の大きさを顧みるに、コハクはアードウィッチ周辺で産まれたと思われる。
 産まれてすぐにスイやシュウと過ごしたアードウィッチは、コハクにとって故郷に近い、特別な思いのある場所だ。ふんふんと町の匂いを嗅ぐコハクの尻尾は機嫌良く揺れている。
 スイ達は宿屋で部屋を取ると、ハンターズギルドへと向かった。受付の前にいる眼鏡をかけた男が、振り返り眼を丸くする。

「……アレックスか?」
 
「ラシャンさん、久しぶり!」

「何年ぶりだ? よく怪我をしていた危なっかしい子どもが、少しは逞しい顔つきになったじゃないか」

「そりゃそうでしょ。五年だよ? アタシも成長するって」

 胸を張って誇らしげな顔をするアレックスに、眼鏡の男は苦笑する。ギルド内でアレックスに気付いたハンター達がざわつき始めた。

「アレックス……? 最年少ハンターのアレックスか……!?」

「いや、アレックスは前最年少ハンターだろ。スイとか言う奴が記録を塗り替えた筈だ」

「後ろのがそうじゃないか? アサシンレオウルフを従えているって話だが、一緒にいるのそうだろ……?」

 久しぶりの注目に、そわそわしてスイは内心落ち着かない。居心地の悪さにどうしようかと視線を巡らせると、ラシャンと視線が合った。

「お前の後ろにいるのは……」

「北大陸で会って一緒に旅をしているスイだよ。アタシの妹兼後輩。可愛いでしょ」

 紹介されたが、かなり気恥ずかしい。しかし挨拶しない訳にもいかない。スイは羞恥を堪えてラシャンに近付く。

『初めまして。Cランクハンターのスイです。此方は旅の仲間のコハクとザクロです』

 二匹も鳴いて挨拶をする。その様子にラシャンはまた眼を丸くしたが、頷いて挨拶を返した。

「ハンターズギルド、ボルカウィッチ支部長のラシャンだ。現最年少ハンターに会えた事を嬉しく思う。それにしても……」

 ラシャンはアレックスとスイを交互に見る。

「……スイは幾つだったか」

『十二歳です』

「現時点でハンターになった時のアレックスより歳下なのに、十九歳いまのアレックスよりもずっと礼儀正しいな……」

「残念なものを見る様な眼でアタシを見ないでよ!」

「残念だろ」

「失礼!!」

 受付のカウンターが力強く叩かれるが、慣れているのか受付嬢もハンター達も笑っている。
 雰囲気は明るく、和やかでアレックスが皆に好かれているのが解り、嬉しくなってスイも笑った。

「スイまで笑ってる……」

『ふふ、ごめんなさい』

「……可愛いから許す」

『ちょっと痛いです』

 許すと言ったのに、アレックスはスイの頭に顎を乗せてぐりぐりするのをやめない。

「お前達はすぐに町を発つのか?」

「いや、色々見て回りたいし情報を集めたいから何日か滞在する予定。チェンジリザードが出たし」

「……チェンジリザードが?」

「そう。気になるでしょ」

 眼鏡の奥の眼差しが鋭くなったのを、スイとアレックスは見逃さない。笑っていた受付嬢も真剣な顔で二人の会話を聞いている。

「討伐は?」

「した。丸ごとアイテムポーチに入れてある」

 ぽんぽんとポーチを叩いたアレックスに、ラシャンは頷く。

「遭遇した場所を教えてくれ。すぐに調査したい。それと、何日か滞在するなら依頼を請けてくれると助かる。この町は常に素材を求めているからな」

「勿論そのつもり。此処に来るまでにも幾つか狩って来たから依頼に充てるよ。さ、スイ、久々に忙しくなるよ」

 ラシャンにイジられて年齢よりも子どもっぽく見えた先程までとは打って変わり、Bランクハンターとして非常に頼り甲斐のある表情かおでアレックスが微笑った。
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