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第四章 南大陸
拾われ子と救出依頼
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良質な鉄や銅だけでなく、希少な魔宝石の原石も採れるゼルテン鉱山。
ドワーフの職人は鍛冶によく使う物はそれぞれ安定した入手ルートを持っているが、魔宝石のように希少な石に関しては自らゼルテン鉱山に採掘に行く者も多い。
その為、ボルカウィッチの町の地下にはかつてドワーフ達が掘った坑道があり、各ギルドが定期的に地魔法や精霊術の使い手を派遣して補修をしたり、結界石を埋め込む等をして安全を確保していた。
その結界石は、壁と共に崩れ落ちて無惨に転がっている。割れた結界石を摘んだ若い男が「あーあ」と言いながら溜息を吐いた。
「結界石って貴重なのに。精霊かドラゴンか別の奴か知らんけど、酷い事してくれるよな」
割れた結界石を雑にアイテムバッグに入れた若い男は、代わりに傷一つ無い結界石を取り出す。
「岩壁」
崩れていた土や岩がぽっかりと空いていた穴を塞ぎ、壁となった。その中心には新しい結界石が埋め込まれている。
『綺麗に直せるんですね。凄いなぁ……』
継ぎ目が全く無い壁をまじまじと見て、スイは感嘆の声をあげた。
「地属性魔法持ちが戦闘以外で魔法使うとしたら、専ら壁や道の整備や補修だからな」
男がそう言ってコハクとスイを交互に見ると、コハクは拗ねたように「フン」と鼻から息を吐き、スイは苦笑いを浮かべる。
『コハク、向き不向きは誰にだってあるよ』
「大地の盾は使えるんだろ? あれと感覚的には似てるじゃん。中級魔法も使えるのに、何で下級の岩壁は苦手なんだろうな」
《オレを馬鹿にする気か!?》
「おわぁぁぁあ!? 何て言ってるか解んねぇけど凄ぇ怒ってるのは解る! 何でだよ!?」
『今のはニコラスさんが悪いと思います』
「俺!?」
心底理解出来ないと言う顔で、ニコラスがスイの背中に隠れた。
ドワーフ達の救出依頼を請けたハンター達は二次災害が起きた際に消息不明になるのを避ける為、数人で一組となって鉱山の中に入る事になった。道中、崩れた天井や側壁を直し、結界石を埋める為に一人は地魔法が使える者が編成されている。
コハクも地魔法が使えるが、壁や道の補修に使える魔法に関しては精度が低く安全面に不安があるので、スイはその点を補えるニコラスと組む事になった。
『(悪い人ではないんだろうけど、時々煽るというか……言葉選びが下手なんだよね……)』
背中に隠れているニコラスを肩越しに振り返る。どうにもコハクと相性が悪く、組んでまだそれ程時間が経っていないのにコハクのニコラスに対する印象は最悪だ。
「スイが従えてるんだろ? 大丈夫だよな? 俺、食われないよな?」
『食べはしませんが……』
一度コハクを見たスイは、再び肩越しにニコラスと視線を合わせる。
『……甘噛みはするかもしれませんね』
「ホントに甘噛みで済むか!?」
スイの向こうで歯茎と牙を剥き出しにしているコハクを見て、ニコラスの怯えた声が坑道に響く。
天井から剥がれた欠片が落ちてきて地面にコツンと音を立てると、ニコラスは慌てて手で口を覆った。
「やっぱり脆くなってんなぁ……。早く見つけて戻らねぇと」
『気配は感じるけど道が分かれてるから探しづらいですね……。コハク、匂いはわかる?』
《わかる。でも……》
血の匂いが混ざっている、と言うコハクの言葉に、スイはそれをニコラスに伝えて二人同時に歩みを速める。
前を歩くコハクを追い掛けて三回程進行方向を変えると、壁に背を預けて座っているドワーフが一人見えた。左足から血を流している。
「ア、アサシンレオウルフ!? 馬鹿な、何で鉱山に……!?」
先頭を走ってくるコハクを見て、焦りと絶望が混ざった悲鳴をあげるドワーフにスイは慌てて救助に来た旨を伝えた。
『ハンターです! 助けに来ました!』
「ハンター!?」
コハクの後ろから姿を見せたスイにドワーフは驚愕の眼を向けたが、続いてニコラスを見付けると少しばかり表情をゆるめた。
座るドワーフの前に屈み、ニコラスがハンターの証を見せる。
「Cランクハンターのニコラスだ。こっちは同じCランクの」
『スイです。この子の名前はコハクで、私の友達なので安心してください』
「ザクロモイルヨッ」
ハンターの証を見せたスイの隣で大人しく座るコハクとザクロに、ドワーフは漸く安堵の表情を見せた。
「成程、従魔か……凄いのを連れてるな。儂はハンスだ。救助に来てくれてありがとうよ」
『ハンスさん、驚かせてすみません』
「いや、平気だ。こっちこそすまんな」
「オッサン、怪我してるだろ。これ飲んどけ」
ニコラスはアイテムバッグから回復薬を取り出して渡す。礼を述べて受け取ったハンスは、一気に飲み干した。
「ふー……助かった。いつモンスターに襲われるかとヒヤヒヤしていた」
「こっちの道にいるのはオッサンだけか?」
『……まだいますね。あと……一人、かな』
《そうだな》
「いや、二人だ。儂と一緒に来ていた二人がこの先にいる。そいつらも助けてやってくれ」
ハンスの言葉にニコラスが眼を丸くする。
「え、マジ? 俺はわかんないけど、スイは気配わかる?」
『……凄く薄いですが、一人分の気配は感じます。あと一人はちょっと……わからないです』
「探知能力高っ。薄いなら急いで探さねーと」
「大体の場所なら儂が解る。案内する」
「つっても……うおっ!?」
鉱山内に地鳴りが響く。ぱらぱらと天井から小石や砂が降ってきた。
「おいおい、ただでさえ時間かけられねぇ救出依頼なのに、尚更急ぐ理由が出来たんじゃねぇかコレ……!?」
「坊主の言う通りだ、また崩落しかねん! そうなる前にあいつらを助けてくれ!」
「誰が坊主だ! くそっ、足の遅ぇドワーフ連れて探す余裕あるか……!?」
『コハクに乗ってください。背中から指示を出してくれればその通りに走ってくれます。コハク、お願い』
《解った》
背の低いドワーフの為に、腹を地面につけてコハクが伏せる。感心した声を出したハンスが恐る恐る跨ると、コハクが立ち上がった。
「あっちだ」
ハンスが指差した方向に走る。崩れた壁が何ヶ所かあったが、壁を直しても天井が崩落したら意味が無いので素通りして救助を最優先する。
「いた! おーい、大丈夫か!? ハンター達が助けに来てくれたぞ!」
「ハンスか! 良かった、生きてい……アサシンレオウルフ!?」
「凄ぇ既視感」
コハクは、種族も身体の大きさも相手に恐れを与える。スイはハンスにした説明をもう一度繰り返して、ドワーフを安心させた。
オイゲンと名乗ったそのドワーフも怪我をしていたので、スイは回復薬を渡す。直ぐに飲み干したオイゲンは息を吐いた。
「あぁ……生きた心地がしなかったわい。ありがとうよ、ハンター達」
「まだ安心は出来ねぇな。嫌な音を立ててる此処から早く出ねぇと。あと一人いるんだろ? そいつは何処なんだ?」
「ドルベルトならこの先にいる筈だ。ゼルテン鉱山は珍しい鉱石程奥にある。今回ドルベルトが採りに行ったのも希少な物だからな」
スイはコハクと視線を交わす。コハクが僅かに首を左右に振ったのを見て、目を伏せた。
スイよりもコハクの方が探知能力は高い。そのコハクが、近付いても尚、匂いも気配も感じ取れなかった。生存している可能性は低い。
「オッサン達だけ先に帰すか? 結界石がまだあるから、一人一個持たせりゃ自分達だけで外に出れるだろ」
ニコラスの提案にスイが答える前に、ハンス達が否と答えた。
「儂らも着いていく。ドルベルトはこの中の誰よりも重い。もしもの際、ヒト二人だけでは運べんだろう。儂らが担いで運ぶ」
ハンス達も覚悟は出来ていたのだろう。スイとニコラスは顔を見合わせると、頷いてドワーフ達に同行を頼んだ。
コハクにハンスとオイゲンを乗せて走ると、また地鳴りが響いた。少しずつだが音が大きくなり、間隔も狭まってきている。
「まずいな、下手したら俺達も危ねぇぞ」
『そうなる前に早くドルベルトさんを見つけないと……』
「いた! ドルベルト、お前も無事だっ……」
オイゲンの声が途切れた。他の全員もその異常を認識して言葉を失う。
「……ド、ドルベルト……?」
道の真ん中に、小石や砂を少しばかり被った精巧なドワーフの石像があった。
焦りと驚愕の表情を浮かべて右手と左足を前に出しているそれは、まるで走っている姿をそのまま留めたように見える。
『……この石像……』
ハンスとオイゲンに眼を向けると、ハンスが沈痛な面持ちで頷いた。
「……ドルベルトだ、間違いない。何故、石に……うぉぉっ!?」
何度目かの地鳴りに、猶予が無い事を全員が理解した。
「考えるのは後だ! オッサン達、石像のオッサンを運んでくれ!」
「おう!」
『コハク、頑張れる!?』
《やるしかない!!》
『お二人とも、担いだままコハクに乗ってください!』
「だ、大丈夫なのか!?」
《お、重っ……!!》
「根性見せろ、コハク!」
《うるさい! お前に言われるまでもない!!》
「ピャッ!? 危ナイッ!」
「やべぇ、俺も本気出さねぇと」
小石だけでなく、人の頭程の大きさの岩も落下し始めた。ニコラスも身体強化を最大まで発動して脚力を強化すると、スイと共にコハクと並走して出口に向かう。
その瞬間、背後で何かが地面を穿つ音を全員が聞いた。
『!?』
「おいおい、今度は何だよ……! 構ってる暇はねーぞ……!」
道の先、魔石灯が壊れて暗闇となっているそこに、ふたつの眼が光っている。
「――モンスターか!?」
その眼が光りを強め、形の無い何かが最後尾にいたスイを包もうとした。背中がぞわりと粟立ち、ショートソードを抜いていたスイは咄嗟に両腕を交差して防御体勢を取る。
『わっ!?』
パァンッ! と弾けるような乾いた音が響き渡った。
「!?」
目を大きく開いたモンスターは、気分を害したように半分程瞼を閉じると暗闇の奥へと引っ込んで行く。
「な、何だったんだ、今の……」
「それも考えるのは後だ、今は逃げるぞ! スイ、走れるか!?」
『は、はい! 大丈夫です!』
振り返り、再び出口に向かって全員で走る。鉱山の奥から轟音が響き渡るのとほぼ同時に、スイ達は外に脱出した。
呼吸を整えるスイがショートソードのポンメルが割れている事に気付くのは、それから少し後の事だった。
ドワーフの職人は鍛冶によく使う物はそれぞれ安定した入手ルートを持っているが、魔宝石のように希少な石に関しては自らゼルテン鉱山に採掘に行く者も多い。
その為、ボルカウィッチの町の地下にはかつてドワーフ達が掘った坑道があり、各ギルドが定期的に地魔法や精霊術の使い手を派遣して補修をしたり、結界石を埋め込む等をして安全を確保していた。
その結界石は、壁と共に崩れ落ちて無惨に転がっている。割れた結界石を摘んだ若い男が「あーあ」と言いながら溜息を吐いた。
「結界石って貴重なのに。精霊かドラゴンか別の奴か知らんけど、酷い事してくれるよな」
割れた結界石を雑にアイテムバッグに入れた若い男は、代わりに傷一つ無い結界石を取り出す。
「岩壁」
崩れていた土や岩がぽっかりと空いていた穴を塞ぎ、壁となった。その中心には新しい結界石が埋め込まれている。
『綺麗に直せるんですね。凄いなぁ……』
継ぎ目が全く無い壁をまじまじと見て、スイは感嘆の声をあげた。
「地属性魔法持ちが戦闘以外で魔法使うとしたら、専ら壁や道の整備や補修だからな」
男がそう言ってコハクとスイを交互に見ると、コハクは拗ねたように「フン」と鼻から息を吐き、スイは苦笑いを浮かべる。
『コハク、向き不向きは誰にだってあるよ』
「大地の盾は使えるんだろ? あれと感覚的には似てるじゃん。中級魔法も使えるのに、何で下級の岩壁は苦手なんだろうな」
《オレを馬鹿にする気か!?》
「おわぁぁぁあ!? 何て言ってるか解んねぇけど凄ぇ怒ってるのは解る! 何でだよ!?」
『今のはニコラスさんが悪いと思います』
「俺!?」
心底理解出来ないと言う顔で、ニコラスがスイの背中に隠れた。
ドワーフ達の救出依頼を請けたハンター達は二次災害が起きた際に消息不明になるのを避ける為、数人で一組となって鉱山の中に入る事になった。道中、崩れた天井や側壁を直し、結界石を埋める為に一人は地魔法が使える者が編成されている。
コハクも地魔法が使えるが、壁や道の補修に使える魔法に関しては精度が低く安全面に不安があるので、スイはその点を補えるニコラスと組む事になった。
『(悪い人ではないんだろうけど、時々煽るというか……言葉選びが下手なんだよね……)』
背中に隠れているニコラスを肩越しに振り返る。どうにもコハクと相性が悪く、組んでまだそれ程時間が経っていないのにコハクのニコラスに対する印象は最悪だ。
「スイが従えてるんだろ? 大丈夫だよな? 俺、食われないよな?」
『食べはしませんが……』
一度コハクを見たスイは、再び肩越しにニコラスと視線を合わせる。
『……甘噛みはするかもしれませんね』
「ホントに甘噛みで済むか!?」
スイの向こうで歯茎と牙を剥き出しにしているコハクを見て、ニコラスの怯えた声が坑道に響く。
天井から剥がれた欠片が落ちてきて地面にコツンと音を立てると、ニコラスは慌てて手で口を覆った。
「やっぱり脆くなってんなぁ……。早く見つけて戻らねぇと」
『気配は感じるけど道が分かれてるから探しづらいですね……。コハク、匂いはわかる?』
《わかる。でも……》
血の匂いが混ざっている、と言うコハクの言葉に、スイはそれをニコラスに伝えて二人同時に歩みを速める。
前を歩くコハクを追い掛けて三回程進行方向を変えると、壁に背を預けて座っているドワーフが一人見えた。左足から血を流している。
「ア、アサシンレオウルフ!? 馬鹿な、何で鉱山に……!?」
先頭を走ってくるコハクを見て、焦りと絶望が混ざった悲鳴をあげるドワーフにスイは慌てて救助に来た旨を伝えた。
『ハンターです! 助けに来ました!』
「ハンター!?」
コハクの後ろから姿を見せたスイにドワーフは驚愕の眼を向けたが、続いてニコラスを見付けると少しばかり表情をゆるめた。
座るドワーフの前に屈み、ニコラスがハンターの証を見せる。
「Cランクハンターのニコラスだ。こっちは同じCランクの」
『スイです。この子の名前はコハクで、私の友達なので安心してください』
「ザクロモイルヨッ」
ハンターの証を見せたスイの隣で大人しく座るコハクとザクロに、ドワーフは漸く安堵の表情を見せた。
「成程、従魔か……凄いのを連れてるな。儂はハンスだ。救助に来てくれてありがとうよ」
『ハンスさん、驚かせてすみません』
「いや、平気だ。こっちこそすまんな」
「オッサン、怪我してるだろ。これ飲んどけ」
ニコラスはアイテムバッグから回復薬を取り出して渡す。礼を述べて受け取ったハンスは、一気に飲み干した。
「ふー……助かった。いつモンスターに襲われるかとヒヤヒヤしていた」
「こっちの道にいるのはオッサンだけか?」
『……まだいますね。あと……一人、かな』
《そうだな》
「いや、二人だ。儂と一緒に来ていた二人がこの先にいる。そいつらも助けてやってくれ」
ハンスの言葉にニコラスが眼を丸くする。
「え、マジ? 俺はわかんないけど、スイは気配わかる?」
『……凄く薄いですが、一人分の気配は感じます。あと一人はちょっと……わからないです』
「探知能力高っ。薄いなら急いで探さねーと」
「大体の場所なら儂が解る。案内する」
「つっても……うおっ!?」
鉱山内に地鳴りが響く。ぱらぱらと天井から小石や砂が降ってきた。
「おいおい、ただでさえ時間かけられねぇ救出依頼なのに、尚更急ぐ理由が出来たんじゃねぇかコレ……!?」
「坊主の言う通りだ、また崩落しかねん! そうなる前にあいつらを助けてくれ!」
「誰が坊主だ! くそっ、足の遅ぇドワーフ連れて探す余裕あるか……!?」
『コハクに乗ってください。背中から指示を出してくれればその通りに走ってくれます。コハク、お願い』
《解った》
背の低いドワーフの為に、腹を地面につけてコハクが伏せる。感心した声を出したハンスが恐る恐る跨ると、コハクが立ち上がった。
「あっちだ」
ハンスが指差した方向に走る。崩れた壁が何ヶ所かあったが、壁を直しても天井が崩落したら意味が無いので素通りして救助を最優先する。
「いた! おーい、大丈夫か!? ハンター達が助けに来てくれたぞ!」
「ハンスか! 良かった、生きてい……アサシンレオウルフ!?」
「凄ぇ既視感」
コハクは、種族も身体の大きさも相手に恐れを与える。スイはハンスにした説明をもう一度繰り返して、ドワーフを安心させた。
オイゲンと名乗ったそのドワーフも怪我をしていたので、スイは回復薬を渡す。直ぐに飲み干したオイゲンは息を吐いた。
「あぁ……生きた心地がしなかったわい。ありがとうよ、ハンター達」
「まだ安心は出来ねぇな。嫌な音を立ててる此処から早く出ねぇと。あと一人いるんだろ? そいつは何処なんだ?」
「ドルベルトならこの先にいる筈だ。ゼルテン鉱山は珍しい鉱石程奥にある。今回ドルベルトが採りに行ったのも希少な物だからな」
スイはコハクと視線を交わす。コハクが僅かに首を左右に振ったのを見て、目を伏せた。
スイよりもコハクの方が探知能力は高い。そのコハクが、近付いても尚、匂いも気配も感じ取れなかった。生存している可能性は低い。
「オッサン達だけ先に帰すか? 結界石がまだあるから、一人一個持たせりゃ自分達だけで外に出れるだろ」
ニコラスの提案にスイが答える前に、ハンス達が否と答えた。
「儂らも着いていく。ドルベルトはこの中の誰よりも重い。もしもの際、ヒト二人だけでは運べんだろう。儂らが担いで運ぶ」
ハンス達も覚悟は出来ていたのだろう。スイとニコラスは顔を見合わせると、頷いてドワーフ達に同行を頼んだ。
コハクにハンスとオイゲンを乗せて走ると、また地鳴りが響いた。少しずつだが音が大きくなり、間隔も狭まってきている。
「まずいな、下手したら俺達も危ねぇぞ」
『そうなる前に早くドルベルトさんを見つけないと……』
「いた! ドルベルト、お前も無事だっ……」
オイゲンの声が途切れた。他の全員もその異常を認識して言葉を失う。
「……ド、ドルベルト……?」
道の真ん中に、小石や砂を少しばかり被った精巧なドワーフの石像があった。
焦りと驚愕の表情を浮かべて右手と左足を前に出しているそれは、まるで走っている姿をそのまま留めたように見える。
『……この石像……』
ハンスとオイゲンに眼を向けると、ハンスが沈痛な面持ちで頷いた。
「……ドルベルトだ、間違いない。何故、石に……うぉぉっ!?」
何度目かの地鳴りに、猶予が無い事を全員が理解した。
「考えるのは後だ! オッサン達、石像のオッサンを運んでくれ!」
「おう!」
『コハク、頑張れる!?』
《やるしかない!!》
『お二人とも、担いだままコハクに乗ってください!』
「だ、大丈夫なのか!?」
《お、重っ……!!》
「根性見せろ、コハク!」
《うるさい! お前に言われるまでもない!!》
「ピャッ!? 危ナイッ!」
「やべぇ、俺も本気出さねぇと」
小石だけでなく、人の頭程の大きさの岩も落下し始めた。ニコラスも身体強化を最大まで発動して脚力を強化すると、スイと共にコハクと並走して出口に向かう。
その瞬間、背後で何かが地面を穿つ音を全員が聞いた。
『!?』
「おいおい、今度は何だよ……! 構ってる暇はねーぞ……!」
道の先、魔石灯が壊れて暗闇となっているそこに、ふたつの眼が光っている。
「――モンスターか!?」
その眼が光りを強め、形の無い何かが最後尾にいたスイを包もうとした。背中がぞわりと粟立ち、ショートソードを抜いていたスイは咄嗟に両腕を交差して防御体勢を取る。
『わっ!?』
パァンッ! と弾けるような乾いた音が響き渡った。
「!?」
目を大きく開いたモンスターは、気分を害したように半分程瞼を閉じると暗闇の奥へと引っ込んで行く。
「な、何だったんだ、今の……」
「それも考えるのは後だ、今は逃げるぞ! スイ、走れるか!?」
『は、はい! 大丈夫です!』
振り返り、再び出口に向かって全員で走る。鉱山の奥から轟音が響き渡るのとほぼ同時に、スイ達は外に脱出した。
呼吸を整えるスイがショートソードのポンメルが割れている事に気付くのは、それから少し後の事だった。
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