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第四章 南大陸
拾われ子VSアレックス 中編
「こ、れは…………!」
アレックスとスイを中心に、闘技場内の空気がびりびりと震える。あまりにも強すぎるそれに、リポールも観客の多くも声を発せなくなった。
発生源の二人は、共に次の一撃を放つ体勢に入っている。
スイはショートソードから離した右手を軽く振った。
『(やっぱり一撃が重い。まともには何度も受け止められない)』
痺れる右手に魔力を集め、スイはアレックスに狙いを定めた。
『氷礫』
「(その魔法、何度も見てきたけど)」
数百の氷の礫が猛烈な速さでアレックスに放たれるが、アレックスはその殆どを走って回避した。避けきれなかった幾つかが、剥き出しの肌を掠めて赤い線を浮かび上がらせる。
「(見る度に、数も速さも増してる)」
向きを変えてスイの方へ向かう。雷魔法が上空から襲ってきたが、自身も雷のようなステップで不規則に動いて照準を外しながらスイに近付くと大剣を振り下ろそうとして――。
「!!」
刹那、色の異なる双眸と視線がぶつかった。
大剣を止め、上半身を無理矢理引く。眼前を、ひやりとした刃が掠めた。体勢を直してバックステップで下がる。
「い、やぁ……ビックリしたぁ!」
蜂蜜色の眼を丸くして、しかしアレックスはその眼を輝かせて楽しそうに笑う。
スイの持つショートソードは水の魔力を纏っていた。
『上手く誘い込めたと思ったんですが……やっぱりお強いです』
少しだけ悔しそうに言ったスイに、アレックスの心が逸る。
風や雷、氷と違って魔法剣にしても殺傷力が激的に増す事は無い水属性だが、魔法剣を使ってくると言う事そのものが宣言通り本気で倒しに来ている事を表している。
「本当に本気で闘ってくれるんだね。でも、まだだ」
アレックスが笑みを深くする。リング上の熱が増す。その手に持つ大剣の剣身が、薄らと赤くなり始めた。
「まだまだ、君の本気はこんなものじゃない」
ソウジロウとの闘いで初めて見たスイの姿に、アレックスの魂は震えた。
ハンターとして、必要とあらば躊躇いながらも非情になる決断を下せるスイだが、普段は穏やかで優しい。
しかし、その内に確かな苛烈さを秘めている。
「アサシンレオウルフの様に……いや、ドラゴンの様に激しく強い君を見せてよ! スイ!」
『……アレックスさんの方が、ドラゴンみたいですよっ……熱っ!?』
蜂蜜色を爛々と輝かせて振り下ろした一撃を、スイは半身をずらして避けた。大剣から発せられる熱に、肌がじりじりと灼けて痛む。
「気を付けて。この大剣はちょっと変わりモノでさ。火属性の武器なんだけど」
ぐるんと半円を描く様に振り回し、アレックスは大剣を肩に担ぐ。
「強い奴と戦うと楽しくなるのか、今みたいに剣身が熱くなるんだ。最高潮に達すると炎も出る」
『(つまり持主のそっくりさんか)』
まるで他人事みたいに言っているが、本人に自覚はあるのかないのか。
訊いてみたいところではあるが、重さを無視した様に乱撃が繰り出されてスイにそんな余裕は無くなった。
『(速いっ……! 剣身が長いから迂闊に近寄れない)』
極力躱して、躱しきれないものはショートソードを当てて軌道をずらす。
『(駄目だな、まだソウジロウさんみたいに上手くやれない。もっと手首を……)』
衝撃を逃がしながらやってはいるが、徐々に蓄積されていく負荷にスイは反省点と改善点を頭の中で書き出していく。
アレックスが少しだけ面白くなさそうな顔をして唇を尖らせた。
「……考え事かぁ、結構アタシも本気でやってるんだけどなぁ」
『え? わっ!?』
ブォンッ! と、斜めに空気を両断した大剣に、スイの逃げ遅れた髪が数本、宙を舞った。
「スイ」
『は、はい?』
「眼の前にアタシがいるんだよ?」
『は、はい。解ってます』
「浮気はダメ」
『何の話です……?』
若いハンター二人の激烈な闘いに熱狂する観客達。彼等に囲まれた中央で、至極真面目に訴えるアレックスと、至極真面目に困惑するスイ。
とんでもない温度差が生まれているが、観ている人々の殆どはそんな事には気付かない。気付いているのは極一部の人間と、審判として二人の近くにいるリポールだけだ。
「(この二人は……きっとどちらも大物になるな)」
力強く熱く、喜怒哀楽が表に出やすいアレックス。冷静で流麗な動きを持ち、大きく表情は変わらないスイ。
その身に宿す属性も相反している。似ている部分よりも似ていない部分の方が見付けやすい。
そんな二人だが、いずれそれぞれの特色を極めた真の強者へとなる。
「(決勝の闘いの最中に、こんな間の抜けた会話を交わす選手は初めて見たが。しかし、悪くない)」
三年に一度しか行われない強者の祭典。そこでずっと、リングで闘う者達を最も近くで観てきたリポールは、そんな予感を覚えながら笑った。
アレックスとスイを中心に、闘技場内の空気がびりびりと震える。あまりにも強すぎるそれに、リポールも観客の多くも声を発せなくなった。
発生源の二人は、共に次の一撃を放つ体勢に入っている。
スイはショートソードから離した右手を軽く振った。
『(やっぱり一撃が重い。まともには何度も受け止められない)』
痺れる右手に魔力を集め、スイはアレックスに狙いを定めた。
『氷礫』
「(その魔法、何度も見てきたけど)」
数百の氷の礫が猛烈な速さでアレックスに放たれるが、アレックスはその殆どを走って回避した。避けきれなかった幾つかが、剥き出しの肌を掠めて赤い線を浮かび上がらせる。
「(見る度に、数も速さも増してる)」
向きを変えてスイの方へ向かう。雷魔法が上空から襲ってきたが、自身も雷のようなステップで不規則に動いて照準を外しながらスイに近付くと大剣を振り下ろそうとして――。
「!!」
刹那、色の異なる双眸と視線がぶつかった。
大剣を止め、上半身を無理矢理引く。眼前を、ひやりとした刃が掠めた。体勢を直してバックステップで下がる。
「い、やぁ……ビックリしたぁ!」
蜂蜜色の眼を丸くして、しかしアレックスはその眼を輝かせて楽しそうに笑う。
スイの持つショートソードは水の魔力を纏っていた。
『上手く誘い込めたと思ったんですが……やっぱりお強いです』
少しだけ悔しそうに言ったスイに、アレックスの心が逸る。
風や雷、氷と違って魔法剣にしても殺傷力が激的に増す事は無い水属性だが、魔法剣を使ってくると言う事そのものが宣言通り本気で倒しに来ている事を表している。
「本当に本気で闘ってくれるんだね。でも、まだだ」
アレックスが笑みを深くする。リング上の熱が増す。その手に持つ大剣の剣身が、薄らと赤くなり始めた。
「まだまだ、君の本気はこんなものじゃない」
ソウジロウとの闘いで初めて見たスイの姿に、アレックスの魂は震えた。
ハンターとして、必要とあらば躊躇いながらも非情になる決断を下せるスイだが、普段は穏やかで優しい。
しかし、その内に確かな苛烈さを秘めている。
「アサシンレオウルフの様に……いや、ドラゴンの様に激しく強い君を見せてよ! スイ!」
『……アレックスさんの方が、ドラゴンみたいですよっ……熱っ!?』
蜂蜜色を爛々と輝かせて振り下ろした一撃を、スイは半身をずらして避けた。大剣から発せられる熱に、肌がじりじりと灼けて痛む。
「気を付けて。この大剣はちょっと変わりモノでさ。火属性の武器なんだけど」
ぐるんと半円を描く様に振り回し、アレックスは大剣を肩に担ぐ。
「強い奴と戦うと楽しくなるのか、今みたいに剣身が熱くなるんだ。最高潮に達すると炎も出る」
『(つまり持主のそっくりさんか)』
まるで他人事みたいに言っているが、本人に自覚はあるのかないのか。
訊いてみたいところではあるが、重さを無視した様に乱撃が繰り出されてスイにそんな余裕は無くなった。
『(速いっ……! 剣身が長いから迂闊に近寄れない)』
極力躱して、躱しきれないものはショートソードを当てて軌道をずらす。
『(駄目だな、まだソウジロウさんみたいに上手くやれない。もっと手首を……)』
衝撃を逃がしながらやってはいるが、徐々に蓄積されていく負荷にスイは反省点と改善点を頭の中で書き出していく。
アレックスが少しだけ面白くなさそうな顔をして唇を尖らせた。
「……考え事かぁ、結構アタシも本気でやってるんだけどなぁ」
『え? わっ!?』
ブォンッ! と、斜めに空気を両断した大剣に、スイの逃げ遅れた髪が数本、宙を舞った。
「スイ」
『は、はい?』
「眼の前にアタシがいるんだよ?」
『は、はい。解ってます』
「浮気はダメ」
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とんでもない温度差が生まれているが、観ている人々の殆どはそんな事には気付かない。気付いているのは極一部の人間と、審判として二人の近くにいるリポールだけだ。
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力強く熱く、喜怒哀楽が表に出やすいアレックス。冷静で流麗な動きを持ち、大きく表情は変わらないスイ。
その身に宿す属性も相反している。似ている部分よりも似ていない部分の方が見付けやすい。
そんな二人だが、いずれそれぞれの特色を極めた真の強者へとなる。
「(決勝の闘いの最中に、こんな間の抜けた会話を交わす選手は初めて見たが。しかし、悪くない)」
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