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第四章 南大陸
拾われ子と惨禍 十七 ―覚悟―
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堕龍再臨により、この町で最も危険な地帯と化した町北東部。
比較的元の形を残している建物の中に、アレックスとソウジロウはいた。気配を消してノズチの動向を探っている。
「まさか超遠距離攻撃を仕掛けてくるなんて……」
「油断した。元人間だからと、あの堕龍を侮っていた」
「……戦力が一気に減らされたのは痛いね。しかも、残っている仲間と早々に合流する事も難しい」
紫炎の直撃で何人もの仲間が消え去った。生き残った仲間も爆風で散り散りになり、飛ばされた先でそれぞれ戦闘に入っている。
援護の人員が来るのは当分先になる。
「アレックス殿、龍と戦った経験はおありか?」
「小型相手に二回。でもその内一回はダンジョンの中で向こうに不利な状況だった。外であんなデカいドラゴンと戦った事は無い」
「ふむ。仲間と離され、すぐ側に龍がいる。退くつもりは?」
「無い」
「生命が惜しくは無いのですかな?」
切れ長の漆黒の眼を向けて、ソウジロウはアレックスを見据える。
「母君の言葉があるとは言え、今この状況では堕龍と戦っても勝ち目は無いというのに」
蜂蜜色の眼は、漆黒の眼を真っ直ぐに見返す。
「退かないってば。じゃあ逆に訊くけど、ソウジロウさんは故郷とそこに住む人達を捨てられるの?」
「必要とあらば」
蜂蜜色の眼が真ん丸になる。まるで満月のようなそれを見ながら、ソウジロウは静かに語る。
「儂の最大の使命は、スイ様をお護りする事。その為ならば、故郷も同族も捨てる覚悟は疾うに出来ておる」
「……ねぇ、スイは一体……。いや、やっぱいいや」
「賢明。訊かれても答える気はありませぬ」
「だろうね。それに、スイが何者でも関係無いから、聞いた所で意味も無いし。でもさ、ソウジロウさんはアタシの気持ち解る筈だよ」
「と言うのは?」
「アタシはこの町と皆、ソウジロウさんはスイ。どうしても譲れないものがあって、それを護る為に退かないって事でしょ?」
「……成程、まさしく。愚問を発しましたな」
満足そうに頷いたソウジロウに少しだけ不満気な顔をしたアレックスだが、何かに気付くと二人とも瞬時に床に伏せた。
次の瞬間、先程まで二人の頭があった位置を堕龍の尻尾が払い殴った。建物は殆どが吹き飛び、アレックスとソウジロウの姿が堕龍の眼下に晒される。
「気配は完全に消していたが中々鋭い。アレックス殿、儂が前に出る故、援護を頼みたい」
「ちょっ!? 何言ってんの、アタシが――」
「龍との戦闘経験が多い儂の方が適任というもの。それに、援護をしながら儂と堕龍の戦いを見ていればいざと言う時役にも立ちましょうぞ」
「…………っ」
ぶっつけ本番で戦うより、少しでも情報を得ておけ。
ソウジロウの意図を理解したアレックスは頷いた。
「解った。でも無理はしないで。ソウジロウさんにもしもの事があれば、スイが悲しむ」
「ほほっ、それは避けねばなりませんな。では、参りますぞ」
「うんっ!」
「グォォオォオオォオオッ!!」
たった二人で、堕龍に向かう。
その気配を感じ取ったスイは、意地でモンスターの攻撃を押し返して体勢を崩すと急所を貫いた。
『はぁっ、はぁっ……!』
三体を倒したスイは、背後で六体目の気配が消えたのを感じて振り向いた。
『ニコさん! 向こうでアレックスさんとソウジロウさんがノズチと――』
戦い始めました。
そう続く筈の言葉は、声として発されずに喉の奥に落ちていった。
「……じゃあ、急いで仲間連れて向かわねぇとな……」
ニコラスは平然を装った表情で、左手で脇腹を押さえていた。抉れたそこからは酷く出血している。
『ニコさん……!?』
「大丈夫だ。ちょいとミスったが、闘技場までは動ける」
かなりの痛みがあるのだろう。汗が絶えず流れ落ちていく。
『っ、すぐに向かいましょう。あの親子を呼んできます!』
「おーぅ、頼むわ」
スイが走っていったのを見て、ニコラスはアイテムポーチに手を入れる。
「(……やっぱ無ぇか……)」
記憶違いを期待したが、回復薬は無い。代わりに残っていた鎮痛剤を取り出し、水筒の水を呷って流し込む。
「(肉抉れてんだから、飲んだ所で効果はたかが知れてるが気休めにはなんだろ)」
『ニコさん、お待たせしました!』
「……おう、じゃあ行くか」
「よ、よろしくお願いします」
親子を連れて、スイとニコラスは歩いて闘技場に向かう。先頭を歩くスイは、周囲の気配を探りながら最短距離且つ、なるべく荒れていない道を選んで進んでいる。
「(……正直有難ぇが、十も離れた子どもにここまで気を使わせちまうとは情けねぇな……っ?)」
自身を不甲斐なく思っていた所、突然スイが緊迫した顔で振り返った。何事かと思うや否や、ニコラスはその理由を理解する。
『ニコさん! 後ろから何か来ます!』
「くそが……! 走るぞ!」
「は、はいっ!」
一歩進む度に走る激痛に、ニコラスは歯を食いしばる。
戦闘は避けたいが、子どもを抱えた母親の足は速くない。親子を置き去りにする訳にはいかず速度を合わせた結果、モンスターに追いつかれてしまった。
「やべっ……!」
ニコラスが振り向いた時には、筋肉質な腕が振り抜かれようとしていた。
遅れて槍を構えようとしたニコラスだが、その前にスイが間に入って鞘に入れたままのショートソードで攻撃を受け止めた。
『重っ……!』
耐えきれずに身体が浮き、飛ばされたが空中で体勢を整えて着地する。
スイはショートソードを腰に戻すと、親子を背中に庇いながらモンスターを見上げた。
『オニ! ……じゃ、ない……?』
鬼に似ているが、鬼よりも体格が大きく角も太い。もしや特殊個体か、それとも鬼ではなく上位のデーモンかと考え、背中を寒気が走ったがニコラスがそれを否定した。
「違ぇ、オーガだ! ここで出てくるかよ……!?」
オーガは鬼と似た特徴を持つが、鬼よりランクは低く、力や敏捷性も劣る。
しかし、あくまで鬼と比較すればの話であって、とんでもない怪力を持つモンスターであり危険度がB+ランクであると言う事を忘れてはならない。
『ニコさん! 私が戦うのでその人達と闘技場に向かってください!』
ショートソードを抜き、風の魔力を乗せたスイがオーガと対峙する。
「バッ……」
非難しようとして、ニコラスは口を閉じた。
一般人の女性と幼児、重傷のニコラス、軽傷のスイ。この中で唯一戦えるのがスイだ。実力的にも、一対一であればスイならオーガを倒せるだろう。
しかし、ニコラスは不意打ちで地魔法を放ってオーガをふっ飛ばした。
「ガァァァァッ!?」
『ニコさんっ!? 早く闘技場に……!』
「スイがその親子を連れて行け。で、闘技場でお前も怪我を治してもらって、援護の奴等を連れて先にアレックス達と合流しろ」
『え?』
吹き飛ばした先でオーガが起き上がり、向かってくるのが見えた。ニコラスはスイの肩を掴んで前に出ると、槍を構える。
『無茶です、ニコさん!』
スイの言う通り、ニコラスの脇腹からは出血が続いており、脚も震えている。ニコラスも、痛みと失血で意識を保つのが精一杯だと自覚している。
それでも、ニコラスは引かない。
「お前がこいつを止めても、闘技場に行く途中に別のモンスター達が来たら、情けねーけど俺じゃその親子を守りながら戦えねーんだよ」
『だったら尚更、オーガとも戦えないじゃないですか!?』
「解ってるよ。だから、スイ。悪ぃけど、治癒魔法掛けてくれ」
『!? 出来ません!』
ニコラスは地属性の他に僅かに火属性も持っている。属性の力は弱くても、相反属性のスイの水属性の治癒魔法と反応すれば悪影響が出る可能性がある。
『そんな事したら最悪の場合、ニコさんが……!』
「このまま戦ったら死ぬのは目に見えてんだ。なら、少しでも生き残る可能性が高い方に賭けてーんだよ。賭けに勝てば不快感程度で済むからな」
『それなら、治癒魔法を掛けますからニコさんがあの人達と一緒に先に闘技場に行ってください!』
「駄目だ」
『何でですか!!』
「うるせーな! さっさと俺に治癒魔法掛けて先に行けっつってんだろ!! 此処でお前と言い争ってる暇なんか無ぇんだよ!!」
『……っ』
スイの顔が苦悶に歪む。
ニコラスの言う通り、此処をニコラスに任せてスイが親子と共に闘技場へ向かえば親子は助かる可能性が高い。だが、ニコラスはどうなるのか。
全員留まり、スイが前に出てニコラスに援護を頼む手もあるが、戦闘中に他のモンスターが攻めてきた場合、最悪全滅する。
『(どうすれば良い……? 何が、どうする事が正しいんだ……!?)』
確かなのは、どちらを選んでもニコラスの命が危ういという事。治癒魔法をかけようがかけまいが、それは変わらない。
『(…………わ、わからない。選べない…………!!)』
ふと、スイの脳裏にベッドに伏せるマリクが思い浮かぶ。頭の中でマリクが話し始めようとした時、スイは首を振って拒んだ。
『(駄目です、おじいさま……! 今、貴方の言葉を思い出したら、きっと私は動けなくなる……!)』
「スイ」
『ニコさん、他の方法を……』
「そんな時間無ぇっつってんだろ。他の方法もな。スイ、ハンターなら私情を挟まず責務を果たせ。一般人を不安にさせるな」
ハッとしてスイが親子を見れば、涙目で縋るように見つめてくる母親と眼があった。
『…………っ』
選べない、ではない。
選ばなければならないのだ。
そして、ハンターとしての最適解は。
『…………』
スイは唇を噛むと、ニコラスに手を向けた。
『……あの人達を闘技場まで連れて行ったら、必ず戻ってきます。それまで、どうか耐えてください』
「いや、来ねーでアレックス達の所に――」
『必ず戻ってきます!!』
「……そーかい。私情挟むなって言ったばっかだろうが、この頑固者」
『……治癒魔法、かけます』
スイの水属性の魔力が、ニコラスを包む。一瞬身体を強ばらせたが、傷から流れていた血は止まった。だが傷は塞がりきらず、抉られた形のまま皮膚が生えただけとなった。
『……ごめんなさい、これが限界みたいです。大丈夫ですか? どこかおかしかったり、気持ちが悪いとかありませんか?』
「……賭けに勝ったみてーだ。ありがとな。痛みがだいぶマシになったから、これならどうにか出来そうだ」
振り返らずにそう言ったニコラスの背中に、スイは手を添えてもう一度伝える。
『……必ず、すぐに戻りますから、無茶はしないでくださいね』
「解ってるっての。早く行け」
スイは数歩後退ると、不安気な顔の親子を連れて走って闘技場に向かった。去っていく足音に、ニコラスはほんの少し気を緩める。
「……オェエッ……!」
吐瀉物が地面に落ちる。荒い呼吸で全部吐き出すと、槍を杖代わりにして懸命に息を整えた。
「(キッツ……属性の反発舐めてたわ……)」
ただでさえ失血量が多いのに、更に属性不和によって襲ってきた強烈な不快感と目眩と吐き気、そして然程変わらない痛みに立っている事すら辛くなる。
「(正直、俺も逃げてーなコレ)」
口元を手の甲で拭って、ニコラスは走ってくるオーガを真っ向から睨みつけた。
「(でも、やっぱ俺がこっちで間違ってなかったよな)」
焦りからかスイは思いつかなかったが、相反属性の治癒魔法を受けた事で今の様な状態に陥っている時に、もしモンスターに襲われたらやはりニコラスも親子も無事では済まない。
治癒魔法をかけてもかけなくても、ニコラスに親子を任せるのは悪手だった。確実に親子を闘技場に避難させるなら、ニコラスよりもスイの方が適任なのだ。
それに、堕龍を倒すのはニコラスでは力不足だ。スイをアレックスの所に向かわせる為にも、オーガの相手をさせる訳にはいかなかった。
「(二人がいれば、そこにあの爺さんとコハクも入れば、きっと何とかなる。俺の直感がそう言ってんだから間違いねぇ)」
少しだけ楽になった気分で、ニコラスは槍を回して構え直す。
「(こいつは意地でもここで倒す。俺は、親父とは違う)」
勢いを緩めずに向かってくるオーガに、ニコラスは覚悟を決めて槍を突き出した。
比較的元の形を残している建物の中に、アレックスとソウジロウはいた。気配を消してノズチの動向を探っている。
「まさか超遠距離攻撃を仕掛けてくるなんて……」
「油断した。元人間だからと、あの堕龍を侮っていた」
「……戦力が一気に減らされたのは痛いね。しかも、残っている仲間と早々に合流する事も難しい」
紫炎の直撃で何人もの仲間が消え去った。生き残った仲間も爆風で散り散りになり、飛ばされた先でそれぞれ戦闘に入っている。
援護の人員が来るのは当分先になる。
「アレックス殿、龍と戦った経験はおありか?」
「小型相手に二回。でもその内一回はダンジョンの中で向こうに不利な状況だった。外であんなデカいドラゴンと戦った事は無い」
「ふむ。仲間と離され、すぐ側に龍がいる。退くつもりは?」
「無い」
「生命が惜しくは無いのですかな?」
切れ長の漆黒の眼を向けて、ソウジロウはアレックスを見据える。
「母君の言葉があるとは言え、今この状況では堕龍と戦っても勝ち目は無いというのに」
蜂蜜色の眼は、漆黒の眼を真っ直ぐに見返す。
「退かないってば。じゃあ逆に訊くけど、ソウジロウさんは故郷とそこに住む人達を捨てられるの?」
「必要とあらば」
蜂蜜色の眼が真ん丸になる。まるで満月のようなそれを見ながら、ソウジロウは静かに語る。
「儂の最大の使命は、スイ様をお護りする事。その為ならば、故郷も同族も捨てる覚悟は疾うに出来ておる」
「……ねぇ、スイは一体……。いや、やっぱいいや」
「賢明。訊かれても答える気はありませぬ」
「だろうね。それに、スイが何者でも関係無いから、聞いた所で意味も無いし。でもさ、ソウジロウさんはアタシの気持ち解る筈だよ」
「と言うのは?」
「アタシはこの町と皆、ソウジロウさんはスイ。どうしても譲れないものがあって、それを護る為に退かないって事でしょ?」
「……成程、まさしく。愚問を発しましたな」
満足そうに頷いたソウジロウに少しだけ不満気な顔をしたアレックスだが、何かに気付くと二人とも瞬時に床に伏せた。
次の瞬間、先程まで二人の頭があった位置を堕龍の尻尾が払い殴った。建物は殆どが吹き飛び、アレックスとソウジロウの姿が堕龍の眼下に晒される。
「気配は完全に消していたが中々鋭い。アレックス殿、儂が前に出る故、援護を頼みたい」
「ちょっ!? 何言ってんの、アタシが――」
「龍との戦闘経験が多い儂の方が適任というもの。それに、援護をしながら儂と堕龍の戦いを見ていればいざと言う時役にも立ちましょうぞ」
「…………っ」
ぶっつけ本番で戦うより、少しでも情報を得ておけ。
ソウジロウの意図を理解したアレックスは頷いた。
「解った。でも無理はしないで。ソウジロウさんにもしもの事があれば、スイが悲しむ」
「ほほっ、それは避けねばなりませんな。では、参りますぞ」
「うんっ!」
「グォォオォオオォオオッ!!」
たった二人で、堕龍に向かう。
その気配を感じ取ったスイは、意地でモンスターの攻撃を押し返して体勢を崩すと急所を貫いた。
『はぁっ、はぁっ……!』
三体を倒したスイは、背後で六体目の気配が消えたのを感じて振り向いた。
『ニコさん! 向こうでアレックスさんとソウジロウさんがノズチと――』
戦い始めました。
そう続く筈の言葉は、声として発されずに喉の奥に落ちていった。
「……じゃあ、急いで仲間連れて向かわねぇとな……」
ニコラスは平然を装った表情で、左手で脇腹を押さえていた。抉れたそこからは酷く出血している。
『ニコさん……!?』
「大丈夫だ。ちょいとミスったが、闘技場までは動ける」
かなりの痛みがあるのだろう。汗が絶えず流れ落ちていく。
『っ、すぐに向かいましょう。あの親子を呼んできます!』
「おーぅ、頼むわ」
スイが走っていったのを見て、ニコラスはアイテムポーチに手を入れる。
「(……やっぱ無ぇか……)」
記憶違いを期待したが、回復薬は無い。代わりに残っていた鎮痛剤を取り出し、水筒の水を呷って流し込む。
「(肉抉れてんだから、飲んだ所で効果はたかが知れてるが気休めにはなんだろ)」
『ニコさん、お待たせしました!』
「……おう、じゃあ行くか」
「よ、よろしくお願いします」
親子を連れて、スイとニコラスは歩いて闘技場に向かう。先頭を歩くスイは、周囲の気配を探りながら最短距離且つ、なるべく荒れていない道を選んで進んでいる。
「(……正直有難ぇが、十も離れた子どもにここまで気を使わせちまうとは情けねぇな……っ?)」
自身を不甲斐なく思っていた所、突然スイが緊迫した顔で振り返った。何事かと思うや否や、ニコラスはその理由を理解する。
『ニコさん! 後ろから何か来ます!』
「くそが……! 走るぞ!」
「は、はいっ!」
一歩進む度に走る激痛に、ニコラスは歯を食いしばる。
戦闘は避けたいが、子どもを抱えた母親の足は速くない。親子を置き去りにする訳にはいかず速度を合わせた結果、モンスターに追いつかれてしまった。
「やべっ……!」
ニコラスが振り向いた時には、筋肉質な腕が振り抜かれようとしていた。
遅れて槍を構えようとしたニコラスだが、その前にスイが間に入って鞘に入れたままのショートソードで攻撃を受け止めた。
『重っ……!』
耐えきれずに身体が浮き、飛ばされたが空中で体勢を整えて着地する。
スイはショートソードを腰に戻すと、親子を背中に庇いながらモンスターを見上げた。
『オニ! ……じゃ、ない……?』
鬼に似ているが、鬼よりも体格が大きく角も太い。もしや特殊個体か、それとも鬼ではなく上位のデーモンかと考え、背中を寒気が走ったがニコラスがそれを否定した。
「違ぇ、オーガだ! ここで出てくるかよ……!?」
オーガは鬼と似た特徴を持つが、鬼よりランクは低く、力や敏捷性も劣る。
しかし、あくまで鬼と比較すればの話であって、とんでもない怪力を持つモンスターであり危険度がB+ランクであると言う事を忘れてはならない。
『ニコさん! 私が戦うのでその人達と闘技場に向かってください!』
ショートソードを抜き、風の魔力を乗せたスイがオーガと対峙する。
「バッ……」
非難しようとして、ニコラスは口を閉じた。
一般人の女性と幼児、重傷のニコラス、軽傷のスイ。この中で唯一戦えるのがスイだ。実力的にも、一対一であればスイならオーガを倒せるだろう。
しかし、ニコラスは不意打ちで地魔法を放ってオーガをふっ飛ばした。
「ガァァァァッ!?」
『ニコさんっ!? 早く闘技場に……!』
「スイがその親子を連れて行け。で、闘技場でお前も怪我を治してもらって、援護の奴等を連れて先にアレックス達と合流しろ」
『え?』
吹き飛ばした先でオーガが起き上がり、向かってくるのが見えた。ニコラスはスイの肩を掴んで前に出ると、槍を構える。
『無茶です、ニコさん!』
スイの言う通り、ニコラスの脇腹からは出血が続いており、脚も震えている。ニコラスも、痛みと失血で意識を保つのが精一杯だと自覚している。
それでも、ニコラスは引かない。
「お前がこいつを止めても、闘技場に行く途中に別のモンスター達が来たら、情けねーけど俺じゃその親子を守りながら戦えねーんだよ」
『だったら尚更、オーガとも戦えないじゃないですか!?』
「解ってるよ。だから、スイ。悪ぃけど、治癒魔法掛けてくれ」
『!? 出来ません!』
ニコラスは地属性の他に僅かに火属性も持っている。属性の力は弱くても、相反属性のスイの水属性の治癒魔法と反応すれば悪影響が出る可能性がある。
『そんな事したら最悪の場合、ニコさんが……!』
「このまま戦ったら死ぬのは目に見えてんだ。なら、少しでも生き残る可能性が高い方に賭けてーんだよ。賭けに勝てば不快感程度で済むからな」
『それなら、治癒魔法を掛けますからニコさんがあの人達と一緒に先に闘技場に行ってください!』
「駄目だ」
『何でですか!!』
「うるせーな! さっさと俺に治癒魔法掛けて先に行けっつってんだろ!! 此処でお前と言い争ってる暇なんか無ぇんだよ!!」
『……っ』
スイの顔が苦悶に歪む。
ニコラスの言う通り、此処をニコラスに任せてスイが親子と共に闘技場へ向かえば親子は助かる可能性が高い。だが、ニコラスはどうなるのか。
全員留まり、スイが前に出てニコラスに援護を頼む手もあるが、戦闘中に他のモンスターが攻めてきた場合、最悪全滅する。
『(どうすれば良い……? 何が、どうする事が正しいんだ……!?)』
確かなのは、どちらを選んでもニコラスの命が危ういという事。治癒魔法をかけようがかけまいが、それは変わらない。
『(…………わ、わからない。選べない…………!!)』
ふと、スイの脳裏にベッドに伏せるマリクが思い浮かぶ。頭の中でマリクが話し始めようとした時、スイは首を振って拒んだ。
『(駄目です、おじいさま……! 今、貴方の言葉を思い出したら、きっと私は動けなくなる……!)』
「スイ」
『ニコさん、他の方法を……』
「そんな時間無ぇっつってんだろ。他の方法もな。スイ、ハンターなら私情を挟まず責務を果たせ。一般人を不安にさせるな」
ハッとしてスイが親子を見れば、涙目で縋るように見つめてくる母親と眼があった。
『…………っ』
選べない、ではない。
選ばなければならないのだ。
そして、ハンターとしての最適解は。
『…………』
スイは唇を噛むと、ニコラスに手を向けた。
『……あの人達を闘技場まで連れて行ったら、必ず戻ってきます。それまで、どうか耐えてください』
「いや、来ねーでアレックス達の所に――」
『必ず戻ってきます!!』
「……そーかい。私情挟むなって言ったばっかだろうが、この頑固者」
『……治癒魔法、かけます』
スイの水属性の魔力が、ニコラスを包む。一瞬身体を強ばらせたが、傷から流れていた血は止まった。だが傷は塞がりきらず、抉られた形のまま皮膚が生えただけとなった。
『……ごめんなさい、これが限界みたいです。大丈夫ですか? どこかおかしかったり、気持ちが悪いとかありませんか?』
「……賭けに勝ったみてーだ。ありがとな。痛みがだいぶマシになったから、これならどうにか出来そうだ」
振り返らずにそう言ったニコラスの背中に、スイは手を添えてもう一度伝える。
『……必ず、すぐに戻りますから、無茶はしないでくださいね』
「解ってるっての。早く行け」
スイは数歩後退ると、不安気な顔の親子を連れて走って闘技場に向かった。去っていく足音に、ニコラスはほんの少し気を緩める。
「……オェエッ……!」
吐瀉物が地面に落ちる。荒い呼吸で全部吐き出すと、槍を杖代わりにして懸命に息を整えた。
「(キッツ……属性の反発舐めてたわ……)」
ただでさえ失血量が多いのに、更に属性不和によって襲ってきた強烈な不快感と目眩と吐き気、そして然程変わらない痛みに立っている事すら辛くなる。
「(正直、俺も逃げてーなコレ)」
口元を手の甲で拭って、ニコラスは走ってくるオーガを真っ向から睨みつけた。
「(でも、やっぱ俺がこっちで間違ってなかったよな)」
焦りからかスイは思いつかなかったが、相反属性の治癒魔法を受けた事で今の様な状態に陥っている時に、もしモンスターに襲われたらやはりニコラスも親子も無事では済まない。
治癒魔法をかけてもかけなくても、ニコラスに親子を任せるのは悪手だった。確実に親子を闘技場に避難させるなら、ニコラスよりもスイの方が適任なのだ。
それに、堕龍を倒すのはニコラスでは力不足だ。スイをアレックスの所に向かわせる為にも、オーガの相手をさせる訳にはいかなかった。
「(二人がいれば、そこにあの爺さんとコハクも入れば、きっと何とかなる。俺の直感がそう言ってんだから間違いねぇ)」
少しだけ楽になった気分で、ニコラスは槍を回して構え直す。
「(こいつは意地でもここで倒す。俺は、親父とは違う)」
勢いを緩めずに向かってくるオーガに、ニコラスは覚悟を決めて槍を突き出した。
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