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第一章 外界編

第十話 中間考査(ペーパー試験)

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「……すんませんでした……」
「…頼みますから、日本1の進学校に通っている、という自覚を持ってください」
またもや担任に説教される俺氏。今度は黙って早退したからだ。
「……この調子だと進級できませんよ?」
「……すみません、一大事だったので」
「言い訳無用!」
「はい…」
やはり少々というか割と怒っている先生。しかし水谷と神楽が咎められないのはなぜだ?まあどうせ水谷が神楽を擁護して「麗子は体調不良で~」とか言ってるんだろうな。クソが。
言い訳できない俺は黙って怒られなければいけない宿命なのだ
そしてこれで俺は不良のレッテルを貼られる……先生からの視線がきつくなる…
俺は心の中でうなだれた。
「不登校になろうかな……」
「?今なんて―――」
「気のせいです」
本音がぽろりとこぼれ落ちる。俺はそのあとそそくさと職員室を出た
……いまのを聞かれてたら俺死んでたな。しかしまあ聞かれてなかったからセーフだ…






「はあ?なんじゃそりゃ」
「……HRで言ったじゃない」
「すまん聞いてなかった」
「…あんたねえ」
「…話くらいは聞いとけ」
呆れた様子の神楽と水谷。いや、聞いてないもんは仕方ねえだろ
「校外研修よ」
「あ~」
「一泊二日。行き先は……山梨だな」
「山梨ィ?」
どこに行くかと気になったが、山梨か。校外研修で山梨に行くとはこれいかに
「つーか泊まりなんだな」
そこも意外だった。こんなに授業が始まってから早く行くなら日帰りだと思ってたからな
「…話聞いておきなさいよ……」
「めんどくさい」
当たり前のように答える
いやHRの話なんか聞かなくていいだろ、と思ってたのだが。
…これからは聞いとくか
「…話聞かないで何を考えていたんだ」
神楽がそう聞いてきた
「…未来のこと、かな」
俺はドヤ顔をしてそう答える
「ウソつけ何も考えてなかっただろ」
「おお、よくわかったな」
神楽の正確なツッコミに感嘆する
実のところただぼーっとしてた。いやはや、それを見抜くとは
「顔に書いてあったぞ」
神楽の言葉に俺は苦笑する
「…どんな顔してたんだよ……」
「アホそうな顔」
「ふざけんな」
真顔でキレる俺。
「疾雷…怖いわよ?」
水谷の極めて冷静な声。いや怖くないだろお前
「で、いつ行くの?」
俺はめんどうになったため話を捻じ曲げた。
「急に話変わるわね……中間考査開けの5月中旬―――そうね、20日よ」
「ほ~、割と先じゃん」
「いや、一学期の中間なんかあっという間だぞ」
少し悲しそうな顔をする神楽。
「そういう話じゃなくてだな……」
今は4月中旬。まあそう考えると、あっという間…なのか?
「ちなみに、次の授業のコマはクラスの係決めよ。」
急に水谷が話を変えた
「係ィ?」
顔をしかめる。なんだ、係ってガキみたいなのを決めるのか。めんどくさい
「働くのだるいし副級長でいいか…」
そんな俺の本音が漏れてしまう。
「えー。文化祭実行委員会でもやりましょうよ、楽しいわよ?」
「だるい」
水谷の勧誘を一言で拒否する。
「なんでよぉ」
頬をふくらませる水谷。
「私も文実やるぞ」
神楽がそう言った。何だお前ら俺を仲間はずれにする気か
「いやだいやだいやだいやだいやだ」
だがしかし仲間はずれにされようとも俺はそうやってごねた。めんどくさいからな、仕方ない。
「…子供かよ」
またまた呆れた様子の神楽様。俺ははあ、とため息をつく。
「…まあ別にやってもいいが―――」
「ほんと?!やった~!」
渋々の俺の了承に跳ねながら喜ぶ水谷。俺と神楽は顔を見合わせ苦笑した。喜び方が子供みたいだな、こいつ。…こんなんじゃもう断るに断れねえだろ。…ズルいな、こいつ。
というか思ったんだが他の友だちは居ないんか?こいつ。顔もいいし性格もいいだろうし頭も良さそうだし、少しはいるだろ。そいつと文実をやればいいのに―――
いや、忘れていたがそういやこいつの家系は『水谷家』。相当実力のある由緒正しい家系だ。
多分こいつは意外にもみんなの高嶺の花なんだろう。あまり関わりに行けないような、高みの存在だからみんなこいつに話しかけない。だから友達が居ないんだろうな。まあでも告白はい~っぱいされてるらしいけどな。
そんなことを思っているとチャイムが鳴ったので、みんなが急いで着席する。
俺は派手にやるだろう文化祭の事を考えながら席に戻った。
で、ロングホームルームの結果、無事三人とも文実になりましたとさ。
ちゃんちゃん!



そして時は経ち二週間後。今度のロングホームルームでは校外研修の部屋班を決めることとなった。
行動班は4人で、番号順らしい。ちなみに俺はあいつら水谷と神楽意外に友達がいないため実質的なボッチである。
神楽は俺の一つ前の出席番号だが―――いかんせん別れてしまったのでな。俺は13で神楽が12だ。
部屋班もどうせボッチだろうし、別にどうでも良かったが、何人構成かだけは聞くことにした。
「え~、部屋班は3人のところと4人のところがあります。もちろん誰と泊まるか、とかは自由に選択してください。」
担任がそういった。ふ~ん、と頬杖を付きながら聞き流す。まあもう学校始まって二週間経ってるし、もうみんな仲いいから本人たちに決めさせるってか。
しかしそこまでは納得できたのだが―――次に放たれた言葉はまったくもって理解できなかった。
「え~。そして部屋は男女一緒でも構いません」
「は???」
素っ頓狂な声を出す俺。ざわつく教室。俺は心のなかでは?え?と非常に困惑していた。
そして嫌な予感がして水谷のほうを見ると笑顔でこちらを凝視していた。それも満面の笑みで。俺は顔を引きつらせた。マジで友達居ないのかよ。さらに一つ前の席の神楽からも強烈な視線を感じる。
「…神楽。」
俺はできるだけ落ち着いて前を向いて神楽に話しかける。
「なんだぁ?」
こちらも気持ち悪いほどの満面の笑みを浮かべて対応してくる神楽。
「……俺は当日休m」
言い終わる前に神楽が
「ルシファー。」
とボソッと呟いた。俺はガチで慌てて静止する。
「待て、待て!わかったから、落ち着け!頼む!」
「…だって当日来ないって」
「行くから!とりあえずお前の後ろにいるやつを引っ込めろ!」
だんだん騒がしくなるクラスの喧騒に負けないくらいの大声で叫ぶ俺。
「…わかったよ。消えなさいルシファー。」
渋々と言った様子で(満面の笑みをキープしながら)ルシファーの前に手のひらを広げて姿を消すよう指示する神楽。
『ちなみに今のルシファーは光で作られた幻想よ』
近くからホルスのそんな言葉が聞こえてくる。俺は額に流れる冷や汗を袖で拭いた後数秒硬直し、その後背もたれにうなだれ言葉を放つ
「……俺の焦りは何だったんだよ、神様…ッ」
『私に聞かないで頂戴』
『…あはは』
そんな無慈悲なホルスの声と苦笑いするルシファーの声を皮切りに俺は目の光を失った



「別にいいけどよお。お前は俺と一緒の部屋でいいのか?」
「嫌なら言わないわよ、冗談でも」
「襲うぞ」
「いいわよ」
「頭おかしいんじゃねえの?」
俺はジト目で隣に座ってるポニーテールのJKを見つめる。
「バスの中は静かに、よ?」
「…」
俺は唇に人差し指を置いてウィンクしてくる水谷をシワを寄せながら睨んだ。今わかった。このアマはウザい。
今は帰りの電車である。神楽だけはご丁寧に俺らとは逆方向らしいが。なんか寂しそうに帰ってったよ…あばよ……
俺がずっと睨み、水谷がこちらに微笑みかけているというなんともカオスな状態が五分程度続き、最寄り駅であるS駅についた。俺ははあとため息をついて席を立ち、電車を降りた。
「いやあ、でも行動班はみんなバラバラになっちゃったねえ~」
「行動班まで同じだと息苦しいわ。少しくらい一人にさせてくれ。」
「…ほんとは寂しいんでしょ」
「…うるさい」
俺はそっぽを向く。ニヤニヤしながらこちらを見る水谷。
「…悪かったな、友達が居なくて。」
俺は今まで二年くらい友達が居なかった。アイツが死んでからな。校外研修もつまらなかったが――
友達ができたというなら別だ。
そら友達が居るなら行動班も部屋班も同じになりたいだろ。俺は二年ボッチだったためなおさらである。
まあ部屋班については無事俺、神楽、水谷の3人となった。行動班は先程の通り番号順であるため、13~16番が俺の班である。班長もついでに決めたが、俺じゃない上に知らないやつだったのでどうでもいい
行動は自由行動らしいので俺が一人で自由に行動したいものである。まあ班行動必須だろうので一人で勝手な行動をするのは許されないだろうのだが。
しかも同じ行動班にギャルっぽいやつが居るので俺らはそいつに振り回されるのだろう。男はつらいよ。
「つーかお前も行動班には友達居ないだろ」
俺の鋭い返しに水谷は顔をそらす
「…私はガードが硬いのよ」
「ボッチなんですね」
「違うもん!」
バッとこちらに振り返り顔を紅潮させて叫ぶ水谷。否定しても無駄なのだが、頑張って否定しようとしてるのが少し可愛く見える。子供みたいで。
「まあ…うん。お前話しかけずらいもんな」
「…いいもん……私には麗子が居るもん…」
「おい俺を抜くな」
「私のこといじめてくる人なんて友達じゃないもん!」
「……」
いじける水谷。少々泣きかける俺。いや傷ついたよ。まあ俺が悪いけど。
「……ああ、うん。悪かったよ」
「え…どうしたの急に」
急に小さめな声で謝る俺に困惑する水谷。
「いや、別に」
「…なんかごめん」
「なぜお前が謝る…」
一気に空気が悪くなる。
無言のまま歩き続け、俺たちは無言のまま家の前で別れた。
…友達が友達じゃなくなる。それは二番目に怖いことだ
一番怖いことは
友達が、なのだが。
俺は夕焼けを見ながら家に入った。
「…ただいま」
「おかえり~」
中からは炎の声。なぜアイツは常にリビングに居るのか。アイツの部屋はあるのに
俺は洗面所に直行し手を洗い、自分の部屋へそそくさと向かった。
部屋に入ると、ホルスが姿を現した。
「……怖いのよね」
ホルスは優しくそう問いかけてきた。
俺はおもむろにスマホを取り出し、LINEを開く。
「…ああ。こええよ」
ホルスに対してそう答えながら俺は前に繋いだ水谷に『さっきはすまなかった』とメッセージを送る。
「まあ気にしすぎても意味はないだろうがな」
俺はスマホをベッドに投げたあと着替えてPCを立ち上げ、いつものように麻雀を始める
「…そういや、もう中間考査2週間前ね」
ベッドで寝転びながら俺のスマホを勝手につつくホルスの声に俺はあ~と声に出す。
…麻雀やってる暇も無さそうだな。
中間考査には実技試験とペーパー試験があり、ペーパー試験は5日で15教科を行う。
英語2教科、数学2教科、社会2教科、理科2教科、国語2教科、美術、家庭、音楽、保険、技術である
ここまで教科が多い上に並木高校は進学校であるためいちいち内容が重い。もう勉強を始めなければ。
俺は今までの雑念を吹き飛ばし、PCの電源を切って勉強道具を机に並べ始めたのだった






結局あの後俺と水谷の関係は自然回復した。LINEでは『ううん、こちらこそごめん』と来ていたがその翌日普通に対面して謝罪して終わり、いつもの通りの関係に戻った。
そしてそのまま二週間が経過し、中間考査初日となっていた
「あんた勉強した?」
水谷が俺の席で教科書と向き合いながら聞いてくる。
「少しくらいは、な」
ホントに少ししか勉強してないのだが。まあ今教科書見て勉強したって点数は伸びない。
ほとんど前日に頭に詰め込んだ俺は大きく欠伸をした。
「…余裕あるな、疾雷」
教科書から一旦目を離してジト目で俺を一瞬見つめてすぐさま教科書に視線を戻す。
「余裕もクソも、別に点数伸ばしたいわけじゃないからな」
本心を言った後に腕時計に視線を落とす。今現在8:00。テスト開始は9:00だ。他に生徒はクラスに居ない。俺らしか居ない
こんな早く来る俺たちがおかしいのだろうが。
「…なんか腹立つわね」
ジト目でこちらを見る水谷。俺はははは、と乾いた笑いをする。
「いいだろ。お前らは成績優秀者かはしらんが俺はいつも平均点なんでね。中学生で上位30位を取ったことがない」
「…ん?」
俺の言葉に頭の上に?を浮かべる水谷。
「…え、一学年何人だったの?」
「300人だが?」
「…最高順位は?」
「40位だが?」
「…普通に成績優秀じゃないか…」
少々引く神楽。俺は疑問をうかべた。
「いや、俺の中学校レベル低かったし、そんなもんだろ」
「…そんな低レベルなら、この高校に来れてないわよ。」
冷静に言ってくる水谷。
「いや、受験のときだけ本気出した。ここにこれた俺の中学校のやつはせいぜい1~15人だろう。ここは一学年200人程度だが―――まあお前らは俺らとは違う学校だし、もっと頭の良かったとこだろ。ここに40人くらい居るだろう。俺らの学校は低レベルだから、別にこれくらいなら普通だろ。」
俺は言葉を言い終わった後大きく欠伸をした。
「…そ、そう?」
困惑する水谷。
「うるせえお前はどうせ成績いいだろ」
俺は少しジト目で見ながら水谷に言い放った。
「…まあこいつ、確かに中学校は一桁取ってたからなあ」
顎に人差し指を置いて思い出したように言う神楽。
「…知ってた。」
はぁ、とため息をつく
「…麗子もいうて10位代も取ってたじゃない。」
「…なんでお前らそんな成績いいんだよ……」
俺は少しうなだれる。ちょいと自分の頭の悪さに辟易する。
…真面目に勉強しようかな。うん。
まあ真面目に勉強するのもだるいのだが。だから成績上がらないんだよなあ
だが今回は英数だけは真面目に勉強したため多分50位には入れるだろう。
多分知識系は昨日詰め込んだのでほぼ満点だろう。まあ取らぬ狸の皮算用とも言うし、知識系は最後のチェックをしておこう。今日の教科は…理科1、英語A、美術らしい。
ほ~ん。今回の理科1は化学であるためほぼ満点確定である
化学には絶対的に得意なのでな。中学校のテストはほぼ100点だ。
じゃあ美術の確認でもしようと思い、俺はなりにもあわない真面目な顔で美術の教科書を開いてにらめっこを始めた―――







「終わったな」
「終わったね~」
「終わったな」
中間考査最終日。俺らは最終日の教科である保険、英語B、古典を終わらせて屋上で一息ついていた。
「まあ手応えはあったな~」
腕を頭の後ろで組んで俺はそう息を吐く。
「私もそこそこできたわね」
「私もだな」
「……お前らはやっぱ掲示されるよなあ…」
姉貴から聞いたのだがこの学校はペーパーテストの上位30人は廊下に名前が掲載されるらしい。どうせこの二人の女はそこに名前が載るのが確定だろう。
1教科が終わるごとに割と答え合わせを俺らの中でしてみたが、神楽と水谷の答えがほぼ同じなのに対して俺だけ違うというのが散見された。まあつまり俺はこいつら以下確定なのだが…
そのためこいつらの名前が載ってても、俺の名前は載らないだろう。
…別に興味は無いのだがな。
ただこいつらに負けるのは癪だな。『アイツ』は全然俺より順位が低かったし……
勉強面で負けてるなら、次の実技のテストでこいつらに勝てばいいんだな、と内心思う。
実技のテストは、単純に直接対決だ。審査官と戦い、そしてその時の様子を審査する。
そしてスキルの強さ、使いこなしている度合いを測るらしい。
そしてスキルの評価に関して、最高評価を受けた者の中で最も優秀と判断された二人が戦うのだ。
そうつまり―――ここで俺と水谷が直接対決をすればよいのだ。
「…まあ、総合評価は来週の実技で決まるわけなんだけど…」
水谷がそうポツリとこぼす。俺は少し口角を上げた
「そうだな。俺とお前が戦って俺が勝てばワンちゃん総合評価で勝てるからな」
だがしかしその言葉に疑問を呈すものが居た。
『…あんた、もし実技で一位でも取って家族にバレたらどうすんの?』
「あ」
俺は口角を思いっきり下げた。
「ん?どうしたの?」
水谷が怪訝そうに聞いてくる。神楽も頭の上で?を浮かべる。
「…母親に実技で一位取ったなんてバレたら溜まったもんじゃないかもしれねえ…」
頭を抱える。
「え?なんで?」
「…俺の母親は俺の波動を知らないんだよ…ッ」
「え、そうなの?」
ビックリする水谷。
あいやでも、と俺は顔を上げる。
「あの母親は俺のスキルの強さを全力で誇張しているからなあ…俺が神無月の本家の息子だから、強く見せたいらしいからな。別に実技で一位取っても変な目で見られるだけだし大丈夫だろう」
「…なんなんだ、お前」
神楽が呆れた声を出した。
『…いいの?』
ホルスがそう聞いてくる。
「どうせあの母親は俺のこときらいだし成績も興味ないだろうしな」
俺は遠くを見つめる。少し雲がかった晴れの空を見てたそがれる。
「…え、お母さんから嫌われてるの?」
困惑を重ねる神楽と水谷
「まあな。お前らがキにする必要もない。安心しろ」
「…え、でも」
「いいから」
俺は低い声でそういった。
「わ、わかったわよ…」
困惑を浮かべ続けながら無理やり肯定する水谷。
「…複雑だな。お前の家」
神楽が哀れそうにそういった。
「…そうかもしれんな」
俺はその神楽の言葉に太陽に雲が重なる瞬間を見ながらそう答えた
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