【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

68話 茨の魔女の手がかり

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 学校が終わり、体操服に着替え、ブラッド殿下と剣の稽古をする。

 文化祭の後の2週間、殿下に稽古をつけてもらっていた。最初こそ、一瞬で勝負はついたが、だんだん動きが見切れるようになり、回避や打ち込みができるようになった。ジョージ護身術も平行して通って、鬼のようにしごかれた成果でもあるのだろう。ああ……思い出したら寒気がしてまいりました。ちなみにジョージ護身術は無事に卒業した。


「すごいね! もう僕の動きに対応してきている」
「……まだまだ、です……。殿下から一本もとっておりませんから」
 背中が汗でくっついている。一方殿下は一切汗をかいていない。


 【茨の魔女】を探さねばならないが、剣術を高めておかないと右目の予知? で見た男に刺されるだろう。結局だれがジョージ護身術に通うように書いたのかもわかっていないのだから。


「殿下、もし、勝てない相手だとわかった場合、どのような初手が効果的でしょうか?」
 ジョージにはすでに教わっているが、殿下の意見も聞いておきたい。

「もしかして、茨の魔女と戦おうとしている? 絶対に戦ってはだめだ」
 殿下はわたくしの肩をつかんだ。
 強い力だった。
 わたくしは琥珀色の瞳から逃げずに向き合う。


「逃げるんだよ。絶対だ。僕が必ず守って見せる」
「……承知しました」
 わたくしはあまりの真剣さに、すこし顔をそむけてしまった。

 そらした視線のさきに、もじゃもじゃ髭で白衣のオリバー先生がやってくるのが見えた。
「フェイトお嬢様! お久しぶりでございます。お取り込み中のところすみません。すこしお話ししてもよろしいでしょうか」
「先生! ご無沙汰しております。すみません殿下、すこし席を外します」


 先生は声を落とした。
「貧民街で魔女の手がかりが見つかったかもしれません」
「ありがとうございます。さっそく案内していただけますか」

 ブラッド殿下にお詫びを言った。
「今度のデート、楽しみにしているからね」
「こちらこそ、お手柔らかにお願いいたします」
 わたくしは手を振って、去った。
 


◇◇◇◇◇


 ジェイコブ、マデリンを連れて、貧民街へと向かう。

 馬車を降りる。
 まだ明るく、5月のさわやかな陽気だ。生活の雑多なにおいがする。

 町のみんなが手を振ってくれた。
「我らが恩人のアシュフォード様! よかったらウチでご飯でも!」
「ばっか!! おめぇみたいな汚え家で食事なんてできるかよっ。ウチにきてもらうんだ」
「是非、今度寄らせてください。今日は急いでおりまして、失礼しますね」


 ジェイコブが大型車椅子を軽々と押していく。
「さすが騎士様じゃ。力が強い。妾に羽が生えたようぞ。よいよい」
「ただの傭兵ですけどね。喜んで頂いて、なによりです」
 
 
 貧民街の外れの、薄暗い森の手前まできた。薄気味悪く、こんなことがなければ入りたいとは思わない場所だ。

「あ、お姉ちゃん。僕に会いにきたの? かわいいところがあるね」
 ジョージ・ジュニアが気取って手を振る。
「ジュニア、貴方が見つけたのですか?」
「そうだよ。お姉ちゃんがなにか怪しいものを見たら教えてくれって言っていたでしょう。だからさ、いつもいかないようなところまで遊びがてら、見てまわっていたんだ」
 わたくしはジュニアの背の高さまでかがむと、あたまをなでた。

「ありがとう。でも、危険なことはしないで。怖そうな女の人がいたら絶対に逃げるのですよ」
「あったりまえだよ。命をとられたら、お姉ちゃんを守ることができないだろう。だから、お姉ちゃんも、ちゃんと逃げてね。僕の為に」
 ジュニアはキザな様子で笑った。
「はい。わかりました」


 先生とジュニアに先導され、森の奥へ入っていく。

 足下は木の葉が敷きつめられ、湿っている。嫌な匂いがどんどん強くなってきた。巨大車椅子では樹木が邪魔で進めない。マデリンはジェイコブに抱えられた。

 5分ぐらい歩いたところに、あった。


 ぶぶぶ、という虫の音がする。強烈な匂いが鼻を刺激した。


 2匹の犬がコの字型に倒れていた。血の跡はない。杭が打たれ、そこから鎖が首に巻かれていた。その近くに大きな草のようなもの――薬草が落ちている。


「でかしたぞ。少年。妾にはわかる。これは魔女の仕業じゃ。騎士殿。すまぬが、近うよってくれんか。見たままの情報を教えてくれ」


 状況を聞いたマデリンが指をパチンと鳴らした。
「たしか、魔女クラスの魔法耐性がないと、魔法の痕跡が残らないという話でしたよね?」
「その通りです。恐ろしい相手だ」
 オリバー先生が言った。

「強力な魔力が2、打ち込まれておる。いや、飲ませたな。外傷がない。いろいろ汎用性がある魔法のようで、やっかいじゃ。なぜ、魔法耐性がない犬からわかるかというと、2回魔法が使われたからだ。1回目に許容できない量の魔力が流れ込んできて、抗体ができ、2回目の行使によって痕跡が残った」

 巨大なジェイコブに抱えられたマデリンは、小等部の可憐な少女にしか見えない。


「なぜ、2回魔法をつかったのでしょうか。2回使用しないと発動しない魔法とか」
「それは、ない。魔法は重複して使うと抗体ができる可能性がある。2度発動しないといけない魔法は弱い魔法であることが多い。魔女の魔力なら、二度使う必要などない。即死だ。考えられるのは、魔法の重複使用を試したか、なんらかの実験をおこなったか」
「いやぁ。お詳しいですな。見たところ、まだお若いでしょうに。どこかの大学の教授に師事されていらっしゃるのでしょうか」
 オリバー先生が目を輝かせて、マデリンを見つめた。


「ふっ。大学の教授など、食い扶持の為に魔法や魔女についてにすぎぬ。妾を見よ! 目も見えず、歩くこともできぬ。魔力と魔女の研究の世界一の権威にならねば、先はない。妾こそが至高ぞ!」
 俗にいう、ドヤ顔をして、マデリンはあごに指をあてた。
「マデリン、一生お供致します!」
 語勢に感化され、わたくしはマデリンの手をにぎった。

「ははっ。妾についてくるがよい! これで、近くに茨の魔女がいるのは確定したな。犬が逃げぬようにしておったところを見ても、ある程度近くにいかねば魔法を発動できぬと見た。さらに落ちているのは薬草、犬歯にも付着しておった。さて、いったいなにをしておったのやら」

「マデリンはどのような条件であれば、茨の魔女本人だと特定できますか?」
「あやしい奴を引っ捕らえて、拷問するのも一興。しかし簡単には捕まえられんだろう。目の前で魔法を使ってもらうか、怒らせたりして、魔力の揺らぎが見えれば、一発でわかる」
 おおっ、とオリバー先生が感嘆の声をあげる。
「つまり魔力の痕跡のようなものがないとだめと言うことですね。たとえば、わたくしやイタムを魔法により探知することも可能なのでしょうか」
「もちろんフェイトはわかるぞ。しかし、イタムは分からぬだろうな。なぜなら、魔法の痕跡が一切ないからだ」
 わたくしはうなずいた。

「ひとまず、この薬草が大きな手がかりになりますね」
「そうじゃな……。しかし、いままでは妾の魔力探知からもしっかりと隠れていたが、いったいどうして……。このような痕跡を残したのかの……解せん、な……まさか!!!!」

 今日いちばん活躍したマデリンが、驚愕の顔をして、黙り込んだ。


 マデリンを抱いているジェイコブは皆の顔色をうかがった。



 わたくし達はドキドキしながら、マデリンの回答を待った。

 何度か、深呼吸をしたあと、彼女の口がひらいた。



 ――いったい、なにを言うのだろう。



 なめらかな、規則正しい、呼吸音が聞こえてきた。


「寝てます!!!!!!!!!!」
「いま? このタイミングで!!! 大物すぎじゃろうて!」
 マデリンはまた1人、オリバー先生を虜にした。
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