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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと
85話 殿下の秘密
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扉を開けると、だだっ広い部屋に出た。中央に簡易的な長机と椅子があり、奥に本棚、簡易的なベッドがぽつんと置かれていた。
「いらっしゃい。フェイト。やっと、僕たちはきちんとお互いに話をすることができるようになったね」
ブラッド殿下は疲れて見えた。しかし、そのなかでもふと、楽しいことを見つけたような、そんな表情をしていた。
イタムが舌を何度かだし、しっぽを振って威嚇した。
「ここまで来て疲れたでしょう? なにか飲む?」
ブラッド殿下は、遊びにきた子どもにでも向けるような気安さで、長机に乗った銀のコップに手のひらを向けた。
わたくしが注意深く歩いていくと、ブラッド殿下はわたくしの破れたドレスを見た。
「まさか、僕の兵士にやられたのかい? ケガはないか? す、すまない。本当に。どうしてこうなるんだ!! くそっ」
殿下が机を強く叩いた。驚いてわたくしの肩がびくっと動く。殿下の余裕のある表情は崩れ、うろたえている。
「ごめんね。驚かせてしまって。ささ、どうぞ。座って」
椅子を引いて、座るようにうながされる。
迷ったが、座ることにした。
目の前には、銀のコップに入った緑色の薄気味悪い液体が見えた。
目を背ける。
ブラッド殿下は後ろに手を組んでゆっくりとまわりを歩いた。
「フェイト、僕たちには時間がない。さっそくふたりでどこにいくか決めなくてはね。僕は寒いところだけは嫌だ。暖かいところなら、どこでもいいな。東の煌明の魔女がいるガルバニア国はどうだろう。雨が多いらしいけど、国は安定しているし、移民にも寛大だと聞いた。人口はどんどん増えているらしい。そこで一緒に暮らそう。きっと楽しいよ」
夢を見るように語るブラッド殿下を見た。
事実、殿下は夢を見ているのだろう。どこまでも楽しそうで、そこには現実的なことはなにひとつとして含まれていないように感じた。
「わたくしが、一緒に行くとお思いですか」
目の光をうしなった殿下は、うなだれて、無理矢理に笑った。
「そうだね。僕は間違えすぎたし、選ばれなかった。いまさら体裁を繕っても意味はないね」
ブラウンダイヤモンドの瞳をふせ、眉を下げた。
「一緒に来い! フェイト。君の命は僕がにぎっている! これで、どうかな?」
わたくしに顔を寄せ、歯を見せた。しかし、そこに邪悪さは感じられなかった。
肩に乗ったイタムが牙を剥き、瞳孔をひらいた。
「どうして無理やり、悪役のように振る舞うのですか。それではまるで、悪役令息です」
「そうだね。では、どうすれば、君は一緒に来てくれる? フェイトを助けたいのは本当なんだ」
わたくしは聞きたくて、聞きたくて、ずっと我慢していたことを聞いた。
「どうして、わたくしに毒を盛ったのですか」
殿下はその場にくずおれるように膝をついた。
石畳を叩く。何度も、何度も。
その手は血で染まった。
「手違いだったんだ。本当に。毒を飲ませるつもりはなかった。絶対に僕がもとにもどす」
殿下がわたくしの足元にすがる。
わたくしはそのままにした。
「だから、目の前の薬を飲んでほしいんだ」
さきほどの気持ち悪い液体が入っているコップをわたくしの目の前に持ってきた。
「薬? 魔法で解除するのではないのですか」
「ああ。そうだ。この薬で治るかどうか試してみてくれ」
わたくしは激昂しそうになる自分を必死で、必死に、押さえこんだ。
「試す? わたくしは実験台というわけですか? いやです。飲みたくはありません。わたくしがこの2ヶ月近く、死に怯え、だれにも相談できず、どんな気持ちで生きてきたと思いますか!!! 殿下の力で治してください。いますぐに!!!」
立ち上がり、中腰の殿下の肩を強くゆすった。
殿下はしりもちをついて、わたくしにされるがままだ。
「それはできない」
「どうして」
「それが僕と君をつなぎとめる最後のものだからだ」
「……えっ」
ブラッド殿下がいったいどんな顔でいまのセリフを言った?
殿下は眉毛を寄せて、切実な表情をしていた。
それはこの世で誰からもまちがっていると言われたとしても、たったひとり、自分だけは信じている、そんな顔をしていた。
意味がわからなかった。いったいこの人はなにをおっしゃっているのでしょうか。
正体が茨の魔女だとわかった以上に、まるで殿下のことがわからない。
ほんとうにこの人は、わたくしの幼なじみの、優しかったブラッド殿下なの?
「わたくしを、つなぎとめる為に、毒を盛った? だとしたら、アナタは、狂っている!! 狂っていますわ!!!」
後ろの扉が、ひらく音がした。
アラン殿下が飛び込んできた。
「フェイト!!! 怪我はないか!!!」
そして、剣をブラッド殿下に向ける。
ブラッド殿下が、アラン殿下をにらみつける。
「アシュフォード嬢、おまえも毒を盛られていたのだな」
アラン殿下はいまにも泣き出しそうな顔をした。
その顔は、わたくしのお母さまが亡くなった時のよう。
ほんとうに、ほんとうに、ひさしぶりに。わたくしはアラン殿下のまことの顔を見た気がしました。
わたくしも、その言葉に、表情に、泣くのを我慢した。
「ああ、なんてことでしょう。アラン殿下もでしたのね」
「いらっしゃい。フェイト。やっと、僕たちはきちんとお互いに話をすることができるようになったね」
ブラッド殿下は疲れて見えた。しかし、そのなかでもふと、楽しいことを見つけたような、そんな表情をしていた。
イタムが舌を何度かだし、しっぽを振って威嚇した。
「ここまで来て疲れたでしょう? なにか飲む?」
ブラッド殿下は、遊びにきた子どもにでも向けるような気安さで、長机に乗った銀のコップに手のひらを向けた。
わたくしが注意深く歩いていくと、ブラッド殿下はわたくしの破れたドレスを見た。
「まさか、僕の兵士にやられたのかい? ケガはないか? す、すまない。本当に。どうしてこうなるんだ!! くそっ」
殿下が机を強く叩いた。驚いてわたくしの肩がびくっと動く。殿下の余裕のある表情は崩れ、うろたえている。
「ごめんね。驚かせてしまって。ささ、どうぞ。座って」
椅子を引いて、座るようにうながされる。
迷ったが、座ることにした。
目の前には、銀のコップに入った緑色の薄気味悪い液体が見えた。
目を背ける。
ブラッド殿下は後ろに手を組んでゆっくりとまわりを歩いた。
「フェイト、僕たちには時間がない。さっそくふたりでどこにいくか決めなくてはね。僕は寒いところだけは嫌だ。暖かいところなら、どこでもいいな。東の煌明の魔女がいるガルバニア国はどうだろう。雨が多いらしいけど、国は安定しているし、移民にも寛大だと聞いた。人口はどんどん増えているらしい。そこで一緒に暮らそう。きっと楽しいよ」
夢を見るように語るブラッド殿下を見た。
事実、殿下は夢を見ているのだろう。どこまでも楽しそうで、そこには現実的なことはなにひとつとして含まれていないように感じた。
「わたくしが、一緒に行くとお思いですか」
目の光をうしなった殿下は、うなだれて、無理矢理に笑った。
「そうだね。僕は間違えすぎたし、選ばれなかった。いまさら体裁を繕っても意味はないね」
ブラウンダイヤモンドの瞳をふせ、眉を下げた。
「一緒に来い! フェイト。君の命は僕がにぎっている! これで、どうかな?」
わたくしに顔を寄せ、歯を見せた。しかし、そこに邪悪さは感じられなかった。
肩に乗ったイタムが牙を剥き、瞳孔をひらいた。
「どうして無理やり、悪役のように振る舞うのですか。それではまるで、悪役令息です」
「そうだね。では、どうすれば、君は一緒に来てくれる? フェイトを助けたいのは本当なんだ」
わたくしは聞きたくて、聞きたくて、ずっと我慢していたことを聞いた。
「どうして、わたくしに毒を盛ったのですか」
殿下はその場にくずおれるように膝をついた。
石畳を叩く。何度も、何度も。
その手は血で染まった。
「手違いだったんだ。本当に。毒を飲ませるつもりはなかった。絶対に僕がもとにもどす」
殿下がわたくしの足元にすがる。
わたくしはそのままにした。
「だから、目の前の薬を飲んでほしいんだ」
さきほどの気持ち悪い液体が入っているコップをわたくしの目の前に持ってきた。
「薬? 魔法で解除するのではないのですか」
「ああ。そうだ。この薬で治るかどうか試してみてくれ」
わたくしは激昂しそうになる自分を必死で、必死に、押さえこんだ。
「試す? わたくしは実験台というわけですか? いやです。飲みたくはありません。わたくしがこの2ヶ月近く、死に怯え、だれにも相談できず、どんな気持ちで生きてきたと思いますか!!! 殿下の力で治してください。いますぐに!!!」
立ち上がり、中腰の殿下の肩を強くゆすった。
殿下はしりもちをついて、わたくしにされるがままだ。
「それはできない」
「どうして」
「それが僕と君をつなぎとめる最後のものだからだ」
「……えっ」
ブラッド殿下がいったいどんな顔でいまのセリフを言った?
殿下は眉毛を寄せて、切実な表情をしていた。
それはこの世で誰からもまちがっていると言われたとしても、たったひとり、自分だけは信じている、そんな顔をしていた。
意味がわからなかった。いったいこの人はなにをおっしゃっているのでしょうか。
正体が茨の魔女だとわかった以上に、まるで殿下のことがわからない。
ほんとうにこの人は、わたくしの幼なじみの、優しかったブラッド殿下なの?
「わたくしを、つなぎとめる為に、毒を盛った? だとしたら、アナタは、狂っている!! 狂っていますわ!!!」
後ろの扉が、ひらく音がした。
アラン殿下が飛び込んできた。
「フェイト!!! 怪我はないか!!!」
そして、剣をブラッド殿下に向ける。
ブラッド殿下が、アラン殿下をにらみつける。
「アシュフォード嬢、おまえも毒を盛られていたのだな」
アラン殿下はいまにも泣き出しそうな顔をした。
その顔は、わたくしのお母さまが亡くなった時のよう。
ほんとうに、ほんとうに、ひさしぶりに。わたくしはアラン殿下のまことの顔を見た気がしました。
わたくしも、その言葉に、表情に、泣くのを我慢した。
「ああ、なんてことでしょう。アラン殿下もでしたのね」
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