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最終章 最期にわたくしがしたいこと
101話 答えあわせ①
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マデリンはイタムの声に呼応するように召使いを地に伏せさせた。
どんな魔法かわからないが、からだに圧がかかって、地面にめりこんでいた。
見たところ、死に至るほどの威力はなさそうだったので、そのままにしておく。
そして、マデリンは岩に座ったままでいた。まるで人形になったかのようだ。
「せ、成功したのかねぇ」
肩にのったイタムが振りかえる。
「イタム、もうすこし命令をしてみてください!」
「わかった! 右を向け! 私におじぎしろ」
マデリンは自然な動作で首を横にむけて、おじぎをした。
わたくしは首をかしげた。
「いま、左側をむきましたよ?」
「そ……そのへんは結構てきとうなのかもね。まあ、首をむけたのは事実だし、魔法にもひとにも、間違いはあるさぁ。大丈夫そうじゃあないかな」
イタムは満足そうに、首をたてに振った。
「ブラッドに提案してみてよかったね。フェイトとしては、かっこ良くさよならしておいてちょっと恥ずかしかったかもしれないけれど、まさに逆転の一手だった。我が孫ながら、誇らしいよ」
「ええ。今回は1回まぐれで勝ったぐらいでは到底勝てない相手でしたからね。殺すと過去にもどるのなら、どうやって殺さないでマデリンに勝利するかを考えたときに、ブラッド殿下の魔法を使うことを思いつきました。クロエさまの手紙がヒントになりました。ちなみに、ブラッド殿下と共闘できたとしても、殿下が警戒されて、けっきょく魔法を打ち込むところまではできなかったでしょうから、イタムにお願いすることになったわけです」
「いやあ、見事な戦術だったよぉ。まさか、あの状況から、ここまで良い方向に進むとは思わなかった。しかし、ブラッドに貸しをつくることになったし、今後も定期的に操る魔法を注入しなくてはならない。それでよかったのかい?」
「しょうがありません。ほかに手を思いつかなかったので。それにブラッド殿下は、もうわたくしになにかをしようとは思わないと思いますが」
「まあ、蛇の勘だけどね、気をつけたほうがいいよ。フェイトは自分が思っているよりずっと魅力的なんだから、放っておかれないのさ。なぜなら、私の孫だからね!」
イタムが得意げに舌をだした。
「今後、マデリンをどうしましょうか。わたくしとともにマルクールを守ってもらいたいと考えております」
「ひとまずそれでいいんじゃないかなぁ。あとはアルトメイアがマデリンを奪還するためにそれこそ、全面戦争を仕掛けてくるだろうね」
「それまでにマデリンの能力を完全に掌握しておかないと勝てませんね。そうしないとマルクールは全滅の道をたどると。うーん。けっきょくなにかうまくいっても、次にはまた新たな敵があらわれるの繰り返しですね。まいりました」
わたくしはため息をついた。
「それでも、この状況から逆転し、最強の手札を得た。フェイト。私たちは生き残っているほうが不思議なぐらいなんだ。また、私とフェイトで考えて知恵で切り抜けていけばいい。そうだろう?」
白い鱗が太陽に光る。イタムは誇らしい顔をしていた。
わたくしもつられて、笑う。
「そうですね。そろそろ、マデリンの従者を解放して――」
嫌な予感がして、振りかえった。
マデリンが――いない。
召使いもいなかった。
気味が悪いぐらい、波の音がおおきく、なった。
「えっ?」
「どこへ……そういえば、こういう魔法って下世話な話だけど、トイレに行けとかまで命令するのは大変じゃない。だから、トイレとか?」
「イタムはけっこう、楽観的ですよね?」
「そんなぁ、褒めないでよ」
イタムと顔を見合わせた。
「たしかに、これはブラッド殿下からの借り物の魔法。わたくしたちはなにもこの魔法について知りません。用心すべきですね」
「そろそろ笑いをこらえるのが辛くなってきたので、答えあわせをしてもよいかの」
馬車の影から召し使いに抱えられ、マデリンが出てきた。
「イタム、お願いします!」
「マデリン、召使いを無効化し、その場に座れ!」
イタムの声が響いても、なにも起こらない。
「自分が命令したことも忘れたか? 笑わせるでない。最初に妾に魔法を放棄しろと申したな? では、そのあとで召使いに魔法を使うのはおかしかろう? それに、わざわざ首も反対側を傾けてやったのに。笑いをこらえた妾を褒めてほしいぞ」
そういいつつ、盛大に笑うマデリン。
「なぜ、ブラッド殿下の魔法が効かないのですか? それも穢れの魔女の力ですか?」
「違うぞ。エヴァにはわかるだろうが、穢れの魔女とは当初最弱の魔女だったのだ。得意な魔法もなく、使い物にならない魔女といわれた。このままではいかぬと世界中の魔法、呪い、憎悪、ひとが抱える闇や汚いものすべてをその身にとりこみ、最強となった。いわば、努力型の魔女というわけじゃ。その努力を今回も嫌々、使ったというわけよ」
「前回、取り込んでいたのですね。操る魔法を」
わたくしは歯噛みした。
「術者が死んだから操られんとは思っておった。まあ、念のため、取り込んだ瞬間に召使いに妾の首を切らせたがな」
「万年床マデリンには似つかわしい用心深さですね」
「だれが、万年床じゃ!! ったく。当たり前じゃ。そうでなくては、100年以上も魔女などやってはおらぬ。怠惰や惰眠を取り込んでおるから、しかたなく寝ておるだけだ。ほんとうの妾は勤勉ぞ」
わたくしはこみあげてくる強い、強い感情を必死で押さえ込むが、だめだった。
「ぷふー」
わたくしは笑ってしまう。
「マデリンがいけないのですよ。真面目な顔で勤勉! なんて言うから。面白すぎますって! いままでの自分の行動を思いかえしてくださいよ!」
「この後に及んで妾を馬鹿にするとはいい度胸だ。それで? これで終わりか? それとも、まだなにか手立てを残しておるのか」
わたくしはナイフをかまえ、イタムと目を合わせ、うなずいた。
どんな魔法かわからないが、からだに圧がかかって、地面にめりこんでいた。
見たところ、死に至るほどの威力はなさそうだったので、そのままにしておく。
そして、マデリンは岩に座ったままでいた。まるで人形になったかのようだ。
「せ、成功したのかねぇ」
肩にのったイタムが振りかえる。
「イタム、もうすこし命令をしてみてください!」
「わかった! 右を向け! 私におじぎしろ」
マデリンは自然な動作で首を横にむけて、おじぎをした。
わたくしは首をかしげた。
「いま、左側をむきましたよ?」
「そ……そのへんは結構てきとうなのかもね。まあ、首をむけたのは事実だし、魔法にもひとにも、間違いはあるさぁ。大丈夫そうじゃあないかな」
イタムは満足そうに、首をたてに振った。
「ブラッドに提案してみてよかったね。フェイトとしては、かっこ良くさよならしておいてちょっと恥ずかしかったかもしれないけれど、まさに逆転の一手だった。我が孫ながら、誇らしいよ」
「ええ。今回は1回まぐれで勝ったぐらいでは到底勝てない相手でしたからね。殺すと過去にもどるのなら、どうやって殺さないでマデリンに勝利するかを考えたときに、ブラッド殿下の魔法を使うことを思いつきました。クロエさまの手紙がヒントになりました。ちなみに、ブラッド殿下と共闘できたとしても、殿下が警戒されて、けっきょく魔法を打ち込むところまではできなかったでしょうから、イタムにお願いすることになったわけです」
「いやあ、見事な戦術だったよぉ。まさか、あの状況から、ここまで良い方向に進むとは思わなかった。しかし、ブラッドに貸しをつくることになったし、今後も定期的に操る魔法を注入しなくてはならない。それでよかったのかい?」
「しょうがありません。ほかに手を思いつかなかったので。それにブラッド殿下は、もうわたくしになにかをしようとは思わないと思いますが」
「まあ、蛇の勘だけどね、気をつけたほうがいいよ。フェイトは自分が思っているよりずっと魅力的なんだから、放っておかれないのさ。なぜなら、私の孫だからね!」
イタムが得意げに舌をだした。
「今後、マデリンをどうしましょうか。わたくしとともにマルクールを守ってもらいたいと考えております」
「ひとまずそれでいいんじゃないかなぁ。あとはアルトメイアがマデリンを奪還するためにそれこそ、全面戦争を仕掛けてくるだろうね」
「それまでにマデリンの能力を完全に掌握しておかないと勝てませんね。そうしないとマルクールは全滅の道をたどると。うーん。けっきょくなにかうまくいっても、次にはまた新たな敵があらわれるの繰り返しですね。まいりました」
わたくしはため息をついた。
「それでも、この状況から逆転し、最強の手札を得た。フェイト。私たちは生き残っているほうが不思議なぐらいなんだ。また、私とフェイトで考えて知恵で切り抜けていけばいい。そうだろう?」
白い鱗が太陽に光る。イタムは誇らしい顔をしていた。
わたくしもつられて、笑う。
「そうですね。そろそろ、マデリンの従者を解放して――」
嫌な予感がして、振りかえった。
マデリンが――いない。
召使いもいなかった。
気味が悪いぐらい、波の音がおおきく、なった。
「えっ?」
「どこへ……そういえば、こういう魔法って下世話な話だけど、トイレに行けとかまで命令するのは大変じゃない。だから、トイレとか?」
「イタムはけっこう、楽観的ですよね?」
「そんなぁ、褒めないでよ」
イタムと顔を見合わせた。
「たしかに、これはブラッド殿下からの借り物の魔法。わたくしたちはなにもこの魔法について知りません。用心すべきですね」
「そろそろ笑いをこらえるのが辛くなってきたので、答えあわせをしてもよいかの」
馬車の影から召し使いに抱えられ、マデリンが出てきた。
「イタム、お願いします!」
「マデリン、召使いを無効化し、その場に座れ!」
イタムの声が響いても、なにも起こらない。
「自分が命令したことも忘れたか? 笑わせるでない。最初に妾に魔法を放棄しろと申したな? では、そのあとで召使いに魔法を使うのはおかしかろう? それに、わざわざ首も反対側を傾けてやったのに。笑いをこらえた妾を褒めてほしいぞ」
そういいつつ、盛大に笑うマデリン。
「なぜ、ブラッド殿下の魔法が効かないのですか? それも穢れの魔女の力ですか?」
「違うぞ。エヴァにはわかるだろうが、穢れの魔女とは当初最弱の魔女だったのだ。得意な魔法もなく、使い物にならない魔女といわれた。このままではいかぬと世界中の魔法、呪い、憎悪、ひとが抱える闇や汚いものすべてをその身にとりこみ、最強となった。いわば、努力型の魔女というわけじゃ。その努力を今回も嫌々、使ったというわけよ」
「前回、取り込んでいたのですね。操る魔法を」
わたくしは歯噛みした。
「術者が死んだから操られんとは思っておった。まあ、念のため、取り込んだ瞬間に召使いに妾の首を切らせたがな」
「万年床マデリンには似つかわしい用心深さですね」
「だれが、万年床じゃ!! ったく。当たり前じゃ。そうでなくては、100年以上も魔女などやってはおらぬ。怠惰や惰眠を取り込んでおるから、しかたなく寝ておるだけだ。ほんとうの妾は勤勉ぞ」
わたくしはこみあげてくる強い、強い感情を必死で押さえ込むが、だめだった。
「ぷふー」
わたくしは笑ってしまう。
「マデリンがいけないのですよ。真面目な顔で勤勉! なんて言うから。面白すぎますって! いままでの自分の行動を思いかえしてくださいよ!」
「この後に及んで妾を馬鹿にするとはいい度胸だ。それで? これで終わりか? それとも、まだなにか手立てを残しておるのか」
わたくしはナイフをかまえ、イタムと目を合わせ、うなずいた。
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