告白されたい雪乃さん

風見 源一郎

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第11話

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 二人で廊下を歩いていると、1-Cの教室前に人だかりができているのが目に入った。雪乃が背伸びをして、人々の肩越しに中の様子を窺っている。その仕草だけでも可愛い。

「何かあったのかな?」
「ちょっと見てみるか」

 近づいてみると、『20分で解け! ミステリーラリー』という看板が目に入る。

「これ、面白そうじゃない?」
「まあ……時間的にはちょうどいいけど……」
「いいからいいから。ほら受付するよ」

 躊躇する俺を、雪乃が軽く背中を押す。なんという青春のような一コマ。これってイチャイチャしてるって言っていいのかな。

「このミステリーラリーは、学校内に隠された5つの謎を解くゲームです。各謎を解くとヒントが得られ、最後の謎につながります。かなり難しいですよ。制限時間は20分。それでは、スタート!」

 俺たちはまず教室の奥に案内される。最初の謎は黒板に書かれた暗号文だった。窓は光を遮るようにカーテンが締められていて、教室の中には幾つかのスポットライトが当てられている。雰囲気を出すためなのか、お化け屋敷みたいだった。

「『私はあなたの目の前にいるが、あなたは私を見ることができない』……何のことだ?」

 俺が首をかしげると、雪乃は指を唇に当て、考え込むような仕草をした。

「『影』じゃないかな。古典文学にもよく使われるモチーフなの」
「影なら見れるだろ?」
「実像は見えないって意味で使われるんだよ。ほら、あそこ、不自然にライトが当たって、円形の枠に一本の針が伸びてるでしょ? あの先に何かありそう」
「むしろ他の奴らはこれを見て答えを導き出してそうだけどな……」

 メタ推理はしまいと挑んだが、まあイチ学生の作る万人向けの謎解きだ。釈然としないながらも納得し、それと同時に俺は雪乃の頭の回転の速さに感心しながら、影が指し示していた先で次のヒントを受け取った。『図書室へ向かえ』と書かれていた。二人で図書室に駆け込むと、本棚の前に立つ係の生徒が待っていた。

「次の謎です。これをどうぞ」

 紙を渡されて、その中に書いてあったのは次の文言だった。

『本の海にて真実の入口に立て。量子の世界が鍵を握る。背表紙に隠された言葉が、次なる道を示す』

 これまた難解だ。謎解きというからもっとIQパズル的なものを想像していたが。俺もたまに謎解き動画とかを見ていたりするし、なにか案ぐらいはひねり出したいものだが。

「量子の世界が鍵か。物理の教科書の辺りかな? 真実の入口ってことは、たぶんアルファベットのTの索引の辺りを探せってことだよね。となると……あの辺りか。ここ、背表紙の文字を並べると『屋上へ行け』になるわ」
「実はぜんぶ答え知ってる?」

 俺は唖然とする。

「すごいな、雪乃。どうやって気づいたんだ?」
「図書委員の経験があるの。本の並び方に違和感があったんだよね。ここだけ意図的に並び替えられてて」
「へー……」

 そして、屋上の扉の前にまた係の者がいて、そこには方位と数字のパズルが待っていた。

「なるほど……これは星座の位置を表しているわ。北極星を中心に、数字は星の明るさを示しているみたい」

 雪乃の説明を聞きながら、俺は感心するばかりだった。何秒で解いた? 頭良すぎるだろこいつ。なのにどうして告白にはあんなに苦戦してるんだ? 脳のリソースの使い方どう考えても間違えてる。

「じゃあ、次は天文部の部室かな」

 天文部の部室に着くと、望遠鏡を使った謎が待っていた。

「『星々の輝きに隠された真実を見抜け』……? わかった! これは春の大三角形の中心に見える星の並びが、モールス信号になっているわ」

 雪乃は望遠鏡を覗き込んで即座に答える。モールス信号なんてスマホでも使わないとわからないだろ。問題が難しいのレベルじゃないんだが。なんでお前はモールス信号をソラで解読できて恋愛ができない?

「SOS! 次は保健室ね!」

 なんだか楽しそうな雪乃だった。まあ雪乃が楽しそうならそれでいいか。そして、俺たちは保健室に向かう。そこで与えられたのは次のような問題だった。

『太陽の当たる場所に訪れし者。数字と記号の間で背後を振り向く。最初の部屋こそが、最後の答えとなる』

 雪乃は一瞬考え込み、眉間にしわを寄せる。そして、突然顔を上げた。

「あっ」

 そして、雪乃はようやく俺を見た。

「ごめん。全力で解いてた」

 不器用なんだな。そういうところも可愛いよ。

「いやいいんだ。俺なんかじゃ最初の問題も解けたかどうか」

 それに、真剣な顔つきをしているのも、新鮮でよかった。雪乃の様々な一面が見れたのなら、それは俺にとって嬉しいことでしかない。逆に、俺が問題を解きまくってその実力を自慢できたとして、俺には自己の欲求を満たす以外になんの意味も成さないのだ。こうして謎解きのために女子学生と学校中を歩き回れたこと。何よりその相手が雪乃だったこと。それ自体が俺の人生にとって大切な価値がある。

 そんなことを考えていると、雪乃は俺のことを横目で見て、睨んできた。きっと、俺を楽しませるためにはどうしたらいいのか考えて、なにかそれが緊張に繋がっているんだな。そういう優しい一面も好きだぞ。死んでも口には出せないけどな。

「もしかして、もう答えが浮かんでるんじゃないのか?」
「えっ、ああいや、そんな……」

 雪乃は自分の長い髪で顔を隠す。嘘が下手だな。

「解説を頼む」
「えーでは、こほん。この答えは1-Cの教室です」
「その心は?」
「最初の謎の答えが『影』だった。影は光があるところにしかできない。つまり、光の元である太陽の入るところ。受付に答えを言うの。影の仕組みのために見えたカーテンでの遮光はこの伏線だね」
「受付に戻って、謎解きが終わりましたって言えば良いのか?」

 まあ、最終的に参加者が戻るようにしないと、完了報告してくれる人も減ってしまうかもしれないからな。メタ的に考えても、それなりに落ち着きの良い回答ではある。

「それだとノーマルエンドになるんだと思う。クラス名の『C』はローマ数字で100。背後を振り向くっていうのは、座標的にはマイナス。つまり、1-Cは101号室。最初の部屋を指す意味があるからこそ、1ーCが最後の答えになるんだと思う」
「無理だよなそこに行き着くの!?」
「それを前提にして、最後に種明かしすることに面白さを感じてもらう目的なんじゃない?」

 そういう趣向か。しかし雪乃の頭の良さはもうここまで来るともうエスパーだな。あるいは、最初から謎解きに慣れていて、普通に終わるはずがないと思い込んで推理すれば、そういう答えに行き着くのか。

 1-Cの受付に戻って答えを披露すると、受付の生徒は驚きに飛び上がって大拍手していた。やめろ目立つから。俺は雪乃と一緒に居るんだぞ。雪乃に申し訳ないだろ。

「大正解です! おめでとうございます!」

 係の生徒にタイマーを返すと、『1-C完全制覇者』のシールを受け取ることができた。いや、要らんて。目立つだろ。

「なんだか、学校の中を歩き回るだけになっちゃったね」
「俺はそこそこ楽しかったぞ」
「それはよかった。じゃあ、すぐ出たところで焼きそばを買って、残りの時間は控室で一緒に食べよっか」
「お、おう」

 なぜだか積極的な雪乃は、マンションでは決して見ることのない眩しい笑顔で俺を見てくる。これが外面として作られたものだとわかっていても、ときめいてしまう。

 というか、雪乃もやきそばとか食べるんだな。
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