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家に帰ったらゼクシィが置いてあった話
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その日、家に帰ったらゼクシィが置いてあった。
ゼクシィとは皆様ご存じ結婚情報誌だ。「4か月で特集の内容が一周してまた戻る」など、いろんな都市伝説がある。
相手に何も告げることなく、ゼクシィが置かれているというのは、通常であれば「そろそろ私と結婚をしろ」というアピールに他ならない。かくいう私にも経験がある。昔の彼女と話していた時に、サラッと彼女が言ったのだ。「ゼクシィ買ってこよっかな……」と。
付き合って2年くらいのタイミングで、そのとき、どんな話をしていたかはもう忘れてしまった。とはいえ「式はいつにしようか」とか、そういう具体的な話をしていた時ではなかったはずだ。
何か、こう、未来を思わせる、そんな何気ない日常の延長の話をしていたときに、急にそのセリフは顔を出したのだと思う。そのセリフの威力に頭が真っ白になり、詳細は覚えていないけれど、どうせ私は笑って誤魔化したに違いない。その子と結婚していないのだから、それ以外の選択肢は考えられない。
ゼクシィに関してひとつ言わせていただくと、300円とかの廉価であり、どこのコンビニでも買えるわりには攻撃力が高すぎるのではないだろうか。威力の高い武器は入手しにくいという、RPGの基本を勉強して欲しい。ゲームバランスが崩れてしまうではないか。
しかもよく考えたら精神攻撃だけでなく、物理攻撃という意味でもかなりの威力がある。何せあの厚みだ。紆余曲折の交渉が決裂したあかつきに、あの角で殴打されてもおかしくない。翌日の新聞に「ゼクシィ殺人事件」という見出しが踊りかねない。強い。さすがはリクルートのやることはひと味違う。
――さて。
そんな殺傷能力抜群の雑誌が居間のテーブルにでも置かれていたら、間違いなく標的はあなただ。結婚というプレッシャーをかけられている。間違いない。
しかし今回、私に関して言えば、そのゼクシィはひっそりと納戸の中に置かれていた。まるでひと目を避けるように。たまたま見に行かなければ気がつかなかっただろう。
人知れず買われた結婚情報誌。そのとき私の脳裏にあるイメージが浮かぶ。そう、彼女にはきっと誰か本命がいるのだ。私という存在は実は浮気相手にすぎず、本命とうまくいっているのだ。そして結婚するための準備を着々とすすめているところなのだ。私ではないどこかの男と。
なんということだ。何もこの家に置かなくてもいいじゃないか。こんな殺傷能力「S」みたいなステータスのついた呪いの武器をこの家に置くなんて。積極的に使われたわけでもないにも関わらず、この攻撃力。なんて恐ろしい。ゼクシィ恐ろしい子。
そして読者にここでもう一つ情報を提示しないわけにはいかない。実は私はすでに結婚しているのだ。もちろん相手はゼクシィを買ってきた彼女に他ならない。言うなればここは彼女と私の愛の巣なのだ。古臭い表現だ。
本来ならば人生において二度もゼクシィというものに触れる機会などないはずだ。……いや、訂正しよう。昨今は一度結婚しても別れてしまう人も少なくないし、二度目、三度目の結婚も別に珍しくない。別にそれは悪いことではない。
しかし結婚している間から次の結婚準備を進める人がいるだろうか。いやいない。さすがにいるはずがない……と思いたいところだ。
なんにしても私はもう見てしまったのだ。ゼクシィというこの呪いの聖典を。見てしまったからには知らないままではいられない。肉を切らせて骨を断つのか。それとも玉砕し、はなばなしく討ち死にということになるのか。結果はわからないけれども、このまま放置しておけるほど、私の度量は大きくないのだ。
「あの……」
「なに?」
「いえっ……その、納戸に、ゼっ……ゼクシィがありまして!」
「ああ、あれね。見てよこれ。かわいいでしょ」
彼女はすぐ横に置いてあった、ピンク色の保冷バックを差しだす。
「これね、友達が持ってたんだ。アフタヌーンティーのやつでさ、かわいいでしょ? 聞いたらこれゼクシィの付録だっていうから買ってきちゃったの」
「…………ですよね」
「……ですよね?」
彼女のいかぶしげな顔をよそに、内心ではかなり安堵していた。
ゼクシィとは皆様ご存じ結婚情報誌だ。「4か月で特集の内容が一周してまた戻る」など、いろんな都市伝説がある。
相手に何も告げることなく、ゼクシィが置かれているというのは、通常であれば「そろそろ私と結婚をしろ」というアピールに他ならない。かくいう私にも経験がある。昔の彼女と話していた時に、サラッと彼女が言ったのだ。「ゼクシィ買ってこよっかな……」と。
付き合って2年くらいのタイミングで、そのとき、どんな話をしていたかはもう忘れてしまった。とはいえ「式はいつにしようか」とか、そういう具体的な話をしていた時ではなかったはずだ。
何か、こう、未来を思わせる、そんな何気ない日常の延長の話をしていたときに、急にそのセリフは顔を出したのだと思う。そのセリフの威力に頭が真っ白になり、詳細は覚えていないけれど、どうせ私は笑って誤魔化したに違いない。その子と結婚していないのだから、それ以外の選択肢は考えられない。
ゼクシィに関してひとつ言わせていただくと、300円とかの廉価であり、どこのコンビニでも買えるわりには攻撃力が高すぎるのではないだろうか。威力の高い武器は入手しにくいという、RPGの基本を勉強して欲しい。ゲームバランスが崩れてしまうではないか。
しかもよく考えたら精神攻撃だけでなく、物理攻撃という意味でもかなりの威力がある。何せあの厚みだ。紆余曲折の交渉が決裂したあかつきに、あの角で殴打されてもおかしくない。翌日の新聞に「ゼクシィ殺人事件」という見出しが踊りかねない。強い。さすがはリクルートのやることはひと味違う。
――さて。
そんな殺傷能力抜群の雑誌が居間のテーブルにでも置かれていたら、間違いなく標的はあなただ。結婚というプレッシャーをかけられている。間違いない。
しかし今回、私に関して言えば、そのゼクシィはひっそりと納戸の中に置かれていた。まるでひと目を避けるように。たまたま見に行かなければ気がつかなかっただろう。
人知れず買われた結婚情報誌。そのとき私の脳裏にあるイメージが浮かぶ。そう、彼女にはきっと誰か本命がいるのだ。私という存在は実は浮気相手にすぎず、本命とうまくいっているのだ。そして結婚するための準備を着々とすすめているところなのだ。私ではないどこかの男と。
なんということだ。何もこの家に置かなくてもいいじゃないか。こんな殺傷能力「S」みたいなステータスのついた呪いの武器をこの家に置くなんて。積極的に使われたわけでもないにも関わらず、この攻撃力。なんて恐ろしい。ゼクシィ恐ろしい子。
そして読者にここでもう一つ情報を提示しないわけにはいかない。実は私はすでに結婚しているのだ。もちろん相手はゼクシィを買ってきた彼女に他ならない。言うなればここは彼女と私の愛の巣なのだ。古臭い表現だ。
本来ならば人生において二度もゼクシィというものに触れる機会などないはずだ。……いや、訂正しよう。昨今は一度結婚しても別れてしまう人も少なくないし、二度目、三度目の結婚も別に珍しくない。別にそれは悪いことではない。
しかし結婚している間から次の結婚準備を進める人がいるだろうか。いやいない。さすがにいるはずがない……と思いたいところだ。
なんにしても私はもう見てしまったのだ。ゼクシィというこの呪いの聖典を。見てしまったからには知らないままではいられない。肉を切らせて骨を断つのか。それとも玉砕し、はなばなしく討ち死にということになるのか。結果はわからないけれども、このまま放置しておけるほど、私の度量は大きくないのだ。
「あの……」
「なに?」
「いえっ……その、納戸に、ゼっ……ゼクシィがありまして!」
「ああ、あれね。見てよこれ。かわいいでしょ」
彼女はすぐ横に置いてあった、ピンク色の保冷バックを差しだす。
「これね、友達が持ってたんだ。アフタヌーンティーのやつでさ、かわいいでしょ? 聞いたらこれゼクシィの付録だっていうから買ってきちゃったの」
「…………ですよね」
「……ですよね?」
彼女のいかぶしげな顔をよそに、内心ではかなり安堵していた。
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