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第一章 孤児院編
飼い犬のあまがみを甘んじ受けてこその飼い主よ
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「お兄ちゃんどうしたのー?」
いっこうに口を開かない彼にしびれを切らした年少組がしびれを切らして、各々がウィルに向かって声をかけた。
一般的に考えると、親元を離れ孤児院に連れてこられ、そして大勢の子供たちの前に立たされているため、緊張しているのではないかと考えられる。
だけど、私の歌のために強化されているこの耳にははっきりと、彼の舌打ちが聞こえている。
「俺に関わるな。」
ウィルがボソッとそういうと、孤児院の空気がピリッと凍った。
なんということでしょう。8歳にしては、不良レベルが高すぎる。私個人としては、孤児院の子供たちの方が市井の子供たちよりも教養もあり、礼儀作法もなっていると思っている。
これも、院長先生のスパルタ指導のおかげである。だから、このようなタイプの子供は孤児たちの周りにはまずいないのだ。いても、コニーのようなやんちゃジャガイモ小僧くらいだ。
「自己紹介ありがとう、ウィル。では、彼のお世話係を指名するわね。」
院長先生はいつもの包容力のある笑顔で何事もなかったかのように話を進めだした。
……なんてすばらしいスルースキルだ。この状況で、話を進められる院長先生のメンタルを見習いたい。
「だからさっきから言ってんだろう! 俺に関わるなって! 世話係なんていらねーよ!」
「わたくしも先程から言っているでしょう? 孤児院での生活は完全な集団生活です。1人で生活することはできません。それに、あなた自身のために教養や礼儀作法も身につけてもらいます。」
「いらねーって言ってんだろう! どうせ、お前らも俺のことを……。」
勢いよく言い返していたウィルは、そこまで言うと言葉を切ってうつむいてしまった。
人とかかわりたくない何かがあるのだろうか? それとも、何か他に……。
私がそうして考えているうちに、みるみるうちに話が進んでいった。
「ということでパイル、よろしくお願いしますね。」
「………へ?」
「なんですか、その気の抜けた返事は? まさか、わたくしの話を聞いていなかったのですか?」
ま、まずい……。あの笑顔は、圧がある笑顔だ。
ここで、「聞いていませんでした」なんて答えた日には、また自由時間を奪われてしまう。
「うふふふふ。まさかそんなことあるわけないじゃないですか! 彼の歓迎パーティーを開催して、そこで私のライブを開催するという話ですよね? もちろん承ります。
ちょうど、新しい曲をつくろうかなと考えていたところです。」
「うふふふふ。わたくしは、一度もそんなことは申しておりません。わたくしが大事な話をしている時に、歌のことを考えていたのですか?」
院長先生はそういうと、圧のある笑顔で私に微笑みかけた。
それに対して、私は笑顔で沈黙することにした。沈黙は金。こういう時は、下手なことを言ってはいけないのだ。
すると、院長先生は額に手を当てて、もう一度説明を始めた。
「ウィルのお世話係にパイル、あなたを指名します。よろしいですね?」
……よろしくはないが、断る正当な理由も思い浮かばないな。
それに、彼にも早く、この孤児院生活に慣れて欲しいしね。私が了承の返事をしようとすると、不満の声が上がった。
「そんな頭の悪そうなやつなんかに世話されたくねーよ!」
何ですって! この可憐な歌姫に向かって、頭が悪そうですって!
おそらく、前髪が長すぎて視界不良なのだ。
「その点に関しては心配しないで頂戴。パイルはこの孤児院内での成績はトップクラスよ。あなたよりもね、ウィル。」
「そうですね、院長先生。私はお姉さんなので、年下にかみつかれたところで軽く受け流すことができます!」
院長先生に褒められた私は、いい気分でお世話係を引き受けることを了承した。
院長先生は1つ頷いた後に、ミーアお姉ちゃんに視線を移した。
「ミーア、見てのとおりパイルだけでは大変でしょうから、あなたにサポートをお願いします。……大切な時期なのに申し訳ないわね。」
「いいえ、そんなことはないですよ。頑張ります。」
あら、随分と手厚いサポート体制ね。
歌姫の私だけではなく、かわいくて優秀なミーアお姉ちゃんにもお世話してもらえるなんて、ラッキーボーイね。
「おい! だから、俺には必要がないって」
「では、これから自由時間とします。パイル、ミーア。わたくしは少し孤児院を離れますので、ウィルへの施設案内をお願いしますね。」
「任せてください!」
子どもたちは、刺激の強いウィルにどう接したものかと戸惑っていながら、雲の子を散らすように部屋をあとにした。
さてと、私たちの自己紹介からしましょうか。
「初めまして、ウィル! 改めまして、私の名前はパイルよ!好きなことは、歌うこと! お近づきのしるしに一曲……」
「チッ。」
ウィルは私の自己紹介の途中で短く舌打ちをすると、どこかへ向けて歩き出してしまった。
あら、これは手強そうね。
私とミーアお姉ちゃんは顔を見合わせて、軽く肩をすくめあうと、ウィルのあとを追いかけた。
「ねーねー、どこ行くの?」
「うるせー! 付いてくるな!」
「付いてくるなと言われても、私たちにはあなたに孤児院のことを説明する義務があるの。それが院長先生から任されたことだから。」
私とミーアお姉ちゃんは、速足で歩くウィルを両側から挟み込むように歩調を合わせて、ウィルに話しかけた。
美少女2人にはさまれているのになぜいうことを聞いてくれないのだろうか。……もしかして、照れてる?
「俺は1人でいたいんだ!」
ウィルはそういうと、全力疾走を始めた。
ミーアお姉ちゃんは、急いで追いかけようとしたが、私はそれを制した。
「パイル? 追いかけなくていいの?」
「うん、今日の所は気持ちを落ち着かせるためにも1人にしておいた方が良いかなと思ってさ。」
「パイルがそういうのなら……わかったわ。夕食前には、捜索を開始しましょう。」
「これからは、首輪とリードが必要だね。」
それから私は、歌のレッスンを終えてミーアお姉ちゃんとウェルの捜索を開始した。
……と言っても、案外とあっさり見つけることができた。まあ、孤児院はそれほど大きな建物ではないから、そもそもの選択肢が少ないのもあるけど。
当のウィルは、男子用の寝室の隅の方で布団をかぶってうずくまっていた。
まるで、外の世界との関わりの一切を拒むようにとじこもっているようだ。……これは、重症ね。
「………ウィル、夕ご飯の時間だよ。」
「………。」
私がそう話しかけても、ウィルから言葉が返ってくることはなく、少しの間静寂が訪れた。
私は布団の奥にいるウィルの様子を観察しながら、もう一度話しかけることにした。
「よく知らない相手に話しかけられても困るよね。よし、わかった。私からまずは自己紹介をするから、質問があったら遠慮なく聞いてね。」
私がそういうと、布団の中のウィルがかすかに動いたのがわかった。
大声で許否をしめしながら出ていかないところを見ると、少しは興味を持ってくれているのかもしれない。
「私の名前はパイルよ。年齢はウィルの1つ上の9歳。好きなことは歌うこと。得意なことは歌とマイクパフォーマンス(短剣捌き)よ。あ、狩りもなかなか刺激的で楽しいかな。将来の夢は、私の歌を世界中の人に届けることよ。まあ、どんな世界なのか知らないけど、歌というのはどんなところであろうと人とは切っては切り離せないものだと思うから大丈夫。どう、1曲聞いてみない?」
私がうふふふと言いながらそう聞くと、かすかに舌打ちが聞こえてきた。
あれ、興味を持ってくれているわけではなく、煩わしいから黙っていただけなのだろうか? どの部分が癇に障ったのかな。狩りが刺激的で楽しいと言ったことが、ワイルドすぎただろうか。
すると、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声が聞こえてきた。
「………孤児が将来の夢なんか語ってんじゃねーよ。」
「よく聞こえなかったのだけど、孤児が夢なんて持つな、と言ったの?」
「聞こえてんじゃねーか。ああ、そのとおりだよ。」
「私にはよくわからないのだけど、孤児が将来の夢をもったらいけないの?」
「………あ? それはそうだろう。お前らには……俺には何もないだろう! そんな奴らが、将来の夢を持ったって無駄でしかないだろう!」
ウィルは布団を投げ捨て、私に掴みかからんばかりに大声を上げた。
その勢いで前髪にふわりと風が当たって、今まで隠れていたウィルの瞳がかすかに見て取れた。その目は激情と気高さを感じられる見事な紅色だった。
いっこうに口を開かない彼にしびれを切らした年少組がしびれを切らして、各々がウィルに向かって声をかけた。
一般的に考えると、親元を離れ孤児院に連れてこられ、そして大勢の子供たちの前に立たされているため、緊張しているのではないかと考えられる。
だけど、私の歌のために強化されているこの耳にははっきりと、彼の舌打ちが聞こえている。
「俺に関わるな。」
ウィルがボソッとそういうと、孤児院の空気がピリッと凍った。
なんということでしょう。8歳にしては、不良レベルが高すぎる。私個人としては、孤児院の子供たちの方が市井の子供たちよりも教養もあり、礼儀作法もなっていると思っている。
これも、院長先生のスパルタ指導のおかげである。だから、このようなタイプの子供は孤児たちの周りにはまずいないのだ。いても、コニーのようなやんちゃジャガイモ小僧くらいだ。
「自己紹介ありがとう、ウィル。では、彼のお世話係を指名するわね。」
院長先生はいつもの包容力のある笑顔で何事もなかったかのように話を進めだした。
……なんてすばらしいスルースキルだ。この状況で、話を進められる院長先生のメンタルを見習いたい。
「だからさっきから言ってんだろう! 俺に関わるなって! 世話係なんていらねーよ!」
「わたくしも先程から言っているでしょう? 孤児院での生活は完全な集団生活です。1人で生活することはできません。それに、あなた自身のために教養や礼儀作法も身につけてもらいます。」
「いらねーって言ってんだろう! どうせ、お前らも俺のことを……。」
勢いよく言い返していたウィルは、そこまで言うと言葉を切ってうつむいてしまった。
人とかかわりたくない何かがあるのだろうか? それとも、何か他に……。
私がそうして考えているうちに、みるみるうちに話が進んでいった。
「ということでパイル、よろしくお願いしますね。」
「………へ?」
「なんですか、その気の抜けた返事は? まさか、わたくしの話を聞いていなかったのですか?」
ま、まずい……。あの笑顔は、圧がある笑顔だ。
ここで、「聞いていませんでした」なんて答えた日には、また自由時間を奪われてしまう。
「うふふふふ。まさかそんなことあるわけないじゃないですか! 彼の歓迎パーティーを開催して、そこで私のライブを開催するという話ですよね? もちろん承ります。
ちょうど、新しい曲をつくろうかなと考えていたところです。」
「うふふふふ。わたくしは、一度もそんなことは申しておりません。わたくしが大事な話をしている時に、歌のことを考えていたのですか?」
院長先生はそういうと、圧のある笑顔で私に微笑みかけた。
それに対して、私は笑顔で沈黙することにした。沈黙は金。こういう時は、下手なことを言ってはいけないのだ。
すると、院長先生は額に手を当てて、もう一度説明を始めた。
「ウィルのお世話係にパイル、あなたを指名します。よろしいですね?」
……よろしくはないが、断る正当な理由も思い浮かばないな。
それに、彼にも早く、この孤児院生活に慣れて欲しいしね。私が了承の返事をしようとすると、不満の声が上がった。
「そんな頭の悪そうなやつなんかに世話されたくねーよ!」
何ですって! この可憐な歌姫に向かって、頭が悪そうですって!
おそらく、前髪が長すぎて視界不良なのだ。
「その点に関しては心配しないで頂戴。パイルはこの孤児院内での成績はトップクラスよ。あなたよりもね、ウィル。」
「そうですね、院長先生。私はお姉さんなので、年下にかみつかれたところで軽く受け流すことができます!」
院長先生に褒められた私は、いい気分でお世話係を引き受けることを了承した。
院長先生は1つ頷いた後に、ミーアお姉ちゃんに視線を移した。
「ミーア、見てのとおりパイルだけでは大変でしょうから、あなたにサポートをお願いします。……大切な時期なのに申し訳ないわね。」
「いいえ、そんなことはないですよ。頑張ります。」
あら、随分と手厚いサポート体制ね。
歌姫の私だけではなく、かわいくて優秀なミーアお姉ちゃんにもお世話してもらえるなんて、ラッキーボーイね。
「おい! だから、俺には必要がないって」
「では、これから自由時間とします。パイル、ミーア。わたくしは少し孤児院を離れますので、ウィルへの施設案内をお願いしますね。」
「任せてください!」
子どもたちは、刺激の強いウィルにどう接したものかと戸惑っていながら、雲の子を散らすように部屋をあとにした。
さてと、私たちの自己紹介からしましょうか。
「初めまして、ウィル! 改めまして、私の名前はパイルよ!好きなことは、歌うこと! お近づきのしるしに一曲……」
「チッ。」
ウィルは私の自己紹介の途中で短く舌打ちをすると、どこかへ向けて歩き出してしまった。
あら、これは手強そうね。
私とミーアお姉ちゃんは顔を見合わせて、軽く肩をすくめあうと、ウィルのあとを追いかけた。
「ねーねー、どこ行くの?」
「うるせー! 付いてくるな!」
「付いてくるなと言われても、私たちにはあなたに孤児院のことを説明する義務があるの。それが院長先生から任されたことだから。」
私とミーアお姉ちゃんは、速足で歩くウィルを両側から挟み込むように歩調を合わせて、ウィルに話しかけた。
美少女2人にはさまれているのになぜいうことを聞いてくれないのだろうか。……もしかして、照れてる?
「俺は1人でいたいんだ!」
ウィルはそういうと、全力疾走を始めた。
ミーアお姉ちゃんは、急いで追いかけようとしたが、私はそれを制した。
「パイル? 追いかけなくていいの?」
「うん、今日の所は気持ちを落ち着かせるためにも1人にしておいた方が良いかなと思ってさ。」
「パイルがそういうのなら……わかったわ。夕食前には、捜索を開始しましょう。」
「これからは、首輪とリードが必要だね。」
それから私は、歌のレッスンを終えてミーアお姉ちゃんとウェルの捜索を開始した。
……と言っても、案外とあっさり見つけることができた。まあ、孤児院はそれほど大きな建物ではないから、そもそもの選択肢が少ないのもあるけど。
当のウィルは、男子用の寝室の隅の方で布団をかぶってうずくまっていた。
まるで、外の世界との関わりの一切を拒むようにとじこもっているようだ。……これは、重症ね。
「………ウィル、夕ご飯の時間だよ。」
「………。」
私がそう話しかけても、ウィルから言葉が返ってくることはなく、少しの間静寂が訪れた。
私は布団の奥にいるウィルの様子を観察しながら、もう一度話しかけることにした。
「よく知らない相手に話しかけられても困るよね。よし、わかった。私からまずは自己紹介をするから、質問があったら遠慮なく聞いてね。」
私がそういうと、布団の中のウィルがかすかに動いたのがわかった。
大声で許否をしめしながら出ていかないところを見ると、少しは興味を持ってくれているのかもしれない。
「私の名前はパイルよ。年齢はウィルの1つ上の9歳。好きなことは歌うこと。得意なことは歌とマイクパフォーマンス(短剣捌き)よ。あ、狩りもなかなか刺激的で楽しいかな。将来の夢は、私の歌を世界中の人に届けることよ。まあ、どんな世界なのか知らないけど、歌というのはどんなところであろうと人とは切っては切り離せないものだと思うから大丈夫。どう、1曲聞いてみない?」
私がうふふふと言いながらそう聞くと、かすかに舌打ちが聞こえてきた。
あれ、興味を持ってくれているわけではなく、煩わしいから黙っていただけなのだろうか? どの部分が癇に障ったのかな。狩りが刺激的で楽しいと言ったことが、ワイルドすぎただろうか。
すると、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声が聞こえてきた。
「………孤児が将来の夢なんか語ってんじゃねーよ。」
「よく聞こえなかったのだけど、孤児が夢なんて持つな、と言ったの?」
「聞こえてんじゃねーか。ああ、そのとおりだよ。」
「私にはよくわからないのだけど、孤児が将来の夢をもったらいけないの?」
「………あ? それはそうだろう。お前らには……俺には何もないだろう! そんな奴らが、将来の夢を持ったって無駄でしかないだろう!」
ウィルは布団を投げ捨て、私に掴みかからんばかりに大声を上げた。
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